【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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5章 文化祭は波乱万丈 side.新汰

1 秋の恒例行事

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 夏は長いようで終わってみると、意外と短いと思う。
 うだるような暑さはなりを潜め、残暑の残る九月がはじまろうとしていた。同時に夏休みも終わり、新しい学期が幕を開ける。
 初週に待ち構えていた課題テストをひととおり終えたあと。次の授業を前に、俺は席に付いたままため息を付いた。

「……はあ」

 このため息の原因は課題テストの出来映えに対するものではない。むしろテストの内容は期待できるくらいで、原因はもちろん理久とのことだった。

 体育祭の終盤、男子リレーで倒れかけた理久を保健室に運ぶという一件があって以来、俺は怒涛の時間をすごしたと思う。
 あの一件から俺に対する妙な視線が増え、正直辛かった。
 同級生たちはまだいい。どちらかという好意的な目で俺を見るだけだったから。
 それに対して今年入学した一年女子の暴走ぶりが酷かった。
 突然、教室に押しかけてきてきゃーきゃー悲鳴を上げたと思えば、見学と言って放課後の道場にも現れた。そして待ち伏せするわ、勝手に靴箱に手紙を入れられるわ、もう散々だった。
 剣道部の顧問や仲間たちは笑っていたものの、大切な大会を前にどれだけ迷惑だったろう。
 ただ、知らない後輩女子たちに強く言えるわけもなく、俺は溜まったものを部活にぶつけることしかできなかった。
 結果的にそれが功を奏したのか、うまく噛み合ったのかはわからない。俺たち南高校剣道部は、県大会でベスト四という高成績を収めることが叶った。
 先輩たちが掲げていた目標はもちろん優勝だったものの、過去最高成績とのことで俺は与えられた役割を十分果たすことはできてよかったと思う。

 そういう経緯があり、夏休み中の俺はとにかく疲れていたんだと思う。
 大会へのプレッシャーや肉体的な疲労に加え、今回は余計な視線から来るストレスもあったのだから。
 そうして限界が来ていた俺は、ついつい理久に甘えてしまったのだ。
 母が勝手にセッティングしていたふたりだけのお盆をきっかけに、俺は理久の好意を利用して好き放題やらかした。
 理久の母さんが用意してくれた懐かしいお弁当を食べ、そして感想文課題と評してふたりで映画を観て。挙句の果てに、俺から祭りに誘ったというわけだ。

 一緒に祭りに行くのは小学生以来だった。
 中学以降、俺も理久も部活や習い事で忙しくしていたからだろう。ただふたりで行かなくなったのは、理久の性格を俺が慮ったからでもある。
 理久は優しくて、なんでも話を聞いて付き合ってくれそうに見える。しかしああ見えてせっかちで気が早いので、自分だけぱっと用事をすませて帰るタイプだ。
 だから近くで行われる祭りならまだしも、隣町でする花火付きの大掛かりなものなんて、もってのほかだと思っていた。
 せいぜい運が良ければ花火も――そう期待していなかった俺にとって、理久の口から花火デートという言葉が出たのは青天の霹靂だった。

 そうして楽しみにしていた祭りだったが、なんと俺は最後に手痛い失敗をしてしまった。
 夜にふたりだけで、色とりどりの花火が次々開く最高の雰囲気の中。
 理久の手が俺の頬に触れ、そして真剣な瞳で見つめられて――。
 そうして唇が触れると思ったそんなとき。なんと理久は、途中で俺を拒むように身体を離してしまった。
 今思えば、きっと俺のせいなのだと思う。
 花火を一緒に見れたことが嬉しくて、同時に光に照らされた理久の顔がすこしも現実と思えなくて、緊張しすぎて震えてしまった。
 そんな俺の恋愛偏差値の低さを見て、哀れに思ったのかもしれない。
 そのとき俺はもちろんショックを受けていた。しかし気付かないふりをしてなんとかやりすごそうとした。
 大丈夫、明日まで理久と一緒の時間はまだある。それを大切にしなければいけない――そう思って。
 しかし家に戻ると、なぜか理久は俺にこう言った。

『新汰……俺、とりあえず今日は帰るよ』

 そのときになって俺はようやく我に返ったのだ。
 疲れに身を任せ何も考えられなかった俺は、理久の好きなとおりにと言わんばかりに何もかも委ねてしまっていたことに気付いた。
 理久が一生懸命勝ち得た大切な「デート」であったのに。俺は蔑ろにするように無責任に、理久にすべてを放り投げたのだ。

