いろはにほへと ちりになれ!

藤丸セブン

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八限目 ココロを探せ

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 道徳 社会生活を営む上で、ひとりひとりが守るべき行為の規準(の総体)。自分の良心によって、善を行い悪を行わないこと。
「道徳の授業ってよく眠れるよな?」
 
 <八限目 ココロを探せ>

「お願い!ココロを探して欲しいの!」
 時は放課後。場所はいつもの教室。だがいつもとは違う箇所が一点。そこに存在する女子生徒は四人だったのだ。
「えっと、ひとまず顔を上げてください。新田日華さん」
 六花がいつもいる三人以外の女子、新田日華(にったにちか)に話しかけた。日華は三人のクラスメイトで普段から一緒にいる訳ではないがそこそこ仲の良い友である。リコーダーのテストの時もいろはの演奏に黄色い声援を送ってくれていた。
「で、今回は何だ?私達補習部は補習以外の活動は行わないぜ」
「む。我々に依頼があるなら何か勉強に繋げた依頼でなければならない!」
「何を言っているのですかあなた達は」
 放課後に勉強をしているのは確かだが、遊びに出かける事も多々ある。更に言えばまず勉強すら真面目にやっているかどうかすら怪しいというのに。
「それなら大丈夫!しっかり考えてきたから!」
 日華は明るい表情を浮かべて大きな紙を見せた。
「ずばり!今回は道徳の授業!困っている友人がいたら君達はどうするかな!?」
 言っている内にテンションが上がったのか声のボリュームを上げながら日華が叫んだ。
「おお!道徳の補習か!それなら私達の活動方針に合うな!」
「む!見事な補習」
「というか別に頼み事くらい普通に聞くのですが。わざわざ補習に絡みつけなくても」
 妙にテンションの高い三人を見ながら六花が頭を抱える。そう、新田日華という女はどちらかと言えばボケ担当。普段ボケ担当を二人担当している六花とて三人目が来てもなおツッコミきれるかは自信がない。
「で、私達は何をすれば良いんだ?」
「うん!ココロを探して欲しいの!」
「む、分かった」
「分かってたまるものですか!?何ですが心を探すって!!あなたは機械か何かですか!?」
 日華の予想外過ぎる言葉をサラリと受け流す二人に流石に六花が突っ込んだ。
「機械?ココロは猫だけど?」
 日華の言葉に六華が黙ったまま固まった。
「・・・ね、こ?」
「そう!うちの愛猫の新田ココロ!白くてもふもふで可愛いんだぁぁ」
「ね、こですか。そうですか」
 嬉しそうに猫のココロの写真を見せてくる日華。そんな日華を他所に六花は何もない所を見つめていた。
「恥ずかしがるなよぉ」
「別に恥ずかしがっていません!」
「む、真っ赤」
「そんなに赤くありません!」
 照れる六花を揶揄う二人を見て日華が笑う。その笑い声が一層六花を惨めにしてくる。
「こほん!それでわたくし達への依頼は猫探し、という訳ですか」
「そうなの。ココロが凄く心配で。うちのお父さんなんかは待ってれば直ぐに帰ってくるみたいな適当な事しか言わないし。私達が探してあげなくっちゃ!」
 日華の瞳には闘志の炎が燃え上がっていた。こういう覚悟の決まった人には説得などをしても上手くいかないケースが多い。何より。
「うぉぉ!にっちゃんの熱い想い!伝わったぜ!!任せろ!私達が必ず心を掬い出して見せるぜ!」
「む!誤字は凄いけどいーの言う通り。実は私は猫に好かれやすい体質。全霊を持ってココロを探し出す」
 いろはと波瑠はこういったシチュエーションに弱く、感情に流されやすい。故に六花はほば確実に猫探しを手伝う羽目になるのだ。
「仕方がありません。実際クラスメイトが困っているのですから、手を差し伸べるのは普通の事です」
「六花は固いなぁ。そこはクラスメイトじゃなくて友達って言うべき所じゃない?」
「と、友達、ですか」
 六花に擦り寄り肩を抱いてきた日華に六花は少し動揺を見せた。何を隠そう六花には友達が少ない。これはそういうタイトルのラノベだが実はかなり友達が多いとかそう言うものではなく、本当に友達が少ない。故に六花は二人以外を友達と呼ぶことに慣れていなかった。
「確かにあんまり話した事無かったけど、私といろは、波瑠は友達なんだ。なら、いろはと波瑠の六花は私の友達って事にならない?」
