いろはにほへと ちりになれ!

藤丸セブン

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五十六限目 お酒はハタチになってから

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「・・・・・どうして・・・」
 物語開始早々、誰にも聞こえないくらい小さな声で智奈は己の置かれた状況を小さく嘆いた。今智奈がいるのは小さな居酒屋である。いや、それはいい。それは別に問題でも何でもない。問題なのは。
「久しぶりだな竜斎。息災だったか?」
「うむ、障も変わらずで何よりだ」
「きゃー!久しぶりなのよ桃ちゃーん!」
「お、お久しぶりです愛さん。あ、はは」
 (なんでうちは教え子の親御さん達とお酒を飲んでいるのだわーーーー!!!!?)
 
 <五十六限目 お酒はハタチになってから>
 
 時は遡り数日前。
「忘年会しようぜ」
 もうすぐ冬休みに突入しようという一日の終わりにいろははそう提案してきた。
「む、構わないけど、忘年会って何する会?」
「一年の終わりに嫌な事を忘れて楽しもう、という会。ですかね?」
 いつものメンバーでその様な話をしているのを智奈は片付けをしながら聞いていた。
「忘年会って言ったら酒だろ!酒飲もうぜ!!」
「いろは、アルコールは大人になったら飲むものだ。我らにはまだ早い」
「ちぇっ!あ!じゃあ酒飲める人呼んで忘年会しようぜ!な!ちっちゃん!ぬっちゃん!」
 突然の提案に智奈は驚き、ぬらはゆっくりと振り返った。
「何それ!?まあ、別に暇なら構わないけれど」
「お~。行く行く~。行かなければならない~。イカだけに~」
「じゃあ決まりな!予定決まったら伝えっからな!!」
 そんな様な事を言われて、確かに智奈は承諾した。承諾したが。
 (生徒の親御さんが来るなんて聞いてないのだわ!!!それに石森さん達いないし!!!)
 そして時は戻り現在。居酒屋にいるのは日華の両親の障と桃。舳螺の両親の竜斎と愛。そして智奈とぬらである。大人しかいない為居酒屋での忘年会となった。ちなみにいろは達はいろは達で忘年会をやっている。出来ればそちらに混ぜて欲しかった。だって生徒の親となんて心が一切休まらない。忘年会で嫌な事が増えるなんて事象あってはならない事だろう。
「あの、大丈夫ですか?」
「はいいいいいいいごめんなさいぃぃぃぃ!!」
 突然声をかけられた事で智奈は大声をあげてスライディング土下座をした。
「あらあら、大丈夫よ。別に取って食べる訳じゃないのよ」
 土下座の体制から恐る恐る顔を上げるとそこには桃が心配そうに、愛がニコニコと笑いながら智奈を見ていた。
「えっと、初めましてですよね?日華の母の桃です。いつも娘がお世話になってます」
「舳螺ちゃんのママの愛でーす!いつも舳螺ちゃんと遊んであげてくれてありがとね!」
「ととととんでもございません!!日華さんはいつも明るくクラスのムードメーカーで!舳螺さんは溢れるリーダーシップでいつものっちが助けられてると言いますか!!?」
「お~。三者面談みたい~」
 慌てて目を回しながら自分でも何を言っているのか分からない言葉の群れを放出するとぬらの笑い声が聞こえた。
「ハハハ!温水先生、どうですもう一杯?」
「いやぁ~。すみませんね~」
「ふむ、中々の飲みっぷりだ。うちの若い者にも見習わせたいものだ」
 智奈はこんなにカチコチになっているというのにぬらは持ち前のコミュ力で既に二名の父親に気に入られている様だ。
「なんか、すみません」
「いやいや!私こそなんかごめんなさい。萎縮しちゃってるのが見えたから話しかけたけど、逆効果になっちゃったね!?」
「何も怖がる事なんてないのよー!妾達は別に先生だから、みたいな事は気にしないし!」
「妾!!?」
 明るく智奈を励まそうとした愛の一人称に智奈が驚く。そこで、最悪な事に気づいてしまった。舳螺の母親、という事は。組のトップだという事。
「あばばばばばばばばばば!!」
「何事!?」
「あらあら!?怖くない、怖くないのよー?」
 震える智奈に動揺する桃を他所に愛は子供を慰める様に優しく微笑みかける。何でこんな優しそうな人が組の妻なんてやっているのだろうか。それが分からなさ過ぎて恐ろしい。
