悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき

文字の大きさ
41 / 72
第4章 芸術祭・本番編

第41話 隠れキャラ

しおりを挟む

 『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』には四人の攻略対象のほかに、隠れキャラがひとりいる。
 隠れキャラのルートは解放率が0.5パーセントと言われていて、リシェリアはこのルートの存在すら覚えていなかった。

「……隠れキャラなんていたのね」

 リシェリアの反応を見たアリナが盛大にため息を吐く。

「これでわかったよー。リシェリアが時戻り前に、操られていた理由が」
「操られていたの?」

 だから先ほど会った時に、「まともなリシェリアだ」と言ってきたのだろうか。

「うん。操られて、変なこと言っていたの。なんかゲームのリシェリアみたいに」

 どうして操られていたのかはわからなかったけれど、ゲームのリシェリアという言葉に嫌な光景が脳裏を過ぎる。
 悪役令嬢のリシェリアは、ゲームでは処刑されて晒し首にまでなっていた。スチルはなく文章のみで描写されていたけれど、見たことのないはずのその光景を思い浮かべてしまう。

「――時戻り前に、私を操っていたのがその隠れキャラなの?」
「うん、そうだよ。隠れキャラのダミアン先生」

 ダミアン・ホーリー。
 二学期の途中から赴任してくる養護教諭で、魔塔の魔術師の一人らしい。

「ダミアン先生はね、なんていうか、とても可哀想な人なんだよね」
「可哀想?」
「そうだよー。ダミアン先生は双子なんだけど、双子の姉にいいように使われている不憫なキャラ、っていうのが印象だったかな。といっても、私も二回ぐらいしか隠れキャラルートはプレイしていないから、なんとなくしか憶えてないんだけど」

 そもそも隠れキャラルートが解放されるのは、早くても芸術祭の後らしい。それも、ルートを解放するにはそれまで選択権を一度も間違えずに、【時戻り】の魔法をある特定の回数使っている必要がある。

「回数が何回かは忘れたよー。確か確率も関係していたはずだし。……それに、ルートが解放されても選択権を間違えると即バッドエンドだった記憶があるし」
「即バッドエンド。難しいルートなのね」
「そうだよぉ~。攻略サイトにも情報があまり乗ってなかったから、なんとか二回目で表エンドに導いたけど、大変だったんだから」
「それでも二回でクリアできるなんて、すごいわ」
「それほどでもー。……って、そうじゃなくって、重要なのがまだ一回しか【時戻り】を使ってないときに現れたということ! さすがに一回はないと思ったんだけどねぇ」

 アリナがダミアンの姿を見かけたのは、二週目の時だったらしい。それもリシェリアを操っていたそうだ。

「どうして現れたのかはわからないけど、やっぱりここがただのゲームの世界じゃないってことなのかな」
「……そうね」

 リシェリアをはじめ、ゲームとは違う行動をしているキャラが多くいるいま、もう原作通りのストーリーなんて存在していないのかもしれない。
 この世界の人間はゲームのキャラではなく生きている人間で、隠れキャラのダミアンも攻略とは関係なく登場しただけなのかも。

「……それにしても、人を操る魔法を使えるのは厄介ね」
「ああ、それなら対処のしようはあるよ。ダミアン先生の目を見なければいいだけだから」
「目を?」
「うん。目を見なければたいていの人はどうにかなるよー。操るって言っても洗脳だから、一瞬ですぐ相手を従えることはできないんだよ」

 その洗脳は誰にでも効果があるものではないらしい。
 ケツァールみたいに魔法に耐性のあるキャラや、ルーカスやヴィクトルみたいに光属性の魔法を持っている人にはほとんど効果がない。

「あと、洗脳は闇属性魔法だから、同じ闇属性である私にも効果はないし」

 アリナの使う【時戻り】――時間を戻す魔法は、自然の摂理に反した魔法だ。
 使うことにより、副作用で精神的に病んでしまうため、闇属性に分類されていることはゲームのストーリーでも説明されていた。

