57 / 64
56.後は若いお二人で
しおりを挟む
彼はノアの姿を見つけると、大股でずんずんと廃墟を踏み荒らしながら、鬼の形相でこちらに歩いてくる。
「禁術の発報があったから来てみたら、アンタまた何か」
「はいはい、そこまで」
今度はジェイドとノアの間に、フェイが割り込んだ。
「今回は俺がきっちり絞っといたから。それで勘弁してやって」
「え、やだ嘘」
気の抜けた顔でジェイドを宥めるフェイ。
さっきノアに詰め寄っていたのと同一人物とは思えなかった。
フェリを引き取ってくれたことといい、フェイも結構面倒見がいい。きっとノアを心配するあまり、厳しく怒ってしまったのだろう。
宥められた側のジェイドは、口元に手を当ててはわはわと口を開け閉めしている。
その頬が、いや、顔全体が真っ赤になっていて、あれ? と思った。
何だかその顔は、まるでノアに見惚れていたお嬢さんたちのように――恋する乙女のように見えた。
「フェイ管理官!?」
ジェイドが黄色い声を上げた。
その嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな顔を見て、理解する。
そうか。ジェイドはフェイのことが好きなのか。
「きゃー!! い、いつも見てます!!」
「あ、ありがとう?」
ぽかんとした顔で気圧されたように返事をする前世の友人を見て、にやにやしてしまう。
ついにフェイにも春が来る、のかもしれない。
しばらくはわついていたジェイドが、やがてきゃーっと黄色い声で叫んだ。
「やだー!! アタシ夜勤明けでそのまま来ちゃった!!」
あまりの音量に、耳がキーンとなった。
マンドラゴラの鳴き声もかくやという大音量だ。
……ん?
マンドラゴラ?
「ちょ、ちょっとやだ、どうしよう! ねぇちょっとノア、メイク変じゃない!?」
「いつもおかしい」
「ぶっ飛ばすわよ」
ノアがジェイドに睨まれていた。
そんなことはいいから、あの、マンドラゴラ。
そう思って二人の会話に割って入ろうとするが、私が声を掛けるより先に、フェイの顔を見ていたジェイドがまた黄色い声を上げる。
「きゃあ、見た!? あの苦み走った横顔……はぁ、チャーミングだわ」
「ただのおっさんだろ」
「《攻撃》」
ノアがぶっ飛ばされた。
さすがに壁のように木っ端みじんにはならなかったので、ジェイドも手加減しているようだ。
……もしかしたら、ノアが防御魔法を使っただけかもしれないけど。
壁に背中を打ち付けて呻いているノアに、大慌てで駆け寄った。
「旦那さま、旦那さま!」
「ったた……何?」
「マンドラゴラ!」
「……あ」
私の指摘に、ノアが畑を振り向いた。
屋根が吹っ飛んで明るくなった部屋、吹きすさぶ隙間風、そしてこの大騒ぎ。
暗くてじめじめして、静かな場所を好むマンドラゴラには最悪の環境だ。
耳を澄ますと、かすかにマンドラゴラのぐずる声が聞こえ始めている。
実はマンドラゴラ、気に入らないことがあると引っこ抜かなくても泣くのだ。
このあたりも取り扱いが難しい所以である。
マンドラゴラの悲鳴を聞くと発狂して死ぬと言われているけれど、1匹くらいなら死に至ることはない。2、3日使い物にならなくなるだけだ。
けれど、この数の大合唱を聞いてしまったら――どうなるか。
「《雷雨》」
ノアが魔力で魔法陣を描いて、発動させる。
途端に空が暗雲に覆われ、ざあざあと雨が降り始めた。
ぐずっていたマンドラゴラたちに、一時的に平穏が訪れる。これでしばらくは大丈夫だろう。
天候を操る魔法は多くの要素の複合が必要になる上位魔法だ。
それを魔力で描いただけの、不安定なはずの魔法陣で成功させるとは――ノアの今後が楽しみになる。
「じゃあ、僕たち帰るから」
「え?」
「後始末、任せた」
「え??」
ノアが私を抱えて、転移の魔法を発動させた。
亜空間に飛び込む前に、心の中でジェイドに向かってサムズアップする。
後は若いお二人で、どうぞ頑張って。
「禁術の発報があったから来てみたら、アンタまた何か」
「はいはい、そこまで」
今度はジェイドとノアの間に、フェイが割り込んだ。
「今回は俺がきっちり絞っといたから。それで勘弁してやって」
「え、やだ嘘」
