【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

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4 ど近眼令嬢は弟子入りする

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「じゃあ、行ってきます!」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

 ハンナに見送られ図書庫の窓からそっと抜け出す。図書庫の周りに人影は無くなんなく脱出成功である。

 私は長い銀髪を帽子に押し込んで隠し、ハンナに用意してもらった庶民の服を着ている。もちろん眼鏡もしっかりかけて屋敷を抜け出した。ちなみに頭の上にはもちろんシロもいる。どうやら私の頭の上がかなり気に入ったらしく、どんなに動いても微動だにせずちょこんと留まっているのだ。

 そんなシロを頭に乗せたまま屋敷の近くにある林に入り込む。私は浮き足立つ気持ちを押さえきれずにいた。

 そう、私は将来ひとりで生きていくための活動拠点を探しているのだ。さすがにこの世界には不動産情報誌など無いし、両親にバレたくないので公爵家の名前を使って探すわけにもいかない。ここは地道に探し回るしかないのである。

 理想としては人目につかないポツンと一軒家的な物件で、自給自足ができるような畑を作れるスペースがあれば言うことナシだ。あ、ニワトリも飼いたい。食料的な意味で!そのために参考になりそうな本を片っ端から読んだのだ。スローライフ最高!

 つまり、今から実践して慣れるためにもまずは物件探しから始めることにしたわけだ。

「ピィ」

 すると急にシロが羽を広げ頭の上から飛び立ち、私を先導するように羽ばたいた。

「シロ、どこ行くの?」

「ピィ」

 慌ててシロの後を追うように林の奥へと進む。いやもう、すでに森?いつの間にか鬱蒼とした森の奥地?

 あれー?どこをどう進んだらこうなるんだ?さすがファンタジーとしか言えない。って言うかこれって迷子になるのかしら?


「ピィ」

 しばらく進むとシロが飛ぶのをやめ、再び私の頭の上に留まった。私は足を止め、促されるようにシロが示す先に視線を向ける。

「ここは……」

 目の前に広がる光景に、私の頬が興奮して紅潮したのがわかった。そこにはまさに私の理想そのものが存在していたのだから。

 小さめの平屋の一軒家。ちょっとくすんだオレンジ色の屋根がレトロでかわいらしい。その横には鶏小屋があって数羽が羽をばたつかせている。
 さらにその背後には畑らしきものがあり、赤いトマトが熟れているのが見えた。

「……素敵な家ね、シロ」

「ピィ」

 思わずうっとりとした顔でその家を眺めていると、ギィと音を立てて目の前の古びた木製の扉が開いた。

「……おや、珍しいお客さんだこと」

 中から出てきたのは白髪の髪をしたふっくら体型のおばあさんだった。黒いゆったりとした服を着て小さな老眼鏡をかけ、おっとりとした微笑みを浮かべている。

 なぜだろう、シチューが劇的に上手いおばさんの絵面が脳裏に浮かんだ。きっと親戚あたりにクッキー作りがやたら上手いおばさんやシュークリームの専門家みたいなおじさんがいる気がする。

「あ、あの……」

 何て言おうか迷ってソワソワしていると、私と頭上のシロを交互に見てにっこりと笑った。

「そんなところにいないでお茶でもいかが?」

 私が「ぜひ!」と慌てて言うと、おばあさんはさらに笑顔になったのだった。



 そしてこれは私にとって人生の転機となる出会いになる。



 このおばあさんはなんと薬師!魔力も持っていて、魔力を込めて作った薬は効果抜群で有名なのだそうだ。
 しかし王家直属の薬師に嫉妬され嫌がらせをされたり貴族から金にものをいわせた無理難題を吹っ掛けられたり、争いの種にされたりの日々に嫌気がさし森に引きこもったそうなのだが……。

 ……ん?どこかで聞いたことがあるような話だな?……気のせいか。

 それはさておき、今はここで自給自足の生活をしながら新しい薬を作ったりしているらしい。たまに噂を聞き付けた人間がやって来るそうだが森が意思を持っていておばあさんに悪意があったり悪いこと頼もうとする人間は迷わせてたどり着けないようになっているそうだ。なんてこった、リアル迷いの森じゃないか。
本当に困っていて、おばあさんに頼むのが最後の砦みたいな人だけがたどり着けるらしいが。

 え、ちょっと怖い。森が意思を持っているなんて初めて聞いたんだけど。

「そうだねぇ、この森は不思議な森だからねぇ」

 おばあさんはおっとりとした口調で私の疑問に答えてくれたが、そんなファンタジーなひと言で片付けていい問題なのだろうか。

「迷った人間はどうなるんですか?」

「そうだねぇ、森の外のどこかには出されてると思うけどねぇ」

 おばあさんは「ふふふ」と微笑みながらお茶を飲む。その微笑みを見て、どこかってどこだろう……。と思ったがなんだか怖かったので聞くのはやめた。

 それにしてもこんなおばあさん、小説に出てきてたかな?あの小説はサブキャラみたいな人物だとあまり細かい描写がないから人物像がなかなか思い当たらない。

「それで、お嬢さんの名前は何て言うのかねぇ」

「あ、失礼しました。私はアリアーティアと言います。おばあさんのことはなんとお呼びしたらいいですか?」

 おばあさんは私を見てちょっと考えてから口を開いた。

「わたしかい?……そうだねぇ、お嬢さんなら教えても大丈夫かねぇ。わたしはライラ。

 ーーーー人からは“森の魔女”と呼ばれているよ」

 “森の魔女”。そう聞いて、はっ!と納得する。

 いたよ、“森の魔女”!王子が悪役令嬢アリアーティアを毒殺するために誰にもバレないような特殊な毒を作らせようと探してた“森の魔女”!

 原作では森の中を迷いに迷ったあげくに結局探しだせなくて諦めてたけど、森に拒否られてたのね。まだ王子を応援していた頃の前世の私でさえ、さすがにこっそり毒殺してヒロインとウハウハしようと企んでた(原作の)王子には「男らしくない」とガッカリしてたもの!

 ふふふ、ざまぁみろだわ!

 しかしこのおばあさんが“森の魔女”だとすると、原作で登場するのはまだまだ先の話だ。まだ小説の物語が始まってないことを考えると、かなりフライングで出会ってしまったことになる。

 でもなんて理想的な生活をしているのだろう。本からの知識だけでは知ることのできない全てがここにある気がした。ここで出会えたのはある意味運命では?!

「あの……ライラさん!お願いがあるんです!」

 私は眼鏡がずり落ちるのも気にせず、おばあさんの手を握りしめるのだった。





 それから私はライラさんと仲良くなって色々と教えてもらうようになる。料理に裁縫、畑の手入れ。もちろん薬の調合方法まで。

 どうやら私は森に気に入られたらしくその後何度も足を踏み入れても、もう道に迷うことはなかった。





「え?シロはただの小鳥じゃなくて森の聖霊?」

「シロちゃんみたいな種類の鳥はいないからねぇ」

 それから数日。私はシロと共に毎日この家に通い、いつものように教わりながら鍋をかき回しているとそんな驚き情報を告げられたのだ。

 今日は傷口に塗る軟膏の作り方を教わっている。しかし、集中して煮込めって言った矢先になぜ突然そんな情報を教えてくるのか。めっちゃ戸惑うんですけど。

「ほら、焦げたらやり直しだよ」

「は、はい!」

 慌てて火加減を調整しながら慎重にかき混ぜる。くっ!もはや世間話も試練のうちか。

 聖霊とはこの世界の自然界に存在していて、魔力とも関連があるらしいが詳しいことはまだ解明されていない。なにせ人間の前に現れることがほとんどなく、その姿を見ることができる人間もほとんどいないからだ。 

 “魔力持ち”には聖霊と交流する能力があるらしい……とは言われているが、その“魔力持ち”すらも希少な存在なので研究が進まないらしいのだ。

「シロが聖霊……」

 今も私の頭の上でこっくりこっくりと居眠りをして、かなり食いしん坊なシロが?

 なんでも私の魔力が居心地良くて気に入ったからこの森に連れてきたらしい。ライラさんは森の意思を感じられるらしくそう教えてくれた。

 よくもまぁ、こんなわずかしかない私の魔力を感知したものだ。

 シロって、ヨダレ垂らして居眠りするしおやつのクッキー丸飲みするし変な小鳥だと思ってたのよ。しかしまさかの正体。さらに聖霊に名前をつけると契約したことになるらしく、シロは私の専属聖霊になってしまっていた。なんてこったい。

 うーん、魔力持ちで聖霊持ちなんて何百年か前の伝説に出てきそうな人物になってしまったのではないだろうか?




 ……うん、よし。聖霊としての姿もあるらしいが、シロには是非とも今の小鳥のままでいていただきたい。

「私の魔力で聖霊が反応したなら、ライラさんならもっとすごい聖霊がついてるんじゃないんですか?」

「わたしかい?わたしにはそんな聖霊なんていないねぇ」

 ライラさんは「そうだねぇ……」と手を頬に当てながら首を傾げた。

「わたしを守護してくれてるのは聖霊じゃなくて、この森全体かねぇ」

 そういえば、この森は意思を持つ不思議な森だった。思わず「規模がでかい……」と呟くと、ライラさんのピシャリとした声が響いた。

「ほら、また焦げそうだよ「はいぃぃぃつ!」ダメだねぇ、やり直し」

 ライラさんは普段とても優しいしおっとりしているのだが、薬作りに関してはものすごく厳しいのだ。





 そんなわけで私はライラさんにお願いして“森の魔女”に正式に弟子入りした。

 私の魔力はライラさんの魔力に似てるらしく魔力を込めた薬作りもすんなり覚えられた。どうやら秘めた才能が開花したみたいだ。それからすぐに「師匠」「アリア」と呼び合う師弟関係になり、私の修行は順調に進んでいったのだった。


「軟膏完成!私ってば天才じゃない?!」

「材料をひとつ入れ忘れてるねぇ。これじゃあ本来の効能は出ないよ。ほら、やり直しだねぇ」

 師匠がポケットから薬草を出して見せてくる。

「……最初に教えてくださいよ、師匠」

「ちゃんと自分で調べて確認しないとねぇ」

 にっこりと極上の笑顔で師匠で私に鍋を混ぜる用のお玉を手渡してきた。師匠はおっとりした顔でかなりスパルタなのである。







******





「そういえば……師匠は昔、争いの種にされたって言ってましたけど何があったんですか?」

「それはねぇ、髪の毛が生えてくる薬を作ったら、なんだか奪い合いになってしまってねぇ」

 なんでもその薬用の薬草や材料がかなり貴重な物が多くて、あまり数が作れないと言ったら大変な事になったんだとか……。

 悩んでる人ツルリンが多かったのかしら?とりあえず、毛生え薬を作るのはやめておこうと思ったのだった。







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