21 / 25
21。最終話
しおりを挟む
あの騒ぎから約2年。あれから無事に婚約者となったセレーネとハルベルトは、セレーネの学園の卒業を待って結婚式を挙げる予定である。今はその準備に追われて、忙しいながらも幸せを噛み締める日々を送っていた。
「お嬢様、お手紙が届いておりますよ」
「あら、ありがとうアンナ」
その日、侍女のアンナから1通の手紙を受け取り中身を確認するとその内容に思わず笑みがこぼれました。
「どうやらヒルダ様がご結婚されるそうよ」
「あの元男爵令嬢ですか?もしやどこかの成金か貴族でしょうか」
「ふふっ、ハズレよ。なんと、一緒に仕事をしている翻訳家の方とですって。その方は平民で色々な国の逸話を翻訳して本にするために世界中を旅する事になったそうなのだけど、なんとヒルダ様が一緒に連れて行って欲しいと逆プロポーズなされたそうよ」
アンナはかなり驚いたのか毒舌を披露することもなく「それは、すごいですね」と呟きました。
「今や人気作家となったヒルダ様なら貴族に戻ることも出来たでしょうけれど、それ以上のものを見つけられたみたいね」
あれから倭国へ渡り本当に作家デビューなされたヒルダ様ですが、その物語はまるでその場にいるような臨場感があり惹き込まれる文章だと爆発的な人気になりました。特に最初に出した『悪役令嬢シリーズ』はすごかったですわ。
「知っております。確か、それまで悪女だと周りに言われていた悪役令嬢が白馬に乗って真の悪人をバッタバッタとなぎ倒し誘拐された王子を助け出す話でしたね。悪役令嬢に掌を返して愛を囁いてくる王子をあっさりフッてしまうのは素晴らしいと思いました」
「決め台詞がすごいのよね。王子に対して“顔だけの男に興味は無くてよ”だなんて、王族相手に実際に言ったら不敬だもの。やっぱり物語は現実には出来ないことを出来るのが面白いわ」
「しかもそのあとの、世直し旅編は世界を駆け巡ってスリル満載でございました」
どうやらアンナは、思った以上にヒルダ様の作品のファンのようです。
「世界中を回られたら、また新しい物語を書くそうよ。今から楽しみね」
新刊が出たら是非教えてもらおうと思います。それにしても『悪役令嬢シリーズ』にはモデルがいるそうなのですが、全然教えてくださらないのよね。私の知っている人なのかしら?
「ヒルダ様は大丈夫そうだけれど、こちらはどうしたものかしら……」
私はここ最近の新たな悩みにため息をつきました。それは……オスカー殿下なのですわ。しばらくは大人しくなされていると思っていたのになにか騒ぎを起こすのはやっぱりあの方なのです。
この2年間で、良いか悪いかはわかりませんがオスカー殿下は驚愕の変化を遂げられました。
なんとオスカー殿下ったら、白昼堂々とユーキ様に求愛なさったのだそうですわ。ユーキ様は私の共同経営者とはいえ貴族ではなく平民です。まだ王族であるオスカー殿下が人目の多い中で平民に公開プロポーズしたなんて大騒ぎになるに決まっています。
もちろんすぐに王城へ報告が行き、アレクシス殿下が頭を抱えていらしたそうですが。ハルベルト様は「あいつらしいですね」と笑うだけでオスカー殿下の暴走を止めてはくださらないみたいです。ハルベルト様もやっぱり弟には甘いのかしら。
それに、王族と平民の結婚は認められておりませんがオスカー殿下のお相手となると一概に反対はされないかもしれないから問題なのです。今やこの国にあんな騒動を起こしたオスカー殿下と婚姻を結びたい貴族はおりませんし、オスカー殿下を他所の国に婿へやるのはそれはそれで心配だとアレクシス殿下が悩んでおられましたもの。ユーキ様は平民とはいえ自立した女性ですし、私の共同経営者として身元もしっかりしております。王家からロックオンされる可能性はじゅうぶんありますわね。ですがユーキ様は全力で拒否なさってるので一応はオスカー殿下の暴走を止めようとしてくれているようですわ。
