婚約破棄令嬢、不敵に笑いながら敬愛する伯爵の元へ

あめり

文字の大きさ
30 / 52

30話 人助け その2

しおりを挟む

 タイネーブからの質問は、ある意味では残酷なものだった。ゲシュタルト王国の圧政、民衆をそれから救う為とはいえ、アイリーンの出身であるヴァルハーツ家を打倒する可能性を聞かれているのだから。

「……」

 ゲームの通りストーリーが進めば、彼女の親は死亡することはない。ただし、責任を負わされ全てを失うに等しい末路となっている。アイリーン自身はその中で死亡する場合が多かったりするが。

 アイリーンは非常に返答に困っている……隣に座るミランダは彼女の心を汲み取っていた。しかし……


「いいわよ、そんな覚悟はとっくに出来てたし」


「へえ……すごいんやなぁ……」


 アイリーンはいつもの元気な笑顔でそう言った。タイネーブもあまりに屈託なく話す彼女に少し驚いていたが、それ程の覚悟があるのだろうと理解する。

 実際は、アイリーン自身がこういう事態を想定していたことが決め手にはなっているが。

 アイリーンはヴァルハーツ家に幼少の頃より住んでいるが、その時の記憶は当然ない。転生しているのだから当たり前だが、そのために親に対する気持ちも非常に薄かったのだ。

 そうでなくては、自ら追放されるように仕向けるなど行うはずはなかった。


「アイリーン殿は本当に素晴らしいですね……今後も見て行きたいといいましょうか」

「アルガス伯爵……こういうところで、そういう発言は不味いでしょ?」

「ははは、これは失礼」


 唐突に現れた二人の惚気の空気。前方に座っているタイネーブや、他の冒険者はなんとも言えない表情をしていた。


「あのさ~、そういう惚気は良いと思うんやけど、本題に戻ってもいい?」

「あ、失礼。では、戻りましょうか」


 タイネーブの発言を受け、アルガスはすぐに素の状態に戻った。アイリーンも同じく。


「とりあえず、今のところは気前の良い返事をいただけそうと思っててもいいかな?」

「そうですね。女王陛下含め、あなた方の提案を断るとは考えづらいので……確約ではありませんが、ご期待に添えると考えていただければと思いますよ」


「ホンマに安心したわ。私達だけやと、どうしても不安が残るからな」


 タイネーブは聡明な判断力を有している。たかが冒険者が警察紛いのことをしても、国家に与える影響は少ないのだ。民衆を救う上では役に立つが、その後の改革にはつながらない場合も多い。

 それをアルガス伯爵含むアランドロ女王国を巻き込むことで、大きな改革を断行しようと考えていた。


「ありがとう、アルガス伯爵。改めてお礼を」

「ええ、まだ私は何もしていませんが」


 二人は立ち上がると、誓いの握手を交わす。今後ゲシュタルト王国が、衰退の一途を辿ることは確定的となった瞬間であった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の名誉を挽回いたします!

みすずメイリン
恋愛
 いじめと家庭崩壊に屈して自ら命を経ってしまったけれど、なんとノーブル・プリンセスという選択式の女性向けノベルゲームの中の悪役令嬢リリアンナとして、転生してしまった主人公。  同時に、ノーブル・プリンセスという女性向けノベルゲームの主人公のルイーゼに転生した女の子はまるで女王のようで……?  悪役令嬢リリアンナとして転生してしまった主人公は悪役令嬢を脱却できるのか?!  そして、転生してしまったリリアンナを自分の新たな人生として幸せを掴み取れるのだろうか?

結婚した次の日に同盟国の人質にされました!

だるま 
恋愛
公爵令嬢のジル・フォン・シュタウフェンベルクは自国の大公と結婚式を上げ、正妃として迎えられる。 しかしその結婚は罠で、式の次の日に同盟国に人質として差し出される事になってしまった。 ジルを追い払った後、女遊びを楽しむ大公の様子を伝え聞き、屈辱に耐える彼女の身にさらなる災厄が降りかかる。 同盟国ブラウベルクが、大公との離縁と、サイコパス気味のブラウベルク皇子との再婚を求めてきたのだ。 ジルは拒絶しつつも、彼がただの性格地雷ではないと気づき、交流を深めていく。 小説家になろう実績 2019/3/17 異世界恋愛 日間ランキング6位になりました。 2019/3/17 総合     日間ランキング26位になりました。皆様本当にありがとうございます。 本作の無断転載・加工は固く禁じております。 Reproduction is prohibited. 禁止私自轉載、加工 복제 금지.