気の抜けた顔でジェイドを宥めるフェイ。
さっきノアに詰め寄っていたのと同一人物とは思えなかった。
フェリを引き取ってくれたことといい、フェイも結構面倒見がいい。きっとノアを心配するあまり、厳しく怒ってしまったのだろう。
宥められた側のジェイドは、口元に手を当ててはわはわと口を開け閉めしている。
その頬が、いや、顔全体が真っ赤になっていて、あれ? と思った。
何だかその顔は、まるでノアに見惚れていたお嬢さんたちのように――恋する乙女のように見えた。
「フェイ管理官!?」
ジェイドが黄色い声を上げた。
その嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな顔を見て、理解する。
そうか。ジェイドはフェイのことが好きなのか。
「きゃー!! い、いつも見てます!!」
「あ、ありがとう?」
ぽかんとした顔で気圧されたように返事をする前世の友人を見て、にやにやしてしまう。
ついにフェイにも春が来る、のかもしれない。
しばらくはわついていたジェイドが、やがてきゃーっと黄色い声で叫んだ。
「やだー!! アタシ夜勤明けでそのまま来ちゃった!!」
あまりの音量に、耳がキーンとなった。
マンドラゴラの鳴き声もかくやという大音量だ。
……ん?
マンドラゴラ?
「ちょ、ちょっとやだ、どうしよう! ねぇちょっとノア、メイク変じゃない!?」
「いつもおかしい」
「ぶっ飛ばすわよ」
ノアがジェイドに睨まれていた。
そんなことはいいから、あの、マンドラゴラ。
そう思って二人の会話に割って入ろうとするが、私が声を掛けるより先に、フェイの顔を見ていたジェイドがまた黄色い声を上げる。
「きゃあ、見た!? あの苦み走った横顔……はぁ、チャーミングだわ」
「ただのおっさんだろ」
「《攻撃》」
ノアがぶっ飛ばされた。
さすがに壁のように木っ端みじんにはならなかったので、ジェイドも手加減しているようだ。
……もしかしたら、ノアが防御魔法を使っただけかもしれないけど。
壁に背中を打ち付けて呻いているノアに、大慌てで駆け寄った。
「旦那さま、旦那さま!」
「ったた……何?」
「マンドラゴラ!」
「……あ」
私の指摘に、ノアが畑を振り向いた。
屋根が吹っ飛んで明るくなった部屋、吹きすさぶ隙間風、そしてこの大騒ぎ。
暗くてじめじめして、静かな場所を好むマンドラゴラには最悪の環境だ。
耳を澄ますと、かすかにマンドラゴラのぐずる声が聞こえ始めている。
実はマンドラゴラ、気に入らないことがあると引っこ抜かなくても泣くのだ。
このあたりも取り扱いが難しい所以である。
マンドラゴラの悲鳴を聞くと発狂して死ぬと言われているけれど、1匹くらいなら死に至ることはない。2、3日使い物にならなくなるだけだ。
けれど、この数の大合唱を聞いてしまったら――どうなるか。
「《雷雨》」
ノアが魔力で魔法陣を描いて、発動させる。
途端に空が暗雲に覆われ、ざあざあと雨が降り始めた。
ぐずっていたマンドラゴラたちに、一時的に平穏が訪れる。これでしばらくは大丈夫だろう。
天候を操る魔法は多くの要素の複合が必要になる上位魔法だ。
それを魔力で描いただけの、不安定なはずの魔法陣で成功させるとは――ノアの今後が楽しみになる。
「じゃあ、僕たち帰るから」
「え?」
「後始末、任せた」
「え??」
ノアが私を抱えて、転移の魔法を発動させた。
亜空間に飛び込む前に、心の中でジェイドに向かってサムズアップする。
後は若いお二人で、どうぞ頑張って。
11
あなたにおすすめの小説
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
『階段対策会議(※恋愛)――年上騎士団長の健康管理が過剰です』
星乃和花
恋愛
【完結済:全9話】
経理兼給仕のクラリスは、騎士団で働くただの事務員――のはずだった。
なのに、年上で情緒に欠ける騎士団長グラントにある日突然こう言われる。
「君は転倒する可能性がある。――健康管理対象にする」
階段対策会議、動線の変更、手をつなぐのは転倒防止、ストール支給は防寒対策。
全部合理的、全部正しい。……正しいはずなのに!