ですが、あのオスカー殿下が反対されたくらいで止まるはずもありません。かなりしつこい残念アピールが続いているようですわ。
しかも、毎回熱烈な公開プロポーズをなさるそうなのですが……私もユーキ様から愚痴を聞かされて言葉を失いましたわ。そのプロポーズのセリフってどうなんですか?マジですの?と思わず言葉が乱れたままユーキ様に聞いてしまいましたわ。ユーキ様には「ボクが知るわけ無いだろう」と叱られてしまいましたが。
それにしても、そんなことを叫ばれて求婚を承諾する女性がどこにいるというのでしょうか。というか、それって求婚なんですか?どう聞いてもいかがわしい関係にしか聞こえませんわ。なんて残念な方なのでしょうか。
ちなみにオスカー殿下とそういう関係なのか(念の為)確認しましたらユーキ様が腐った魚のような目をしながら「お嬢……友達辞めるぞ?」とまるで地獄の奥底から絞り出したような声を出されてしまいました。あんなに静かに怒り狂ってるユーキ様なんて初めて見ましたわ。怖かったです……。
もちろん求婚はその度に一緒にいたフリージア様がオスカー殿下を防犯グッズで殴り倒してお断りされているそうなんですが、何日もそんな騒ぎが続くのでだんだん騒動を聞き付けた街の人達が面白半分で集まるようになってしまったらしくユーキ様はとても困ってらっしゃるのですわ。アレクシス殿下にしばらくオスカー殿下を城から出れないように地下牢に放り込んで欲しいとお願いはして了承を得たのでちょっとは落ち着くといいのですけれど。ちなみに簀巻にして両手足に重りをつけてもらうのも忘れていません。アレクシス殿下ならきっとその上から鎖で縛ってくれるはずですわ。
そんな時、部屋の扉が慌ただしくノックされました。
「大変です、お嬢様!街の様子を見に行った者から報告が……!」
「えぇっ、なんですって?!」
私は使用人の言葉に慌てました。
なんと、いつものごとく公開プロポーズ中にそれを観戦しに集まった市民たちがお店の中にまでごった返しユーキ様たちは身動きがとれなくなったのだとか。そんな時にオスカー殿下がユーキ様に突進してきたのだそうですが、不思議なことにオスカー殿下が突進するギリギリのスペースだけ隙間が空いていていたのだそうです。摩訶不思議です。というか、簀巻で地下牢にいるはずなのにどうやって抜け出したのかしら……。なぜそんなに脱出能力ばかり特化していますの?
そしてオスカー殿下を避けきれなかったユーキ様はぶつかられた衝撃で眼鏡が吹っ飛んでしまい、素顔をさらけ出してしまったそうで……。
ご想像の通り、ユーキ様の素顔を目撃した女性たちから黄色い声が上がりユーキ様はもみくちゃにされてしまったのだそうです。
下は3歳から上は107歳まで。幅広い年代の女性たちのハートを虜にしてしまい、それはもう大騒動になってしまったのだとか。……なんて悲惨な。
もちろんお店どころではなくなってしまい、フリージア様がユーキ様は女性であると説明しても諦めたのは全体の3割程。さらには押し寄せた人たちのせいでフリージア様がケガをしてしまったそうなのですわ。
その場にいたうちの使用人が衛兵を呼び、なんとかユーキ様とフリージア様を公爵家まで連れてきてくれたのです。
「ユーキ様、フリージア様!大丈夫ですか?」
「セレーネお嬢、ごめん。迷惑をかけるよ」
「うぅっ、お店がめちゃくちゃになっちゃいましたぁ~っ」
フリージア様のケガは軽症でしたが、おふたりの実の安全を考えてしばらくは公爵家で過ごしていただくことになりました。
翌日、商会の様子を見に行ってくれた使用人からの報告ではオスカー殿下がまたもやうろちょろしていたらしいですけれど……衛兵に連行されて怒ったアレクシス殿下に首から下を生き埋めにされたはずですのに、なぜうろちょろしてますの?