「友達の友達は友達理論ですか?わたくしは友達の友達は友達の友達だと思いますがね。例えば友達と友達と友達と出かけたとして、友達が席を外したらどうなります?気まずい空気が流れます!故に友達の友達は友達ではなく友達の友達なんです!」
 早口に自分の理論を捲し立てた六花は暫く黙ったのち後悔した。自分がどう思っていようが、新田日華という少女は友達の友達は友達であると信じていたのだ。それを真っ向から否定したのは良い反応とは言えない。しかも六花にとってはただのクラスメイトである日華に。それは二人の間に大きな亀裂を生み、
「かったぁぁぁい」
「へ?」
 出す事は無かった。
「確かに今のは私の言い分。でもね?友達の友達は知り合ったばかり!つまりこれから幾らでも話せて、友達になれる訳!どうせいつか友達になるんだよ!なら、もういっそ出会った時から友達で良くない?友達の定義なんて曖昧なもの、捨てた方が楽だって!」
 六花は唖然とした。目の前で自分の言い分を真っ向から否定されたのに、日華は笑って自分の意見を押し通してきた。それも無茶苦茶な理屈で。その姿はまるで。
 <六花って言うのか!ならろっちゃんだな!行こうぜ!私達は今日から親友だ!>
 日華の言動は、とある日のとある少女を思い起こさせた。
「友達の友達が友達で友達が友達?友達の友達は友達の友達だけど、友達は友達だから友達?」
「む、いーは深く考えなくていい。ココロを探すよ」
「おう!」
「・・・少し感慨に耽っていたわたくしが馬鹿みたいです。そうでした、いーさんはこういう人でしたね」
 日華の考え方はどこかいろはに似ている。似過ぎているといってもいい。だが、そんな事は正直どうでも良い事だ。今やるべき事は猫探し。やると決まれば即座に行動が良いだろう。
「さて、ではココロを探しに行きますよ。と、友達として、困っている友達は見捨てられない、ので」
「・・・うん!」
 少し頬を染めながら呟いた六花に日華が満面の笑みで答える。こうして一同のココロ探しは開始されたのだった。
  ◇
 一同はあらゆる場所を隈なく探し回った。公園、路地裏、駐車場、魚屋の近く、商店街、墓地、図書館、動物園、水族館、知らないお爺さんの家、知らないお婆さんの家。しかし幾ら探してもココロは見つからなかった」
「嘘つかないで下さい。後半の場所は探してないでしょう?」
「いやぁ、一回ナレーションしてみたかったんだよな」
 大きく口を開けて笑ういろはに六花がため息をつく。現在の時刻は六時。もうそろそろ辺りが完全に暗くなり、女の子が外を出歩くには危険な時間となる。未だにココロは見つけられていないが、そろそろ帰宅せねばならないだろう。
「申し訳ありません。せっかくわたくし達を頼って下さったのに、お役に立てなくて」
「いやいや、気にしなくていいって!寧ろ探してくれてありがとね!そうだ!直ぐ近くに私の家があるからジュースでも飲んでってよ!ココロを探してくれたお礼も兼ねて!」
 日華は普段と変わらない様子で話すが、どことなく悲しそうな雰囲気を感じる。
「お、まじかやったぜ!」
「む、スポドリ希望」
 が、いろはと波瑠はそんな日華を気にも留めずに新田家へ歩みを進めていく。
「全くあなた達は」
 呆れながらもせっかくの日華の心遣いを無駄にするのも良くないと思った六花は二人に続いて新田家へ行った。
「たっだいまぁ!」
「おっじゃましまーす!」
「おかえり。そしていらっしゃい」
 玄関を開けて元気に挨拶する二人。そんな二人を出迎えたのは年若い男性だった。
「「「なっ!」」」
 その光景に一同が驚く。新田家の家族構成は父、母、日華、ココロのみだと聞いていたのに年若い男性がいる。つまりこの人が日華の父という事になるが、この人物が一児の父というにはあまりに若く見える為か。
「ココローー!!?」
 否。四人を出迎えた新田父の両腕には気持ち良さそうに眠る白いもふもふ、つまるところ新田ココロがいたのである。
「わざわざ探していたのか?だから言っただろう?直ぐに帰ってくると」
 こうして本日の補習は終わりを迎えた。大変な思いをしたものの結果はハッピーエンドだったので、本日の追試なしである。
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