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葉方萌生

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第四章 友との約束

□『子作安寿伝承』紹介記事『深掘り地域伝承』より一部抜粋/ライター:小坂圭介

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 江戸時代頃より岩手県のごく一部の地域に伝わる『子作安寿伝承』。
 かの地域では、安寿と呼ばれる伝説上の人物が古くより多くの物語で登場している。この安寿だが、京都府宮津市由良に伝わる「安寿と厨子王ずしおう」の話とはまた別人である。江戸時代、安寿という名の女性が岩手県の一部のこの地域を彷徨い歩いていた。見た目が異国の人間のようであったことから、行き着いた村では激しい差別を受けた。「安寿と目が合うと殺される」などという噂がまことしやかに囁かれ、特に女性や子どもは外を出歩かなくなった。江戸時代といえば鎖国の真っ只中である。実際に安寿が外国人である可能性は限りなくゼロに近いのだが、安寿は自分の名前以外、日本語どころか言葉を喋ることができず、周囲に馴染むことはおろか、外国人ではないと証明することができなかった。
 安寿は村八分に遭いながらも村で生活を続ける。ある日、村の者が安寿のお腹が膨らんでいることに気づく。
「安寿が子を身籠ったぞ!」
 誰かがそう叫ぶと、村びとたちが安寿を取り囲んだ。
「誰の子だ」
「恐ろしい。安寿は誰とまぐわったのだ」
「誰も安寿と子をなそうとは思わん」
「じゃあなぜ、安寿は身籠ったのだ」
 村びとたちは恐ろしい形相で安寿を取り囲み、「誰の子」だと詮索を始めた。安寿に詰め寄り、「答えろ、誰の子どもだ!」と詰問した。だが、安寿自身、自分がどうして子どもを授かったのか、分からなかった。気づいたら腹に子どもが宿っていて、内側からぽこぽことお腹を蹴ってくるのを感じていたのだ。安寿はいつしか、お腹の子が自分を守ってくれる神様のようだと感じ始めていた。味方のいない自分に、神様が唯一の味方を授けてくれたのだと。
だから、村びとたちが「子を殺せ」と言い出した時には反射的にお腹を抱えて身を震わせた。
「その子は災いのもとだ。早く亡き者にしよう」
 ひとりの男がそう言った。恐ろしいことに、誰一人反対する者がいなかった。
 安寿は反射的に駆け出して、村から逃げることを決意した。行く当てはなかったが、今この場に止まれば、必ず子を殺されると思った。
「待て!」
 だが、村びとたちは執念深く追ってくる。村から出れば彼らも自分に関心がなくなると思っていたが違った。彼らの中では、得体の知れない存在である安寿のことを、自分たちの手でどうにかしなければいけないと考えているようだった。彼らも安寿とお腹の子を恐ろしく感じているらしく、逃げても逃げても追いかけてくる。
 やがて、山中へと逃げている最中に雨が降り出して、足元が滑りやすくなっていた。
「待てーーッ!! 安寿を逃すなー!!」
 まるで鬼退治でもしているかのような執念深さで村びとたちがどこまでもどこまでも追いかけてきた。もともと体力のない安寿は山中でよろめき、足を滑らせて崖から転げ落ちた。
 下へ下へと転落していく最中、追いついた村びとたちが心底ほっとした様子で自分の姿を見下ろしているのを見て、涙が止まらなかった。なんとかお腹の子だけは守ろうとお腹を抱えたが、努力虚しく二人とも命が尽きてしまう。

「これで我が村から災いがいなくなったな」
 安寿と子の命が散ってしまったあと、村びとたちはほっと息をついた。安寿に会わないように息を潜めていた女性や子どもたちも解放されたかのように安堵した。
 が、本当の災いはその後に起こった。
 安寿がいなくなった村では作物がなかなか育たなくなった。雨が極端に多いわけでも、台風や日照りが続くわけでもない。気候はこれまでとなんら変わりがないのに、なぜか作物が育てている最中に枯れてしまう。原因不明の不作に、村びとたちはどんどん困窮をきわめていった。そのうち、餓死する者まで現れた。
「これは安寿の呪いだ」
 誰かがそう叫ぶ。
「安寿を除け者にし、お腹の子を殺そうとして死に追いやったから、この村に呪いが降りかかったのだ」
 一度誰かがそう言うと、村びとたちはもうそれしか原因がないように思い込んだ。
「今すぐ安寿を祀る祠を建てるのだ」
 村の一番偉い者が指示をして、安寿が亡くなった地に祠を建てることにした。安寿を村八分にしていた人間たちがその手で石を運び、祠をつくった。

 その後、時代が移り変わり安寿の祠は「子作安寿の祠」として語り継がれるようになる。多くは産まれてまもないうちに亡くなった子どもの魂を鎮めるために用いられた。子作安寿の祠のもとで水子供養を行うことで、子どもの霊は心安からに眠り、さらに母親の心も宥められた。

 やがて、時が経つにつれて安寿の祠のある山が開かられ、森となった。
 昭和時代、この祠のすぐそばに清葉病院が建てられる。ちょうど、産婦人科である清葉病院では堕胎手術の後に、子作安寿の祠でお祈りをする儀式が執り行われた。儀式の前には泣いていた母親も、儀式が終わる頃には憑き物が落ちたかのように落ち着きを取り戻していった。
 子作安寿はこの地域ではなくてはならない存在となった。

『子作安寿伝承』/著:小坂圭介
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