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第六話 微睡みから醒めて
第六話 一
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降り注ぐ陽光はますます白く輝くようになり、遮るもののほとんどない丘を渡る風は柔らかさを残しつつも夏の香りを運んでくる。
皐月の好天に呼ばれて顔を出した真新しい緑の芽は日を追うごとにすくすくと生長していた。
「うわぁ、また大きくなってる!」
朝の祈りの後、家の前にある畑の隅に立ち寄ることがここ最近の天音の日課だ。
あたりは畑ばかりであり、天音たちの住む家にも畑がついている。成世には好きに使っていいとは以前より言われていたがなかなか手をつけられずにいた。
半月ほど前に天音が知り合いの畑を営む村人から種をもらったことでようやく畑の片隅を使うようになったのだ。
今日も欠かすことなくたっぷりと水を与える。
「元気に育ってね~」
双葉の滴がきらりと煌めく。
天音は満足げに頷くと、朝食の準備を手伝うべく玄関へと駆けた。玄関戸を引き開けるとちょうど自室から出てくるところの黎夜と目が合った。
「おはよう!」
「おはよう。随分ご機嫌だね」
にこにこ笑う天音に目を丸くしていた黎夜だったがすぐにふわりと目を細めた。
「うん、ひまわりがまた大きくなってたんだよ。どんな花が咲くのか、今から楽しみだなぁ」
「ひまわりでしょ、黄色い大輪の花」
同じ植物図鑑を読んで育っただけあって、黎夜の想像するひまわりは天音の思い描くひまわりと相違ないと信じて疑っていないようだ。村人から種を分けてもらったとき、天音も今の黎夜と似たような反応をしたものだ。
「それがそうとも限らないんだって。ひまわりっていっても品種がいくつもあるから、八重咲きかもしれないし橙色に近い花かもしれないんだって」
売り物用に仕分けている途中で誤って品種を混ぜてしまったらしく、商品にはできないからと天音のもとに渡ってきたのだった。
「咲くのは夏だもんね。見られたらいいな」
「……」
何の気なしに呟いたそれが『もしかしたら叶わないかもしれない』という隠した本音の現れであることに天音は気づいていない。瞬きの間固まった黎夜だったが騙されてやることにした。
「今朝は卵焼き作るんだっけ。今日こそ焦がさないでよ」
「が、頑張るけど……! でもお砂糖入れると難しくって」
いつかは終わる夢だとしても、一瞬でも長く続いてくれたらいい。
言葉にしなくとも願いは同じだった。
皐月の好天に呼ばれて顔を出した真新しい緑の芽は日を追うごとにすくすくと生長していた。
「うわぁ、また大きくなってる!」
朝の祈りの後、家の前にある畑の隅に立ち寄ることがここ最近の天音の日課だ。
あたりは畑ばかりであり、天音たちの住む家にも畑がついている。成世には好きに使っていいとは以前より言われていたがなかなか手をつけられずにいた。
半月ほど前に天音が知り合いの畑を営む村人から種をもらったことでようやく畑の片隅を使うようになったのだ。
今日も欠かすことなくたっぷりと水を与える。
「元気に育ってね~」
双葉の滴がきらりと煌めく。
天音は満足げに頷くと、朝食の準備を手伝うべく玄関へと駆けた。玄関戸を引き開けるとちょうど自室から出てくるところの黎夜と目が合った。
「おはよう!」
「おはよう。随分ご機嫌だね」
にこにこ笑う天音に目を丸くしていた黎夜だったがすぐにふわりと目を細めた。
「うん、ひまわりがまた大きくなってたんだよ。どんな花が咲くのか、今から楽しみだなぁ」
「ひまわりでしょ、黄色い大輪の花」
同じ植物図鑑を読んで育っただけあって、黎夜の想像するひまわりは天音の思い描くひまわりと相違ないと信じて疑っていないようだ。村人から種を分けてもらったとき、天音も今の黎夜と似たような反応をしたものだ。
「それがそうとも限らないんだって。ひまわりっていっても品種がいくつもあるから、八重咲きかもしれないし橙色に近い花かもしれないんだって」
売り物用に仕分けている途中で誤って品種を混ぜてしまったらしく、商品にはできないからと天音のもとに渡ってきたのだった。
「咲くのは夏だもんね。見られたらいいな」
「……」
何の気なしに呟いたそれが『もしかしたら叶わないかもしれない』という隠した本音の現れであることに天音は気づいていない。瞬きの間固まった黎夜だったが騙されてやることにした。
「今朝は卵焼き作るんだっけ。今日こそ焦がさないでよ」
「が、頑張るけど……! でもお砂糖入れると難しくって」
いつかは終わる夢だとしても、一瞬でも長く続いてくれたらいい。
言葉にしなくとも願いは同じだった。
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