「でも、リシェリアは駄目だよ、洗脳が効きやすいから。ゲームでもそれで操られて、いろんな悪事に手を染めたって、隠れキャラルートで説明されていたし」
「え、悪役令嬢の悪事はダミアン先生のせいなの!?」
「うん、そうらしいよ。まあ、本人の性質も相成っていたらしいけど」
「そう、だったんだ」

 転生してきて衝撃的なことを聞いてしまった。

(あ、でも、ダミアンが登場したのが芸術祭の後だとすると、それまでの行いは悪役令嬢リシェリア自身がが起こしたことなのよね)

 アリナからこの話を聞いて、腑に落ちたことがある。

 少し疑問があったのだ。いくら婚約破棄されたからといって、公爵令嬢の矜持を備えていたはずのリシェリアが、多くの人の前で取り乱してナイフを持ち出したことに。
 自分を裏切った婚約者や、その婚約者と親しくしていた主人公に妬ましい思いがあったのはわからなくもない。だけどいくら何でもあんな場所で王子を殺そうとしたら、捕らえられて罪が裁かれるのは目に見えている。

(洗脳、怖いわね。……ダミアン先生、注意しなくちゃ)

「洗脳の影響を受けやすいキャラといえば、シオンもそうだよ。いくら強い力を持っていても、精神的に弱いと洗脳は早く良く効くらしいから」
「……じゃあ、時戻り前にアリナを襲おうとしたのも、もしかして」
「たぶん、ダミアン先生のせいなんじゃないかな」

 芸術祭一日目の一週間前――昨日のことだ。
 シオンはクラリッサのお見舞いに保健室に行くと言っていたらしい。だからそこで洗脳を受けた可能性があるとアリナは語った。

「――まあ、ダミアン先生も可哀想なキャラなんだけどね」
「それは、どうして?」
「だって、ダミアン先生自体も洗脳を受けているから。双子の姉からね」
「そうなの!?」

 なんだかややこしい話になってきた。

「まあ、これはおいおい話すとして、とりあえずリシェリアは、絶対に保健室に行かないでね」
「わかったわ」
「なにがあってもだよ」
「絶対に行かないわ」

 念押ししてくるアリナに、リシェリアはこぶしを握ると深く頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

悪役令嬢になったようなので、婚約者の為に身を引きます!!!

夕香里
恋愛
王子に婚約破棄され牢屋行き。 挙句の果てには獄中死になることを思い出した悪役令嬢のアタナシアは、家族と王子のために自分の心に蓋をして身を引くことにした。 だが、アタナシアに甦った記憶と少しずつ違う部分が出始めて……? 酷い結末を迎えるくらいなら自分から身を引こうと決めたアタナシアと王子の話。 ※小説家になろうでも投稿しています

転生したら悪役令嬢だった婚約者様の溺愛に気づいたようですが、実は私も無関心でした

ハリネズミの肉球
恋愛
気づけば私は、“悪役令嬢”として断罪寸前――しかも、乙女ゲームのクライマックス目前!? 容赦ないヒロインと取り巻きたちに追いつめられ、開き直った私はこう言い放った。 「……まぁ、別に婚約者様にも未練ないし?」 ところが。 ずっと私に冷たかった“婚約者様”こと第一王子アレクシスが、まさかの豹変。 無関心だったはずの彼が、なぜか私にだけやたらと優しい。甘い。距離が近い……って、え、なにこれ、溺愛モード突入!?今さらどういうつもり!? でも、よく考えたら―― 私だって最初からアレクシスに興味なんてなかったんですけど?(ほんとに) お互いに「どうでもいい」と思っていたはずの関係が、“転生”という非常識な出来事をきっかけに、静かに、でも確実に動き始める。 これは、すれ違いと誤解の果てに生まれる、ちょっとズレたふたりの再恋(?)物語。 じれじれで不器用な“無自覚すれ違いラブ”、ここに開幕――! 本作は、アルファポリス様、小説家になろう様、カクヨム様にて掲載させていただいております。 アイデア提供者:ゆう(YuFidi) URL:https://note.com/yufidi88/n/n8caa44812464

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...