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おまけ
バラエティ番組でたまたま共演することになった恋人が格好よすぎるんだが(2)
しおりを挟む波多野の怪しい笑みの理由がわかったのは、収録当日のことだった。
昂世はその日、楽屋に用意されていた臙脂色のTシャツを身に着けて現場に向かった。
その衣装に書かれていたのは、昂世が現在撮影しているドラマ名だった。ずばり、これから収録が行なわれるのは、テレビ局主催の番組対抗大型バラエティ番組だった。
内容はというと、その期のドラマ作品やバラエティ番組の出演者がチームとなり、三時間に渡りクイズやミニゲームで競い合い番組の宣伝を行うものだった。昂世は今期この局で準主演としてドラマ出演していたので、声がかかるのも当たり前と言えば当たり前だった。
そういう訳で、昂世があまり気が乗らないものの現場に入り、席でぼうっとしていたときだった。まったく予期せぬ人物の姿に、思わず飛び上がったのは――。
――み、水上さん!
そこにいたのは三ケ月ぶりに目にする生の水上周だった。
彼も昂世と同じようにドラマ名の書かれた黒色のTシャツを身に着けて、同じ服装の共演者たちと笑顔でスタジオに入ってきた。
――波多野さんが言っていたのはこういうことだったのか。
それに気付いた瞬間、昂世は現場脇でにやにやする波多野に向かって小さくグーサインを送った。そしてすぐに愛しい人に視線を向けた。
久しぶりに見る彼の姿は役柄だろうか、少し瘦せていて鋭く光った目元に視線を奪われた。
以前の役――須藤静河は見る者の意識をぼんやりと拡散するような雰囲気を醸し出していたものの、今の水上はまるでその逆だった。
この目で見られたらぞくぞくしてしまう――そんな期待と恐れを同時に感じさせる雰囲気に、昂世はしばし圧倒されていた。
そうして我に返ってひとり興奮した。
――この役の水上さん……格好よすぎるって。
自分の腕の中にいた彼はあんなに色っぽくて可愛かったのに。今の水上は綺麗にそり上げたうなじすらも、いやらしさがなくまったく隙を感じさせなかった。
昂世はどこかの女子のようにきゃーきゃー言いたい衝動に駆られながらも、それを必死に抑えた。そして会えると思っていなかった彼を前に、あとで必ずドラマを録画して見なければと心に誓った。
――きっとサスペンスの刑事役かそれとも殺人鬼役だ。
そう思いを馳せていたときだった。
ちょうど彼らが目の前を通りすぎるとき、水上がまるで知っていたかのようにこちらを見上げたのは――。
視線が合って、さっきまでの鋭い目がすっかり緩んだ瞬間――彼はちゃんと水上に戻って昂世に笑顔を向けていた。
その様子から、どうやら水上は昂世がここに出演することを知っているように思えた。
昂世は久しぶりに会えたことが嬉しすぎて、少しも目が外せなかった。ただ、スタジオに増えてきた出演者を前に恥ずかしくなり、とりあえず会釈をすることにした。
すると水上は微笑みを浮かべ手をひらりと揺らしたので、思わず手を振り返しそうになったその時――。
「うっわ、リアル優静……たまらん」
後ろから響いたのは、女性の静かな歓喜の声だった。
振り返ると昂世の隣に座っていたのは、今回ドラマで共演する女優の出口真理子だった。
彼女は若い頃にアイドルデビュー後女優に転身し、以来一線に立ち続けている中堅女優だ。
きりっとした容姿と華やかな見た目で、天才女医役や弁護士役などバリキャリをほしいままにしてきた。そんな彼女だが、最近なぜかそれから一転しコメディ人気に火が付き、今回初ラブコメ作品の主演を務めている。
昂世が共演するそのドラマは、彼女が演じる未婚の一人暮らしバリキャリ女子が主人公だ。彼女が家族のように溺愛していた犬のあずきが亡くなり悲しみに暮れる主人公の前に、犬の生まれ変わりを名乗る謎の大学生が登場するラブコメだ。
年下ワンコが年上女性を翻弄するストーリーで、その謎のイケメン大学生――安槻颯役が昂世という訳だ。
「出口さん……お疲れ様です」
そう言うも、にやにやと夢見心地の笑顔は変わらなかった。
彼女は『まほろば』の熱狂的なファンであり、初対面で挨拶したときから優人優人と煩かった。ただ大先輩であり今回相手役ということで無下には出来ず、このように度々翻弄されていたと言うわけだ。
――水上さんもいるし、今日はなんだか疲れそうだ。
そう嫌な予感を感じていると、出口はそんなことなど気にせず昂世に言った。
「ねえ、まほろばってあれ続編の話来てないの?社会人編いけそうじゃない?ふたりはひょんなことから再会して、優人の地元でめくるめく薔薇色の日々を送り始める――むふふふ。いける、いけるよ……!」
これからカメラが回る中でこの人は大丈夫だろうか――そう思いながらも昂世は答える。
「……俺だってあるならしたいですよ……けど、それは監督と配給会社次第じゃないですか?」
水上とまた共演できたらと思うと、どれだけ嬉しいだろう。
前より成長した自分で彼と仕事ができるのだ。しかも毎日仕事で会えると思うと、まさに夢の世界のように思えた。
「……まじでやらないかな」
小さな声で呟くと、出口は昂世の肩をぽんぽんと叩きながら言った。
「あたしは楽しみにしてるし、心から応援してるから――あら」
「……どうしたんですか?」
すると、彼女はまたにやにやしながら言った。
「いや……水上ちゃん、気にしてるなーと思って」
「え?」
昂世は思わず水上の席に視線を向けた。すると自分の席から見下ろすようにこちらを見る水上と確かに目が合った。
そうして思わず手を降りそうになったものの、必死に会釈だけに留めたときだった。
なぜか会ったはずの視線は水上にぷいっと逸らされてしまった。
――……なんで。
昂世は必死に視線を向け続けたものの、それは一向に会う気配がなかった。
「あー、もう待ちきれないわ、優静……」
そう後ろで興奮する出口を構う余裕なんてなかった。
今の昂世は水上から視線を逸らされた事実で、それどころではなかったのだから。
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