それから一週間ほどした頃でした。
「セレーネお嬢、ちょっといいかい?」
「ユーキ様。どうしました?」
部屋にやって来たユーキ様は分厚い眼鏡を指で押し上げながら「ボク、旅にでることにしたよ」とおっしゃったのです。
「旅へ?」
「ああ、そうだよ。あんな騒ぎを起こしたんじゃもう街にはいられないからね。ボクの体質の事もあるが、なによりもボクは静かに暮らしたいんだ。だから事業の方はボクは手を引かせてもらうよ」
「あら、それならあの商会はユーキ様に差し上げますわ。旅に出るにしても旅先で資金はどうなさるおつもり?それならば旅をしながら便利グッズを売る商売をなさればいいんですわ」
「いいのかい?それならフリージアも喜ぶから助かるけど……」
「では馬車を用意いたしましょうか?」
「いや、それには及ばないよ。ついに例の物が完成したんだ。……“キャンピングカー”がね!」
「……きゃんぴんぐかぁ?それはなんですの?」
「簡単に言うと移動式の小さな家さ。馬や燃料が無くても走るようにするのに時間がかかったけどこれならどこにでもすぐ行けるんだよ」
それはまた画期的な物をお作りになったようですわ。ユーキ様の開発能力は凄まじいですわね。
「希少な材料をふんだんに使ったから量産は無理だけどね。ボクとフリージアの二人旅なら問題ないよ。旅のついでに実験データもとれるしね」
ニヤリと笑ったユーキ様は久々に楽しそうな顔をされていましたわ。最近はオスカー殿下のせいでげっそりなされてましたから、元気になられて良かったですわ。
「どうか、お気を付けて……」
こうしてユーキ様とフリージア様はその日の夜にきゃんぴんぐかぁなる乗り物でこっそりと旅立たれることになりました。
別れは悲しいですが、ユーキ様ならどこに行っても大丈夫でしょう。フリージア様も「ユーキ様と新婚旅行……ぐふふ」となんとも言えない顔で幸せそうに呟かれていたので、オスカー殿下に付きまとっていた頃より楽しそうなので安心しましたわ。というかもう別人ですわね。フリージア様はすっかりユーキ様に馴染んでおられましたわ。
数日後、シラユキ様とお茶をしながらユーキ様のことを話していました。シラユキ様はアレクシス殿下と結婚されて今は王太子妃になられたのですわ。アレクシス殿下の仕事をサポートして立派にお役目をこなしておられます。もういつ王位を継がれても大丈夫だと思いますわ。
するとシラユキ様が「まるで〈ルドルフの冒険〉みたいですわね」とおっしゃられました。確か、ルドルフと言う名の旅人が各国を旅しながら色々な出会いを果たし困難に立ち向かっていく物語でしたわね。
「そのルドルフは、長い年月の中でたったひとりの相棒となる少女と出会いさらに旅を続けるのですわ。ルドルフとこの少女の掛け合いがとてもおもしろいのですのよ」
「ふふっ、なんだかユーキ様とフリージア様みたいですわ」
「少女の描写はセレーネ様にそっくりなんですけれど……確かにそう言われるとあのおふたりのようでもありますわね」
ちなみにオスカー殿下があれからどうなったかと言いますと……ユーキ様が旅立たれたのに気がついたらしく追いかけて行ってしまわれましたわ。アレクシス殿下からユーキ様のことは諦めるように説得はされていたようですが……。
なんとオスカー殿下はユーキ様に本気なようで「俺にはあのおっぱいしかいないんだーっ!」と叫ばれながら本当に走っていったそうです。
ユーキ様はオスカー殿下みたいな方を「むっつりスケベ」とか「おっぱい星人」と言う名の変態だとおっしゃっていましたが……ユーキ様、本当にいかがわしい関係とかなかったんですよね?フリージア様も「わたしの命に代えてもユーキ様の貞操は守ってみせます!」と言って下さいましたし大丈夫だとは思いますが……ユーキ様ファイト!ですわ。
「ところでセレーネ様、結婚式の準備は進んでおられますか?」
「はい、実は先日ドレスが縫い上がったんです!良ければシラユキ様にも見ていただこうかと思いましてあちらに飾ってありますのよ」
「あら、愛しの婚約者様より先にわたくしが拝見してもよろしいの?」
クスクスと笑いながらシラユキ様がからかってくるので、思わず顔が赤くなってしまいました。
「ハルベルト様には当日に完璧な姿でお見せしたいですし……もう、シラユキ様ったらいじわるですわ!」
「ごめんなさい、セレーネ様の反応が可愛くてつい。ふふっ、素敵なドレスですわね。ーーーーそれにしても……ドレスには銀色の刺繍、アクセサリーには濃いアクアブルーの宝石をふんだんにあしらうなんて誰に向かって牽制しているつもりなのかしら?」
「え?なにかおっしゃいましたか?」