 結局、夏休み後半は理久にどんな顔をして会えばいいのかわからなかった。
 本当にあれがデートで理久は満足にしたのだろうか――そう思うも連絡ができずに、課題や宿題をこなして毎日をすごしていたわけだ。
 そのおかげか、小テストの結果はうまくいきそうなのだが、残念ながらそれだけで。そんなテストよりも大切にすべき理久と早く向き合わなければならなかった。

 新学期がはじまり、俺達は以前と同じように昼休みを一緒にすごしている。
 ただ、会話はあくまで友人としてのたわいないもので、あのテストはどうだったとか、休みのあいだ茜ちゃんどこの写真撮ってきたのとか、そういう当たり障りのないものばかり。
 あの花火の夜のことには、一切触れてくれない。同時に俺の大会も終わってしまったから、昼寝と称してくっついていたあの時間も失われてしまった。
 俺と理久との距離は、すっかり離れてしまっている。

「ねえ、西脇くん!」

 隣りから元気に声をかけてきたのは牧田だった。
 その瞳はきらきらと輝いていて、俺は少し嫌な予感を感じる。

「なんだ、牧田」

「文化祭のことなんだけど、もうやりたいこと考えてる?」

 文化祭――その単語に俺は気付いた。
 さっきからどこかクラスがざわついている気がする。そう思っていたのは気のせいではなく、どうやら次のホームルームでその話をするらしい。
 もうそんな時期かと俺は去年を思い出した。
 一年のときのクラスの出し物は、お化け屋敷だった。
 教室をふたつ押さえて、大がかりな迷路仕立てにして大道具を作って。当日は、理久と考えた迫る壁役をやって、来る人皆に悲鳴を上げさせた。
 あれは楽しかった――そう思いを馳せるも、今年は理久がいないのだ。
 もうあんなに楽しいことはできないし、思いつかない。そう思いながら俺は牧田に言う。

「俺は面白いこと思いつくタイプじゃないからな。できることやるよ」

 途端、牧田の瞳が大きく見開かれた気がした。
 待ってましたと言わんばかりの表情に、俺はまさかと焦る。

「じゃあさ、西脇くんをイケメンコンテストに推薦していい?」

「…………は?」

「これこれ!南高校恒例学生コンテスト!」

 差し出されたリーフレットを見て俺は絶句する。
 美男美女コンテスト。なんて時代にそぐわないコンテストだろう。

「いや、それはだめでしょ」

「なんで?優勝賞品はなんと……所属クラスへの焼肉ごちそうだって!」

 なんでクラス全員。まるで断れらないための報酬に、俺は疑問に思う。

「いや……俺は別にいいかな」

「えー、焼肉いいじゃん!みんなが毎年これのためにクラス一丸になって取り組むんだよ?」

「ええ……そうだっけ」

 去年はそんなことなかった気がした。
 ただ、俺は学祭なんて興味なくて、理久に言われるがままやっていたことを思い出してしまう。
 そのツケが今になって回ってきたというのだろうか。

「……牧田が美女コン出れば?」

 適当に言うも、瞬時に言葉が返ってくる。

「それだと意味ないの!」

 どういうことかまるでわからない。
 俺がひとり困惑していると、牧田は途端に申し訳なさそうな顔をした。

「そんなにいやなら……女装コン出る?」

「いや、それならまだ男がいい!」

 こんな体格の俺がそんなことしたら罪に問われる気がする。
 そう思って言ったあとで、俺は牧田がにやりと笑っていたことに気付いた。

「まさか、牧田――」

「わかった!じゃあイケメンコンテストに二年三組代表としてエントリー済ませておくね!」

「え、ちょっと、牧田!」

 そう呼ぶも、牧田は申し込み用紙に堂々と俺の名前を書き始めていた。俺はもちろんその手を止めることはできない。
 嫌われることが怖い弱虫だから、こういうときに俺は自分の意志を伝えることができない。

「大丈夫。立ってるだけだって」

 俺の斜め後ろの席から言ったのは林だった。

「この優勝賞品ならきっと大勢が出るだろうし、それに清宮くんも出るんじゃないの?」

「え、理久……?」

「うん。清宮くん目立つでしょ。だからすべてかっさらってくれると私は思うけど」

 そう言われて俺は気付いた。
 やばい。俺はまた体育祭のときのように、理久に何も伝えないまま面倒事に巻き込まれようとしている――。

 
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