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1。 101回目の婚約破棄
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「セレーネ!今日こそ、本当にお前とは婚約破棄するぞ!わかったか?!」
その人物は鼻息を荒くし、なにやら期待した顔つきで私を指差して叫びました。王家特有のプラチナブロンドの髪とグリーンエメラルドの瞳。容姿だけならば完璧なこの国の第三王子オスカー殿下は今年で私と同じ15歳になるはずなのに、その中身は婚約をしたばかりの幼少期とほとんど変わっていない気がしますが、間違っていないでしょう。
「……またですか」
私は飲みかけのお茶をそっとテーブルに置き、耳にタコが出来そうな程に聞かされてきた台詞に内心ため息をつきました。そう、この茶番は初めてではないです。
なんてことはありません。私の婚約者であるこの第三王子は口癖のようになにかあれば「婚約破棄するぞ」と口にするのですから。
そして毎回、もうそれは息をするかのように婚約破棄の理由をつらつらと滑らかにご満悦な顔で語ってくるのですが、その理由が実にくだらないのです。やれ約束の時間に1分遅れたからだの、やれ相性占いの運勢が悪かったからだの、やれ私の髪型や目の色が気に入らないからだの――――あぁ、くだらなさすぎて真面目に相手にするのも面倒くさいのですが。ため息だってつきたくもなります。
だいたい私たちの婚約は親同士が決めた政略結婚なのですよ?王家と我が家公爵家の契約でもあるのですから、そんな理由で簡単に破棄できるものではないとなぜわからないのでしょうか。
そして毎回お約束のように私の返事は聞かないですし、もちろん自分から陛下にも言いません。婚約破棄に必要な書類を用意するわけでもなく、ただひたすら自分の言い分をわめくだけなのです。そして毎回、数日ほど様子を見てから「やっぱりやめた」と言ってくるのですから本当に手に負えません。
最近は面会の度に今日はどんないちゃもんをつける気なのかと考えるとつい閉口して死んだ魚のような目になってしまうのですが許してほしいです。なにせ、顔を合わせてまともな挨拶もなしにコレなんですもの。そろそろいい加減にして欲しいのですが。
もちろん第三王子と公爵令嬢の面会ともなればいくら婚約者同士とはいえ二人きりになることはありません。毎回王家の薔薇園にあるガゼボで実施されているのもあって王家に仕える使用人たちがズラリと並んでいますし、私専属の侍女も側に控えています。つまり、オスカー殿下の発言に対する証人は山程いるのです。もしかするとオスカー殿下の目は節穴で使用人たちの姿が認識できていないのでは?と真剣に考えたこともあるほどですわ。
……ですが、確かにまだ陛下も含め私のお父様たちにはこの事はバレていません。なぜなら私が報告していないからです。オスカー殿下は陛下たちにバレていないから平気とばかりに婚約破棄と撤回を繰り返しているようですが、使用人や侍女たちにも口止めしているのは私なのです。なぜかと言えば、数日で撤回するのがわかってるのに毎回手続きをやり直すのは面倒くさいのですわ。もし言う通りに破棄したとしても陛下なら多少のいざこざなどすぐに握り潰して絶対にオスカー殿下と私を婚約者に戻そうとするでしょうし、その度に再婚約なんてしていたらキリが無いですもの。子供の戯言だと思って叱るだけにせずに、もっと最初の頃に訴えておけばよかったと後悔のため息が出そうです。
それにどのみち、言い付けたとしてもオスカー殿下のわめく理由では婚約破棄出来ないでしょう。まぁ理由にもよると思いますが、陛下はオスカー殿下に対してとても親バカですからあまり期待は出来ません。せめて、お父様に言い付けてこっそりお仕置きくらいしてもらってもよかったのかもしれませんがそんなくだらない理由でいちいち言い付けるのもばかばかしいと思いますし……オスカー殿下はなんというか素直で思い込みが激しくておっちょこちょいで、まぁ馬鹿なんですけど。昔、誰かが言っていましたが「馬鹿な子ほど可愛い」と言いますしね。
なにせ三歳の時からの付き合いですし、昔はよく一緒に遊んだものです。小枝を投げてとってこいをさせると私の愛犬ルドルフよりも上手にとってきたものですわ。懐かしい思い出です。その頃の私は自分がひとりっ子だったせいかオスカー殿下を見ているとついお節介をやきたくなりお姉さんぶってしまっていましたっけ。あぁ、でもやっぱり末っ子で甘やかされて育ったせいかわがままになってしまったようですわね。昔あんなにちょうきょ……ゲフンゲフン。色々と教えて差し上げたのにすっからかんと忘れているようですわ。
なにせ第一王子はとても優秀で次代の国王に決定しておりますし、第二王子はその補佐役として今から才能を発揮してますから第三王子に出る幕はないのです。それも踏まえての私との婚約だということを分かっていないのでしょうか?オスカー殿下は私と結婚して公爵家に入婿してもらうことになっています。私が女公爵となりオスカー殿下にはサポートに回ってもらう予定なのです。これで王家と公爵家の絆がより深まると現国王とお父様も喜んでおられました。だから、少しくらいのわがままは我慢していたのに……。
そうして、いつものように何も言わずに黙っている私にオスカー殿下は得意気に今回の婚約破棄の理由を言ってきました。もう私を貶める言葉は聞き飽きたのだけど……と思っていた私の耳にはとんでもない台詞が届いたのです。
「俺は運命の相手を見つけたんだ!ヒルダはスタイルもいいし楽しいことを教えてくれるんだぞ!すごいだろう?!」
プチーーーーン!
その得意気な顔を見て、私の中で何かがブチ切れた気がしました。
そうですか、浮気ですか。ヒルダ様と言えば最近学園でオスカー殿下とやたら距離が近いと噂されてる男爵令嬢ですわね。そう言えば、ついこの間もヒルダ様から「オスカー殿下から婚約者の悪口をいつも聞かされているのよ」と謎のマウントをとられたばかりでした。オスカー殿下が私を貶すなんていつものことですし、さすがに浮気まではしないだろうとスルーしていましたが……。
へぇ、そうだったんですか。スタイルの良いアバ○レにそんなに楽しいことを教えてもらったんですか。それはそれは……よかったですわね?
こんなにイラッとしたのは「今日は夜更かしして眠いからお出掛けはキャンセルだ!これはセレーネのせいなんだから、無理強いするなら婚約破棄だぞ!」と言われた時以来です。無理強いもなにもそちらが突然お出掛けしたいからって私の予定を無理矢理変更させたんじゃないですか。さらに約束の時間をすっぽかして大遅刻してきたくせに、目の下に隈を作るくらい夜更かししたからって理不尽にも全ての責任を私に押し付けてましたわね。私は別に一緒にお出かけしたかったわけではなかったので「申し訳ありません。どうぞ、ゆっくりお休み下さい(もう2度と約束なんかするか)」と怒りを抑えたのを思い出してしまいました。こうして考えると、嫌な思い出しかないことも。
「……承知いたしました」
「へ?」
私がなんとか声を絞り出すと、オスカー殿下はなぜかきょとんとした顔をしています。喜ぶかと思いましたが、もしかして私が取り乱すのを期待していたのかしら。まさか、オスカー殿下に泣いて縋るとでも?そうだとしたら、なんて馬鹿らしいのかしら。
「婚約破棄でよろしいです。と申しました。どうぞ、運命の方とお幸せに」
「えっ、ちょっ、セレーネ?!」
私は完璧な淑女のお辞儀をし、その場をあとにしました。もちろんそのままお父様のもとへ行くためです。書類を揃えてからなんて悠長なことなど言っていられません。もう、1秒だってこの場にはいたくなかったのですもの。
婚約破棄を言われ続けて、なんと今回で101回目。しかも今回の理由はオスカー殿下の浮気です。確かに私たちは政略結婚の為の婚約者ですしお互いに恋愛感情なんてありません。ですが、それでも結婚前から浮気をして愛人を作ってからの婚約破棄なんて……あまりにもマナー違反ではないですか!自分の非を認め、穏便に婚約を解消する手立てだってあったはずなのにそうしないということはきっと今回も私に責任を押し付ける気なのでしょう。“自分は悪くない。セレーネのせいだ”。オスカー殿下は都合が悪くなると顔を背けてていつもそう言ってましたもの。そう思ったら我慢できなかったのです。逆に今まで我慢していたことを褒めて欲しいくらいですわ。
