虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん

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春の園遊会は、王宮の庭園で華やかに開催されていた。

貴族たちが色とりどりの衣装で集い、笑い声と音楽が庭園に響いている。しかし、その華やかさの裏で、様々な視線が交錯していた。

「あら、セラフィーナ様」

公爵夫人が親しげに声をかけてきた。

「本日もお美しい。そのドレス、新しいデザインですね」

「ありがとうございます。領地の織物職人が作ってくれました」

「まあ、領地振興にも力を入れていらっしゃるのね」

周囲の貴婦人たちも、セラフィーナを囲むように集まってきた。

「薬草茶、毎日愛用しています」
「夫の傷薬としても大変助かっております」
「学術発表のお話、感銘を受けました」

称賛の言葉が次々と寄せられる。セラフィーナは謙虚に微笑みながら、一人一人に丁寧に応えた。

その様子を、少し離れた場所からアレクシスが見つめていた。

「公爵様、そんなところで何を」

側近が声をかけた。

「……いや、何でもない」

アレクシスは視線を逸らした。しかし、心は複雑だった。

かつて自分が婚約破棄した相手が、今や社交界の中心にいる。健康を取り戻し、事業を成功させ、多くの人々から尊敬を集めている。

一方、自分は――

「公爵様、奥方様がお探しです」

「……分かった」

重い足取りで、エリーゼのいる東屋に向かう。そこで彼女は、高価な菓子を食べながら不機嫌そうに座っていた。

「遅いわよ、アレクシス」

「すまない」

「あの侯爵令嬢、調子に乗っているわね。みんなが褒め称えて」

「……」

「私の方が公爵夫人なのよ。どうして私の周りに人が集まらないの」

アレクシスは答えられなかった。理由は明白だったからだ。

庭園の別の場所では、貴族の婦人たちが密やかに会話していた。

「公爵家、本当に大変らしいわよ」

年配の侯爵夫人が小声で言った。

「奥方様の振る舞いが、あまりにも……」

「使用人が次々と辞めているそうね」

「跡継ぎの見込みもないとか」

「公爵様がお気の毒だわ」

その会話を、別のグループの貴婦人たちも耳にしていた。

「思えば、侯爵令嬢との婚約破棄は失敗だったのでは」

「セラフィーナ様は今、あんなに素晴らしいもの」

「健康も取り戻されて、事業も成功して」

「グレイ氏との仲も良さそうだし」

「本当にお似合いの二人よね」

噂は静かに、しかし確実に広がっていった。

かつてセラフィーナを哀れんでいた人々が、今はアレクシスを哀れんでいる。運命の皮肉だった。

午後、セラフィーナはエドウィンと庭園を散策していた。

「今日も多くの方々から声をかけられましたね」

エドウィンが言った。

「皆さん、薬草製品を気に入ってくださっているようです」

「それだけではありません。あなた自身の人柄に惹かれているのです」

セラフィーナは微笑んだ。

「私は特別なことは何もしていません。ただ、できることをしているだけです」

「その謙虚さが、また素晴らしい」

二人が噴水の前を通りかかった時、偶然アレクシスと出くわした。

「……」

一瞬、気まずい沈黙が流れた。

「公爵様」

セラフィーナが先に挨拶した。

「お元気そうで」

「ああ……君も」

アレクシスの声は、どこか疲れていた。

「では、失礼します」

セラフィーナはエドウィンと共に去っていった。後ろから、アレクシスの視線を感じたが、振り返らなかった。

もう、関係のない人だから。

夕刻、園遊会が終わりに近づく頃、エリーゼが突然騒ぎ出した。

「このお茶、まずいわ! 作り直しなさい!」

給仕係の侍女に怒鳴りつけている。周囲の視線が集まったが、エリーゼは気にしない。

「何をぼんやりしているの! 早く!」

「申し訳ございません」

侍女は震える手でお茶を片付けた。

「まったく、使えない使用人ばかりだわ」

その様子を、多くの貴族たちが見ていた。そして、顔をしかめた。

「公爵夫人、あれは酷いわ」
「使用人への扱いが……」
「公の場であのような」

評判は、さらに悪化した。

帰りの馬車の中、アレクシスは深いため息をついた。

「今日は疲れたわ」

エリーゼが不機嫌そうに言う。

「あの侯爵令嬢、本当に目障りだわ。みんなが褒めて」

「……」

「ねえ、聞いているの?」

「聞いている」

アレクシスは短く答えた。もう、何を言っても無駄だと分かっていた。

馬車の窓から、夕日が沈んでいくのが見えた。

かつて輝いていた自分の未来も、あの夕日のように沈んでいく。

セラフィーナを失ったこと。それが、すべての始まりだった。

その夜、公爵邸の執務室で、アレクシスは一人考え込んでいた。

重臣たちからの報告書が積まれている。跡継ぎ問題、財政問題、評判の低下。すべてが悪化の一途をたどっていた。

「どうすれば……」

しかし、答えは見つからなかった。

ただ一つ確かなことは、自分の選択が間違っていたということだけだった。
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