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26 ど近眼魔女は諦めるしかない
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「さっきはつい興奮しちゃってすみません……。改めまして、私はルルーシェラ・ウィッチと言います。魔女の村からあなたを探しに来た……落ちこぼれ魔女です。どうか、私の話を聞いてください!」
自分を「魔女」だと名乗る黒髪の少女が頭を下げた。
「魔女……ですって?」
私はこの国に来る前に一定の地域に忘却薬の雨を降らせて森の魔女の噂を消した。元々は都市伝説のような存在としての噂だったし、存在自体を忘れさせればすぐに噂は途切れると思っていたのにまさか知らない国にまで森の魔女の話が広がっていたなんて誤算である。いや、噂を聞いても信じる人なんていないだろうと思っていたのだ。私の知っている世界ではそうだったから。
もちろん否定はした。幸い?な事にシロと大根は気絶していて動かないし、今の私は薬師としてこの国に来ている。元は悪役令嬢とは言え今の世界では悪役令嬢を引退しヒロインとも無関係なのだから最早モブである。なので、誤魔化せる自信はあった。あったのだが……。
それでも「話を聞いてくれるだけでいいから」と懇願され、話だけならと仕方なく承諾したのである。
その魔女の話に、私は戸惑いを隠せずにいた。
「全てを信じてもらえるかはわかりませんが……」
そう言って魔女ことルルーシェラが口を開いた。
魔女の村の事、王子の事、乙女ゲームの事、男爵令嬢の事、そして悪役令嬢の事。
しかもその悪役令嬢はルルーシェラの双子の姉で王子共々転生者で、ルルーシェラが魔女の才能に目覚めないと悪役令嬢が犠牲になるかもしれないと……。
魔女の才能。それを聞いて思ったことは魔力持ちが開花させる特別な才能の事だろうということだ。つまりは同じ世界の感覚ということになる。しかも他にも転生者までいるなんて……元々はラノベの世界のはずなのに、私の知らないゲームの世界と繋がってしまっているようだ。
さすがに自分の関わる世界以外の事まで面倒は見切れないというのが正直なところだが。
「魔女の村のばっちゃん……村長が、先代の森の魔女様と知り合いだと言っていました。なんでも先代の森の魔女様が作ったとある薬を巡って争いが起きた時に出会ったらしくて、実はその薬が失敗作で世界の理を揺るがす物になる可能性があるとわかってうちの村長がそれを誤魔化す手伝いをしたそうなんです。数年に一度くらいの感覚で近況を報告しあっていたとかで弟子を迎えた事までは知っていました。その後連絡が途絶えてから代替わりしたと噂を聞いて心配していたと……。私は村長から裏技を教えてもらって“森”に行きました。けれどそこに森の魔女はいなかった。
森の魔女が“森”から出てこなくてはいけないような一大事があったんですよね?」
「それは……」
「答えたくないのなら聞きません。正体がバレたくない気持ちはわかりますから……ただ」
師匠の昔の話を聞かされてもっと聞きたいと思ってしまった。師匠はあまり自分の過去を語ってくれなかったからまさか他にも魔女がいてしかも交流があったなんて全然知らなかったのだ。その魔女の村長にも会って師匠の事を色々聞いてみたい衝動にかられていた。
でも、私が森の魔女だと確定したら何をお願いされるのかが心配でもあった。これまで森の魔女を探してやって来た人間たちの願いはどれもこれも無茶な事が多かった。もちろん森の魔女でなけれび叶えられない願いだからこそやってきたのだろうが……ヒロインや王子の願いのように自分勝手な願いだったならば森の魔女だとバレた上で逃げなくてはいけなくなる。しかし今の私にはそんな暇は無いのだ。コハクの為の聖霊を探さなくてはいけないのだから……。
「……話はちゃんと聞いたわ。でも私は薬師であって森の魔女なんかじゃ……「無茶な事を願うつもりはありません!ただ私を側に置いてこき使ってくれるだけでいいんです!」へ?」
やっぱり断ろう。そう思っていたのに、私に向かって頭を下げたルルーシェラが発した言葉は想定外でしかなかった。てっきり、才能が開花する薬を作って欲しいとかそんな事を言われると思っていたからだ。
「ばっちゃんや王妃様にも言われましたが、私に足りないのは“刺激”なんです!何がキッカケになるかわからないのだからこそ、いままで私が見たことのない世界で刺激を受けたいんです!森の魔女……ううん、アリアさんの元でならそれが叶うってそんな気がするから!それに────」
そう言って頭を上げたルルーシェラは私の背後を指差してニコリと笑う。その視線につられて振り返ると、なんとそこには、いつの間にか目覚めてすっかり元気になった大根がご機嫌で体操をしていたのだ。
『じぶん、だいこんあしなんで!』
隣国にやってきて得意のアスリート走りは出来ないものの、目覚めの準備運動は欠かさない真面目な大根の頭上の葉っぱがわさわさと揺れている。
「あんなに動き回っている不思議な大根を連れているなんて、森の魔女くらいしかいませんよね?動く大根なんてそれだけで話題になりそうですけど……私を側に置いてくれるなら絶対に他言はしませんけど……どうします?ちなみに、絶対にお役に立つと保証します!」
首を傾げてにっこりと笑みを作るルルーシェラに対して、私は全てを諦めてため息混じりに頷くしかないのだった。
大根の復活のタイミングよ……!と、恨み言を呟きながら。
自分を「魔女」だと名乗る黒髪の少女が頭を下げた。
「魔女……ですって?」
私はこの国に来る前に一定の地域に忘却薬の雨を降らせて森の魔女の噂を消した。元々は都市伝説のような存在としての噂だったし、存在自体を忘れさせればすぐに噂は途切れると思っていたのにまさか知らない国にまで森の魔女の話が広がっていたなんて誤算である。いや、噂を聞いても信じる人なんていないだろうと思っていたのだ。私の知っている世界ではそうだったから。
もちろん否定はした。幸い?な事にシロと大根は気絶していて動かないし、今の私は薬師としてこの国に来ている。元は悪役令嬢とは言え今の世界では悪役令嬢を引退しヒロインとも無関係なのだから最早モブである。なので、誤魔化せる自信はあった。あったのだが……。
それでも「話を聞いてくれるだけでいいから」と懇願され、話だけならと仕方なく承諾したのである。
その魔女の話に、私は戸惑いを隠せずにいた。
「全てを信じてもらえるかはわかりませんが……」
そう言って魔女ことルルーシェラが口を開いた。
魔女の村の事、王子の事、乙女ゲームの事、男爵令嬢の事、そして悪役令嬢の事。
しかもその悪役令嬢はルルーシェラの双子の姉で王子共々転生者で、ルルーシェラが魔女の才能に目覚めないと悪役令嬢が犠牲になるかもしれないと……。
魔女の才能。それを聞いて思ったことは魔力持ちが開花させる特別な才能の事だろうということだ。つまりは同じ世界の感覚ということになる。しかも他にも転生者までいるなんて……元々はラノベの世界のはずなのに、私の知らないゲームの世界と繋がってしまっているようだ。
さすがに自分の関わる世界以外の事まで面倒は見切れないというのが正直なところだが。
「魔女の村のばっちゃん……村長が、先代の森の魔女様と知り合いだと言っていました。なんでも先代の森の魔女様が作ったとある薬を巡って争いが起きた時に出会ったらしくて、実はその薬が失敗作で世界の理を揺るがす物になる可能性があるとわかってうちの村長がそれを誤魔化す手伝いをしたそうなんです。数年に一度くらいの感覚で近況を報告しあっていたとかで弟子を迎えた事までは知っていました。その後連絡が途絶えてから代替わりしたと噂を聞いて心配していたと……。私は村長から裏技を教えてもらって“森”に行きました。けれどそこに森の魔女はいなかった。
森の魔女が“森”から出てこなくてはいけないような一大事があったんですよね?」
「それは……」
「答えたくないのなら聞きません。正体がバレたくない気持ちはわかりますから……ただ」
師匠の昔の話を聞かされてもっと聞きたいと思ってしまった。師匠はあまり自分の過去を語ってくれなかったからまさか他にも魔女がいてしかも交流があったなんて全然知らなかったのだ。その魔女の村長にも会って師匠の事を色々聞いてみたい衝動にかられていた。
でも、私が森の魔女だと確定したら何をお願いされるのかが心配でもあった。これまで森の魔女を探してやって来た人間たちの願いはどれもこれも無茶な事が多かった。もちろん森の魔女でなけれび叶えられない願いだからこそやってきたのだろうが……ヒロインや王子の願いのように自分勝手な願いだったならば森の魔女だとバレた上で逃げなくてはいけなくなる。しかし今の私にはそんな暇は無いのだ。コハクの為の聖霊を探さなくてはいけないのだから……。
「……話はちゃんと聞いたわ。でも私は薬師であって森の魔女なんかじゃ……「無茶な事を願うつもりはありません!ただ私を側に置いてこき使ってくれるだけでいいんです!」へ?」
やっぱり断ろう。そう思っていたのに、私に向かって頭を下げたルルーシェラが発した言葉は想定外でしかなかった。てっきり、才能が開花する薬を作って欲しいとかそんな事を言われると思っていたからだ。
「ばっちゃんや王妃様にも言われましたが、私に足りないのは“刺激”なんです!何がキッカケになるかわからないのだからこそ、いままで私が見たことのない世界で刺激を受けたいんです!森の魔女……ううん、アリアさんの元でならそれが叶うってそんな気がするから!それに────」
そう言って頭を上げたルルーシェラは私の背後を指差してニコリと笑う。その視線につられて振り返ると、なんとそこには、いつの間にか目覚めてすっかり元気になった大根がご機嫌で体操をしていたのだ。
『じぶん、だいこんあしなんで!』
隣国にやってきて得意のアスリート走りは出来ないものの、目覚めの準備運動は欠かさない真面目な大根の頭上の葉っぱがわさわさと揺れている。
「あんなに動き回っている不思議な大根を連れているなんて、森の魔女くらいしかいませんよね?動く大根なんてそれだけで話題になりそうですけど……私を側に置いてくれるなら絶対に他言はしませんけど……どうします?ちなみに、絶対にお役に立つと保証します!」
首を傾げてにっこりと笑みを作るルルーシェラに対して、私は全てを諦めてため息混じりに頷くしかないのだった。
大根の復活のタイミングよ……!と、恨み言を呟きながら。
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