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17。 決着の時
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「誤解……ですか?」
私はその意味がわからなくて、首を傾げたのでした。
あの後、色々あってオスカー殿下は衛兵たちに取り押さえられました。そしてそのまま国王陛下の待つ部屋に網に包まれたままズルズルと引き摺られて連れて行かれたのですが……もしかしてこの国の兵士たちもオスカー殿下の扱いに慣れてきたのかしら?下手に網から解き放つと大変ですものね。
そして、挨拶を済ませるやいなや国王陛下が私に1枚の報告書を手渡して来たのです。
「う、うむ。問題となった男爵令嬢の件だが媚薬を使った形跡はなかったそうだ。詳しくは宰相が話そう」
陛下の後ろに控えていた新しい宰相が前にでてきます。丸眼鏡に白髭のどこにでもいそうなおじいちゃん宰相ですわ。その昔私からルドルフを奪おうとした前宰相とは違い仕事のできるとても良い人なのですが、こほんと咳払いをしたかと思うと少し言いにくそうに口を開きました。
「えー、はい。隅々まで調べましたがそのような形跡はありませんでした。その男爵令嬢が身につけていたあのくさ……いえ、匂いのきつい香水も不審に思いまして成分を調べたのですが……。どうやらあの香水は娼婦が使っているもので、体臭を誤魔化すために使っていたようでして……娼婦の間ではフェロモン香水と呼ばれていましたがひたすら匂いのきついだけのただの香水でした。風呂に入る時間を短縮するために使用していたとかなんとか……いやはや、年頃のご令嬢にこんな報告をせねばならないとは……」
「娼婦ですか……」
確かにその内容は言いにくいですわね。しかもその業界では“娼婦の香り”として暗黙の了解があるらしく、その香水をつけているのは自分が娼婦であるとアピールしている事になるのだそうですわ。言葉を交わさずに客を誘い込めるのだとか。
あら、つまりその香りを纏っていたヒルダ様はそれくらいオスカー殿下を誘惑したかったと言うことでしょうか?まさか、香りの意味を知っていればオスカー殿下が寄ってくるとでも?
そうでしたらとても情熱熱的な方でしたのね。ですが、さすがにオスカー殿下が娼婦についてまで詳しいとは思えませんけれど。もし詳しかったドン引きです。
それにしても、私も娼婦という存在は知識としては知ってはいますけれど香水云々は初めて知りました。同級生がそんな香水をつけていたとわかるのはさすがにちょっとショックですね。しかしあの鼻が曲がりそうな匂いで誘惑される男性がいるとしたらそれはそれで問題だと思います。貧困に関わる案件ならば王家も考えなければいけないことでしょう。
「……まぁ、とりあえずそれはそれとして。それで、媚薬が使われていなかったからと言って何が誤解なんですの?」
「え、いやだから……オスカーが媚薬を盛られて婚約破棄を宣言したのは誤解だと。だから……」
私の反応が予想外だったのか慌てふためく陛下の姿に私は首をさらに傾げます。まさか媚薬が使われていなかったから全て解決だなんておっしゃりませんよね?
「あら、陛下はちゃんと報告書をお読みになったのですか?オスカー殿下は私にハッキリとヒルダ様が運命の相手だから私と婚約破棄するとおっしゃったのですよ?媚薬が使われていなかったのなら尚更オスカー殿下は本心で男爵令嬢のヒルダ様を愛してらしたってことでしょう?」
「え、いや、だから……「むがーっ!むがーっ!」ええぃ、オスカー!おとなしくしておれ!」
え、なにが暴れているのかって?……私が「話がある」と言った途端「セレーネ、やっぱり俺を愛してくれているんだな!」と馬鹿なことを叫びながら私に飛びかかろうとして、ハルベルト殿下にボッコボコにされてるところに遅れてやってきた騎士たちに捕獲されたオスカー殿下ですが?網に包まれたまま猿轡をされてロープでぐるぐる巻きにされております。
それにしても……ハルベルト殿下が、私に飛びかかろうとしたオスカー殿下の頭を瞬時に網ごとわしづかみにして笑顔のままオスカー殿下をフルボッコにしたのには驚きましたわ。ハルベルト殿下はどちらかというと平和主義で暴力反対なのかと……でも笑顔なのに目が笑ってないまま容赦なくオスカー殿下にお仕置きする姿はなんだか胸が騒ぎました。オスカー殿下をモザイクに出来るなんてハルベルト殿下って意外と鍛えてらしたのね……なんて考えてしまうなんて。まさか、これが噂に聞くギャップ萌え……?!い、いえ。きっと意外だっただけですわ。でも、まさかこんなハードボイルドな一面が見れるなんて……あぁ、でもハルベルト殿下のいつもと違う一面を見れたなんて幸運です。こんな姿が見れるのは今だけかもしれないと、しっかりと目に焼き付けておきました。ちなみにオスカー殿下はモザイクから瞬時に回復しておりましたのでその頑丈さは末恐ろしいほどです。
