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11 従者の憂鬱(コハク視点)
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アリア様はなんと言うか……あんぽんたんだ。
いや、曲がりなりにも主人に対して従者の分際でそんな事を言ってはいけない。もっとこう、なんていうか……。
そう、鈍感で阿呆で……やっぱりあんぽんたんだ!
母親のお腹の中にいる頃からアリア様の魔力を感じていた。そして自我を持つ前からこの人の元へ行きたいと……ずっと側にいたいと願って母親に訴えていたのだ。
母はたぶんかなり長い間この人の魔力を浴びていたのだろう。体質的なものもあったのだろうが、母はその魔力を自身の体に蓄積していたのだ。
そんな母の胎内はアリア様の魔力に満ちていてぼくは生命を授かった瞬間からこの居心地の良い魔力に包まれて育っていた。
優しくて、生き抜くための強い意思を持ち、そしてぼくという生命を温かく守ってくれる。
ぼくはたぶん、この人の魔力によって生かされた。
胎児であった頃から魔力が強かったぼくは、もしこの魔力の守護が無ければ育つ事も無く母親の体をその強すぎる魔力によって破壊して死んでいただろう。
今だからわかる事だが、魔力に目覚める前から強すぎるとわかっている魔力なんて毒でしかない。
しかしアリア様の魔力はその毒から母とぼくを守ってくれた。
あの人は母が自分の魔力を浴び続けて体に蓄積していたなんて知るはずもないだろうし、その結果としてぼくが無事に産まれたなんて思いもしないだろう。そして、母とぼくの命の恩人であるアリア様にぼくがどんな想いを寄せているかなんてことも考えもしないのだ。
産まれる前からアリア様が好きだった。
そして無事に産まれ落ちたぼくをあの人が優しく抱いてくれた。その輝く魔力を全身で感じ、思わず目を開けるとアリア様がそこにいた。
ぼくに名前をつけてくれて、笑顔を向けてくれて……もっとアリア様が好きになった。ぼくはこの人の側にいるために産まれてきた。そう思ったのだ。
最初はそれこそ母親のように姉のように慕っているんだろうと自分でも思っていた。通常とは違う成長をするぼくをありのままに受け入れてくれて、いつも優しいアリア様……そのアリア様の唇がぼくの頬に触れたのだ。
身体の中を雷が貫いた気がした。あまりの衝撃に混乱し、その後母に冷静に諭されることになるのだが……ぼくはその時確信する。
アリア様を……女性として愛しているのだと。
早く大人になりたかった。都合の良いことに(?)ぼくの体と精神はこの多すぎる魔力のせいで異常な早さで成長している。それでもアリア様はぼくを子供扱い……いや赤ちゃん扱いするのだが。
とある日、“森の魔女”様の家に泊まる事になった。一緒に寝たいと言うアリア様を断固拒否してひとりでベッドに潜り込む。
アリア様は良い匂いがするし、柔らかいし、いくらぼくの見た目がまだ子供だからって女性として意識してしまっているアリア様と同じ布団で同衾するなんてもってのほかだ。ぼくは見た目がまだ子供のくせに、中身はやたら大人になってしまっているらしい。
……コホン。とにかく、いまだヨチヨチ歩きのぼくがそんないかがわしい考えをもってるなんてバレたら嫌われてしまうかもしれない。それだけは避けなければならないのだ。ほんとは一緒に眠って抱き締めてもらいたいなんて言えるわけがない。
なのに!ぼくが、こんなに悩んで耐えていると言うのに、この人は……!
