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第五章 かわいい我が子です
◾️九月十五日火曜日Ⅰ
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区役所を訪ねてから丸三日間、自宅に引きこもっていた。
カーテンを閉じて、ベッドの上にうずくまっている。だってそうしていないと“見られている”という感覚から逃れられないから。いや……正確に言えば、布団の中にもぐりこんでいたって、すぐそばで何かの息遣いを感じるのだから、ほんの気休め程度にすぎない。
ほぎゃああああ。
ああああああ。
うわあ、ああ、あああ。
赤ん坊の鳴き声がどこからともなく遠く耳に響いて聞こえる。冷静に考えたら単に近所で暮らしている赤ちゃんが泣いているだけなのかもしれないけれど、どうも違う、と直感で感じていた。
すぐ近くに、やっぱり“いる”。
あの白い顔にぽっかりと浮かぶ目と鼻と口。笑っているのか怒っているのかよく分からない表情を浮かべて、私をじっと見ている。
ワタシ……ハ……ドコ……。
もう何度聞いた分からない、“自分”を探す声。
耳元をさーっと冷たい手で撫でられたような気がして、はっと身体が跳ねた。
「……」
当たり前だけど、見た感じは部屋に誰もいない。
だけど確実に、“いる”のだ。
昼頃、さすがに昼食を食べないのは耐えられないと思い、ベッドからのそのそと這いずり出る。スマホを手にしたところで、新着メールが来ていることに気づく。
「ああ、結果が分かったんだ」
メールはDNA鑑定の結果通知だった。先日戸籍謄本を確認したので、あまり緊張することもなくメール画面を開く。専用サイトのリンクが貼り付けられており、タップしてIDなどを入力する。開かれた画面で「鑑定結果」というタブがあったのでそこをさらに押した。
「え……?」
現れた結果画面に、信じられない判定結果が映し出されていた。
「うそ……でしょ」
ワタシ……ハ……ドコ……。
「うそだ」
ワタシ……ハ……ドコ……。
「ありえない」
ワタシ……ハ……オマエ……。
何かに背中を押されるようにして、私は部屋の中で倒れ込む。息が苦しい。「うがっ」と乾いた息が漏れる。頭上からずっと声が聞こえる。
ミツケタ。
上から頭を押さえつけられるような感覚がしたが、このままでは死んでしまうと思って、なんとか踏ん張って顔を上げる。
「うっ……」
見上げた先にいたのは、間違いない。
”私”。
ボサボサの黒髪を振り乱し、白い影の“私”が私を見下ろしていた。
“私”を見たのは一瞬だった。瞬きすると消えていなくなっていた。私は、その瞬間、何かに突き動かされるようにして立ち上がる。いつも使っている鞄をひっつかむと、そのまま家の外へと飛び出した。
向かったのは東京駅だ。みどりの窓口で新幹線の切符を買い、十四時ごろに新幹線に乗った。三日間も引きこもっていたのが嘘のように、身体が勝手に動く。化粧も何も施していない自分の顔は、他人から見ればさぞみすぼらしい格好をしていることだろう。
それでも立ち止まることはできなかった。
私は“私”に会いにいくために、岩手へと向かう。
“私”の居場所を探すために。
今の自分にできることはもうそれしかないと思った。
カーテンを閉じて、ベッドの上にうずくまっている。だってそうしていないと“見られている”という感覚から逃れられないから。いや……正確に言えば、布団の中にもぐりこんでいたって、すぐそばで何かの息遣いを感じるのだから、ほんの気休め程度にすぎない。
ほぎゃああああ。
ああああああ。
うわあ、ああ、あああ。
赤ん坊の鳴き声がどこからともなく遠く耳に響いて聞こえる。冷静に考えたら単に近所で暮らしている赤ちゃんが泣いているだけなのかもしれないけれど、どうも違う、と直感で感じていた。
すぐ近くに、やっぱり“いる”。
あの白い顔にぽっかりと浮かぶ目と鼻と口。笑っているのか怒っているのかよく分からない表情を浮かべて、私をじっと見ている。
ワタシ……ハ……ドコ……。
もう何度聞いた分からない、“自分”を探す声。
耳元をさーっと冷たい手で撫でられたような気がして、はっと身体が跳ねた。
「……」
当たり前だけど、見た感じは部屋に誰もいない。
だけど確実に、“いる”のだ。
昼頃、さすがに昼食を食べないのは耐えられないと思い、ベッドからのそのそと這いずり出る。スマホを手にしたところで、新着メールが来ていることに気づく。
「ああ、結果が分かったんだ」
メールはDNA鑑定の結果通知だった。先日戸籍謄本を確認したので、あまり緊張することもなくメール画面を開く。専用サイトのリンクが貼り付けられており、タップしてIDなどを入力する。開かれた画面で「鑑定結果」というタブがあったのでそこをさらに押した。
「え……?」
現れた結果画面に、信じられない判定結果が映し出されていた。
「うそ……でしょ」
ワタシ……ハ……ドコ……。
「うそだ」
ワタシ……ハ……ドコ……。
「ありえない」
ワタシ……ハ……オマエ……。
何かに背中を押されるようにして、私は部屋の中で倒れ込む。息が苦しい。「うがっ」と乾いた息が漏れる。頭上からずっと声が聞こえる。
ミツケタ。
上から頭を押さえつけられるような感覚がしたが、このままでは死んでしまうと思って、なんとか踏ん張って顔を上げる。
「うっ……」
見上げた先にいたのは、間違いない。
”私”。
ボサボサの黒髪を振り乱し、白い影の“私”が私を見下ろしていた。
“私”を見たのは一瞬だった。瞬きすると消えていなくなっていた。私は、その瞬間、何かに突き動かされるようにして立ち上がる。いつも使っている鞄をひっつかむと、そのまま家の外へと飛び出した。
向かったのは東京駅だ。みどりの窓口で新幹線の切符を買い、十四時ごろに新幹線に乗った。三日間も引きこもっていたのが嘘のように、身体が勝手に動く。化粧も何も施していない自分の顔は、他人から見ればさぞみすぼらしい格好をしていることだろう。
それでも立ち止まることはできなかった。
私は“私”に会いにいくために、岩手へと向かう。
“私”の居場所を探すために。
今の自分にできることはもうそれしかないと思った。
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