虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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初冬の朝、侯爵邸に一人の来客があった。

「王立薬学院のエドウィン・グレイ様がお見えです」

セバスチャンの案内で応接室に通されたのは、夏至祭の夜会で会った研究者だった。

「お久しぶりです、セラフィーナ様」

エドウィンは丁寧にお辞儀をした。三十代半ばらしい落ち着いた雰囲気と、知的な眼差しが印象的だった。

「エドウィン様、ようこそいらっしゃいました」

セラフィーナは微笑んで迎えた。

「あの夜会以来ですね。お元気でしたか?」
「はい。実は今日は、お願いがあって参りました」

エドウィンは真剣な表情で続けた。

「令嬢の薬草茶の調合技術について、是非詳しく教えていただきたいのです。学院の研究にも大きく貢献するはずです」
「私の技術が、学院の役に立つのでしょうか?」
「立つどころではありません」

エドウィンの目が輝いた。

「令嬢の『月光茶』と『晨露茶』を分析させていただいたのですが、その配合は理論的に完璧なのです。なぜこの組み合わせが最適なのか、科学的に説明できます」

セラフィーナは興味深そうに身を乗り出した。

「科学的に?」
「はい。各薬草の有効成分が相乗効果を生み出し、副作用を最小限に抑えつつ、効能を最大化している。これは偶然ではなく、深い理解に基づいた調合です」

エドウィンは資料を取り出した。

「もしよろしければ、薬草園を見学させていただき、調合の理論についてお話を伺えませんか?」

セラフィーナは少し考えてから、微笑んだ。

「もちろんです。むしろ私の方こそ、専門家のご意見を伺いたいと思っていました」

二人は薬草園へと向かった。

初冬の薬草園は、多くの薬草が休眠期に入っているが、温室では一年中栽培できる種類が青々と育っている。

「これがカモミール、こちらがバレリアン」

セラフィーナが説明すると、エドウィンは熱心にメモを取った。

「栽培方法も独特ですね。この土の配合は?」
「有機質を多く含ませて、水はけを良くしています。薬草は土の質で効能が大きく変わるので」
「なるほど。理にかなっています」

二人は温室から作業場へと移動した。そこでは、収穫された薬草が丁寧に選別され、乾燥されている。

「乾燥の温度と湿度は、薬草ごとに最適化しています」

セラフィーナが説明すると、エドウィンは驚嘆の表情を浮かべた。

「ここまで細かく管理しているとは...これでは市販の薬草茶と品質が違うはずです」

調合室では、セラフィーナが実際に月光茶を作る過程を見せた。

「カモミールとバレリアンの比率は3:2。これにパッションフラワーを少量加えます」
「その比率の根拠は?」
「カモミールは穏やかな鎮静作用、バレリアンは深い睡眠を促進します。しかしバレリアンだけでは効果が強すぎて、翌朝の倦怠感が残る。だから、カモミールで調整するんです」

エドウィンは目を輝かせた。

「完璧です!まさに私が理論的に導き出した最適比率と一致します」
「本当ですか?」
「はい。令嬢は実践的な経験から、私たちが理論で導き出すことと同じ結論に達している。これは驚異的です」

昼食は薬草園の東屋でとることにした。セラフィーナ特製の薬草茶と、軽い食事が用意されている。

「この茶は?」

エドウィンが香りを楽しみながら尋ねた。

「ローズヒップとハイビスカスのブレンドです。ビタミンCが豊富で、美容と健康に良いんです」
「なるほど。確かに爽やかで飲みやすい」

二人は薬草の話題で盛り上がった。最新の研究、古い文献、民間療法の科学的検証。共通の興味を持つ者同士、会話は尽きることがなかった。

「セラフィーナ様は、どこでこれほどの知識を得られたのですか?」

エドウィンが不思議そうに尋ねた。

「様々な文献を読みました」

セラフィーナは前世のことは伏せて答えた。

「特に古い薬草書と、最新の医学書を組み合わせることで、新しい発見があるんです」
「素晴らしい。まさに研究者の姿勢です」

エドウィンは真剣な表情で言った。

「セラフィーナ様、お願いがあります。共同研究をさせていただけませんか?」
「共同研究?」
「はい。令嬢の実践的な知識と、私の理論的な研究を組み合わせれば、きっと素晴らしい成果が得られます」

セラフィーナは少し考えてから、微笑んだ。

「喜んで。むしろ、こちらからお願いしたいくらいです」

二人は握手を交わした。

その日から、エドウィンは定期的に侯爵邸を訪れるようになった。二人は薬草の研究に没頭し、新しい調合を次々と開発していった。

「この配合なら、関節痛により効果的です」
「では、臨床試験をしてみましょう」

セラフィーナとエドウィンの研究は、次第に学院でも注目されるようになった。

ある日、エドウィンが興奮した様子で訪れた。

「セラフィーナ様、朗報です!」
「何があったのですか?」
「学院から、令嬢に講演の依頼が来ました。『薬草の実践的応用』というテーマで」
「私が、学院で?」
「はい。令嬢の研究成果は、もはや学術界でも認められているのです」

セラフィーナは驚きと喜びで胸がいっぱいになった。

かつて病弱で何もできなかった自分が、今や学術界から認められている。これは夢ではないかと思うほどだった。

「お引き受けします。いつですか?」
「来月の学術会議です。多くの研究者が集まります」

エドウィンは嬉しそうに微笑んだ。

「きっと、令嬢の知識に皆驚くでしょう」

夕暮れ時、薬草園を二人で歩きながら、エドウィンが静かに言った。

「セラフィーナ様、あなたと研究できることを、私は本当に幸運に思います」
「私もです、エドウィン様」

セラフィーナは微笑んだ。

「あなたのおかげで、私の知識がより深まりました」
「いえ、それは互いにです」

エドウィンは少し照れたように笑った。

冬の空に最初の星が輝き始めた。薬草園からは、ハーブの優しい香りが漂ってくる。

セラフィーナは心から満たされた気持ちで、新しい未来を見つめた。

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