【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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プロローグ

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「俺、ずっとお前のこと好きだったんだ」

 幼馴染の告白に、俺は言葉を失った。
 それは二年に進学して初めてのホームルームのあとのこと。ざわめきと沈黙が混ざり合う春の独特な空気の中、帰り支度をしていた俺は声をかけられた。

新汰あらた

 名前を呼ぶ方へ視線を向けると、教室の入口でよく知る顔が手を振っている。

「失礼しまーす」

 目が合った瞬間にやっと笑い、教室に入ってきたのは幼馴染の清宮理久きよみやりく
 クラスメイトたちの視線を浴びながら、ずかずかこちらに近づいてくる。
 無造作に整えられた長めの茶髪、その下の涼やかに細められた瞳。近づくと、爽やかなシトラスの匂いが香る。この制汗剤は、理久が中学のときからのお気に入りだ。

「……新汰、おつ。今日、部活ないんだろ?一緒に帰ろう」

「ああ。準備する」

「おけ。……ねえ、新汰になんか用事あった?」

 理久が声をかけたのは、右隣の席の女子だった。
 少しも気が付かなったが、こちらに用事があったのだろうか。そうどきりとしていると、女子は理久の問いに何でもないよ、また明日と言い、足早に教室を去っていった。
 その後ろ姿を呆然と見ていると、理久と目が合う。
 嬉しそうにふっと笑う姿は、まるで俺がいてよかったでしょと言うようだった。

「新汰、早く」

 そう促されながら、俺は開いたままの鞄を急いで肩にかける。理久の寝癖の残る後ろ頭を追いかけながら、俺たちは教室を出た。

 理久から気持ちを伝えられたのは、そのあとのことだった。
 昼すぎの通学路は始業式を終えた学生たちがぶらりぶらりとうろついている。どこか浮足立っているのは、きっと春の陽気のせいだろう。

「ちょっと寄っていい?」

 理久はそう言うと最寄りのコンビニに寄った。よくよく思えば、ふたりで腰を落ち着けて話す時間を作りたかったからなのかもしれない。
 店内をだらだらとうろつく学生たちを端目に、足早にアイスを買う。ありがとうございましたという店員の声を背後に、店を出てすぐに袋を破ると、理久はアイスを取り出した。

「新汰、はい」

 差し出されたのは、二本のプラスチックのチューブにたっぷりと詰まった白と茶のアイス――その片割れの白い方だった。

「ああ、ありがとう」

 理久はこのアイスが小さい頃からお気に入りで、いつもこうして片方を分けてくれる。
 チューブの飲み口を切りこぼれそうになるそれを口に入れると、ひんやりと甘ったるいバニラの風味が広がった。
 座って食おうぜという理久に促され、俺たちは通学路脇の小さな公園へ向かった。

 住宅街からすこし離れているせいだろうか、昼すぎにも関わらず人はまばらだった。
 すっかり色のあせたベンチに腰掛け、アイスを齧る。すると見計らったかのように、理久は口を開いた。

「そういえば、そっちのクラスおとなしそうだな」

「……そうか?」

「うん。こっちのクラスは初日なのにもう騒ぎなんだけど。なんか同中の人が多いらしくてさ。俺、全然関係ないのにそれに巻き込まれて、さっき教室から抜け出すのに苦労したんだよね」

 はあ、と理久はため息をついた。
 それを眺めながら俺は内心しょうがないと思う。
 清宮理久の見た目は、一軍男子そのものだ。
 茶に染めた長めのくせ毛と、切れ長の瞳、そして白い肌とやや小柄の体型は、某アイドルグループに所属していてもおかしくはない。
 その見た目とは裏腹に、中身はとんでもない体育会系で意外にお堅い。
 中学まで地元の名門器械体操クラブに所属していて、全日本に出ていたくらいだからなのか。
 覗く白い肌と、まくったシャツの下から現れる猛々しい筋肉、そして体育で発揮される身体能力の高さに、女子はいつもメロメロになる。
 これまで幼馴染でずっと隣りにいたからこそわかる。一体どれだけの女子が理久に熱い視線を向けていただろう。

「……新汰、聞いてる?」

 突然そう言われ、俺は現実に戻される。

「ああ。もちろん」

「……それでさ、こっちのクラスもそんな感じで新汰のこと探すの大変だと思ってたんだけど……すっげえ静かだったから、すぐ見つかったんだよね」

「確かに、みんな大人しいかもしれないな」

「新汰、ガタイいいから怖がられてるかもな。でも安心しろよ。俺、みんなに言ってやるから。新汰は見た目がカタギじゃないけど、怖くないよーって。だから、そういうときは絶対呼べよ」

「……なんでだよ」

 笑いながら俺は反射的に言った。
 それに対する理久の返答は、今思えば少し違和感があったように思う。
 まるで自分に言い聞かせるように、言葉尻がどことなく強かった。

「だって、ずっとそうだったじゃん」

「……まあ、確かにな」

 実際おんぶにだっこだ――俺がそう思っていたときだった。
 普段賑やかな理久が一言も発せず黙り込んでしまったことに俺は気付いた。

「……理久?」

 もうアイスは互いに空だった。
 手に握られたそれを漠然と眺めていると、理久は神妙な面持ちで口を開く。

「俺さ、新汰に言いたいことがあって」

「……何だ?」

「ずっと、言わないでいようと思ったんだけど。まさか別クラスになると思ってなかったから」

「……理久?」

 視線は合わなかった。
 だから何かあったのかと心配しはじめた――そのとき。

「俺……ずっとお前のこと好きだったんだ」

 その言葉が耳に入った瞬間、俺の頭はフリーズした。まるで殴られたみたいに思考が揺らぐ。
 今、理久は俺に何て言った?
 今、お前のことを好き、そう言わなかったか?
 いや、そんな訳ない。理久が俺に告白するということは、俺のことを好きだということだ。
 きっと脳が都合よく解釈しただけの、空耳に違いない。
 だってその言葉は――俺の頭が動き始める直前だった。理久は突然自嘲気味に笑いはじめた。

「新汰、驚いてるだろ?それに……こんなこと突然言われて引いてるだろ」

 そんなことない――俺はすぐさまそう否定したかった。
 しかし未だ脳と口が切り離されたかのように動かず、焦りがこみ上げる。
 なぜ、俺はこんなときにと自分に苛立ちを覚えている前で、理久はひとり微笑みながら続ける。

「……だけどさ、これから少しずつ意識してほしいんだ。俺、新汰に好きになってもらえるように頑張るから」

 理久はどこか吹っ切れたように笑うだけだった。

 俺は結局そのあとも声をかけることすらできず、手を振り家の中に入っていく理久を見送ることしかできなかった。
 家に帰り、ただいまも言わずに玄関に横たわる。

「あれ……こんなとこで何してんのお兄……」

 同じく始業式だった中三の妹がドン引きする前で、俺はひとり後悔していた。

 ――なぜ俺はいつも肝心なときに、言葉が出ないのだろう。

 なぜ、どうして。
 こういうとき俺は痛感する。
 俺の方がずっと好きだったんだ――そう気持ちを伝えられない自分を、俺はいつも疎ましく思う。

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