【完結】わがまま婚約者を断捨離したいと思います〜馬鹿な子ほど可愛いとは申しますが、我慢の限界です!〜

As-me.com

文字の大きさ
6 / 25

6。 女帝会議

しおりを挟む
 時刻は今から少し遡る。セレーネが王太子でもある腹黒第一王子と直接対決をしているまさに同時刻、とある温室に作られたティールームにては顔を合わせていた。

 そこは王城の広い庭の片隅にあり、王妃が愛でるためだけに色とりどりの季節外れの花が咲き乱れている。そして、そこには王太子の婚約者であるシラユキ皇女から贈られた倭国を代表する花……“サクラ”と言う名のついた淡い桃色の花を咲かせる珍しい樹木が植えられていた。遠く離れた倭国からこんな立派な樹木を運んでくるなど到底不可能なはずだったが、でそれは可能となっていた。数年前に運ばれてきたこの樹木は、1年かけてこの地に根付いた。そして、そこから毎年これでもかというほどの素晴らしく美しい花を咲かせてきたのだ。それからというものセレーネは王妃の特にお気に入りであった。

 その王妃本人……カトリーナは神妙な面持ちで目の前にいる人物に頭を下げた。いつも輝いている明るい金髪とブルートパーズのようだと言われていた瞳が、心なしかいつもよりくすんで見えた気がした。

「うちのバカ息子が、本当にごめんなさい。リディア」

「カトリーナ様、あなたが頭を下げる必要はありませんわ。――――オスカー殿下についてはあの顔面を地面下にめり込ませても足りないですけれど」

 にっこりと微笑む女性は軽く結んで垂らしたセレーネと同じ蜂蜜色の髪を軽く揺らして笑みを見せた。だがその空色の瞳は決して笑っていない。彼女の名はリディア・カタストロフ。カタストロフ公爵の妻でありセレーネの母親である。ちなみに王妃とは幼少期からの親友でありいわゆる幼馴染みの仲だ。昔からこうやってふたりでお茶会をしていた。いくら親友であろうとも公爵夫人が王妃にこんな砕けた態度をとったり、ましてや頭を下げさせるなどもってのほかだがふたりきりの時は無礼講となっている。もちろん、王妃自身がそう望んだのである。実はこのふたり学生時代に色々とがあったのだが、それも今となっては笑い話にできるほどには気心が知れている仲でもあった。

 だが、いつも和やかなお茶会はいまやピリピリとした空気を漂わせ和やかとは程遠い。もちろんその理由はオスカーのせいであった。

「それでね。陛下に娘の婚約破棄についてご相談に行ったうちの旦那様が全然帰ってこないのだけれど、もしかしなくても陛下が離してくださらないのかしら?先触れもなく出向いた旦那様も悪いと思うのだけれど、伝言もなく外泊させる陛下もどうかと思うのよ」

「ごめんなさい!実は陛下ったら、子供のように駄々をこねてしまって、カタストロフ公爵を困らせているみたいなの。わたくしが事態を把握した時にはすでに手遅れだったのよ。まさか息子たちにまでセレーネちゃんを説得するように頼んでいるなんて思わなかったわ!いくらカタストロフ公爵とは旧知の仲だからって、どれだけ恥を塗り重ねる気なのかしら……」

「あら、カトリーナ様は婚約破棄に反対なさらないの?てっきりセレーネを気に入っているとばかり思っておりましたわ」

「それはもちろん気に入っているわよ!でも、セレーネちゃんはわたくしにとって大切な親友の娘であり義娘になるシラユキちゃんの親友なのよ!それに、なによりも倭国との友好関係を結んでくれたこの国の恩人でもあるわ。それに知っているでしょう?なにより、浮気男は嫌いなのよ!たとえ実の息子であろうとも……いいえ、我が息子だからこそ極刑に値するわ!」

 浮気とは殺人の次に罪のある愚かな行為である。それがカトリーナ王妃の持論なのだ。それは学生時代から掲げている信念でもあった。学生時代にその信念のせいで起こった歴史的大問題があったことを思い出し、リディアは苦笑した。今となっては懐かしい思い出だが、あの頃はそれなりに苦労したものである。そう言えば、あの頃にまだ王太子だった陛下とも一悶着あったなと、リディアが昔の事を考えているとひとり興奮したカトリーナが拳をテーブルに叩きつけていた。

「しかもオスカーったら、セレーネちゃんを罵ったあげくにあんな男爵令嬢を選んだですって?!さらにはうちの次男を馬鹿にして婚約を破談にしたあの隣国の王女を侍らせてるってなにを考えてるのかしら!もしハルベルトが訴えるのをやめるように進言しなければ国家間の問題にしていたところなのよ!?ハルベルトは確かに王家特有の色味とは違うけれどあの賢妃と名高かった憧れの前王太后様にそっくりな自慢の息子なのに!だいたい自分の兄を馬鹿にした女に鼻の下を伸ばすだなんて信じられないわ!あの子はハルベルトの婚約が破談となったあの場にもいたくせに何を見ていたのかしら?!まさかハルベルトよりオスカーの方がいいと暴れたあの王女の言葉で調子に乗ったとでも言うの?!」

