16 / 32
4章 はじめての夏 side.理久
2 なにもない俺
しおりを挟むついに夏休みは幕を上げた――が、青春は相手あってこそだと痛感する。
部活で忙しい新汰に対し、俺はとにかく時間を持て余していた。
暇、暇、暇!
家でごろごろスマホをいじったり筋トレをしたり。宿題に手を付けたりゲームしたり、動画を観たり。
もちろん俺のもとへ遊びの誘いも来る。海に行こうだの、カラオケに行こうだの誘われたら時間の限り出向くようにしている。
こうなったのは、中学のときに怪我をして体操クラブを辞めて以来だ。それ以来俺の夏はずっと変わらない。
だから絶対に昔よりもつまらなくなっていると思う。
小学生の頃は毎朝ラジオ体操に行って、そのあと学校のプールに行って。終わったら公園に行ったり家でゲームをしたり。隣りにはいつも新汰がいた。
今はこうして別々で、新汰は部活。俺は目的もなく時間をすごしている。
だからかいつも夏になると、置いてかれたような気分になる。
冷房の効いた部屋で、冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注ぐ。それを飲みながらスマホを見るも、友人たちからの通知の中に、新汰からのものはない。
「……はあ」
俺達は基本的にあまりスマホで連絡を取らない。
そもそもスマホが存在しなかった幼稚園の頃からずっと一緒だった。だからわざわざ連絡を取る習慣もないし、それで問題なかった。クラスがずっと同じで、ずっと一緒にいたから。
今年は初めてクラスが分かれた上に体育祭のこともあった。だからこそ気になるのだ。
新汰のアイコンすら変えていないプロフィールを開き、メッセージを入力する。
「最近、調子どう……とか?」
そろそろ大会だったはず――そう思いいろいろ打ち込んで見るも、書いては消しを繰り返してしまう。
ほかの人にはこんなことないのに。好きな人に自分からメッセージの一つすら送れない俺は小心者だ。
結局俺はスマホをテーブルに置いたまま、リビングのソファの上に倒れ込んだ。
――今年は……バイトとか始めればよかった。
そうすれば暇な時間がなくなって、余計な考え事をして悩むこともなくなるかもしれない。
バイトをしてお金が欲しいわけでも何か欲しいわけでもない。今俺が心から求めているのは、新汰との時間だった。
「とりあえず……走ってくるか」
変な考え事をしないためには疲れるのが一番。
俺は適当なジャージを引っ掛け外へ出て、むわりとする熱気に思わず顔をしかめる。
――あ、暑っ……。
上からも下からもじりじり焼くように、熱波が襲う。
絶対昔はこんなじゃなかった。夏舐めてた――そう思いながら、一度家の中に戻ろうとしたときだった。
「あ……理久」
不意に名前を呼ばれたと思いそこを見ると、なんと新汰がいた。
剣道部の紺色のティーシャツを身に着け、防具の入ったキャリーバッグと竹刀袋を背負っている。
そのしかめっ面のような表情は、どこか疲れをうかがわせた。
「え、新汰?なんで?」
「今……その……帰りで」
「そうなんだ。部活お疲れ」
なぜかその後沈黙が流れてしまう。
いつもなら適当な会話が始まっているはずなのに、新汰があまりにも突然現れたものだから、俺の心構えがまったくできていない。
焦った俺は手を掛けていた玄関ドアを指さし言う。
「あ……家寄ってけよ。冷房ガンガンに効かせてたから気持ちいいよ」
そう言ったあとで俺はすぐにまずいことに気付く。
今、家に入れてしまえば新汰とふたりっきりになる。いつもの昼休みみたいに時間が決められているわけではないし、邪魔する人もいない。
そんな状況で俺は新汰に何もせずにいられるだろうか。
「ごめん、やっぱ――」
なし――そう言おうとするも、なぜか先に新汰が頷いていた。
どうしてかはわからない。ただそうしてどこか虚ろな顔をする新汰が気になって、俺は渋々家に招き入れることにした。
玄関に剣道道具を置かせて、新汰をリビングへ入れる。自分の部屋に上げるのはなんとなく気まずかった。
「理久んち、久しぶりだな」
ソファに礼儀正しく腰掛けながら新汰は言った。
俺は冷蔵庫を漁り、冷えたコーラを見つけた。適当なグラスに注ぎ、ぽちゃんぽちゃんと氷を入れて持って行く。
「はい。部活終わりにはやっぱコーラだよな」
「……ありがとう。理久は相変わらずそれなんだな」
「え、運動後に最高じゃん?これにアイスもあれば完璧なんだけど……」
昔は体操の練習後によくそうしていた――そう思いながらまたキッチンに戻り冷凍室を開けるも、アイスはなかった。
「……本当、理久は変わらないな」
後ろで新汰がぽつりと言った。
その言葉が、俺は妙に気になってしまう。別に嫌味とかそういう訳ではなく、ただの事実を言っただけだ。なのに俺は昔にすがったまま、何も変わっていないみたいに思えてしまう。
――……俺もバイトとか始めるか。
何をしたらいいか見当もつかないけど、何か変わるかもしれない。
そう思いながらリビングへ戻ると、新汰が何故か小さく縮こまって、ソファにもたれかかっていた。
「新汰……どうした?」
思わず聞くと、新汰は弱々しく微笑んだ。
「最近、部活もだけどそれ以外も結構しんどかったんだ」
「……それ以外って?」
まさか俺のことが負担になっている?