ほのかに香る優しい匂いと、自分を包む柔らかい感触。その心地よさに思わず頬擦りをして……目が覚めた時の衝撃は今でも忘れられない。
別室に追いやったはずのアリア様がぼくを抱き締めて眠っていたのだ。
ぼくが頬擦りをしていたのはアリア様の柔らかな胸で、急いで顔を上にそらしたらそこには無防備に眠るアリア様の唇が目前に迫っていた。
「……!」
時間としては、ほんの一瞬だったと思う。
ぼくはその時の衝撃で一気に思春期までの体の成長を遂げてしまった。
背が伸びた。アリア様のお気に入りのぷにぷにほっぺも引き締まり、体つきが幼児から少年へと変わった。
身に付けていた子供用の寝間着はボタンが弾け飛び、そこからはみ出た肉体を自分で確認して、下半身を見たときに思わず悲鳴をあげた。
「……ん?コハクぅ……」
「あ、ありあさ……うわぁぁぁあーーーー!!」
ばふっ!!「ぶっ?!」
ぼくは目を覚ましてこちらを見たアリア様の顔に枕を押し付けて転がるように逃げ出した。
しばらく別室に閉じ籠っていたが、シロさんが相談に乗ってくれて“森の魔女”様もぼくの体の変化について教えてくれた。これは大人の男性になった、ということらしい。アリア様の寝顔や少しはだけた胸元を見てこんなことになるなんて……恥ずかしい。
それからというもの、アリア様は相変わらず一緒に寝ようとするしお風呂にまで侵入してくる。
「コハク、背中を洗ってあげ「出ていってください!!」えーっなんでよぉっ!」
あの人は、“森の魔女”様と母に頼んであんなにお説教してもらったはずなのに、いまだにぼくのことをヨチヨチ歩きの赤子の時と同じ扱いをするのだ。
素肌にタオル1枚を巻いただけのアリア様の姿を見た瞬間に、ぼくがどれだけ大変な事になってるかわからない。アリア様の眼鏡が湯気でくもっていてよかった。ぼくがどんな顔をしていたかなんて見えていないだろう。
アリア様を風呂場から追い出した後、一瞬見てしまったアリア様の体の曲線を思い出してしまい鼻血が出て倒れてしまったのをシロさんが発見してくれた。
「ピィピィ」
「そうなんですよ、シロさん。アリア様はなんであんなに無防備というか……」
「ピィ~ピィ~」
「わかってくれますか!シロさん!」
シロさんはアリア様の専属聖霊でとても賢い小鳥だ。言葉はわからないのだが、なぜか意志疎通が出来てしまう。
“森の魔女”様の家に住み込みで暮らすようになってからは母が定期的にぼくの様子を見に来た。……正確にはアリア様の、だが。母は昔からアリア様至上主義である。
ぼくの話を聞いては「お嬢様には困ったものね」と言いながら、いつもの無表情なのに鋭い視線でぼくを見ながら必ずこう言う。
「コハク……お前はお嬢様をお守りする立場なのだから間違っても襲ったりしたらどうなるかわかっているでしょうね?」
「じゃあアリア様の行動をどうにかしてよ!」
母にはぼくのアリア様へ対する気持ちなど全部バレている。体が一気に成長してしまった理由も鼻血を出して倒れた理由も。でもぼくだって頑張っているのに、アリア様が寝床に潜り込んだり風呂場に入ってきたりとしてくるからぼくが余計に悩むことになっているのだ。
「お嬢様には釘を刺しておきますが……その攻撃を我慢してこそ立派な従者というものです。自分で望んだ立場でしょう」
「……うぅ」
確かにアリア様の側にいたくて従者になりたいと自分から望んだが、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったのだ。
「そうですね……せめてお嬢様がちゃんとお前のことをひとりの男性として扱って下さるまでは我慢するしかないでしょう。
……ただあのお嬢様ですから」
母が珍しく眉を八の字曲げてため息をついた。
母曰く、アリア様は昔は地位の高いご令嬢でなんと王子の婚約者だったそうだ。しかしアリア様はその立場を嫌がり魔力に目覚めてからもそれを隠していたそうだ。
魔力があることを公表すればそれこそ贅沢な生活を手に入れられただろうに、アリア様は“森の魔女”様の元で修行しながらの今の生活を望んだ。なんと自分の死を偽装してまで令嬢の立場を捨てた。と聞いてぼくはアリア様を尊敬した。そしてなにより、そのまま王子と結婚しなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしたものだ。
母はその頃からアリア様至上主義だったので魔力の秘密を守り、アリア様が望む人生を送れるようにと協力していたのだという。だからこそ、母はいまだにアリア様から絶対の信頼を向けられ心を許されているのだろう。ぼくも母のようになりたい。と、もっと従者らしくなろうと決めた矢先……
「アリア様なんか……絶交です!!」
ぼくは爆発してしまった。
ついでに魔力まで目覚めてしまい、森はめちゃくちゃになってしまった。森の惨事は“森の魔女”様がなんとかしてくれたそうなので感謝しかない。シロさんにもちゃんと謝った。
が
あれからアリア様の顔を見ることが出来ず、ぼくは母に頼んで実家に帰った。
「アリア様の……アリア様のあんぽんたん!」
「まぁ、なんて口の聞き方を……否定はしませんが」
ぼくのひとりごとを聞いてた母がぼくをたしなめた。……でも同意してくれるらしい。
実家に帰ってきたものの、ぼくは部屋に閉じ籠りっぱなしだ。ぼくが産まれたことは近所の人は知っているが魔力のことは知らないので急に大きくなったぼくのことを不審な人物として見られるのが苦痛なのもある。母や父も、きっと近所の人から詮索されたりしてるだろうがぼくの前ではそんな素振りは見せなかった。
