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4章 はじめての夏 side.理久
4 はじめての花火
しおりを挟む日が傾き始めた頃、俺達は家を出た。
お祭りの会場である隣り町へは電車一本で辿り着く。
ここらへん一帯で一番の大きな祭りとあって、電車は着飾った人たちでいっぱいだ。浴衣を来た女子たちや小さな子どもを連れた家族が、賑やかに話している。
そんな人たちの姿を前に、俺は小さい頃新汰と地元の小さなお祭りに行ったことを思い出していた。
まちの外れの神社で行われる、屋台が十店くらい並ぶだけのとても小さなお祭り。ただ、その光景は幼心に強く焼き付いていた。
夜に出歩くことそれ自体が珍しい中で、薄闇にぼんぼりが灯る幻想的な光景は、とてもきれいで非現実的なものに見えた。
そこでおこづかいをもらって、新汰とたこ焼きを買ったり射的を楽しんだり。そろそろ時間と言う親たちに、まだ帰りたくないと渋ったこともあった。
そんなこともあった――そうひとり思い返していると、隣りで新汰がぽつりと言う。
「……祭りに行くのは小学生の頃の地元の以来だな。確か理久、帰り際に怒って暴れてなかったか?」
なんだ。新汰も同じこと思い出していたのか。
俺は思わず笑ってしまう。
「……どうした、理久?」
「いや、俺もそのときのことを思い出してたから、俺たち考えてることが一緒だなと思って」
「まあ、ずっと一緒にいたからな」
確かに、それは新汰の言うとおりだ。
幼稚園から小学校、そして中学高校とずっと一緒にいることが当たり前で、そうしてここまでやってきた。
だからこれまで気が付かなかった。
今後、もしかすると俺達は別々の道を行き、離れ離れになる可能性だってあることに。
今回クラスが分かれて、部活をしている新汰とそうでない自分が一緒にすごせるのは、昼だけになってしまった。
正直、不安を感じていないというと嘘になる。俺は今後どうなるのだろうという漠然とした不安と同時に、一体いつまでこうして側にいられるのだろうと思う。
――だから、好きだと気持ちを伝えたのもあるけれど。
新汰との関係を変えなければ、ずっと一緒にはいられない。幼馴染ではもう駄目だった。
ただ、今の俺はどうだろう。
新汰につきまとって離れようとしない今の俺は、傍から見れば俺汰の優しさにつけ込み甘えているだけの、しょうもない奴ではないのか。
「……どうした?」
電車が小さく揺れる中で新汰はそう心配する。
「いや、なんでもない。お祭り楽しみだなーって思って」
俺は笑って無難に返すだけだった。
駅から出ると、まず目に入ったのは人の波だった。
メインストリートを封鎖して行われる祭りとあって道の脇にはずらりと屋台が並び、中央はそれを楽しむ人々で溢れかえっている。どうやら脇に神輿も控えているようで、人混みの熱気と活気に思わず怖気づいてしまうほどだった。
ふと後ろの新汰が心配になり俺はちらりと様子を伺う。案の定、新汰は困惑した表情を見せていたので、俺はその手を取ることにした。
「……理久!」
「……大丈夫だって。この人混みならわかんないだろ。それに迷子になるよりはいい」
新汰は何も言わなかった。ただ俺に導かれるように、後ろをついてきた。
握った手のひらはじっとり熱く、竹刀を持つせいだろうか、ごつごつしていた。その大きな手を握りしめながら、もうすっかり灯りが目立ち始めた人混みの中を行く。
まとわりつくような人の熱気とともに、次第に食べ物の匂いが漂い始め、俺は思わず言う。
「お!ここから食べ物だ。新汰の好きな綿菓子あるぞ」
「……小学生かよ。まあ、好きだけど」
「新汰、先焼きそば行く?それともたこ焼き?」
「どっちもありだな。どうせ小ぶりだし一個ずつ食べればいいだろ」
俺達は確かに新汰の言ったとおり、まるで小学生に戻ったようだった。
