悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき

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第1章 入学と武術大会

第11話 大爆発

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 『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の武術大会は、今後ルートが解放される二人の攻略対象者のお披露目も兼ねたシナリオとなっていた。

 一人は、【アンぺルラの貴公子】。
 剣を振るうスチルと共に、優勝者として紹介されていた。

 もう一人は、【魔塔の問題児】。
 彼の場合、背を向けたスチルしかなかったけれど、その特徴的な派手な見た目により謎を深めたキャラでもある。

 そして問題なのが、その【魔塔の問題児】である彼が、魔術競技中に起こす事故。
 あることがきっかけで、競技場を爆破してしまうのだ。
 結界のおかげで人的被害は出なかったものの、競技場の地面が抉れるほど吹っ飛んでしまう。

(爆風に巻き込まれて吹っ飛びそうになっていたヒロインを、ルーカスがつい助けてしまうのよね)

 馬車に轢かれた猫を抱えて泣いているヒロインを見てから、ルーカスは知らずにヒロインを目で追ってしまっていた。だからつい身体が動いて、爆風に煽られたヒロインを抱きとめるのだ。
 これにより、徐々にルーカスとの仲が進展していくきっかけとなるが、同時にこの光景をたまたま見ていたリシェリアが激しい嫉妬を覚えるシーンでもある。悪役令嬢登場シーンだ。

(でも、今回は大丈夫よ。ルーカスルートは解放されていないはずだから。たぶん)

 あの馬車の事故から一カ月ほど経っているのだが、アリナと一緒にいるときほどルーカスの視線を強く感じている気がする。
 もしかしたらもうルーカスルートは解放されているのかもしれない。馬車の事故で対面した時、ルーカスはアリナに興味なさそうだったけれど、強制力的なものが働いているのなら可能性も……。

「いや、それならそれでいいじゃない……。だって、私は二人を応援するって……」
「どうしたの、リシェリア」

 ハッと口を抑える。思わず声に出してしまっていたようだ。
 一緒に弁当を食べていたアリナが、首を傾げてこちらを見ている。

「な、なんでもないわ」
「そんなことより、この後どうするの?」

 とりあえず食事を摂ることにしたリシェリアたちだったけれど、まだ悩んでいる途中だった。
 ゲームでは人的被害はなかったからこのまま観戦席で昼食の後に行われる魔術部門の戦いを眺めていたい気持ちもあるけれど、それでも爆風に煽られると怪我を負う可能性もある。

「……でも、できれば姿だけでも確認しておきたいし……」
「わかる。でも、危険なことには変わりないから」
「そうよね。……うーん」
「リシェリア」

 二人でうーんと悩んでいると、突然背後から声がかかった。 
 飛び上がりそうになる気持ちを抑えて恐るおそる振り返ると、ルーカスが立っていた。

「リシェリア」
「……は、はい。ルーカス様」
「隣、座ってもいい?」

 周囲の視線が突き刺さってくる。ここで断ったら、さすがに婚約者として体面がない。

「ど、どうぞ」
「……ありがとう」

 もうすでに食べ終えていた弁当を片付けると、助けを求めるようにアリナを見る。

「はぁ……これは、尊い気配……!」

 彼女は目をキラキラとさせながらリシェリアとルーカスを交互に見て何かブツブツ呟いていて、とてもじゃないけれど助けてもらえそうな雰囲気ではなかった。
 右からの視線が痛い。そっと横を見ると、エメラルドの瞳が穴が開くんじゃないかってほどリシェリアを見つめている。

 右には王太子。左にはヒロイン。
 完全に逃げ道は塞がれていた。


 そのまま、午後の魔術部門の時間がやってきた。
 剣術部門と違って、魔術部門は対人戦ではない。
 一回戦目は、遠くにある大きな的に向かって攻撃魔法を放ち、的に表示される点数によって決まる。一回戦目はあくまで威力を見るためのものだ。
 そして二回戦目は、競技場に放たれた疑似モンスターを倒すことになる。一番多くのモンスターを倒した者が勝者となるが、魔術部門で見られるのは魔法の威力のほかには、使える魔法の種類なども挙げられる。最終的な優勝者は、魔法の専門家である魔塔の魔術師たちにより点数が付けられて、勝敗が決することになる。

 魔術部門も学年ごとに進んで行き、一年生部門は滞りなく終わった。
 次はとうとう、四人目の攻略対象者が所属する二年生の番だ。

 一回戦目は何事もなく終了したが、問題は二回戦目。
 会場内に悲鳴が漏れる。こうなることを予想していたリシェリアやアリナも、顔面を蒼白にしていた。

 一年生の時とは違って、モンスターの数が多い。それは二年生の方が参加人数が多いから当然なのかもしれないけれど、問題はそのモンスターがある一点に向かって猛進し始めたことだ。
 そこに立っている、四人目の攻略対象者に向けて。

「あ?」

 低い低音ボイスと共に、モンスターが燃え上がる。

「くだらねぇ、真似しやがって」

 炎の中から出てきたのは、長身の男だった。右側が緑、左が赤のツートンカラーの鳥の尾羽に似た変わった髪形をした生徒だ。派手な身なりをしていて、遠くから見ても彼の存在は目立つだろう。
 今回の魔物の猛進は、この攻略対象者に向けた作為的なものだった。

 ケツァールという変わった名前を名乗る、【魔塔の問題児】。
 彼は怒りを露わにすると、観覧席に向かった。魔塔の魔術師たちがいるところだ。

(くるっ)

 そして起こる大爆発。ケツァールが、魔塔の魔術師たちがいる観覧席に向かって、攻撃魔法を仕掛けたのだろう。それも超強力な。
 距離が離れているのに、爆風が観覧席までやってきた。
 吹き飛ばされないように風魔法でガードしようとしたら、うまくいかずに体が後ろに傾きそうになった。
 
 観覧席の座席に背もたれはない。このままだと、後ろの座席や地面に頭をぶつけてしまうかもしれない。
 そう思ってギュッと目を閉じたのだが、予想していた衝撃はやってこなかった。

 引き寄せられる感覚と共に、頭が何か柔らかいもので覆われる。

(もしかして、アリナ? いや、まさかね)

 爆風が静まったことを確認して目を開くと、壁のようなもので視界が塞がれていた。恐るおそる顔を上げると、エメラルドの瞳と視線が合う。

「あ」

 リシェリアは、ルーカスの腕の中にいた。
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