「母さん……」
「お嬢様はなんと言うか……恋愛という感情に目覚めること無く今までお育ちになったので、はっきり言って奥手とか純粋とかを通り越して、自分がそんな対象になるはずが無い。と思ってらっしゃいますから」
「母さんが、その辺をちゃんと教育しておけばよかったんじゃ?」
「していたら、今頃お嬢様には素晴らしい婚約者か夫がいらっしゃることになります。そしてわたしは結婚することなくお嬢様についていきますからお前は産まれていません」
キッパリと断言する母に思わず土下座した。
「アリア様をあんぽんたんに育ててくれてありがとうございます!」
ぼくの土下座を見て母は「わかればよろしい」とうなずくと手紙を差し出した。
「シロさんからお手紙が届きました。コハク宛のようですよ」
「シロさんから?」
受け取った白い封筒には鳥の足跡がペタペタとついていた。ぼくはシロさんとなんとなく意志疎通は出来るが、足文字はまだわからない。しかし母がぼく宛だというのならばそうなのだろう。
「これは……」
封筒の中には1枚の白い便箋。その内容は……足跡がいっぱいついていて、シロさんのだと思われる白い羽根がひとつ入っていた。
さっぱりわからない。と首をひねるぼくの後ろから手紙を覗き込んだ母が言った。
「どうやらお嬢様が熱を出して寝込んでいるようですね。うわ言でコハクの名を呼んでいるとか……。
コハクに早く戻ってきて欲しいようですよ。その羽根にコハクの魔力を乗せれば森まで一瞬で帰れ「アリア様ーーーーっ!」……フフ、気をつけて」
最後まで聞くこと無くコハクは羽根を握りしめて姿を消した。いつも無表情の母が優しい微笑みを浮かべていることなどきっと気づかなかっただろう。
「……あれ?コハクはどうしたんだ」
コハクの様子を見に来ただろう男……ハンナの夫にしてコハクの父親が扉を開けたが、すでにコハクの姿はなかった。
「お嬢様の元へ帰りました」
再びいつもの無表情に戻り淡々と告げるハンナを見て、男は笑顔を見せる。
「ハンナがそんなに嬉しそうにしてるってことは、コハクはおじょーさんと仲直りできそうなのかい?」
アリアですらもよく観察しないとわからないハンナの感情をひと目見ただけで理解してしまうこの男も、なかなかの強者のようであった。
いや、曲がりなりにも主人に対して従者の分際でそんな事を言ってはいけない。もっとこう、なんていうか……。
そう、鈍感で阿呆で……やっぱりあんぽんたんだ!
母親のお腹の中にいる頃からアリア様の魔力を感じていた。そして自我を持つ前からこの人の元へ行きたいと……ずっと側にいたいと願って母親に訴えていたのだ。
母はたぶんかなり長い間この人の魔力を浴びていたのだろう。体質的なものもあったのだろうが、母はその魔力を自身の体に蓄積していたのだ。
そんな母の胎内はアリア様の魔力に満ちていてぼくは生命を授かった瞬間からこの居心地の良い魔力に包まれて育っていた。
優しくて、生き抜くための強い意思を持ち、そしてぼくという生命を温かく守ってくれる。
ぼくはたぶん、この人の魔力によって生かされた。
胎児であった頃から魔力が強かったぼくは、もしこの魔力の守護が無ければ育つ事も無く母親の体をその強すぎる魔力によって破壊して死んでいただろう。
今だからわかる事だが、魔力に目覚める前から強すぎるとわかっている魔力なんて毒でしかない。
しかしアリア様の魔力はその毒から母とぼくを守ってくれた。
あの人は母が自分の魔力を浴び続けて体に蓄積していたなんて知るはずもないだろうし、その結果としてぼくが無事に産まれたなんて思いもしないだろう。そして、母とぼくの命の恩人であるアリア様にぼくがどんな想いを寄せているかなんてことも考えもしないのだ。
産まれる前からアリア様が好きだった。
そして無事に産まれ落ちたぼくをあの人が優しく抱いてくれた。その輝く魔力を全身で感じ、思わず目を開けるとアリア様がそこにいた。
ぼくに名前をつけてくれて、笑顔を向けてくれて……もっとアリア様が好きになった。ぼくはこの人の側にいるために産まれてきた。そう思ったのだ。
最初はそれこそ母親のように姉のように慕っているんだろうと自分でも思っていた。通常とは違う成長をするぼくをありのままに受け入れてくれて、いつも優しいアリア様……そのアリア様の唇がぼくの頬に触れたのだ。
身体の中を雷が貫いた気がした。あまりの衝撃に混乱し、その後母に冷静に諭されることになるのだが……ぼくはその時確信する。
アリア様を……女性として愛しているのだと。
早く大人になりたかった。都合の良いことに(?)ぼくの体と精神はこの多すぎる魔力のせいで異常な早さで成長している。それでもアリア様はぼくを子供扱い……いや赤ちゃん扱いするのだが。
とある日、“森の魔女”様の家に泊まる事になった。一緒に寝たいと言うアリア様を断固拒否してひとりでベッドに潜り込む。
アリア様は良い匂いがするし、柔らかいし、いくらぼくの見た目がまだ子供だからって女性として意識してしまっているアリア様と同じ布団で同衾するなんてもってのほかだ。ぼくは見た目がまだ子供のくせに、中身はやたら大人になってしまっているらしい。
……コホン。とにかく、いまだヨチヨチ歩きのぼくがそんないかがわしい考えをもってるなんてバレたら嫌われてしまうかもしれない。それだけは避けなければならないのだ。ほんとは一緒に眠って抱き締めてもらいたいなんて言えるわけがない。
なのに!ぼくが、こんなに悩んで耐えていると言うのに、この人は……!
ほのかに香る優しい匂いと、自分を包む柔らかい感触。その心地よさに思わず頬擦りをして……目が覚めた時の衝撃は今でも忘れられない。
別室に追いやったはずのアリア様がぼくを抱き締めて眠っていたのだ。
ぼくが頬擦りをしていたのはアリア様の柔らかな胸で、急いで顔を上にそらしたらそこには無防備に眠るアリア様の唇が目前に迫っていた。
「……!」
時間としては、ほんの一瞬だったと思う。
ぼくはその時の衝撃で一気に思春期までの体の成長を遂げてしまった。
背が伸びた。アリア様のお気に入りのぷにぷにほっぺも引き締まり、体つきが幼児から少年へと変わった。
身に付けていた子供用の寝間着はボタンが弾け飛び、そこからはみ出た肉体を自分で確認して、下半身を見たときに思わず悲鳴をあげた。
「……ん?コハクぅ……」
「あ、ありあさ……うわぁぁぁあーーーー!!」
ばふっ!!「ぶっ?!」
ぼくは目を覚ましてこちらを見たアリア様の顔に枕を押し付けて転がるように逃げ出した。
しばらく別室に閉じ籠っていたが、シロさんが相談に乗ってくれて“森の魔女”様もぼくの体の変化について教えてくれた。これは大人の男性になった、ということらしい。アリア様の寝顔や少しはだけた胸元を見てこんなことになるなんて……恥ずかしい。
それからというもの、アリア様は相変わらず一緒に寝ようとするしお風呂にまで侵入してくる。
「コハク、背中を洗ってあげ「出ていってください!!」えーっなんでよぉっ!」
あの人は、“森の魔女”様と母に頼んであんなにお説教してもらったはずなのに、いまだにぼくのことをヨチヨチ歩きの赤子の時と同じ扱いをするのだ。
素肌にタオル1枚を巻いただけのアリア様の姿を見た瞬間に、ぼくがどれだけ大変な事になってるかわからない。アリア様の眼鏡が湯気でくもっていてよかった。ぼくがどんな顔をしていたかなんて見えていないだろう。
アリア様を風呂場から追い出した後、一瞬見てしまったアリア様の体の曲線を思い出してしまい鼻血が出て倒れてしまったのをシロさんが発見してくれた。
「ピィピィ」
「そうなんですよ、シロさん。アリア様はなんであんなに無防備というか……」
「ピィ~ピィ~」
「わかってくれますか!シロさん!」
シロさんはアリア様の専属聖霊でとても賢い小鳥だ。言葉はわからないのだが、なぜか意志疎通が出来てしまう。
“森の魔女”様の家に住み込みで暮らすようになってからは母が定期的にぼくの様子を見に来た。……正確にはアリア様の、だが。母は昔からアリア様至上主義である。
ぼくの話を聞いては「お嬢様には困ったものね」と言いながら、いつもの無表情なのに鋭い視線でぼくを見ながら必ずこう言う。
「コハク……お前はお嬢様をお守りする立場なのだから間違っても襲ったりしたらどうなるかわかっているでしょうね?」
「じゃあアリア様の行動をどうにかしてよ!」
母にはぼくのアリア様へ対する気持ちなど全部バレている。体が一気に成長してしまった理由も鼻血を出して倒れた理由も。でもぼくだって頑張っているのに、アリア様が寝床に潜り込んだり風呂場に入ってきたりとしてくるからぼくが余計に悩むことになっているのだ。
「お嬢様には釘を刺しておきますが……その攻撃を我慢してこそ立派な従者というものです。自分で望んだ立場でしょう」
「……うぅ」
確かにアリア様の側にいたくて従者になりたいと自分から望んだが、まさかこんなことになるなんて思いもしなかったのだ。
「そうですね……せめてお嬢様がちゃんとお前のことをひとりの男性として扱って下さるまでは我慢するしかないでしょう。
……ただあのお嬢様ですから」
母が珍しく眉を八の字曲げてため息をついた。
母曰く、アリア様は昔は地位の高いご令嬢でなんと王子の婚約者だったそうだ。しかしアリア様はその立場を嫌がり魔力に目覚めてからもそれを隠していたそうだ。