おっと、考え事をしている場合ではありませんでしたわ。私は姿勢を正し陛下に鋭い視線を向けました。
「……陛下には、私が幼い頃から数えきれない程の婚約破棄宣言を受けていたことも全て報告したはずです。それを長年我慢していた私に対してオスカー殿下がなさった事がヒルダ様との浮気宣言ですわ。さらには学園でエルドラ国の王女を侍らしていたことも調査済みのはずです。つまり、浮気して恋人を作りさらに愛人も侍らしていたオスカー殿下の所業のどこに誤解があったとおっしゃるのですか?」
「そ、それは……ほら、男の甲斐みたいな?」
「そんな浮気を正当化するためだけの戯言など聞く耳を持ちません。それとも陛下は王妃殿下に同じセリフを言えますの?」
ピシャリと言い切れば陛下は黙ってしまわれました。だって王妃殿下の持論は「浮気とは殺人の次に愚かな行為だ」なのですから。私もその意見には賛同致しております。だからこそオスカー殿下の不当な行いが尚更許せないのですわ。だって、結局は誰も幸せになれませんもの。
「それでは、婚約破棄の件は了承して下さいますわね?」
「う、う……「もがもがっぷはっ!違うんだ、セレーネ!俺は騙されていたんだ!」おわっ!暴れるなオスカー!」
あら、もがくから猿轡が外れてしまったようです。口が自由になったオスカー殿下がまたなにか訴えてきました。しつこいですわね。
「……騙されていた。ですか?」
「そうなんだ!俺は浮気なんかしていない!俺はセレーネを愛しているし、すごい男になろうとしていただけなんだ!ヒルダが、自分と居れば俺が皆が羨むすごい男になれるって言ったから!あの違う国からきた女も一緒に歩いてるだけで皆が俺をすごいって!さすがだって言うから、だから……!」
オスカー殿下の見苦しい言い訳を聞いているだけで、頭の奥が一気に冷たくなる気がしました。
この人は何を言っているのかしら?
「私を愛している……ですって?それは本当ですか?」
私は芋虫状態のオスカー殿下に近寄り、そっとその体を起こしてあげます。あぁ、網が少しほどけていますわね。やっぱり強化が必要ですわ。
私の冷めた視線に気付かないのかオスカー殿下は鼻息を荒くして語り出しました。
「そうだ!俺はそのために「では、あなたはそのためにあの方たちを利用したのですか?」……え?」
ぱぁん!! と乾いた音が響き、頬を打たれたオスカー殿下が信じられないという顔をして私を見ました。あぁ、つい平手打ちをしてしまいましたわ。これは不敬になるのかしら。
それにしてもオスカー殿下は本当になんて頑丈なのかしら。だって、叩いた私の手の方が痛いのですけれど……これは手首を捻挫したかしら?かなりズキズキとしています。ちなみにオスカー殿下の頬は平気そうです。あの顔は痛みよりもされたことへのショックを受けているだけですわね。
「セレーネ……」
「あなたは自分が何をしたかわかってますの?ふたりの未来ある少女たちの人生を台無しにしたのですよ?あなたが本当に私を愛していたというのならばきっぱりと拒絶するべきだったのです。
あなたが曖昧な態度をとって、その所業を許した結果。ふたりの少女はどうなりました?ひとりは罪に問われ牢獄へ入れられ、ひとりは母国や実の親からも見放されてしまったのですよ。あなたはその責任をどう取るおつもりですか?あのふたりの行動はすべて、あなたの妻になりたくてしたことなのです。そんなつもりはなかったなんて言い訳ですわ。王族であるあなたがそれを夢見さすような言動をとったからこそだと周りは考えるでしょう。少なくとも私はそう考えます」
「……そ、それは……」
やっと事の重大さがわかったのかオスカー殿下は言葉を失ったようです。どうやらあの方たちもオスカー殿下の思惑に踊らされていた被害者のようですわね。
ですが、これはちゃんとはっきりさせておかなくてはいけませんわ。私への愛がどうのこうので誤魔化されてはいけませんもの。
私はオスカー殿下の瞳を真っ直ぐに見つめました。
「オスカー殿下、あなたが婚約破棄宣言を繰り返していた本当の気持ち(ルドルフを狙っている事)はちゃんとわかってます」
「セ、セレーネ!本当か?!俺の気持ち(セレーネの愛を確かめたくて婚約破棄宣言をしていた事)をわかってくれていたのか?!」
「もちろんですわ。3歳の頃から見てますもの。あなたがどれだけ本気か(“星の子”であるルドルフを欲しがっているか)なんてお見通しですわ。でも、私がそれを認める事(ルドルフを渡す事)は決してありません」
「そんな、セレーネ!俺はずっとそれだけを(セレーネだけを愛していると)想っていたのに……!」
「(ルドルフの事は)諦めて下さい、無理なのです。私はそのためなら(ルドルフを守る為なら)手段を選びませんわ」
「そ、そんなぁ……」
私の言葉にがっくりと項垂れるオスカー殿下。これでルドルフを諦めてくださるかしら?
