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1.ラブロマンスは期待できない
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突然前世の記憶を思い出してぽかんとしている私を見て、お母様がまたさめざめと泣き出した。
お父様はお母様にそっと寄り添って、その肩を支えている。
「アイシャ、私たちも辛いんだ。だが……」
「神託さえ、神託さえ無ければ……!」
「滅多なことを言うものじゃない」
お母様を嗜めながらも、お父様も悔しそうに拳を握りしめていた。
神託。
正直に言って、まだそんなものあったんだ、という感じだ。前世ではとんとご縁がなかった。
そもそも何年かにいっぺんあるかないかというものだ。
熱心に神に祈るほど信心深くなかったから余計に、身近に感じていなかったのかもしれない。
アイシャは由緒ある侯爵家の生まれだった。古い貴族ほどそういうものを重んじると聞いたことがある。
王族の結婚相手は神託で決まるとか、何とか。
このご時世に? と聞きたくなるけれど、まぁそういう古き良き文化というものもあるのだろう。
アイシャの……私の結婚も、神託で決まったものだった。
それ自体はいい。王族でもない貴族の結婚に神託が下るのは滅多にないことで、それ自体はとても名誉で喜ばしいものであると、今世で聞いた。
問題は、その相手だった。
今代の大魔導師でありながら、禁術に手を出して謹慎処分を食らった男。
やっと謹慎が解けるかというところに、この神託が下ったそうだ。
お父様もお母様も、そんな男のところに大事に育てた娘をやりたくない。
しかも私、アイシャはまだわずか6歳である。
いくらなんでも、嫁ぐには早すぎる。それも両親を悲しませている原因だった。
だが……私は正直に言って、少しばかりわくわくしていた。
前世では結婚などとんと縁がなかった。
魔法に夢中でそんな暇がなかったのだ。ほとんど魔法と結婚したようなものである。
6歳は早すぎるにしても、15歳ごろには嫁入りするのが一般的だという世間というものをまるっとごりっと無視して、生涯独身だった。
死んだのは、……29か、30か。あれ? 28か?
成人してからすっかり自分の年齢に興味がなくなってしまったので、記憶が怪しい。
まぁだいたいそのくらいになったら2、3歳など誤差みたいなものか。
とにかくそんな年齢まで浮いた話の一つもなかったわけである。ウエディングドレスなど着るのはもちろん初めての経験だ。
ロンググローブがこんなにずり落ちてくるのだということも初めて学んだ。
未知の経験というものは、何であれ好奇心をくすぐられる。
そして何より興味をそそるのは、禁術である。
魔法というのは奥深いもので、不可能などないかのように思えるけれど……禁忌というものは存在する。
禁忌とされているのはほとんどが、実現性も再現性も定かでない、夢物語のようなものばかりだ。
普通の模範的な魔法使いであれば、それを実行した時のデメリットを重視するはずだ。わざわざ試そうなどとは思わないだろう。
だけれど、と思う。
魔法に魅入られて、寝食も人間らしい生活も、結婚も恋愛も。
そんなものすべて投げ捨てて、魔法と共に生きてきた私のような人間にとっては、これほど興味深いものはなかった。
どの禁術に手を出したのだろう。時間を操るものか、金を作り出すものか。
それとも無難に、人を呪う術あたりか。それだと事例はごまんとあるし、少々期待外れだけど。
花婿殿とは、神託による結婚だ。お互いの意思は関係ない。
まさか6歳児と本気でどうこうなろうという人間はそうはいないだろうし、結婚とは名ばかりの関係になるだろう。
ラブロマンスは期待できないけれど……禁術の貴重な経験者との同居生活。これはこれで、なかなかに刺激的だと思う。
私はまるでお葬式のように振る舞う両親を見つめて、心の中で謝罪する。
ごめんなさい、お父様、お母様。
貴女たちの娘は今、内心にやにやしています。
お父様はお母様にそっと寄り添って、その肩を支えている。
「アイシャ、私たちも辛いんだ。だが……」
「神託さえ、神託さえ無ければ……!」
「滅多なことを言うものじゃない」
お母様を嗜めながらも、お父様も悔しそうに拳を握りしめていた。
神託。
正直に言って、まだそんなものあったんだ、という感じだ。前世ではとんとご縁がなかった。
そもそも何年かにいっぺんあるかないかというものだ。
熱心に神に祈るほど信心深くなかったから余計に、身近に感じていなかったのかもしれない。
アイシャは由緒ある侯爵家の生まれだった。古い貴族ほどそういうものを重んじると聞いたことがある。
王族の結婚相手は神託で決まるとか、何とか。
このご時世に? と聞きたくなるけれど、まぁそういう古き良き文化というものもあるのだろう。
アイシャの……私の結婚も、神託で決まったものだった。
それ自体はいい。王族でもない貴族の結婚に神託が下るのは滅多にないことで、それ自体はとても名誉で喜ばしいものであると、今世で聞いた。
問題は、その相手だった。
今代の大魔導師でありながら、禁術に手を出して謹慎処分を食らった男。
やっと謹慎が解けるかというところに、この神託が下ったそうだ。
お父様もお母様も、そんな男のところに大事に育てた娘をやりたくない。
しかも私、アイシャはまだわずか6歳である。
いくらなんでも、嫁ぐには早すぎる。それも両親を悲しませている原因だった。
だが……私は正直に言って、少しばかりわくわくしていた。
前世では結婚などとんと縁がなかった。
魔法に夢中でそんな暇がなかったのだ。ほとんど魔法と結婚したようなものである。
6歳は早すぎるにしても、15歳ごろには嫁入りするのが一般的だという世間というものをまるっとごりっと無視して、生涯独身だった。
死んだのは、……29か、30か。あれ? 28か?
成人してからすっかり自分の年齢に興味がなくなってしまったので、記憶が怪しい。
まぁだいたいそのくらいになったら2、3歳など誤差みたいなものか。
とにかくそんな年齢まで浮いた話の一つもなかったわけである。ウエディングドレスなど着るのはもちろん初めての経験だ。
ロンググローブがこんなにずり落ちてくるのだということも初めて学んだ。
未知の経験というものは、何であれ好奇心をくすぐられる。
そして何より興味をそそるのは、禁術である。
魔法というのは奥深いもので、不可能などないかのように思えるけれど……禁忌というものは存在する。
禁忌とされているのはほとんどが、実現性も再現性も定かでない、夢物語のようなものばかりだ。
普通の模範的な魔法使いであれば、それを実行した時のデメリットを重視するはずだ。わざわざ試そうなどとは思わないだろう。
だけれど、と思う。
魔法に魅入られて、寝食も人間らしい生活も、結婚も恋愛も。
そんなものすべて投げ捨てて、魔法と共に生きてきた私のような人間にとっては、これほど興味深いものはなかった。
どの禁術に手を出したのだろう。時間を操るものか、金を作り出すものか。
それとも無難に、人を呪う術あたりか。それだと事例はごまんとあるし、少々期待外れだけど。
花婿殿とは、神託による結婚だ。お互いの意思は関係ない。
まさか6歳児と本気でどうこうなろうという人間はそうはいないだろうし、結婚とは名ばかりの関係になるだろう。
ラブロマンスは期待できないけれど……禁術の貴重な経験者との同居生活。これはこれで、なかなかに刺激的だと思う。
私はまるでお葬式のように振る舞う両親を見つめて、心の中で謝罪する。
ごめんなさい、お父様、お母様。
貴女たちの娘は今、内心にやにやしています。
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