魔力があることを公表すればそれこそ贅沢な生活を手に入れられただろうに、アリア様は“森の魔女”様の元で修行しながらの今の生活を望んだ。なんと自分の死を偽装してまで令嬢の立場を捨てた。と聞いてぼくはアリア様を尊敬した。そしてなにより、そのまま王子と結婚しなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしたものだ。
母はその頃からアリア様至上主義だったので魔力の秘密を守り、アリア様が望む人生を送れるようにと協力していたのだという。だからこそ、母はいまだにアリア様から絶対の信頼を向けられ心を許されているのだろう。ぼくも母のようになりたい。と、もっと従者らしくなろうと決めた矢先……
「アリア様なんか……絶交です!!」
ぼくは爆発してしまった。
ついでに魔力まで目覚めてしまい、森はめちゃくちゃになってしまった。森の惨事は“森の魔女”様がなんとかしてくれたそうなので感謝しかない。シロさんにもちゃんと謝った。
が
あれからアリア様の顔を見ることが出来ず、ぼくは母に頼んで実家に帰った。
「アリア様の……アリア様のあんぽんたん!」
「まぁ、なんて口の聞き方を……否定はしませんが」
ぼくのひとりごとを聞いてた母がぼくをたしなめた。……でも同意してくれるらしい。
実家に帰ってきたものの、ぼくは部屋に閉じ籠りっぱなしだ。ぼくが産まれたことは近所の人は知っているが魔力のことは知らないので急に大きくなったぼくのことを不審な人物として見られるのが苦痛なのもある。母や父も、きっと近所の人から詮索されたりしてるだろうがぼくの前ではそんな素振りは見せなかった。
「母さん……」
「お嬢様はなんと言うか……恋愛という感情に目覚めること無く今までお育ちになったので、はっきり言って奥手とか純粋とかを通り越して、自分がそんな対象になるはずが無い。と思ってらっしゃいますから」
「母さんが、その辺をちゃんと教育しておけばよかったんじゃ?」
「していたら、今頃お嬢様には素晴らしい婚約者か夫がいらっしゃることになります。そしてわたしは結婚することなくお嬢様についていきますからお前は産まれていません」
キッパリと断言する母に思わず土下座した。
「アリア様をあんぽんたんに育ててくれてありがとうございます!」
ぼくの土下座を見て母は「わかればよろしい」とうなずくと手紙を差し出した。
「シロさんからお手紙が届きました。コハク宛のようですよ」
「シロさんから?」
受け取った白い封筒には鳥の足跡がペタペタとついていた。ぼくはシロさんとなんとなく意志疎通は出来るが、足文字はまだわからない。しかし母がぼく宛だというのならばそうなのだろう。
「これは……」
封筒の中には1枚の白い便箋。その内容は……足跡がいっぱいついていて、シロさんのだと思われる白い羽根がひとつ入っていた。
さっぱりわからない。と首をひねるぼくの後ろから手紙を覗き込んだ母が言った。
「どうやらお嬢様が熱を出して寝込んでいるようですね。うわ言でコハクの名を呼んでいるとか……。
コハクに早く戻ってきて欲しいようですよ。その羽根にコハクの魔力を乗せれば森まで一瞬で帰れ「アリア様ーーーーっ!」……フフ、気をつけて」
最後まで聞くこと無くコハクは羽根を握りしめて姿を消した。いつも無表情の母が優しい微笑みを浮かべていることなどきっと気づかなかっただろう。
「……あれ?コハクはどうしたんだ」
コハクの様子を見に来ただろう男……ハンナの夫にしてコハクの父親が扉を開けたが、すでにコハクの姿はなかった。
「お嬢様の元へ帰りました」
再びいつもの無表情に戻り淡々と告げるハンナを見て、男は笑顔を見せる。
「ハンナがそんなに嬉しそうにしてるってことは、コハクはおじょーさんと仲直りできそうなのかい?」
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