「ところで、結局のところ本命は男爵令嬢でその王女は愛人?2番目?として囲っているということでいいのかしら?公爵家に婿入りする予定だった第三王子がお偉くなったものね。まさか男爵家に婿入りして隣国の王女を愛人に侍らすなんて構図が実現するとでも思っているのかしら?うちの愛娘も馬鹿にされたものだわ」

 どうやらすでにオスカーの女性関係は調べ済みのようだが、それはすべてにおいてカトリーナ王妃の逆鱗に触れていた。もちろんリディアの逆鱗にも。泥沼もいいところである。

「それで、調査結果はどうなりましたの?」

「どうやらほとんどの授業をサボってその男爵令嬢と人気のない場所に行っているようよ。移動するときはべったりと腕を絡めて自慢気な顔で歩いていたみたいだわ。日替わりで隣国の王女とも同じことを繰り返し、男爵令嬢と隣国の王女の方は交代でセレーネちゃんに嫌がらせもしていたみたい。まぁ、セレーネちゃんは全く相手にしていなかったようだけれど」

「確かにあの子なら冷静に対処しそうですわね。もしかしたら人物の判別はしていないかもしれないけれど……一応王族を婚約者に持つとなったからには責任と覚悟が必要だとは理解していましたから。それで、とりあえずその男爵令嬢は男爵の身分でありながら公爵令嬢を陥れようとしたのだしもちろん罰して下さいますわよね?」

「ええ、もちろん衛兵を手配済みよ。決して逃さないわ。エルドラ国の方にも連絡をして返事待ちだけれど、セレーネちゃんを害した罪で倭国にもエルドラ国へ圧力をかけてくれるようお願いしたのでそちらは任せていいと思うわ」

 補足として、倭国はシラユキ皇女の親友であり力を持つセレーネを重要人物だと認識している。セレーネ関連の事ならば倭国が断る事はほぼないと言えるだろう。いや、確実にない。なにせ皇女であるシラユキがセレーネのことが大好きだからだ。

「なによりも……シラユキちゃんが今年は“オハナミ”っていう倭国の伝統行事を催してくれるって言っていたのよ。こっちに根付いた“サクラ”は倭国より咲く季節がズレていたから数年かけて統計をとって1番見頃の時期の割り出しをしたばかりなのに!なんでもこの“サクラ”の花を愛でながら“ハナミダンゴ”や“サクラモチ”なる甘味を食してみんなで楽しむものだと教えてもらって、とても楽しみにしていたの。ただ“ハナミダンゴ”や“サクラモチ”はあまり日持ちしないし倭国から持ってくるとなると日数がかかるから、ぜひセレーネちゃんに倭国から持ってきてもらいたいとお願いしようと思っていた矢先だったのよ!それなのにこんなタイミングであのバカ息子オスカーがバカな事をやらかしたおかげでもうセレーネちゃんは怒ってわたくしの頼みを聞いてくれないかもしれないわ!」

 ちなみに倭国からこの国に馬車で来ようとすると1日や2日で着くような距離ではない。あまり保存の効かない食べ物を運ぶには適していないのだが、どんなに遠くからでも、たとえどんなものでも、すぐに運ぶ事ができるのだ。ついでに倭国のシラユキ皇女もで定期的に婚約者に会いに来ている。本当なら一目会うだけでかなりの大規模な移動になるはずがセレーネの図らいで身軽に会いに来れるとシラユキ皇女からはかなり感謝されている。

 シラユキ皇女のことも大好きなカトリーナ王妃は未来の義娘とのふれあいをとても楽しみにしていて、ハッキリ言って実の息子たちよりシラユキ皇女とセレーネの方が好きらしい。だからこそ、そのセレーネを傷付け怒らせたオスカーを許せないでいたのだ。決して“オハナミ”の開催が中止になりそうだからと怒っているわけではない……と思いたい。

「そうね、それについてはセレーネに話をしておくわ。あの子もシラユキ皇女には会いたいでしょうし」

「ほんとに?!」

 喜ぶカトリーナ王妃を見て、リディアはクスッと微笑んだ。いつもは凛とした態度で姿勢正しくしている王妃が自分の前では幼い少女のように表情を変える様子を見て懐かしんでいた。無邪気なところは少女時代から変わっていない。リディアはそんなカトリーナが昔から大好きだった。そんなカトリーナの息子だからこそオスカーの婿入りを受け入れていたのだが、この酷い裏切りだけは決して許す気はなかった。



「さて、では本題に入りましょうか。王妃様……決断を」

「ええ、罪を犯した者へは罰を……。この国では、が法律だとわからせてあげましょう」




 その日、この国の女帝会議が行われたことを関係者である男たちは知らない。


しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。 ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

今さら執着されても困ります

メイリリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」 婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった―― アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。 いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。 蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。 ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。 「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」 ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。 彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。 一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。

婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。

黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。 その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。 王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。 だから、泣かない。縋らない。 私は自分から婚約破棄を願い出る。 選ばれなかった人生を終わらせるために。 そして、私自身の人生を始めるために。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

運命の番より真実の愛が欲しい

サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。 ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。 しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。 運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。 それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。

処理中です...