一瞬そう思うも、どうやら違うらしい。
「練習の見学者が増えたんだけど……それが剣道に興味があるとかじゃなくて。夏休み前も、学校で声かけられたりして、でも無下にできないから……」
俺の中でふつふつと怒りが沸く。
新汰のことを何も知らない奴はこれだから――そう思いながらも、でも元はというと俺が原因と言うことに気付く。
「……ごめん、新汰。それ体育祭のときの俺のせいだよな?俺が無理して、新汰に助けてもらったから……」
「違う!あれは俺がしたくてやったんだ。だから、駄目なのはちゃんと言えない俺なんだ」
駄目じゃない。新汰は駄目な奴なんかじゃない。
「理久……?」
気付いたときには、俺は新汰の隣りに腰かけ手を伸ばしていた。
疲れ切った新汰を、俺がだるっだるに甘やかしてあげたい。
新汰は頑張ってる、俺は新汰が大好きだって全身で伝えたい――。
俺の手が肩に触れた途端、新汰はびくっと身体を震わせた。
途端、心の中で声が響く。
――でもそれは弱みにつけ込んでいるんじゃないのか?
思わず、新汰の肩をぐっと押してしまう。
「新汰……ごめん。家でゆっくり休めよ」
そのあと、新汰がどんな顔をしていたか俺は覚えていない。
新汰は俺の方こそごめんとだけ言い、荷物を持って家に帰ってしまった。
そんな新汰は、夏の大会で目標としていたベスト四まで勝ち上がったらしい。
俺がそれを聞いたのは、夜の晩飯のときだった。
昼、家に来たのは実はたまたまではなくて、そういうことだったんだと腑に落ちる。そして、なんでああいう形で追い返すようなことしてしまったのかと自分が嫌になる。
「――ねえ、そういえばお盆理久どうする?」
突然母が話題を変えてきたので、俺はえ、とだけ返した。すると母は申し訳なさそうな顔をして続ける。
「今年、婆ちゃんたちと旅行の約束してるんだけど、理久の分の予約取り忘れてたんだよね」
「じゃあ俺……留守番してる」
正直、旅行どころじゃない。
新汰と取り付けたデートの約束だってあるのに、結局それもなあなあになったまま――そう思っていると、母はぱっと明るい顔をした。
「ごめん、留守番よろしく。そうだ!西脇家も新汰くんだけ留守番するらしいから、理久よかったね」
「…………は、まじで?」
それならば――そう希望が見えたと思ったと同時に母がこんなことを言いはじめた。
「あ、瑤子ちゃんに言っとくね」
「え?」
「理久くん遊びに来てって言われてたの。返信しとくから。理久が入り浸りますって」
「は!いやそれは駄目――」
「ええと、いろいろ持たせるからよろしくね、と。送信!」
「……………まじか」
希望だったものは何やら勝手に大きくなって、すっかり親公認のお泊りに早変わりしてしまった。
途端に俺の胸は嬉しさと不安でばくばくと高鳴る。
誰にも邪魔されない、新汰とふたりっきりの時間。
今日の昼みたいに暴走しないよう、自分をしっかり抑えなくては――。
12
あなたにおすすめの小説
【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ
鳥羽ミワ
BL
志村春希は高校二年生で、同い年の幼馴染・須藤涼太のことが大好き。その仲良しぶりといったら、お互い「リョウちゃん」「ハルくん」と呼び合うほどだ。
勉強が好きな春希には、どうしてもひとつだけ、全く理解できないことがあった。それは、恋心。学年一位の天才でもある涼太にそのもどかしさを愚痴ったら、「恋」を教えようかと提案される。
仮初の恋人になる二人だけど、春希が恋を知ったら、幼馴染の友達同士のままではいられない。慌てる春希に「パラダイムシフトを起こそうよ」と提案する涼太。手を重ねて、耳元で囁く涼太。水族館デートに誘う涼太。あまあまに迫られて、恋愛初学者の春希が陥落しないはずもなく……。
恋を知ったら友達でいられない。でもこの思いは止められない。
葛藤する春希の隣で涼太だけが、この関係は両片思いだと知っていた。
幼馴染の溺愛恋愛ケーススタディ、開幕! 最後はもちろんハッピーエンド!
※アルファポリス、カクヨム、小説家になろうへ投稿しています
なぜかピアス男子に溺愛される話
光野凜
BL
夏希はある夜、ピアスバチバチのダウナー系、零と出会うが、翌日クラスに転校してきたのはピアスを外した優しい彼――なんと同一人物だった!