祭りの屋台でしか食べられない甘い物や炭水化物を手に、俺達は会場の端に用意された椅子に腰掛け空腹を満たす。
そうしているうちに、次第に道行く人の数が少しずつ減っていることに気付く。
――そうだ、みんな花火に向かっているんだ。
そこでふと疑問に思い新汰に聞いてみた。
「そういえば花火はどこで見るんだ?こういうのって、最近有料席ばっかりなんだろ?」
「ああ。それなら大丈夫。考えてあるから」
そう言われ俺は驚いた。
――新汰にしては準備がよすぎないか。
しかし、祭りに関して何も準備しておらず無知な俺は従うほかない。
買った食べ物をひととおり平らげたあとだった。ようやく立ち上がった新汰はなぜかそのままこっちと俺の手を取る。
「えっ…………新汰?」
人目を気にする新汰が、こんなところで俺の手を握るなんて。
そう驚く間も与えず新汰は言う。
「今から行くところは穴場だけど相当暗いらしい。だから迷子になるよりは……いいと思う」
そうして新汰は俺の手を引き、歩きはじめた。
人混みの中、こうして新汰と歩くのは新鮮だった。
ずっと俺の後ろを歩いていた新汰が、俺の手を握り前を先導して先を行くのだ。
――だから、本来ならば嬉しいはずなのに。
今、胸にちくりと感じる痛みはなんだろう。
まるで心を貫く風穴のように、ぽっかり開いて永遠に埋まらない穴。
これはきっと新汰に対する思いであり、寂しさだと思えた。
新汰に連れられやってきたところは、駅の裏山にある公園の高台だった。
そこは街灯がまったく設置されていない場所で、スマホで階段を照らさなければ歩けないほどだった。
そのおかげか見晴らしの良さにも関わらずほかに誰もおらず、静かに花火を楽しめそうだった。
「ここからすごくよく見えるって茜に聞いたんだ」
駅の奥の空に向かって目を細めながら、新汰が言った。
「へえ、茜ちゃん情報なのか。……それにしても用意周到だよな。そもそも俺がお願いしたデートなのに、全部リードしてもらってなんか申し訳ない感じなんだけど」
すると新汰は顔を背けながら言う。
「理久も頑張ったけど……俺も頑張ったから。お願い聞いてもらってもいいかなって思ったんだ」
「え、お願い?」
その問いに新汰は答えなかった。
「ほら、花火上がるぞ」
途端に、ひゅるるという甲高い音とともに光の玉が空を駆ける。
それは一瞬どこへいったか分からなくなったあとで、轟音と共に弾け空に白の大輪を咲かせた。
一発、二発と次々に天に昇り、ぱっと花開く。その美しい光景を前に、俺はすっかり言葉を失っていた。
「綺麗だな……――理久?」
気付けば俺は新汰の手を取っていた。
このとき少しも声が出せなかったのは、花火のせいだけじゃない。
返事のなかったさっきの新汰の言葉が、俺の中で繰り返し響いていたから。
『お願い、聞いてもらってもいいかなって思ったんだ』
お願い。
新汰のその言葉が意味するところ。
それは頑張ったご褒美が、俺との花火でいいということだ。
――本当に、本当に。新汰にとってご褒美になるというのなら。
新汰は、少しは俺のこと――。
そう思った瞬間、俺の身体は勝手に動いていた。
足は自然と新汰との距離を詰め、そして目が合う。その黒い瞳にはきらきらと花火が反射して見えた。
――綺麗。
手は新汰の顔に触れ、そして自然と顔を近づけようとする。
今にも唇が触れてしまう――そんなときだった。
俺は、新汰が震えていることに気づいてしまった。
――ああ、何をやってるんだ俺は。
また同じことをしようとしている――そう思った俺は咄嗟に身体を離し、なんとか言う。
「ごめん。何でも……ない」
その後も夜の闇に花火は次々と咲き続けた。
結局、その最後のひとつが上がるまで、俺と新汰が言葉を交わすことはなかった。
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