「陛下、婚約破棄でよろしいですわね?」
「し、しかし、入婿する予定だったとはいえ王子との婚約が破棄となればセレーネ嬢はキズモノ扱いとなるだろう?公爵家はどうするのだ?キズモノとなった令嬢の家に婿養子にくる者などいないぞ?」
やっとオスカー殿下が諦めてくれたようですのに、今度は陛下が痛いところをついてきました。確かに私は婿養子をとらねばならない身です。でもここまでこじれたオスカー殿下とやり直すなんてとても無理ですわ。だって、またいつルドルフを狙い出すかわからないじゃないですか!
「このオスカー殿下と結婚するくらいなら、キズモノでけっこうですわ!今後のことは公爵家の問題ですからお気になさらないでください」
そうハッキリと言い切れば陛下もやっと諦めたのかがっくりと項垂れました。親子揃って項垂れている姿もなんだかシュールですわね。
「ち、ちなみに、それでも認めないって言ったら……?」
チラッとこちらを見てくる陛下。しつこいですわね。そっちがその気ならこちらも秘密兵器を出しますわよ。
「それなら、私も強硬突破いたしますわ」
私はハルベルト殿下から受け取っていた書類の束を陛下の目の前に出しました。
「実は私、とある島を買い取りましたの。この島の所有権を持つ国は獣人の方々でして、ルドルフの事をとーっても崇拝してらっしゃいますのよ。そしてこの島をルドルフを国王とした国家として認めてくださるそうです。もちろんラース国からは手出し出来ないように色々と裏工作もいたしました。ですので、婚約破棄を認めてくださらないなら私はルドルフと一緒にこの新しい国へ渡ります。そして今後“空の流通便”はルドルフの国からしか行えない法律を作りましたの。例え国王からの命令だとしても、別の国の王へは通じませんわ」
「そ、それは、どういうことなのだ……?!」
「我が国の法律では貴族が国を出て新しい国を作るのは反逆者扱いになりますが、犬が独立国家を作るのには何の罪にも問われないではないですか。ですから私はルドルフの国へ亡命いたします。“空の流通便”の国益も全てルドルフの国のものになりますので悪しからず」
「そ、そんなめちゃくちゃなことまかり通るはずがないだろう!“星の子”は我が国の奇跡!よその国へ渡せるはずがない!」
「よその国ではありません、ルドルフの国です。ルドルフは自分の国へ戻るだけですわ。それに、この国から“空の流通便”の権利はルドルフにありそれを自国で行う事の正統性を認める。という許可書も頂いております」
「わ、わしはそんなもの出しておらんぞ!?」
「あら、もちろん王太子であるアレクシス殿下が許可して下さいました。アレクシス殿下にその権限を持たせたのは陛下ご自身ではありませんか」
そう、陛下は王太子であるアレクシス殿下に一部ですが陛下と同様の権限を与えているのです。まぁ、将来の勉強もあるとは思いますがいくら優秀だからってアレクシス殿下に仕事を任せすぎだと思いますわ。あんな腹黒な王太子ですが、実はこの国の仕事の半分以上をすでにこなしているのです。腹黒ですけどね。
「ど、どうやってアレクシスを懐柔したのだ」
「それは、僕が説得しました」
それまで黙って見守ってくれていたハルベルト殿下が口を開きました。
「言ったはずですよ、父上。僕はカタストロフ公爵令嬢側につくと。僕は僕の使える力の全てを使って彼女の望みを叶えた。ただそれだけです」
ハルベルト殿下がにっこりと笑えば、陛下は今度こそ膝を折り力なく突っ伏したのですわ。
「そ、そんなぁ……」
こうして私は無事に婚約破棄を認める書類に陛下の判をもらったのですわ。
「うわぁぁぁぁぁん、やっぱりいやだぁぁぁぁぁぁぁっ」
足元からオスカー殿下の駄々をこねる声が聞こえた気がしましたが、まるっと無視させていただきますわね。
私はその意味がわからなくて、首を傾げたのでした。
あの後、色々あってオスカー殿下は衛兵たちに取り押さえられました。そしてそのまま国王陛下の待つ部屋に網に包まれたままズルズルと引き摺られて連れて行かれたのですが……もしかしてこの国の兵士たちもオスカー殿下の扱いに慣れてきたのかしら?下手に網から解き放つと大変ですものね。
そして、挨拶を済ませるやいなや国王陛下が私に1枚の報告書を手渡して来たのです。
「う、うむ。問題となった男爵令嬢の件だが媚薬を使った形跡はなかったそうだ。詳しくは宰相が話そう」
陛下の後ろに控えていた新しい宰相が前にでてきます。丸眼鏡に白髭のどこにでもいそうなおじいちゃん宰相ですわ。その昔私からルドルフを奪おうとした前宰相とは違い仕事のできるとても良い人なのですが、こほんと咳払いをしたかと思うと少し言いにくそうに口を開きました。
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「娼婦ですか……」
確かにその内容は言いにくいですわね。しかもその業界では“娼婦の香り”として暗黙の了解があるらしく、その香水をつけているのは自分が娼婦であるとアピールしている事になるのだそうですわ。言葉を交わさずに客を誘い込めるのだとか。
あら、つまりその香りを纏っていたヒルダ様はそれくらいオスカー殿下を誘惑したかったと言うことでしょうか?まさか、香りの意味を知っていればオスカー殿下が寄ってくるとでも?
そうでしたらとても情熱熱的な方でしたのね。ですが、さすがにオスカー殿下が娼婦についてまで詳しいとは思えませんけれど。もし詳しかったドン引きです。
それにしても、私も娼婦という存在は知識としては知ってはいますけれど香水云々は初めて知りました。同級生がそんな香水をつけていたとわかるのはさすがにちょっとショックですね。しかしあの鼻が曲がりそうな匂いで誘惑される男性がいるとしたらそれはそれで問題だと思います。貧困に関わる案件ならば王家も考えなければいけないことでしょう。
「……まぁ、とりあえずそれはそれとして。それで、媚薬が使われていなかったからと言って何が誤解なんですの?」
「え、いやだから……オスカーが媚薬を盛られて婚約破棄を宣言したのは誤解だと。だから……」
私の反応が予想外だったのか慌てふためく陛下の姿に私は首をさらに傾げます。まさか媚薬が使われていなかったから全て解決だなんておっしゃりませんよね?
