【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉

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6章 京都への旅 side.理久

3 学生の時間

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 駅に着いたあと、俺達は順番に目的地へ向かった。
 道中は街中というよりも、木々に覆われた閑静な住宅街だった。その中に寺社が突然現れる光景は、京都さながらだと思えた。
 あたりは平日のためか観光客は少なく、学生もまばらだった。それが女子たちにとって絶好の写真撮影タイムになったらしい。仁和寺で五重の塔や国宝の社殿を前に、また龍安寺では有名な庭園を前に撮影に夢中だった。
 賑やかな牧田とうちの班の女子たちを筆頭に、その後ろを男子たちがついていく構図だ。
 だから必然的に俺は新汰の隣りを陣取ることができた。なにせ良悟は幼馴染だという相川とばかり話している。
 それが俺のためなのかはわからない。ただこうして修学旅行の自由時間を一緒に回ることは叶った。良悟にまたひとつ貸しが出来たというわけだ。

 俺達は道の途中にあったお洒落なカフェでひとしきり休んだあと、金閣寺へ向かった。
 これまでのどの寺社もそうだが、寺の敷地は広くさまざま建物や池が配置されている。目的の金閣寺だけでなく、美しく整えられた庭の中にいることがどこか非現実的だった。

「インバウンドとか言うからもっとわいわいしてると思ってたけど、意外と静かに回れていいな」

「ああ。京都楽しいな。金閣はきっと外から見るだけだろうけど、さっきの龍安寺は中に入れたのがよかった。板張りの感じとか薄暗さとか、気が引き締まる感じがしてよかったよ」

 そう新汰は饒舌に話す。これはリラックスしていて機嫌のいい証拠だ。

 ――よかった。楽しそうだ。

 そう安心しながら見ていると、新汰はこちらにふと視線を向けふっと笑った。

「理久は……ちょっと京都からは浮いてるな」

「……は?酷くね」

「ははっ。冗談だって」

「まあ、実際新汰の方がしっくり来てると思うけどな。剣道着きてたら、もう完璧だろ。京都人さながらだって」

「道着着てたらどんなやつでもしっくりくるだろ」

「確かにそうだな」

 そんなどうでもいい話をして笑いながら、こんな時間がずっと続けばいいのにと思う。

 ――このままふたりだけで、京都に取り残されてしまえばいいのに。

 そんな俺の願いが、叶ったのかと思った。
 ふと気付いたときには、順路の前に知っている後ろ姿は誰も見当たらなかった。

「あれ、みんなもう先行った?」

「いつの間に……」

「あいつら……絶対こういう色んな説明とか読んでないだろ……」

 庭園の至る所に立っている解説の看板を、写真目当ての女子たちはきっと素通りしているのだろう。

「もう全部まわり終えて、土産物コーナーでいろいろ見てるかもしれないな」

「確かに。……あ、雨?」

 手にしたパンフレットに落ちたのは雨粒だった。
 ぽつりと当たった一粒の雫を契機に、それはどんどん強くなる。
 確かに雲行きは怪しかったものの、突然のことすぎて俺は思わずあたりを見回した。

「新汰、こっち!」

 とりあえずと近くの大きな木を見つけ、その下に入ることにする。
 傘は持ってないので、雨脚が弱くなるのを待つしかない。すぐさま天気アプリを開き、雲の流れを確認する。

「……通り雨みたいだな。もう少し待ってれば通りすぎそうだ」

 そう言いながら、俺は気付いた。
 いま、俺は新汰の手を握っている
 ぱっと離してしまいそうになり、必死に止める。
 大丈夫。気付かないふりをしろ。
 どくんと鼓動が脈打つ音が聞こえ、緑の匂いと雨のむわっとする湿気がまとわりつく。
 俺は深呼吸しながら、空を見上げる。

 ――これくらいは許してもらおう。

 俺は新汰のことが好きだ。そしてこの気持ちは本人にとっくに伝えている。
 良悟の言っていた通り、嫌ならとっくに振り払われているはずだ。なのに新汰はそうしない。じっとりと湿った手をそのまま受け入れてくれている。
 だからもしかしたら。そんな小さな可能性を俺は捨てられない。
 この時間だけ――一生に一回だけの修学旅行の間のこの時間だけでも。都合のいい夢の中にいさせてほしい。


 自由時間が終わる頃、俺たちは宿泊先に向かった。
 ホテルはインバウンドもあり値段が上がっているらしく、林間学校みたいな研修施設で一晩すごすことになっている。
 大広間でまとまって食事をとり、一日歩いた疲労を癒すため風呂へ向かう。
 着替えを持ち重たい足を動かしていると、となりの良悟がこんなことを言う。

「理久……お前気付いたか?」

 ぞっとするような口調で言われ、何かと思い俺はあたりを見回す。
 夕食以降は決められた時間に風呂に入るだけで、消灯までは自由時間だ。だからか色気のない通路の端々に、ちらほら男女で話す後ろ姿が見えた。

「カップルがいるけど」

「……やばいよな。学祭のあとからめちゃくちゃ増えたらしい。……そうだ!お前も今日二人でいちゃいちゃしてただろ。結局進展あったのか?」

 いちゃいちゃは少し語弊がある――そう思いながら俺は良悟に言う。

「あったらこんな風にだらだら風呂入りにいかないだろ」

「まあ、そうだよな。修学旅行だからってそんなうまくはいかないよな」

 俺達は大浴場でひとっ風呂浴びたあと、火照る身体を冷ましながら部屋へ戻ろうとした。
 大浴場脇に設けられた休憩スペースをちらりと見ると、女子の集団が占拠して自販機のアイスを口にしている。
 その視線がこちらを捉え俺はどきりとする。
 どこか期待するような眼差しに気付かないふりをして逃げようとしたものの、それに隣りの良悟がひっかかってしまう。

「うわ、いいな。俺にもアイスおごってよ」

 すると絶対やだだのあーだの言う女子たちの文句が聞こえはじめた。そんな中で俺はため息を付く。
 確かに、俺もお風呂上りに何も考えずアイスを食べながらだべりたい。
 ただ俺がそうしたいのは、女子たちとじゃなくて新汰だ。

「……良悟、俺は部屋に戻るよ。お前は女子たちとたっぷりいちゃいちゃして帰ってこい」

「……は?おーい!理久!まだまだ夜には早いぞ!」

 そう呼び止める声が聞こえたけれどそれを無視することにした。
 行く当てもなく研修施設内をだらだら歩いていると、確かに良悟の言う通りカップルたちばかりが目に入る。そして彼らはこそこそと闇の中へと消えていった。
 それを見ていると、焦らざるを得なかった。
 あいつらもわかっているんだ。
 こうしているうちにもう秋で、二年なんてあっという間にすぎてしまう。
 そうすればいよいよ三年で、俺たちは進路という現実と向き合わなければならない。
 考えたくもない。けれど現実は確かに迫っている。

 ――ああ、嫌だ。

 高校を卒業したあとのことなんて考えたくもない。
 ただ、それに向き合わなければならない時間は、確実に迫っている。
 
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