「何だと!?もう一度言ってみるといい!!」
 そんな事を思っていたら、智奈の恐怖を加速させる様に竜斎の大声が響いた。
「ふっ、大声で怒鳴ったとて、俺の意見は変わらない」
「何!?喧嘩!?」
 声のした方を見ると竜斎と障がいい争いをしている様だった。まずい、組の物と喧嘩なんて、命の危機だ。一体どんな事を言えばあそこまで怒られるのか。それは。
「世界で一番可愛いのは我が妻だ!断じて貴様の妻ではない!」
「いいや。世界一可愛いのは俺の桃だ。愛さんではない」
「理由がしょうもない!!」
 どちらの妻が可愛いかという論争だった。そんな論争に桃が鋭いツッコミを入れる。
「お~。今の日華さんっぽかったです~。やっぱり親子なんですね~」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?障さん!落ち着いて!そしてさっきの言葉を撤回して!」
「断じて撤回はしない。桃が世界で一番可愛い」
「もうやだぁ!」
 面と向かい合ってそんなストレートを投げられた桃は全身を真っ赤にして蹲る。カオスが極まっている。
「我が妻が一番だ」
「桃こそが一番だ」
 二人とも酔っ払っている様子は微塵もなく、至って普通の表情でどちらも一歩も譲らない。
「こら!いい加減にしないとメッ!よ?」
 その喧嘩を愛が可愛らしい仕草で止めに入った。その胸部は何も可愛らしく無いというのに。これがギャップ。
「何はともあれこれで落ち着く」
「妾より桃ちゃんの方が可愛いのよ!!」
 争いは止まらなかった。
「どうだ!!肝心の愛さん本人が桃の方が可愛いと言っている!!この勝負は俺の勝ちの様だな!!」
「まだ分からん!!桃!貴様は我が愛より可愛いと思うのか!?」
「思う訳ないでしょう!!?愛さんの方が断然可愛いですって!!!」
 どこまで赤くなるのか、真っ赤な顔を更に赤くしながら桃が叫ぶ。この赤さはアルコールによるものか、それとも羞恥心によるものか。
「お~。ぬらは桃さんに清きいっぴょ~お」
「うーん😅おじさんは愛ちゃんの方が好きカナ⁉️😄勿論桃ちゃんもとっても魅力的だヨ‼️😘」
 これにて投票数は三対三。互角の戦いとなってきた。
「今の誰なのだわ!!?」
「おじさんの事よりサ🎵智奈チャンはどっちの方が可愛いと思うのカナ⁉️😘」
 いつの間にか隣に座っていた謎の人物の言葉が終わると一同の視線が智奈へと集まる。そう、ここにいるメンバーは七人。残る投票券を持っているのは智奈のみである。
「勿論桃だろう?」
「当然我が愛であろう?」
 静かなる笑顔から溢れる威圧感。そしてシンプルに殺意の様な寒気。
「桃ちゃんなのよー!」
「愛さんですよね!?」
 この状況を楽しんでいる様にしか見えないし聞こえない甘ぁい声。羞恥心に耐えながらも今更引き返せないとヤケを起こした必死な声。
「お~。正直二人とも可愛い~」
「分かるヨー❗️二人ともとっても可愛くておじさん目移りしちゃうナ❗️おっと😅お二人ともおじさんを殺そうとしないで欲しいナ‼️お二人の女神様には手なんて出せませんッテ‼️」
 流れに任せて投票したものの二人程必死さは無い声。しかし状況は変わらない。智奈の選択でどちらが可愛いかが決まる。こんな責任重大な事はない。
「人の好みは人それぞれですし!!どっちがより可愛いかなんて人それぞれですよ!!?」
「分かってる。だから千葉先生に意見を聞いている」
「それは我も承知している。故に千葉先生に意見を聞いているのだ」
 逃げられなかった。
「さあ」
「さあ」
「ほーら!」
「お願い!」
「お~。選択の時~」
「ワクワク‼️」
 プレッシャーしか感じられないこの選択を。智奈は。
「むむむむむむむむむむむむむむむむむむむむむ無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理!!!お二人とも可愛らしくて美しくて魅力的なのだわーーーーー!!!!」
 智奈は全力で逃げた。
 
 
 後日、智奈の家には二人からのお詫びの品として高級フルーツの詰め合わせが届き、智奈は更に障と竜斎に恐怖を感じたそうだ。
 
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