ドレスを見たシラユキ様が小声でなにか呟かれたように思いましたがよく聞こえなかったので首を傾げると、シラユキ様は「……このドレスを身に纏ったセレーネ様はきっと女神のように美しいでしょうねって言ったんですわ。これならもう悪い虫も寄ってこないのではないかしら」と笑いました。
「悪い虫?」
もしかしてハルベルト様がデザインしてくれたこのドレスと装飾品……虫除け効果があるのでしょうか?でも確かに、式の最中に虫が寄ってきたら邪魔ですし雰囲気も台無しですものね。
「なるほど……さすがはハルベルト様!そこまで考えてくれてましたのね!」
「そうですわね(セレーネ様を懸想するアレを含めてその他諸々に盛大な牽制をする気満々)でなければこんなデザインにはしないですわよ」
実は、オスカーとの婚約が破棄されたと知れ渡ると公爵家への婿入りを狙う貴族の次男や三男や、実はセレーネに想いを寄せていた男たちが砂糖に集る蟻のように出てきていたのだ。それをハルベルトがそのままにするはずがなく……そのせいでセレーネの残りの学園生活は思ってた以上に静かになったのだがその理由をセレーネが知ることはなかった。
こうして無事に結婚式を迎えたセレーネとハルベルトは永遠の愛を誓い、ハルベルトの思惑通りに末長く幸せに暮らしたのだった。
それから旅に出た友人とそれを追いかけた元婚約者がひと騒動起こしたそうなのだが……それはまた別の話。
終わり
「お嬢様、お手紙が届いておりますよ」
「あら、ありがとうアンナ」
その日、侍女のアンナから1通の手紙を受け取り中身を確認するとその内容に思わず笑みがこぼれました。
「どうやらヒルダ様がご結婚されるそうよ」
「あの元男爵令嬢ですか?もしやどこかの成金か貴族でしょうか」
「ふふっ、ハズレよ。なんと、一緒に仕事をしている翻訳家の方とですって。その方は平民で色々な国の逸話を翻訳して本にするために世界中を旅する事になったそうなのだけど、なんとヒルダ様が一緒に連れて行って欲しいと逆プロポーズなされたそうよ」
アンナはかなり驚いたのか毒舌を披露することもなく「それは、すごいですね」と呟きました。
「今や人気作家となったヒルダ様なら貴族に戻ることも出来たでしょうけれど、それ以上のものを見つけられたみたいね」
あれから倭国へ渡り本当に作家デビューなされたヒルダ様ですが、その物語はまるでその場にいるような臨場感があり惹き込まれる文章だと爆発的な人気になりました。特に最初に出した『悪役令嬢シリーズ』はすごかったですわ。
「知っております。確か、それまで悪女だと周りに言われていた悪役令嬢が白馬に乗って真の悪人をバッタバッタとなぎ倒し誘拐された王子を助け出す話でしたね。悪役令嬢に掌を返して愛を囁いてくる王子をあっさりフッてしまうのは素晴らしいと思いました」
「決め台詞がすごいのよね。王子に対して“顔だけの男に興味は無くてよ”だなんて、王族相手に実際に言ったら不敬だもの。やっぱり物語は現実には出来ないことを出来るのが面白いわ」
「しかもそのあとの、世直し旅編は世界を駆け巡ってスリル満載でございました」
どうやらアンナは、思った以上にヒルダ様の作品のファンのようです。
「世界中を回られたら、また新しい物語を書くそうよ。今から楽しみね」
新刊が出たら是非教えてもらおうと思います。それにしても『悪役令嬢シリーズ』にはモデルがいるそうなのですが、全然教えてくださらないのよね。私の知っている人なのかしら?
「ヒルダ様は大丈夫そうだけれど、こちらはどうしたものかしら……」
私はここ最近の新たな悩みにため息をつきました。それは……オスカー殿下なのですわ。しばらくは大人しくなされていると思っていたのになにか騒ぎを起こすのはやっぱりあの方なのです。
この2年間で、良いか悪いかはわかりませんがオスカー殿下は驚愕の変化を遂げられました。
なんとオスカー殿下ったら、白昼堂々とユーキ様に求愛なさったのだそうですわ。ユーキ様は私の共同経営者とはいえ貴族ではなく平民です。まだ王族であるオスカー殿下が人目の多い中で平民に公開プロポーズしたなんて大騒ぎになるに決まっています。
もちろんすぐに王城へ報告が行き、アレクシス殿下が頭を抱えていらしたそうですが。ハルベルト様は「あいつらしいですね」と笑うだけでオスカー殿下の暴走を止めてはくださらないみたいです。ハルベルト様もやっぱり弟には甘いのかしら。
それに、王族と平民の結婚は認められておりませんがオスカー殿下のお相手となると一概に反対はされないかもしれないから問題なのです。今やこの国にあんな騒動を起こしたオスカー殿下と婚姻を結びたい貴族はおりませんし、オスカー殿下を他所の国に婿へやるのはそれはそれで心配だとアレクシス殿下が悩んでおられましたもの。ユーキ様は平民とはいえ自立した女性ですし、私の共同経営者として身元もしっかりしております。王家からロックオンされる可能性はじゅうぶんありますわね。ですがユーキ様は全力で拒否なさってるので一応はオスカー殿下の暴走を止めようとしてくれているようですわ。
