【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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1章 告白は突然に side.新汰

1 朝がはじまる

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 りりりと言うアラームの音に気付き、俺は枕元にあるはずののスマホを探す。
 響く人工音をなんとか手で止めたあと、そのまま眠ってしまわないように手で顔をこすりながら、完全に目を覚まそうと努力する。

「はあ……」

 身体をのそりと起こした瞬間、ついため息が漏れたのは、ここ最近で最悪の目覚めだったからだ。
 その理由は明白だった。
 昨日、突然幼馴染の理久に告白された上、今日からいよいよ新学期が本格的に始まってしまう。
 特に理久の一件は衝撃的で、強烈な眠気と戦いながら俺は身体を伸ばす。

「……はあ」

 またため息がもれてしまった。
 どうしようもない――俺はそう思いながら立ち上がり、壁にかけておいた制服に着替え始める。
 母がクリーニングに出してくれたのだろうか。妙にぱりっと糊が聞いていて、今の自分にはどこか不相応に思えた。


 清宮理久とは古くからの付き合いだ。
 家が近く、たまたま児童館で顔を合わせた母たちが意気投合したのがきっかけで、幼稚園から今まで一緒にいる――つまり幼馴染だ。
 子どもだった俺たちは一緒にいることがあたり前だった。時間でいうと十年となる毎日の中、俺たちはそれを少しも疑うことはなかった。
 家族と一緒にいる以外をほぼずっと理久と共にすごし、今に至る。
 そうして俺たちが幼馴染で居続けられたのは、たまたま奇跡的に同じクラスが続いたからだろうか。小学校から高校一年まで、まるで腐れ縁のような運命的で非現実的な繋がりがあったのかもしれない。
 ただ確かに言えるのは、俺に取って理久はかけがえのない存在で。俺自身が清宮理久の隣りにいることを心から望んでいたいうことだ。

 小さい頃から、俺はずっと理久におんぶに抱っこだった。
 図体ばかりがでかくて内向的だった俺は、昔から同い年の子どもたちの中に混ざることに苦労した。
 大きい、怖い――そんな心ない言葉を何度も受け、何度子どもたちに泣かれただろう。
 正直泣きたいのは俺の方だった。
 自分ではどうしようもできない生まれつきを、子ども特有の切れ味のいい言葉で否定される。
 相手の子どもが泣くたび、その親に責められる。
 それだけならいいが、矛先が親に向かったときは、どうしようもなくいたたまれない。
 だから言葉を発するのが怖くなり、負のループに陥っていた。
 話せないから怖がられる、理不尽に怒られて、また話せなくなる。
 ひとりで悩んでいたそんな幼少期の俺を、助けてくれたのが理久だった。

 理久は出会った頃からとにかく活発だった。
 俺の近所に引っ越してきた理久は、途中入園という珍しい形で俺の前に現れた。
 今でもそのときのことを覚えている。
 蝉の鳴く、暑い夏のこと。まるで炎のような真っ赤なTシャツを着た小柄な少年理久は、戦隊もののヒーローさながらに先生に連れられ堂々と登場した。
 
『さあ、新しいお友達ですよ』

 理久を紹介しようと、先生がみんなを呼び子どもたちがぞろぞろと集まり始めた前で――。

『清宮理久、六歳!』

 理久はそう叫ぶように宣言すると、突然その場から駆け出した。

『り、りくくん!ちょっと!』

 焦る先生などお構いなしに、理久は遊具に飛びつき、駆け回る。それを皮切りに子どもたちも自由気ままに動き始め、てんてこ舞いだった。
 俺はそれをひとり端で眺めながら、目が自然と理久を追っていることに気付いた。
 理久はまるで子猿のようだった。
 見ず知らずの子どもの中に突然放り込まれたにも関わらず、そんなことなどお構いなしに自由に振る舞う。いや、振る舞うというより暴れるだろうか。
 先生を翻弄するように笑いながら駆け、遊具によじ登り気ままに飛び降りる。
 その勢いはまるで人のあいだを駆け抜ける稲妻のようで。まるで始めからここにいたと言わんばかりに、堂々としていた。
 よくいえば怖い物知らず、しかし悪く言えば場を乱す存在。今思えば、突然現れて自由に振るまい始めた理久は、ほかの子どもたちにとって異質だったのだろう。
 その後なぜかひとりぼっちの俺のところにやってきたのは、そういうことだったのだと今は思う。

『なあ、登ろうぜ』

『え?』

 自然に声をかけられるも、俺は黙り込んでしまう。
 背後からは理久を追う年配の保母の待てーという声が聞こえ始めていた。

『やっべ、きた!よし逃げるぞ』

 そう言い、理久はなんと俺の手を握り、すぐに駆け出したのだ。
 こっちのことなどお構いなしに強引に。ただそれは悪くはなく、むしろ心地よかった。
 そんなことしてくれる人は周りに誰もいなかった。理久だけが地の底にいる自分を引っ張り上げるように、手を引いてくれた。
 幼い俺はあの強烈なパワーを前に思ったのだ。
 この人といればどうにかなる気がする。
 この人といれば俺はきっと大丈夫だと。
 
 出会ったばかりの頃は、理久の勢いに流されるばかりだった。
 しかし少しずつ言葉を返すことができるようになって、いつのまにか対等に言葉を交わすことができるようになり。
 理久がもうすっかり新しい環境に馴染んだころ、理久の周りには人が集まり、気付けば俺もその中に自然と収まっていた。
 社交的な理久は誰からも好かれ、そんな理久の付属品として俺のことも受け入れてもらったようなものだった。
 それでもう十分だった。
 怖がられてひとり言葉すら失っていた俺にとっては有り余る価値だったのだから。
 理久はまるで橋だ。
 決して届かない外界と自分を繋いでくれる、命綱のような存在。嵐が起ころうが関係ないと言い、自らの力であっという間に日を呼び、雨を止めてしまう。
 そんな理久は、幼い俺の世界すべてだった。

 制服に着替え、階段を降りる。リビングに顔を出し母におはようと声をかけたあと、俺は急いで洗面台へ向かう。
 鏡に映った俺の顔は想像以に酷かった。
 あの一件以来頭は思考を止めず、少しも眠れなかったのだ。
 目元には睡眠不足のくまが浮かび、顔色も血の気がない。ぴしっとした制服が逆にそれを引き立てているように見え、俺の心は暗くなる。

 ――ああ、本当にこんなことになるなんて。

 まさか突然理久が告白してくるなんて思ってもいなかった。
 そもそも、恋心を抱いて気持ちを告げるか告げないか悩んでいたのは、俺の方だったから。
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