【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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6章 京都への旅 side.理久

1 キスと修学旅行

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 ずっと嫌な予感はしていた。
 だから女装コンテストは予防線程度だったのだけれど、あの新汰を好きだという女子が本当にこんな大胆な策に出てくるとは思わなかった。
 彼女が牧田を巻き込んで仕立てようとした事を、俺の手で実際に止められたことは誇りたい。
 けれど、まさかあの迷惑なジンクスをこの身に受けることになってしまった。
 あれは事故だ。新汰を陥れようなんて思っていない。正真正銘、まったく俺の意図していない出来事だ。

 謎の美少女の正体が俺だとばれたあと、想像以上の反響があった。
 体育祭とイケメンコンテストで時の人だった新汰の注目は薄れ、話題の中心は俺になった。
 だからそれについては十分だと思う。他人の視線に疲れていた新汰が、穏やかな毎日に戻れることを俺はずっと願っていたから。
 問題は、文化祭当日コンテスト結果発表のあの場にいた人たちのこんな話をたしなめることだった。

『あれ、まじでキスしてたよね』

 ああ、確かに触れてしまった。
 あのときは新汰が必死に助けを求めていたし、あの場では俺しか動けなかった。それにあの空気も耐えられるものではなかった。
 だから俺は新汰の腕を引き、思わず口付けてしまった。
 ただ、その事実を認めるわけにはいかない。ようやく穏やかになった新汰に迷惑をかけてしまう。だから新汰を守るためにも、俺は笑いながらなるべく軽薄にこう言うことしかできなかった。

『そう見せただけだって。絶対盛り上がると思ってさ』



「百面相くん、大丈夫?」

 そう言って、突然話題を蒸し返してきたのは良悟だった。ひととおり熱が落ち着いてきたというのに、俺のいらだちは再び燃え上がる。

「…………あ?」

「……大丈夫じゃないみたいだな」

 良悟はそう小さく笑うと、なぜか距離を詰めてきた。

「なあ、誰にも言わないから教えてほしいんだけど、あれはわざと?それともラッキー?」

 やはり司会進行としてステージ上にいた良悟の目に、あの事は確実に捉えられていたらしい。

「……どっちでもいいだろ」

「なるほど。その反応はラッキーってことか」

「…………」

「で、その反応は……まさかファースト?」

 にやにやしながら言う良悟は少し、いやかなりむかつく。
 この野郎と思っていると、良悟は自分で納得したように続ける。

「でも、相手方の反応良さそうだったからよかったな。普通だったらあの距離で男が近づいてきたら引きはがすし、野郎なんてごめんだって言われそうじゃん。受け入れてもらってよかったな」

 まあ、あの女装のせいもあるかと呟く良悟に、俺は言う。

「あいつは……優しいから」

「ふうん。なら試してやろうか?」

 その軽薄な言葉に、俺は咄嗟に怒声を上げてしまう。

「……ああ?」

「冗談だって。俺だって好きでもない野郎とキスは勘弁だよ。それにしても理久、怒りすぎ。めちゃくちゃイライラしてんじゃん」

 そりゃあ誰だってイライラするだろう。
 本当は、大切に大切に段階を踏んで新汰とキスしたいと思っていたのに。
 あんな人前で、しかも俺は女装していて。
 しかも確かに触れたのに、自分の口で笑ってなかったことにしなければならない。
 否定するたびイライラは自分の中で増えて、もう限界だ。
 あのときのことを、もちろん俺は新汰にすぐに謝っている。コンテストが終わったあと、着替え用に用意された準備室で新汰はぽつりと言った。

『これが理久の言っていた策だったのか?』

『あ、ああ。でも――』

 キスは違う。狙ったわけではない――そう言いかけたところで、新汰は悲しそうな顔をして呟いた。

『……そうか』

 あの物悲しい顔を俺は忘れられない。
 以来結局何も言えなくなってしまって、キスの柔らかな感覚だけが唇に残っている。

「まったく、そんなんで修学旅行は大丈夫なのか?」

 良悟に言われたとおり、確かに心配だった。
 これから修学旅行に向け、グループに分かれて色々計画を練らなければならない。だけど怖いほどまったく身に入らない。
 新汰、新汰、新汰。
 そう頭の中は新汰でいっぱいで、今の状況で新汰と一緒に回れない修学旅行なんて、考えたくもなかった。

 ――本当は、一緒に楽しめるはずだったのに。

 最近は新汰に近づく奴、すべてにイライラする。
 修学旅行当日、きっと新汰はいつもつるんでいるクラスメイトたちと回るのだろう。
 牧田たちと楽しそうな顔をして、俺とのことなんて忘れたような顔をするんだ。

 ――ああ、嫌だ。

 俺がそう思った時だった。

「そんな悩める百面相くんに、助け船を出そう」

「……は?」

「修学旅行を別クラスの大好きなあの子と回る楽しい方法、あるんだよね」

「……そんなの無理に決まってるだろ」

 すると良悟は、お前は少しも分かっていないと言いたげに鼻で笑って言う。

「そりゃあふたりっきりでずっと回るのは無理かもしれないけど、たまたま行く先が同じふたつのグループが合流して、一緒に回っちゃうのはありだろ」

 確かに。理想はふたりで回ることだが、それは同じクラスでもきっと無理な話だ。
 ならいっそのこと、自由行動のタイムスケジュールと行く先を合わせてしまえばいい。

「でも……あいつらがどこ行くかなんてわからないじゃん」

「まあ、確かにそうなんだけどな。理久、俺のネットワークを舐めるなよ!」

 そう得意げに言う良悟を前に、俺は何も言えなかった。

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