「あら、陛下はちゃんと報告書をお読みになったのですか?オスカー殿下は私にハッキリとヒルダ様が運命の相手だから私と婚約破棄するとおっしゃったのですよ?媚薬が使われていなかったのなら尚更オスカー殿下は本心で男爵令嬢のヒルダ様を愛してらしたってことでしょう?」
「え、いや、だから……「むがーっ!むがーっ!」ええぃ、オスカー!おとなしくしておれ!」
え、なにが暴れているのかって?……私が「話がある」と言った途端「セレーネ、やっぱり俺を愛してくれているんだな!」と馬鹿なことを叫びながら私に飛びかかろうとして、ハルベルト殿下にボッコボコにされてるところに遅れてやってきた騎士たちに捕獲されたオスカー殿下ですが?網に包まれたまま猿轡をされてロープでぐるぐる巻きにされております。
それにしても……ハルベルト殿下が、私に飛びかかろうとしたオスカー殿下の頭を瞬時に網ごとわしづかみにして笑顔のままオスカー殿下をフルボッコにしたのには驚きましたわ。ハルベルト殿下はどちらかというと平和主義で暴力反対なのかと……でも笑顔なのに目が笑ってないまま容赦なくオスカー殿下にお仕置きする姿はなんだか胸が騒ぎました。オスカー殿下をモザイクに出来るなんてハルベルト殿下って意外と鍛えてらしたのね……なんて考えてしまうなんて。まさか、これが噂に聞くギャップ萌え……?!い、いえ。きっと意外だっただけですわ。でも、まさかこんなハードボイルドな一面が見れるなんて……あぁ、でもハルベルト殿下のいつもと違う一面を見れたなんて幸運です。こんな姿が見れるのは今だけかもしれないと、しっかりと目に焼き付けておきました。ちなみにオスカー殿下はモザイクから瞬時に回復しておりましたのでその頑丈さは末恐ろしいほどです。
おっと、考え事をしている場合ではありませんでしたわ。私は姿勢を正し陛下に鋭い視線を向けました。
「……陛下には、私が幼い頃から数えきれない程の婚約破棄宣言を受けていたことも全て報告したはずです。それを長年我慢していた私に対してオスカー殿下がなさった事がヒルダ様との浮気宣言ですわ。さらには学園でエルドラ国の王女を侍らしていたことも調査済みのはずです。つまり、浮気して恋人を作りさらに愛人も侍らしていたオスカー殿下の所業のどこに誤解があったとおっしゃるのですか?」
「そ、それは……ほら、男の甲斐みたいな?」
「そんな浮気を正当化するためだけの戯言など聞く耳を持ちません。それとも陛下は王妃殿下に同じセリフを言えますの?」
ピシャリと言い切れば陛下は黙ってしまわれました。だって王妃殿下の持論は「浮気とは殺人の次に愚かな行為だ」なのですから。私もその意見には賛同致しております。だからこそオスカー殿下の不当な行いが尚更許せないのですわ。だって、結局は誰も幸せになれませんもの。
「それでは、婚約破棄の件は了承して下さいますわね?」
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あら、もがくから猿轡が外れてしまったようです。口が自由になったオスカー殿下がまたなにか訴えてきました。しつこいですわね。
「……騙されていた。ですか?」
「そうなんだ!俺は浮気なんかしていない!俺はセレーネを愛しているし、すごい男になろうとしていただけなんだ!ヒルダが、自分と居れば俺が皆が羨むすごい男になれるって言ったから!あの違う国からきた女も一緒に歩いてるだけで皆が俺をすごいって!さすがだって言うから、だから……!」
オスカー殿下の見苦しい言い訳を聞いているだけで、頭の奥が一気に冷たくなる気がしました。
この人は何を言っているのかしら?
「私を愛している……ですって?それは本当ですか?」
私は芋虫状態のオスカー殿下に近寄り、そっとその体を起こしてあげます。あぁ、網が少しほどけていますわね。やっぱり強化が必要ですわ。
私の冷めた視線に気付かないのかオスカー殿下は鼻息を荒くして語り出しました。
「そうだ!俺はそのために「では、あなたはそのためにあの方たちを利用したのですか?」……え?」
ぱぁん!! と乾いた音が響き、頬を打たれたオスカー殿下が信じられないという顔をして私を見ました。あぁ、つい平手打ちをしてしまいましたわ。これは不敬になるのかしら。
それにしてもオスカー殿下は本当になんて頑丈なのかしら。だって、叩いた私の手の方が痛いのですけれど……これは手首を捻挫したかしら?かなりズキズキとしています。ちなみにオスカー殿下の頬は平気そうです。あの顔は痛みよりもされたことへのショックを受けているだけですわね。
「セレーネ……」
「あなたは自分が何をしたかわかってますの?ふたりの未来ある少女たちの人生を台無しにしたのですよ?あなたが本当に私を愛していたというのならばきっぱりと拒絶するべきだったのです。
あなたが曖昧な態度をとって、その所業を許した結果。ふたりの少女はどうなりました?ひとりは罪に問われ牢獄へ入れられ、ひとりは母国や実の親からも見放されてしまったのですよ。あなたはその責任をどう取るおつもりですか?あのふたりの行動はすべて、あなたの妻になりたくてしたことなのです。そんなつもりはなかったなんて言い訳ですわ。王族であるあなたがそれを夢見さすような言動をとったからこそだと周りは考えるでしょう。少なくとも私はそう考えます」
「……そ、それは……」
やっと事の重大さがわかったのかオスカー殿下は言葉を失ったようです。どうやらあの方たちもオスカー殿下の思惑に踊らされていた被害者のようですわね。
ですが、これはちゃんとはっきりさせておかなくてはいけませんわ。私への愛がどうのこうので誤魔化されてはいけませんもの。
私はオスカー殿下の瞳を真っ直ぐに見つめました。
「オスカー殿下、あなたが婚約破棄宣言を繰り返していた本当の気持ち(ルドルフを狙っている事)はちゃんとわかってます」
「セ、セレーネ!本当か?!俺の気持ち(セレーネの愛を確かめたくて婚約破棄宣言をしていた事)をわかってくれていたのか?!」
「もちろんですわ。3歳の頃から見てますもの。あなたがどれだけ本気か(“星の子”であるルドルフを欲しがっているか)なんてお見通しですわ。でも、私がそれを認める事(ルドルフを渡す事)は決してありません」
「そんな、セレーネ!俺はずっとそれだけを(セレーネだけを愛していると)想っていたのに……!」
「(ルドルフの事は)諦めて下さい、無理なのです。私はそのためなら(ルドルフを守る為なら)手段を選びませんわ」
「そ、そんなぁ……」
私の言葉にがっくりと項垂れるオスカー殿下。これでルドルフを諦めてくださるかしら?