「夏希、俺のこと好きになってよ――」
突然のキスと真剣な告白に、夏希の胸は熱く乱れる。けれど、素直になれない自分に戸惑い、零のギャップに振り回される日々。
ピュア×ギャップにきゅんが止まらない、ドキドキ青春BL!
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
幼なじみの友達に突然キスされました
光野凜
BL
『素直になれない、幼なじみの恋』
平凡な俺、浅野蒼にはイケメンでクラスの人気者な幼なじみ、佐伯瑛斗がいる。
家族ぐるみの付き合いのせいか、瑛斗は昔から距離感がおかしくて、何かと蒼にベッタリ。けれど、蒼はそれを“ただの友情”だと思っていた。
ある日、初めての告白に浮かれていると、瑛斗から突然キスされて......!?
「蒼のことが好きだ」
「お前が他の奴と付き合うのは耐えられない」
友達だと思っていた関係が一気に変わり、戸惑いながらも瑛人の一途で甘い想いに少しずつ心が揺れていく。
しかし、素直になれない蒼は最後の一歩が踏み出せずにいた。
そんなとき、ふたりの関係に”あるトラブル”が訪れて......。
じれったくて、思わず応援したくなるふたりのピュアな青春ラブストーリー。
「......蒼も、俺のこと好きになってよ」
「好きだ。好きだよ、蒼」
「俺は、蒼さえいればいい」
どんどん甘く、独占欲を隠さなくなる瑛斗に、戸惑いながらも心が揺れていく。
【一途で独占欲強めな攻め × 不器用で素直になれない受け】
【完結済】スパダリになりたいので、幼馴染に弟子入りしました!
キノア9g
BL
モテたくて完璧な幼馴染に弟子入りしたら、なぜか俺が溺愛されてる!?
あらすじ
「俺は将来、可愛い奥さんをもらって温かい家庭を築くんだ!」
前世、ブラック企業で過労死した社畜の俺(リアン)。
今世こそは定時退社と幸せな結婚を手に入れるため、理想の男「スパダリ」になることを決意する。
お手本は、幼馴染で公爵家嫡男のシリル。
顔よし、家柄よし、能力よしの完璧超人な彼に「弟子入り」し、その技術を盗もうとするけれど……?
「リアン、君の淹れたお茶以外は飲みたくないな」
「君は無防備すぎる。私の側を離れてはいけないよ」
スパダリ修行のつもりが、いつの間にか身の回りのお世話係(兼・精神安定剤)として依存されていた!?
しかも、俺が婚活をしようとすると、なぜか全力で阻止されて――。
【無自覚ポジティブな元社畜】×【隠れ激重執着な氷の貴公子】
「君の就職先は私(公爵家)に決まっているだろう?」
【完結】ままならぬ僕らのアオハルは。~嫌われていると思っていた幼馴染の不器用な執着愛は、ほんのり苦くて極上に甘い~
Tubling@書籍化&コミカライズ決定
BL
主人公の高嶺 亮(たかみね りょう)は、中学生時代の痛い経験からサラサラな前髪を目深に切り揃え、分厚いびんぞこ眼鏡をかけ、できるだけ素顔をさらさないように細心の注意を払いながら高校生活デビューを果たした。
幼馴染の久楽 結人(くらく ゆいと)が同じ高校に入学しているのを知り、小学校卒業以来の再会を楽しみにするも、再会した幼馴染は金髪ヤンキーになっていて…不良仲間とつるみ、自分を知らない人間だと突き放す。
『ずっとそばにいるから。大丈夫だから』
僕があの時の約束を破ったから?
でも確かに突き放されたはずなのに…
なぜか結人は事あるごとに自分を助けてくれる。どういうこと?
そんな結人が亮と再会して、とある悩みを抱えていた。それは――
「再会した幼馴染(亮)が可愛すぎる件」
本当は優しくしたいのにとある理由から素直になれず、亮に対して拗れに拗れた想いを抱く結人。
幼馴染の素顔を守りたい。独占したい。でも今更素直になれない――
無自覚な亮に次々と魅了されていく周りの男子を振り切り、亮からの「好き」をゲット出来るのか?
「俺を好きになれ」
拗れた結人の想いの行方は……体格も性格も正反対の2人の恋は一筋縄ではいかない模様です!!
不器用な2人が周りを巻き込みながら、少しずつ距離を縮めていく、苦くて甘い高校生BLです。
アルファポリスさんでは初のBL作品となりますので、完結までがんばります。
第13回BL大賞にエントリーしている作品です。応援していただけると泣いて喜びます!!
※完結したので感想欄開いてます~~^^
●高校生時代はピュアloveです。キスはあります。
●物語は全て一人称で進んでいきます。
●基本的に攻めの愛が重いです。
●最初はサクサク更新します。両想いになるまではだいたい10万字程度になります。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
笑って下さい、シンデレラ
椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。
面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。
ツンデレは振り回されるべき。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる