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3。 お茶会
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〈断捨離〉とは、不要な物を〈断ち〉〈捨て〉、物への執着から〈離れる〉ことである。
***
「“断捨離”という言葉を知っておられますか?倭国で流行っている言葉なのですけれど調べてみたらとても面白いと思い共感いたしましたの。ですから私……オスカー殿下のことを断捨離しようと思いますのよ」
「……断捨離ですか」
オスカー殿下の浮気発覚からの婚約破棄宣言をされた翌日、本来なら今日は学園へ行かねばならないのですが特別にお休みを貰いました。1日くらい休んでも勉学に支障はありませんわ。授業の先の先くらいまでならとっくに習得しておりますので。学園での授業は私にとっての復習ですわね。
「ええ。頑張って調教したのに覚えた芸も忘れて他所のメスに尻尾を振るばかりか噛み付いてくる婚約者などもう不要だと判断しまして……捨てることに致しましたの。公爵家に王家の血を入れたがっていたお父様たちには申し訳ないとは思うのですがオスカー殿下を入婿にしたいという執着から離れていただくことにしたんですわ」
「貴女はそれでいいんですか?カタストロフ公爵令嬢。あなたとアレは3歳からの婚約者でしたし、アレの見た目はとても女性に人気があると聞きましたが」
私の目の前にいる男性は優雅な所作でティーカップを口に運びます。流れるような手の動きは完璧ですわね。これがオスカー殿下だったらお茶をがぶ飲みしているところですもの。
え、誰とお茶会をしているのかって?
オスカー殿下のお兄様……第二王子ハルベルト殿下ですが、なにか?
実は私、第二王子とはお茶友達ですのよ。本日は我が公爵家の客間で急遽お茶会をいたしておりますわ。もちろん各々が信頼している侍女や執事も待機してますのでふたりっきりではありません。ハルベルト殿下は私より2歳上で、とても博識です。落ち着いていらっしゃるので大人っぽい雰囲気の殿方ですわ。学園では最上学年ですので先輩でもありますわね。ちなみにハルベルト殿下はとても優秀で、すでに卒業までの単位を取得されておりますのよ。ですので私に付き合ってお休みしても支障はないと、こうしてお茶会をしてくださってるのですわ。ありがたいですわね。
「確かに見た目だけは人気がおありのようですわね。私も学園ではたくさんの女生徒から嫉妬されて嫌がらせされていましたもの。そういえばこの間も見知らぬご令嬢が目の前にやって来たと思ったら何もない所で突然転んでしまわれて、何事かと思っていたら私が突き飛ばしたとかなんとか言いがかりをつけてこられたことがありましたわ。なんだったかしら……あ、そうですわ『あなたみたいな性悪女にイケメン王子はもったいないから彼のことは諦めなさい!』と言われたんでしたわ」
「……相変わらず女性を惑わす弟ですね。ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ないです」
「迷惑だなんて、そんな……」
少し複雑そうに笑うハルベルト殿下はご自分の見た目にコンプレックスを抱いていらっしゃいます。実はハルベルト殿下は王家特有の色を持たずにお生まれになってしまったのですわ。灰色がかった銀髪も紺色に近い濃いアクアブルーの瞳も『くすんだ色、濁った色』だと自虐し、なによりも色白なご自分の顔にそばかすがあることを気にしていらっしゃるのです。ちなみに王家特有だと言われているプラチナブロンドの髪とグリーンエメラルドの瞳は確かに王家の血筋の人間によく出てくる色ではありますが、時には違うお色で生まれる方も存在します。それは決して王妃様が不貞を働いたとかハルベルト殿下が養子だとかなどと言うことはなく、どうやらハルベルト殿下は前王太后様……殿下達の曾祖母様にそっくりでそのお色を受け継いだのだとか。賢妃と名高かった前王太后様ですが、やはり肌が弱く公務に苦労なされたと聞いています。しかし隔世遺伝にて優秀な遺伝子を受け継いでいるのですから、決して劣っているわけではありませんのに……。ですが、世間ではオスカー殿下を“美しい輝き王子”、ハルベルト殿下を“くすんだ地味王子”なんて揶揄している愚かな輩がいることも事実なのです。
私はハルベルト殿下のその色味、とても落ち着くので好きなのですけれど。お顔のそばかすだって元々肌が弱くていらっしゃるのに領地に赴いて日焼けしてしまったせいですわ。強い陽射しを浴びすぎると火傷したように肌が荒れてしまう体質なんてこれまでもどれほどのご苦労があったことでしょう。そんな体質にも向き合って前向きに頑張っておられるのにどうして誰もわからないのかしら。
「ハルベルト殿下が頭をお下げになる必要はございませんわ。それに、実際に惑わされているのはオスカー殿下です。ご自分がモテているからと自慢ばかりなさって、男の価値は付き合った女の数だなんて本気で思っているのなら家畜の小屋にでも放り込んでやればいいのです。まぁ、家畜のメスにお相手にされるかは知りませんけれど」
「……相変わらず手厳しいですね」
ふふっ、と静かに微笑むハルベルト殿下の姿に少しだけホッとします。やっぱりハルベルト殿下は笑っていらっしゃる方がいいですわ。
しかし「あっ」とあることを思い出しました。こんな風に私とハルベルト殿下がお茶会をするのはいつものことなので気が付くのが遅れてしまいましたわ。
「あ、あの……そういえば、ハルベルト殿下は先日婚約者が決まったのではなかったですか?確か隣国のエルドラ国の王女様と顔合わせをおこなったとお聞きしましたが……」
私たちの友達関係を知ってる方々は今さら気にしませんが、その婚約者の方から見たら自分の知らない女性と婚約者がお茶会とはいえ自分抜きで会ってるなんて嫌がると思います。私とハルベルト殿下は幼馴染みでもありますけれど、その隣国の王女からしたら関係ありませんもの。私と会っているせいでハルベルト殿下の不貞を疑われたりなんてしたら申し訳なさ過ぎます!
焦る私を見てハルベルト殿下はにっこりと笑みを浮かべました。
「あぁ、それなら破談になりました。その王女ですが僕の顔を見た途端に婚約を怒って嫌がりまして……なんでもオスカーに一目惚れしたからオスカーが良いと言い出した上に暴れて手がつけられなかったので結局白紙になったのです」
別段気にする様子もなくハルベルト殿下はおっしゃりますが、私は見たこともないそのエルドラ国の王女に怒りを感じてしまいます。
「まあ!その王女も見る目がありませんわね……ハルベルト殿下ほど優秀で素敵な方なんてそうそうおりませんのに」
私だって、婿養子をとらねばならない立場でなければ……なんて考えてしまいます。だってハルベルト殿下は私の初恋の相手なんですもの。内緒ですけれどね。
「そう言ってくれるのは、貴女くらいですよ」
そう言って優しく微笑むハルベルト殿下。この方の妻となられる方は絶対幸せになれますわ。私が保証します。あぁ、未来のその方が羨ましいですわ。私がこっそりそんなことを考えていると、ハルベルト殿下は「あぁ、そういえば」と視線を落としてため息をつかれました。
「たぶんですが、貴女の前でわざと転んだり暴言を言ってきた見知らぬ令嬢とはその王女ですよ。オスカーから貴女のことを色々聞き出していたようですし、オスカーと仲良くなりたいからと無理矢理学園に転入していたようですから。さすがに正式に転入手続きをされてしまい止められませんでした。確かオスカーもその場にいたので破談の事はともかく王女の転入のことくらいはお伝えしているかと思ったのですが……」
「まぁ、道理で見たことのない方だと思いました。そういえば、あのオレンジがかった鮮やかな赤い髪はエルドラ国に多い色でしたわよね。隣の国同士なのにこれまであまり交流がありませんでしたから詳しくはわかりませんが……。オスカー殿下からは何も聞いていませんわ。きっとそんなことがあったことすら忘れていらっしゃるのでは?あの脳内は自分に都合のよいことしか覚えられないように出来ていると思われますもの」
「確かに、そうですね。そういえば、今回の婚約は我がラース国とエルドラ国の親睦を深める為だったそうですが……破談になってしまったものは仕方がありません。それにこちらから訴えでもしない限りは今までとさほど変わらない関係のままになるでしょう」
つまり、ハルベルト殿下は今回の破談の原因となった王女の失礼な発言を責める気はないということなのでしょう。なんて懐の深い方なのかしら。まったく、国同士の政略結婚を蹴り飛ばした上にハルベルト殿下よりオスカー殿下の方がいいだなんて……とんだ節穴王女ですわ。それにしても、あのちゃらんぽらん殿下はエルドラ国の王女に何を吹き込んだのかしら?
「あぁ……そういえば、私の髪や瞳のことを蔑んできていましたわ。聞いた事のあるフレーズだと思ったらオスカー殿下からの受け売りでしたのね。いつものクセでついスルーしてしまったのですが、相手がエルドラ国の王族だったならば不敬になってしまうかしら?」
「……貴女の髪と瞳を?」
「ええ。昔、オスカー殿下から言われた言葉と同じでしたわ」
私が昔『お前の髪は虫がよってきそうな甘ったるい髪だな!』とか『お前の瞳はまるで提灯アンコウが泳いでいそうだな!』などと蔑まれた事があると伝えました。もはや笑い話のようなものですし心配をかけたくなかったので出来るだけ軽くおどけた感じで伝えたのですが……なぜかほんの一瞬だけハルベルト殿下のまとう空気が凍りついた気がしました。
「ハルベルト殿下?」
不思議に思った私が首を傾げますと、ハルベルト殿下はすぐにいつも通りの穏やかな雰囲気に戻っています。なんだったのかしら?
「いえ……貴女の髪は芳醇な香りのする魅惑の花の蜜のように美しいし、その瞳も深海の神秘のような美しさなのに、オスカーの目は節穴ですね」
「まぁ、お上手ですわ。でも例えお世辞でもそんな風に言われると嬉しいですわね」
やっぱりハルベルト殿下はお優しいです。誉め言葉もお上手だし、オスカー殿下とは雲泥の差……いえ、ダイヤモンドと砂埃ですわね。
ハルベルト殿下が再びにっこりと微笑むと灰色がかった銀髪がさらりと揺れました。あ、この角度、素敵ですわ。出来ればずっと見ていたいくらいです。
「では例の件ですが……カタストロフ公爵令嬢のご要望は必ず叶えて見せましょう。お任せください」
「ありがとうございます」
実は急遽お茶会を開いた理由は、私がハルベルト殿下にあるお願いをしたかったからなのですわ。まぁ、ハルベルト殿下とお茶会をして疲れた心を癒されたかったのも事実ですけれど……そんなこと言えませんし。でもハルベルト殿下の笑顔を見れたおかげで頑張れそうな気がします。
こうして端から見れば終始穏やかなお茶会は幕を閉めました。
断捨離とは、後腐れなくバッサリとやるべきなのだそうです。ならば徹底的にやらせていただこうと思いますわ。
***
「“断捨離”という言葉を知っておられますか?倭国で流行っている言葉なのですけれど調べてみたらとても面白いと思い共感いたしましたの。ですから私……オスカー殿下のことを断捨離しようと思いますのよ」
「……断捨離ですか」
オスカー殿下の浮気発覚からの婚約破棄宣言をされた翌日、本来なら今日は学園へ行かねばならないのですが特別にお休みを貰いました。1日くらい休んでも勉学に支障はありませんわ。授業の先の先くらいまでならとっくに習得しておりますので。学園での授業は私にとっての復習ですわね。
「ええ。頑張って調教したのに覚えた芸も忘れて他所のメスに尻尾を振るばかりか噛み付いてくる婚約者などもう不要だと判断しまして……捨てることに致しましたの。公爵家に王家の血を入れたがっていたお父様たちには申し訳ないとは思うのですがオスカー殿下を入婿にしたいという執着から離れていただくことにしたんですわ」
「貴女はそれでいいんですか?カタストロフ公爵令嬢。あなたとアレは3歳からの婚約者でしたし、アレの見た目はとても女性に人気があると聞きましたが」
私の目の前にいる男性は優雅な所作でティーカップを口に運びます。流れるような手の動きは完璧ですわね。これがオスカー殿下だったらお茶をがぶ飲みしているところですもの。
え、誰とお茶会をしているのかって?
オスカー殿下のお兄様……第二王子ハルベルト殿下ですが、なにか?
実は私、第二王子とはお茶友達ですのよ。本日は我が公爵家の客間で急遽お茶会をいたしておりますわ。もちろん各々が信頼している侍女や執事も待機してますのでふたりっきりではありません。ハルベルト殿下は私より2歳上で、とても博識です。落ち着いていらっしゃるので大人っぽい雰囲気の殿方ですわ。学園では最上学年ですので先輩でもありますわね。ちなみにハルベルト殿下はとても優秀で、すでに卒業までの単位を取得されておりますのよ。ですので私に付き合ってお休みしても支障はないと、こうしてお茶会をしてくださってるのですわ。ありがたいですわね。
「確かに見た目だけは人気がおありのようですわね。私も学園ではたくさんの女生徒から嫉妬されて嫌がらせされていましたもの。そういえばこの間も見知らぬご令嬢が目の前にやって来たと思ったら何もない所で突然転んでしまわれて、何事かと思っていたら私が突き飛ばしたとかなんとか言いがかりをつけてこられたことがありましたわ。なんだったかしら……あ、そうですわ『あなたみたいな性悪女にイケメン王子はもったいないから彼のことは諦めなさい!』と言われたんでしたわ」
「……相変わらず女性を惑わす弟ですね。ご迷惑をおかけしてしまって申し訳ないです」
「迷惑だなんて、そんな……」
少し複雑そうに笑うハルベルト殿下はご自分の見た目にコンプレックスを抱いていらっしゃいます。実はハルベルト殿下は王家特有の色を持たずにお生まれになってしまったのですわ。灰色がかった銀髪も紺色に近い濃いアクアブルーの瞳も『くすんだ色、濁った色』だと自虐し、なによりも色白なご自分の顔にそばかすがあることを気にしていらっしゃるのです。ちなみに王家特有だと言われているプラチナブロンドの髪とグリーンエメラルドの瞳は確かに王家の血筋の人間によく出てくる色ではありますが、時には違うお色で生まれる方も存在します。それは決して王妃様が不貞を働いたとかハルベルト殿下が養子だとかなどと言うことはなく、どうやらハルベルト殿下は前王太后様……殿下達の曾祖母様にそっくりでそのお色を受け継いだのだとか。賢妃と名高かった前王太后様ですが、やはり肌が弱く公務に苦労なされたと聞いています。しかし隔世遺伝にて優秀な遺伝子を受け継いでいるのですから、決して劣っているわけではありませんのに……。ですが、世間ではオスカー殿下を“美しい輝き王子”、ハルベルト殿下を“くすんだ地味王子”なんて揶揄している愚かな輩がいることも事実なのです。
私はハルベルト殿下のその色味、とても落ち着くので好きなのですけれど。お顔のそばかすだって元々肌が弱くていらっしゃるのに領地に赴いて日焼けしてしまったせいですわ。強い陽射しを浴びすぎると火傷したように肌が荒れてしまう体質なんてこれまでもどれほどのご苦労があったことでしょう。そんな体質にも向き合って前向きに頑張っておられるのにどうして誰もわからないのかしら。
「ハルベルト殿下が頭をお下げになる必要はございませんわ。それに、実際に惑わされているのはオスカー殿下です。ご自分がモテているからと自慢ばかりなさって、男の価値は付き合った女の数だなんて本気で思っているのなら家畜の小屋にでも放り込んでやればいいのです。まぁ、家畜のメスにお相手にされるかは知りませんけれど」
「……相変わらず手厳しいですね」
ふふっ、と静かに微笑むハルベルト殿下の姿に少しだけホッとします。やっぱりハルベルト殿下は笑っていらっしゃる方がいいですわ。
しかし「あっ」とあることを思い出しました。こんな風に私とハルベルト殿下がお茶会をするのはいつものことなので気が付くのが遅れてしまいましたわ。
「あ、あの……そういえば、ハルベルト殿下は先日婚約者が決まったのではなかったですか?確か隣国のエルドラ国の王女様と顔合わせをおこなったとお聞きしましたが……」
私たちの友達関係を知ってる方々は今さら気にしませんが、その婚約者の方から見たら自分の知らない女性と婚約者がお茶会とはいえ自分抜きで会ってるなんて嫌がると思います。私とハルベルト殿下は幼馴染みでもありますけれど、その隣国の王女からしたら関係ありませんもの。私と会っているせいでハルベルト殿下の不貞を疑われたりなんてしたら申し訳なさ過ぎます!
焦る私を見てハルベルト殿下はにっこりと笑みを浮かべました。
「あぁ、それなら破談になりました。その王女ですが僕の顔を見た途端に婚約を怒って嫌がりまして……なんでもオスカーに一目惚れしたからオスカーが良いと言い出した上に暴れて手がつけられなかったので結局白紙になったのです」
別段気にする様子もなくハルベルト殿下はおっしゃりますが、私は見たこともないそのエルドラ国の王女に怒りを感じてしまいます。
「まあ!その王女も見る目がありませんわね……ハルベルト殿下ほど優秀で素敵な方なんてそうそうおりませんのに」
私だって、婿養子をとらねばならない立場でなければ……なんて考えてしまいます。だってハルベルト殿下は私の初恋の相手なんですもの。内緒ですけれどね。
「そう言ってくれるのは、貴女くらいですよ」
そう言って優しく微笑むハルベルト殿下。この方の妻となられる方は絶対幸せになれますわ。私が保証します。あぁ、未来のその方が羨ましいですわ。私がこっそりそんなことを考えていると、ハルベルト殿下は「あぁ、そういえば」と視線を落としてため息をつかれました。
「たぶんですが、貴女の前でわざと転んだり暴言を言ってきた見知らぬ令嬢とはその王女ですよ。オスカーから貴女のことを色々聞き出していたようですし、オスカーと仲良くなりたいからと無理矢理学園に転入していたようですから。さすがに正式に転入手続きをされてしまい止められませんでした。確かオスカーもその場にいたので破談の事はともかく王女の転入のことくらいはお伝えしているかと思ったのですが……」
「まぁ、道理で見たことのない方だと思いました。そういえば、あのオレンジがかった鮮やかな赤い髪はエルドラ国に多い色でしたわよね。隣の国同士なのにこれまであまり交流がありませんでしたから詳しくはわかりませんが……。オスカー殿下からは何も聞いていませんわ。きっとそんなことがあったことすら忘れていらっしゃるのでは?あの脳内は自分に都合のよいことしか覚えられないように出来ていると思われますもの」
「確かに、そうですね。そういえば、今回の婚約は我がラース国とエルドラ国の親睦を深める為だったそうですが……破談になってしまったものは仕方がありません。それにこちらから訴えでもしない限りは今までとさほど変わらない関係のままになるでしょう」
つまり、ハルベルト殿下は今回の破談の原因となった王女の失礼な発言を責める気はないということなのでしょう。なんて懐の深い方なのかしら。まったく、国同士の政略結婚を蹴り飛ばした上にハルベルト殿下よりオスカー殿下の方がいいだなんて……とんだ節穴王女ですわ。それにしても、あのちゃらんぽらん殿下はエルドラ国の王女に何を吹き込んだのかしら?
「あぁ……そういえば、私の髪や瞳のことを蔑んできていましたわ。聞いた事のあるフレーズだと思ったらオスカー殿下からの受け売りでしたのね。いつものクセでついスルーしてしまったのですが、相手がエルドラ国の王族だったならば不敬になってしまうかしら?」
「……貴女の髪と瞳を?」
「ええ。昔、オスカー殿下から言われた言葉と同じでしたわ」
私が昔『お前の髪は虫がよってきそうな甘ったるい髪だな!』とか『お前の瞳はまるで提灯アンコウが泳いでいそうだな!』などと蔑まれた事があると伝えました。もはや笑い話のようなものですし心配をかけたくなかったので出来るだけ軽くおどけた感じで伝えたのですが……なぜかほんの一瞬だけハルベルト殿下のまとう空気が凍りついた気がしました。
「ハルベルト殿下?」
不思議に思った私が首を傾げますと、ハルベルト殿下はすぐにいつも通りの穏やかな雰囲気に戻っています。なんだったのかしら?
「いえ……貴女の髪は芳醇な香りのする魅惑の花の蜜のように美しいし、その瞳も深海の神秘のような美しさなのに、オスカーの目は節穴ですね」
「まぁ、お上手ですわ。でも例えお世辞でもそんな風に言われると嬉しいですわね」
やっぱりハルベルト殿下はお優しいです。誉め言葉もお上手だし、オスカー殿下とは雲泥の差……いえ、ダイヤモンドと砂埃ですわね。
ハルベルト殿下が再びにっこりと微笑むと灰色がかった銀髪がさらりと揺れました。あ、この角度、素敵ですわ。出来ればずっと見ていたいくらいです。
「では例の件ですが……カタストロフ公爵令嬢のご要望は必ず叶えて見せましょう。お任せください」
「ありがとうございます」
実は急遽お茶会を開いた理由は、私がハルベルト殿下にあるお願いをしたかったからなのですわ。まぁ、ハルベルト殿下とお茶会をして疲れた心を癒されたかったのも事実ですけれど……そんなこと言えませんし。でもハルベルト殿下の笑顔を見れたおかげで頑張れそうな気がします。
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