告白相手を間違えた令嬢に待っていたのは、暴君皇帝からの寵愛でした。

槙村まき

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8.青薔薇様

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 青薔薇様こと、フェリシアン様に助けられたのは、ある夜会でのことだった。

 とある家の夜会に足を運んだ私は、休憩のために中庭にいた。中庭には他にも人がいて、明かりもあったから危険はないように思えたのだけれど。

 そこに一人の男がやってきた。
 フラフラとした足取りで、顔が赤くなっていて、あきらかに酔っているとわかる姿。
 周囲にいた貴族は男と距離をとっていたが、私はつい逃げそびれてしまった。
 男はなぜか私に向かってきていて、後退る前に腕を取られた。

 貴族令嬢の腕を無断で触るなんて、品のない行為だ。
 私は突然のことで声が出なくて、悲鳴すら上げられなくて、すっかり委縮してしまっていた。

 それを助けてくれたのが、フェリシアン様だった。
 私を掴んだ男の腕を捻り上げると、酔った男は地面に倒れ込んだ。
 その眼前に剣の先を突きつけて、フェリシアン様は淡い青の瞳を男に向けて言った。

「嫌がる令嬢の腕を無理矢理掴むなんて、品性の欠片もない行為ですね」

 遅れてやってきた警備兵が男を捕らえて連行していく。
 それを見てほっとしながらも、私の身体の震えは止まらなかった。

「ご令嬢、大丈夫ですか?」

 気遣いの言葉とともに振り返ったフェリシアン様が、私の姿を見て眉を顰める。 

「……失礼」

 フェリシアン様は上着を脱ぐと、私の肩にそっとその上着を掛けてくれた。

「外は冷えます。中に入りましょう」

 あたたかいフェリシアン様の声音に私の身体の震えは自然と止まっていた。
 それまで私は、フェリシアン様のことを冷徹な人だと思っていた。冷たい瞳をしていて、周囲に群がる令嬢を気にかけることのない厳しい人なのだと。

 だけど酔っ払いから助けてくれた。それだけではなくこうして上着を貸してくれて――その温かさに、私は救われた。それから私は知らず知らずのうちに彼を目で追いかけることになった。

 そして、貴族令嬢の間でひっそりと流行っている、青薔薇様ファンクラブに加入しては、フェリシアン様の情報をこっそり集めたりしていた。
 青薔薇様ファンクラブには、フェリシアン様の家のことから趣味のこと、それから食の好みなどの情報があった。

 それらの情報を知れば知るほど嬉しくなって、夜会などで遠くから青薔薇様の姿を眺めるだけでも心が温かくなって、たまに挨拶をしたときに微笑んでくれたのが幸せで――。

 彼の瞳に自分が映ることはないと思っていた。きっと私の気持ちは知られることなく、たとえ告白してもあの冷たい瞳で見つめてくるだけで、受け取ってもらえないと。

 それなのに、知られていた。
 私がずっと見ていたことを、フェリシアン様に。

 それが嬉しくて、だけど少し複雑でもあった。
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