「陛下、婚約破棄でよろしいですわね?」
「し、しかし、入婿する予定だったとはいえ王子との婚約が破棄となればセレーネ嬢はキズモノ扱いとなるだろう?公爵家はどうするのだ?キズモノとなった令嬢の家に婿養子にくる者などいないぞ?」
やっとオスカー殿下が諦めてくれたようですのに、今度は陛下が痛いところをついてきました。確かに私は婿養子をとらねばならない身です。でもここまでこじれたオスカー殿下とやり直すなんてとても無理ですわ。だって、またいつルドルフを狙い出すかわからないじゃないですか!
「このオスカー殿下と結婚するくらいなら、キズモノでけっこうですわ!今後のことは公爵家の問題ですからお気になさらないでください」
そうハッキリと言い切れば陛下もやっと諦めたのかがっくりと項垂れました。親子揃って項垂れている姿もなんだかシュールですわね。
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チラッとこちらを見てくる陛下。しつこいですわね。そっちがその気ならこちらも秘密兵器を出しますわよ。
「それなら、私も強硬突破いたしますわ」
私はハルベルト殿下から受け取っていた書類の束を陛下の目の前に出しました。
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「そ、それは、どういうことなのだ……?!」
「我が国の法律では貴族が国を出て新しい国を作るのは反逆者扱いになりますが、犬が独立国家を作るのには何の罪にも問われないではないですか。ですから私はルドルフの国へ亡命いたします。“空の流通便”の国益も全てルドルフの国のものになりますので悪しからず」
「そ、そんなめちゃくちゃなことまかり通るはずがないだろう!“星の子”は我が国の奇跡!よその国へ渡せるはずがない!」
「よその国ではありません、ルドルフの国です。ルドルフは自分の国へ戻るだけですわ。それに、この国から“空の流通便”の権利はルドルフにありそれを自国で行う事の正統性を認める。という許可書も頂いております」
「わ、わしはそんなもの出しておらんぞ!?」
「あら、もちろん王太子であるアレクシス殿下が許可して下さいました。アレクシス殿下にその権限を持たせたのは陛下ご自身ではありませんか」
そう、陛下は王太子であるアレクシス殿下に一部ですが陛下と同様の権限を与えているのです。まぁ、将来の勉強もあるとは思いますがいくら優秀だからってアレクシス殿下に仕事を任せすぎだと思いますわ。あんな腹黒な王太子ですが、実はこの国の仕事の半分以上をすでにこなしているのです。腹黒ですけどね。
「ど、どうやってアレクシスを懐柔したのだ」
「それは、僕が説得しました」
それまで黙って見守ってくれていたハルベルト殿下が口を開きました。
「言ったはずですよ、父上。僕はカタストロフ公爵令嬢側につくと。僕は僕の使える力の全てを使って彼女の望みを叶えた。ただそれだけです」
ハルベルト殿下がにっこりと笑えば、陛下は今度こそ膝を折り力なく突っ伏したのですわ。
「そ、そんなぁ……」
こうして私は無事に婚約破棄を認める書類に陛下の判をもらったのですわ。
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私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
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