婚約破棄までの168時間 悪役令嬢は断罪を回避したいだけなのに、無関心王子が突然溺愛してきて困惑しています

みゅー
恋愛
アレクサンドラ・デュカス公爵令嬢は舞踏会で、ある男爵令嬢から突然『悪役令嬢』として断罪されてしまう。 そして身に覚えのない罪を着せられ、婚約者である王太子殿下には婚約の破棄を言い渡された。 それでもアレクサンドラは、いつか無実を証明できる日が来ると信じて屈辱に耐えていた。 だが、無情にもそれを証明するまもなく男爵令嬢の手にかかり最悪の最期を迎えることになった。 ところが目覚めると自室のベッドの上におり、断罪されたはずの舞踏会から1週間前に戻っていた。 アレクサンドラにとって断罪される日まではたったの一週間しか残されていない。   こうして、その一週間でアレクサンドラは自身の身の潔白を証明するため奮闘することになるのだが……。 甘めな話になるのは20話以降です。

【完結】優雅に踊ってくださいまし

きつね
恋愛
とある国のとある夜会で起きた事件。 この国の王子ジルベルトは、大切な夜会で長年の婚約者クリスティーナに婚約の破棄を叫んだ。傍らに愛らしい少女シエナを置いて…。 完璧令嬢として多くの子息と令嬢に慕われてきたクリスティーナ。周囲はクリスティーナが泣き崩れるのでは無いかと心配した。 が、そんな心配はどこ吹く風。クリスティーナは淑女の仮面を脱ぎ捨て、全力の反撃をする事にした。 -ーさぁ、わたくしを楽しませて下さいな。 #よくある婚約破棄のよくある話。ただし御令嬢はめっちゃ喋ります。言いたい放題です。1話目はほぼ説明回。 #鬱展開が無いため、過激さはありません。 #ひたすら主人公(と周囲)が楽しみながら仕返しするお話です。きっつーいのをお求めの方には合わないかも知れません。

悪役令嬢の逆襲

すけさん
恋愛
断罪される1年前に前世の記憶が甦る! 前世は三十代の子持ちのおばちゃんだった。 素行は悪かった悪役令嬢は、急におばちゃんチックな思想が芽生え恋に友情に新たな一面を見せ始めた事で、断罪を回避するべく奮闘する!

【完結】婚約破棄された令嬢の毒はいかがでしょうか

まさかの
恋愛
皇太子の未来の王妃だったカナリアは突如として、父親の罪によって婚約破棄をされてしまった。 己の命が助かる方法は、友好国の悪評のある第二王子と婚約すること。 カナリアはその提案をのんだが、最初の夜会で毒を盛られてしまった。 誰も味方がいない状況で心がすり減っていくが、婚約者のシリウスだけは他の者たちとは違った。 ある時、シリウスの悪評の原因に気付いたカナリアの手でシリウスは穏やかな性格を取り戻したのだった。 シリウスはカナリアへ愛を囁き、カナリアもまた少しずつ彼の愛を受け入れていく。 そんな時に、義姉のヒルダがカナリアへ多くの嫌がらせを行い、女の戦いが始まる。 嫁いできただけの女と甘く見ている者たちに分からせよう。 カナリア・ノートメアシュトラーセがどんな女かを──。 小説家になろう、エブリスタ、アルファポリス、カクヨムで投稿しています。

「僕が望んだのは、あなたではありません」と婚約破棄をされたのに、どうしてそんなに大切にするのでしょう。【短編集】

長岡更紗
恋愛
異世界恋愛短編詰め合わせです。 気になったものだけでもおつまみください! 『君を買いたいと言われましたが、私は売り物ではありません』 『悪役令嬢は、友の多幸を望むのか』 『わたくしでは、お姉様の身代わりになりませんか?』 『婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。 』 『婚約破棄された悪役令嬢だけど、騎士団長に溺愛されるルートは可能ですか?』 他多数。 他サイトにも重複投稿しています。

「婚約破棄します」その一言で悪役令嬢の人生はバラ色に

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約破棄。それは悪役令嬢にとって、終わりではなく始まりだった。名を奪われ、社会から断罪された彼女が辿り着いたのは、辺境の小さな学び舎だった。そこには“名前を持たなかった子どもたち”が集い、自らの声と名を選び直していた。 かつて断罪された少女は、やがて王都の改革論争に巻き込まれ、制度の壁と信仰の矛盾に静かに切り込んでいく。語ることを許されなかった者たちの声が、国を揺らし始める時、悪役令嬢の“再生”と“逆襲”が静かに幕を開ける――。

処理中です...