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「……またですか」
私は飲みかけのお茶をそっとテーブルに置き、耳にタコが出来そうな程に聞かされてきた台詞に内心ため息をつきました。そう、この茶番は初めてではないです。
なんてことはありません。私の婚約者であるこの第三王子は口癖のようになにかあれば「婚約破棄するぞ」と口にするのですから。
そして毎回、もうそれは息をするかのように婚約破棄の理由をつらつらと滑らかにご満悦な顔で語ってくるのですが、その理由が実にくだらないのです。やれ約束の時間に1分遅れたからだの、やれ相性占いの運勢が悪かったからだの、やれ私の髪型や目の色が気に入らないからだの――――あぁ、くだらなさすぎて真面目に相手にするのも面倒くさいのですが。ため息だってつきたくもなります。
だいたい私たちの婚約は親同士が決めた政略結婚なのですよ?王家と我が家公爵家の契約でもあるのですから、そんな理由で簡単に破棄できるものではないとなぜわからないのでしょうか。
そして毎回お約束のように私の返事は聞かないですし、もちろん自分から陛下にも言いません。婚約破棄に必要な書類を用意するわけでもなく、ただひたすら自分の言い分をわめくだけなのです。そして毎回、数日ほど様子を見てから「やっぱりやめた」と言ってくるのですから本当に手に負えません。
最近は面会の度に今日はどんないちゃもんをつける気なのかと考えるとつい閉口して死んだ魚のような目になってしまうのですが許してほしいです。なにせ、顔を合わせてまともな挨拶もなしにコレなんですもの。そろそろいい加減にして欲しいのですが。
もちろん第三王子と公爵令嬢の面会ともなればいくら婚約者同士とはいえ二人きりになることはありません。毎回王家の薔薇園にあるガゼボで実施されているのもあって王家に仕える使用人たちがズラリと並んでいますし、私専属の侍女も側に控えています。つまり、オスカー殿下の発言に対する証人は山程いるのです。もしかするとオスカー殿下の目は節穴で使用人たちの姿が認識できていないのでは?と真剣に考えたこともあるほどですわ。
……ですが、確かにまだ陛下も含め私のお父様たちにはこの事はバレていません。なぜなら私が報告していないからです。オスカー殿下は陛下たちにバレていないから平気とばかりに婚約破棄と撤回を繰り返しているようですが、使用人や侍女たちにも口止めしているのは私なのです。なぜかと言えば、数日で撤回するのがわかってるのに毎回手続きをやり直すのは面倒くさいのですわ。もし言う通りに破棄したとしても陛下なら多少のいざこざなどすぐに握り潰して絶対にオスカー殿下と私を婚約者に戻そうとするでしょうし、その度に再婚約なんてしていたらキリが無いですもの。子供の戯言だと思って叱るだけにせずに、もっと最初の頃に訴えておけばよかったと後悔のため息が出そうです。
それにどのみち、言い付けたとしてもオスカー殿下のわめく理由では婚約破棄出来ないでしょう。まぁ理由にもよると思いますが、陛下はオスカー殿下に対してとても親バカですからあまり期待は出来ません。せめて、お父様に言い付けてこっそりお仕置きくらいしてもらってもよかったのかもしれませんがそんなくだらない理由でいちいち言い付けるのもばかばかしいと思いますし……オスカー殿下はなんというか素直で思い込みが激しくておっちょこちょいで、まぁ馬鹿なんですけど。昔、誰かが言っていましたが「馬鹿な子ほど可愛い」と言いますしね。
なにせ三歳の時からの付き合いですし、昔はよく一緒に遊んだものです。小枝を投げてとってこいをさせると私の愛犬ルドルフよりも上手にとってきたものですわ。懐かしい思い出です。その頃の私は自分がひとりっ子だったせいかオスカー殿下を見ているとついお節介をやきたくなりお姉さんぶってしまっていましたっけ。あぁ、でもやっぱり末っ子で甘やかされて育ったせいかわがままになってしまったようですわね。昔あんなにちょうきょ……ゲフンゲフン。色々と教えて差し上げたのにすっからかんと忘れているようですわ。
なにせ第一王子はとても優秀で次代の国王に決定しておりますし、第二王子はその補佐役として今から才能を発揮してますから第三王子に出る幕はないのです。それも踏まえての私との婚約だということを分かっていないのでしょうか?オスカー殿下は私と結婚して公爵家に入婿してもらうことになっています。私が女公爵となりオスカー殿下にはサポートに回ってもらう予定なのです。これで王家と公爵家の絆がより深まると現国王とお父様も喜んでおられました。だから、少しくらいのわがままは我慢していたのに……。
そうして、いつものように何も言わずに黙っている私にオスカー殿下は得意気に今回の婚約破棄の理由を言ってきました。もう私を貶める言葉は聞き飽きたのだけど……と思っていた私の耳にはとんでもない台詞が届いたのです。
「俺は運命の相手を見つけたんだ!ヒルダはスタイルもいいし楽しいことを教えてくれるんだぞ!すごいだろう?!」
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そうですか、浮気ですか。ヒルダ様と言えば最近学園でオスカー殿下とやたら距離が近いと噂されてる男爵令嬢ですわね。そう言えば、ついこの間もヒルダ様から「オスカー殿下から婚約者の悪口をいつも聞かされているのよ」と謎のマウントをとられたばかりでした。オスカー殿下が私を貶すなんていつものことですし、さすがに浮気まではしないだろうとスルーしていましたが……。
へぇ、そうだったんですか。スタイルの良いアバ○レにそんなに楽しいことを教えてもらったんですか。それはそれは……よかったですわね?
こんなにイラッとしたのは「今日は夜更かしして眠いからお出掛けはキャンセルだ!これはセレーネのせいなんだから、無理強いするなら婚約破棄だぞ!」と言われた時以来です。無理強いもなにもそちらが突然お出掛けしたいからって私の予定を無理矢理変更させたんじゃないですか。さらに約束の時間をすっぽかして大遅刻してきたくせに、目の下に隈を作るくらい夜更かししたからって理不尽にも全ての責任を私に押し付けてましたわね。私は別に一緒にお出かけしたかったわけではなかったので「申し訳ありません。どうぞ、ゆっくりお休み下さい(もう2度と約束なんかするか)」と怒りを抑えたのを思い出してしまいました。こうして考えると、嫌な思い出しかないことも。
「……承知いたしました」
「へ?」
私がなんとか声を絞り出すと、オスカー殿下はなぜかきょとんとした顔をしています。喜ぶかと思いましたが、もしかして私が取り乱すのを期待していたのかしら。まさか、オスカー殿下に泣いて縋るとでも?そうだとしたら、なんて馬鹿らしいのかしら。
「婚約破棄でよろしいです。と申しました。どうぞ、運命の方とお幸せに」
「えっ、ちょっ、セレーネ?!」
私は完璧な淑女のお辞儀をし、その場をあとにしました。もちろんそのままお父様のもとへ行くためです。書類を揃えてからなんて悠長なことなど言っていられません。もう、1秒だってこの場にはいたくなかったのですもの。
婚約破棄を言われ続けて、なんと今回で101回目。しかも今回の理由はオスカー殿下の浮気です。確かに私たちは政略結婚の為の婚約者ですしお互いに恋愛感情なんてありません。ですが、それでも結婚前から浮気をして愛人を作ってからの婚約破棄なんて……あまりにもマナー違反ではないですか!自分の非を認め、穏便に婚約を解消する手立てだってあったはずなのにそうしないということはきっと今回も私に責任を押し付ける気なのでしょう。“自分は悪くない。セレーネのせいだ”。オスカー殿下は都合が悪くなると顔を背けてていつもそう言ってましたもの。そう思ったら我慢できなかったのです。逆に今まで我慢していたことを褒めて欲しいくらいですわ。
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