「頬が赤い。必要だ」
「君を、大事にしたい」
真顔で“強い言葉”を投下してくる団長に、乙女心を隠すクラリスの心拍数は業務超過。
さらに副団長ローレンは胃薬片手に「恋は会議にするな!!」と絶叫中!?
これは健康管理?それとも恋愛?
――答え合わせの前に、まず“階段(概念)“をご確認ください。
勘違いで嫁ぎましたが、相手が理想の筋肉でした!
エス
恋愛
「男性の魅力は筋肉ですわっ!!」
華奢な男がもてはやされるこの国で、そう豪語する侯爵令嬢テレーゼ。
縁談はことごとく破談し、兄アルベルトも王太子ユリウスも頭を抱えていた。
そんな折、騎士団長ヴォルフがユリウスの元に「若い女性を紹介してほしい」と相談に現れる。
よく見ればこの男──家柄よし、部下からの信頼厚し、そして何より、圧巻の筋肉!!
「この男しかいない!」とユリウスは即断し、テレーゼとの結婚話を進める。
ところがテレーゼが嫁いだ先で、当のヴォルフは、
「俺は……メイドを紹介してほしかったんだが!?」
と何やら焦っていて。
……まあ細かいことはいいでしょう。
なにせ、その腕、その太もも、その背中。
最高の筋肉ですもの! この結婚、全力で続行させていただきますわ!!
女性不慣れな不器用騎士団長 × 筋肉フェチ令嬢。
誤解から始まる、すれ違いだらけの新婚生活、いざスタート!
※他サイトに投稿したものを、改稿しています。
行き遅れのお節介令嬢、氷の公爵様と結婚したら三人娘の母になりました
鳥柄ささみ
恋愛
お節介焼きで困っている人を放っておけないシアは、数多のご令嬢達から人気の令嬢だ。毎日ファンレターが届き、社交界に出れば令嬢に取り囲まれるほどである。
けれど、それに反比例するように男性からの人気はなく、二十七だというのに嫁の貰い手もないため、毎日母から小言をもらっていた。
そんなある日のこと、突然公爵家から縁談の話が。
シアは公爵家がなぜ自分に縁談など持ち掛けるのかと訝しく思いつつ話を受けると、なんと公爵の後妻として三人の娘の母代わりになれと言われる。
困惑するも、自分へ縁談を持ちかけた理由を聞いて、お節介なシアは嫁ぐこと決めたのだった。
夫になるレオナルドはイケメンなのに無表情で高圧的。三人の娘も二女のアンナを除いて長女のセレナも三女のフィオナもとても反抗的。
そんな中でもお節介パワーを発揮して、前向きに奮闘するシアの物語。
※他投稿サイトにも掲載中
枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!
宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。
静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。
……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか?
枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと
忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称)
これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、
――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる