【完結】ど近眼悪役令嬢に転生しました。言っておきますが、眼鏡は顔の一部ですから!

As-me.com

文字の大きさ
11 / 36

11 従者の憂鬱(コハク視点)

しおりを挟む
 アリア様はなんと言うか……あんぽんたんだ。

 いや、曲がりなりにも主人に対して従者の分際でそんな事を言ってはいけない。もっとこう、なんていうか……。

 そう、鈍感で阿呆で……やっぱりあんぽんたんだ!


 母親のお腹の中にいる頃からアリア様の魔力を感じていた。そして自我を持つ前からこの人の元へ行きたいと……ずっと側にいたいと願って母親に訴えていたのだ。

 母はたぶんかなり長い間この人の魔力を浴びていたのだろう。体質的なものもあったのだろうが、母はその魔力を自身の体に蓄積していたのだ。

 そんな母の胎内はアリア様の魔力に満ちていてぼくは生命を授かった瞬間からこの居心地の良い魔力に包まれて育っていた。

 優しくて、生き抜くための強い意思を持ち、そしてぼくという生命を温かく守ってくれる。

 ぼくはたぶん、この人の魔力によって生かされた。

 胎児であった頃から魔力が強かったぼくは、もしこの魔力の守護が無ければ育つ事も無く母親の体をその強すぎる魔力によって破壊して死んでいただろう。

 今だからわかる事だが、魔力に目覚める前から強すぎるとわかっている魔力なんて毒でしかない。

 しかしアリア様の魔力はその毒から母とぼくを守ってくれた。

 あの人は母が自分の魔力を浴び続けて体に蓄積していたなんて知るはずもないだろうし、その結果としてぼくが無事に産まれたなんて思いもしないだろう。そして、母とぼくの命の恩人であるアリア様にぼくがどんな想いを寄せているかなんてことも考えもしないのだ。

 産まれる前からアリア様が好きだった。

 そして無事に産まれ落ちたぼくをあの人が優しく抱いてくれた。その輝く魔力を全身で感じ、思わず目を開けるとアリア様がそこにいた。

 ぼくに名前をつけてくれて、笑顔を向けてくれて……もっとアリア様が好きになった。ぼくはこの人の側にいるために産まれてきた。そう思ったのだ。


 最初はそれこそ母親のように姉のように慕っているんだろうと自分でも思っていた。通常とは違う成長をするぼくをありのままに受け入れてくれて、いつも優しいアリア様……そのアリア様の唇がぼくの頬に触れたのだ。




 身体の中を雷が貫いた気がした。あまりの衝撃に混乱し、その後母に冷静に諭されることになるのだが……ぼくはその時確信する。





 アリア様を……女性として愛しているのだと。







 早く大人になりたかった。都合の良いことに(?)ぼくの体と精神はこの多すぎる魔力のせいで異常な早さで成長している。それでもアリア様はぼくを子供扱い……いや赤ちゃん扱いするのだが。

 とある日、“森の魔女”様の家に泊まる事になった。一緒に寝たいと言うアリア様を断固拒否してひとりでベッドに潜り込む。

 アリア様は良い匂いがするし、柔らかいし、いくらぼくの見た目がまだ子供だからって女性として意識してしまっているアリア様と同じ布団で同衾するなんてもってのほかだ。ぼくは見た目がまだ子供のくせに、中身精神はやたら大人になってしまっているらしい。

 ……コホン。とにかく、いまだヨチヨチ歩きのぼくがそんないかがわしい考えをもってるなんてバレたら嫌われてしまうかもしれない。それだけは避けなければならないのだ。ほんとは一緒に眠って抱き締めてもらいたいなんて言えるわけがない。




 なのに!ぼくが、こんなに悩んで耐えていると言うのに、この人は……!




 ほのかに香る優しい匂いと、自分を包む柔らかい感触。その心地よさに思わず頬擦りをして……目が覚めた時の衝撃は今でも忘れられない。

 別室に追いやったはずのアリア様がぼくを抱き締めて眠っていたのだ。

 ぼくが頬擦りをしていたのはアリア様の柔らかな胸で、急いで顔を上にそらしたらそこには無防備に眠るアリア様の唇が目前に迫っていた。

「……!」

 時間としては、ほんの一瞬だったと思う。

 ぼくはその時の衝撃で一気に思春期までの体の成長を遂げてしまった。

 背が伸びた。アリア様のお気に入りのぷにぷにほっぺも引き締まり、体つきが幼児から少年へと変わった。

 身に付けていた子供用の寝間着はボタンが弾け飛び、そこからはみ出た肉体を自分で確認して、下半身を見たときに思わず悲鳴をあげた。

「……ん?コハクぅ……」

「あ、ありあさ……うわぁぁぁあーーーー!!」

 ばふっ!!「ぶっ?!」

 ぼくは目を覚ましてこちらを見たアリア様の顔に枕を押し付けて転がるように逃げ出した。

 しばらく別室に閉じ籠っていたが、シロさんが相談に乗ってくれて“森の魔女”様もぼくの体の変化について教えてくれた。これは大人の男性になった、ということらしい。アリア様の寝顔や少しはだけた胸元を見てこんなことになるなんて……恥ずかしい。


 それからというもの、アリア様は相変わらず一緒に寝ようとするしお風呂にまで侵入してくる。

「コハク、背中を洗ってあげ「出ていってください!!」えーっなんでよぉっ!」

 あの人は、“森の魔女”様と母に頼んであんなにお説教してもらったはずなのに、いまだにぼくのことをヨチヨチ歩きの赤子の時と同じ扱いをするのだ。

 素肌にタオル1枚を巻いただけのアリア様の姿を見た瞬間に、ぼくがどれだけ大変な事になってるかわからない。アリア様の眼鏡が湯気でくもっていてよかった。ぼくがどんな顔をしていたかなんて見えていないだろう。

 アリア様を風呂場から追い出した後、一瞬見てしまったアリア様の体の曲線を思い出してしまい鼻血が出て倒れてしまったのをシロさんが発見してくれた。

「ピィピィ」

「そうなんですよ、シロさん。アリア様はなんであんなに無防備というか……」

「ピィ~ピィ~」

「わかってくれますか!シロさん!」

 シロさんはアリア様の専属聖霊でとても賢い小鳥だ。言葉はわからないのだが、なぜか意志疎通が出来てしまう。



 “森の魔女”様の家に住み込みで暮らすようになってからは母が定期的にぼくの様子を見に来た。……正確にはアリア様の、だが。母は昔からアリア様至上主義である。

 ぼくの話を聞いては「お嬢様には困ったものね」と言いながら、いつもの無表情なのに鋭い視線でぼくを見ながら必ずこう言う。

「コハク……お前はお嬢様をお守りする立場なのだから間違っても襲ったりしたらどうなるかわかっているでしょうね?」

「じゃあアリア様の行動攻撃をどうにかしてよ!」

 母にはぼくのアリア様へ対する気持ちなど全部バレている。体が一気に成長してしまった理由も鼻血を出して倒れた理由も。でもぼくだって頑張っているのに、アリア様が寝床に潜り込んだり風呂場に入ってきたりとしてくるからぼくが余計に悩むことになっているのだ。

「お嬢様には釘を刺しておきますが……その攻撃を我慢してこそ立派な従者というものです。自分で望んだ立場でしょう」 

「……うぅ」

 確かにアリア様の側にいたくて従者になりたいと自分から望んだが、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったのだ。

「そうですね……せめてお嬢様がちゃんとお前のことをひとりの男性として扱って下さるまでは我慢するしかないでしょう。

 ……ただあの・・お嬢様ですから」

 母が珍しく眉を八の字曲げてため息をついた。

 母曰く、アリア様は昔は地位の高いご令嬢でなんと王子の婚約者だったそうだ。しかしアリア様はその立場を嫌がり魔力に目覚めてからもそれを隠していたそうだ。

 魔力があることを公表すればそれこそ贅沢な生活を手に入れられただろうに、アリア様は“森の魔女”様の元で修行しながらの今の生活を望んだ。なんと自分の死を偽装してまで令嬢の立場を捨てた。と聞いてぼくはアリア様を尊敬した。そしてなにより、そのまま王子と結婚しなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしたものだ。

 母はその頃からアリア様至上主義だったので魔力の秘密を守り、アリア様が望む人生を送れるようにと協力していたのだという。だからこそ、母はいまだにアリア様から絶対の信頼を向けられ心を許されているのだろう。ぼくも母のようになりたい。と、もっと従者らしくなろうと決めた矢先……








「アリア様なんか……絶交です!!」


 ぼくは爆発してしまった。

 ついでに魔力まで目覚めてしまい、森はめちゃくちゃになってしまった。森の惨事は“森の魔女”様がなんとかしてくれたそうなので感謝しかない。シロさんにもちゃんと謝った。

 が

 あれからアリア様の顔を見ることが出来ず、ぼくは母に頼んで実家に帰った。




「アリア様の……アリア様のあんぽんたん!」

「まぁ、なんて口の聞き方を……否定はしませんが」

 ぼくのひとりごとを聞いてた母がぼくをたしなめた。……でも同意してくれるらしい。

 実家に帰ってきたものの、ぼくは部屋に閉じ籠りっぱなしだ。ぼくが産まれたことは近所の人は知っているが魔力のことは知らないので急に大きくなったぼくのことを不審な人物として見られるのが苦痛なのもある。母や父も、きっと近所の人から詮索されたりしてるだろうがぼくの前ではそんな素振りは見せなかった。

「母さん……」

「お嬢様はなんと言うか……恋愛という感情に目覚めること無く今までお育ちになったので、はっきり言って奥手とか純粋とかを通り越して、自分がそんな対象になるはずが無い。と思ってらっしゃいますから」

「母さんが、その辺をちゃんと教育しておけばよかったんじゃ?」

「していたら、今頃お嬢様には素晴らしい婚約者か夫がいらっしゃることになります。そしてわたしは結婚することなくお嬢様についていきますからお前は産まれていません」

 キッパリと断言する母に思わず土下座した。

「アリア様をあんぽんたんに育ててくれてありがとうございます!」

 ぼくの土下座を見て母は「わかればよろしい」とうなずくと手紙を差し出した。

「シロさんからお手紙が届きました。コハク宛のようですよ」

「シロさんから?」

 受け取った白い封筒には鳥の足跡がペタペタとついていた。ぼくはシロさんとなんとなく意志疎通は出来るが、足文字はまだわからない。しかし母がぼく宛だというのならばそうなのだろう。

「これは……」

 封筒の中には1枚の白い便箋。その内容は……足跡がいっぱいついていて、シロさんのだと思われる白い羽根がひとつ入っていた。

 さっぱりわからない。と首をひねるぼくの後ろから手紙を覗き込んだ母が言った。

「どうやらお嬢様が熱を出して寝込んでいるようですね。うわ言でコハクの名を呼んでいるとか……。
 コハクに早く戻ってきて欲しいようですよ。その羽根にコハクの魔力を乗せれば森まで一瞬で帰れ「アリア様ーーーーっ!」……フフ、気をつけて」

 最後まで聞くこと無くコハクは羽根を握りしめて姿を消した。いつも無表情の母が優しい微笑みを浮かべていることなどきっと気づかなかっただろう。

「……あれ?コハクはどうしたんだ」

 コハクの様子を見に来ただろう男……ハンナの夫にしてコハクの父親が扉を開けたが、すでにコハクの姿はなかった。

「お嬢様の元へ帰りました」

 再びいつもの無表情に戻り淡々と告げるハンナを見て、男は笑顔を見せる。

「ハンナがそんなに嬉しそうにしてるってことは、コハクはおじょーさんと仲直りできそうなのかい?」

 アリアですらもよく観察しないとわからないハンナの感情をひと目見ただけで理解してしまうこの男も、なかなかの強者のようであった。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢発溺愛幼女着

みおな
ファンタジー
「違います!わたくしは、フローラさんをいじめてなどいません!」  わたくしの声がホールに響いたけれど、誰もわたくしに手を差し伸べて下さることはなかった。  響いたのは、婚約者である王太子殿下の冷たい声。  わたくしに差し伸べられたのは、騎士団長のご子息がわたくしを強く床に押し付ける腕。  冷ややかな周囲のご令嬢ご令息の冷笑。  どうして。  誰もわたくしを信じてくれないまま、わたくしは冷たい牢の中で命を落とした。

もう何も奪わせない。私が悪役令嬢になったとしても。

パリパリかぷちーの
恋愛
侯爵令嬢エレノアは、長年の婚約者であった第一王子エドワードから、公衆の面前で突然婚約破棄を言い渡される。エドワードが選んだのは、エレノアが妹のように可愛がっていた隣国の王女リリアンだった。 全てを失い絶望したエレノアは、この婚約破棄によって実家であるヴァルガス侯爵家までもが王家から冷遇され、窮地に立たされたことを知る。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

倉桐ぱきぽ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。

婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?

パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。 しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。

ヒロインだと言われましたが、人違いです!

みおな
恋愛
 目が覚めたら、そこは乙女ゲームの世界でした。  って、ベタすぎなので勘弁してください。  しかも悪役令嬢にざまあされる運命のヒロインとかって、冗談じゃありません。  私はヒロインでも悪役令嬢でもありません。ですから、関わらないで下さい。

断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について

夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。 ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。 しかし、断罪劇は予想外の展開へ。

処理中です...