ですが、あのオスカー殿下が反対されたくらいで止まるはずもありません。かなりしつこい残念アピールが続いているようですわ。
しかも、毎回熱烈な公開プロポーズをなさるそうなのですが……私もユーキ様から愚痴を聞かされて言葉を失いましたわ。そのプロポーズのセリフってどうなんですか?マジですの?と思わず言葉が乱れたままユーキ様に聞いてしまいましたわ。ユーキ様には「ボクが知るわけ無いだろう」と叱られてしまいましたが。
それにしても、そんなことを叫ばれて求婚を承諾する女性がどこにいるというのでしょうか。というか、それって求婚なんですか?どう聞いてもいかがわしい関係にしか聞こえませんわ。なんて残念な方なのでしょうか。
ちなみにオスカー殿下とそういう関係なのか(念の為)確認しましたらユーキ様が腐った魚のような目をしながら「お嬢……友達辞めるぞ?」とまるで地獄の奥底から絞り出したような声を出されてしまいました。あんなに静かに怒り狂ってるユーキ様なんて初めて見ましたわ。怖かったです……。
もちろん求婚はその度に一緒にいたフリージア様がオスカー殿下を防犯グッズで殴り倒してお断りされているそうなんですが、何日もそんな騒ぎが続くのでだんだん騒動を聞き付けた街の人達が面白半分で集まるようになってしまったらしくユーキ様はとても困ってらっしゃるのですわ。アレクシス殿下にしばらくオスカー殿下を城から出れないように地下牢に放り込んで欲しいとお願いはして了承を得たのでちょっとは落ち着くといいのですけれど。ちなみに簀巻にして両手足に重りをつけてもらうのも忘れていません。アレクシス殿下ならきっとその上から鎖で縛ってくれるはずですわ。
そんな時、部屋の扉が慌ただしくノックされました。
「大変です、お嬢様!街の様子を見に行った者から報告が……!」
「えぇっ、なんですって?!」
私は使用人の言葉に慌てました。
なんと、いつものごとく公開プロポーズ中にそれを観戦しに集まった市民たちがお店の中にまでごった返しユーキ様たちは身動きがとれなくなったのだとか。そんな時にオスカー殿下がユーキ様に突進してきたのだそうですが、不思議なことにオスカー殿下が突進するギリギリのスペースだけ隙間が空いていていたのだそうです。摩訶不思議です。というか、簀巻で地下牢にいるはずなのにどうやって抜け出したのかしら……。なぜそんなに脱出能力ばかり特化していますの?
そしてオスカー殿下を避けきれなかったユーキ様はぶつかられた衝撃で眼鏡が吹っ飛んでしまい、素顔をさらけ出してしまったそうで……。
ご想像の通り、ユーキ様の素顔を目撃した女性たちから黄色い声が上がりユーキ様はもみくちゃにされてしまったのだそうです。
下は3歳から上は107歳まで。幅広い年代の女性たちのハートを虜にしてしまい、それはもう大騒動になってしまったのだとか。……なんて悲惨な。
もちろんお店どころではなくなってしまい、フリージア様がユーキ様は女性であると説明しても諦めたのは全体の3割程。さらには押し寄せた人たちのせいでフリージア様がケガをしてしまったそうなのですわ。
その場にいたうちの使用人が衛兵を呼び、なんとかユーキ様とフリージア様を公爵家まで連れてきてくれたのです。
「ユーキ様、フリージア様!大丈夫ですか?」
「セレーネお嬢、ごめん。迷惑をかけるよ」
「うぅっ、お店がめちゃくちゃになっちゃいましたぁ~っ」
フリージア様のケガは軽症でしたが、おふたりの実の安全を考えてしばらくは公爵家で過ごしていただくことになりました。
翌日、商会の様子を見に行ってくれた使用人からの報告ではオスカー殿下がまたもやうろちょろしていたらしいですけれど……衛兵に連行されて怒ったアレクシス殿下に首から下を生き埋めにされたはずですのに、なぜうろちょろしてますの?
それから一週間ほどした頃でした。
「セレーネお嬢、ちょっといいかい?」
「ユーキ様。どうしました?」
部屋にやって来たユーキ様は分厚い眼鏡を指で押し上げながら「ボク、旅にでることにしたよ」とおっしゃったのです。
「旅へ?」
「ああ、そうだよ。あんな騒ぎを起こしたんじゃもう街にはいられないからね。ボクの体質の事もあるが、なによりもボクは静かに暮らしたいんだ。だから事業の方はボクは手を引かせてもらうよ」
「あら、それならあの商会はユーキ様に差し上げますわ。旅に出るにしても旅先で資金はどうなさるおつもり?それならば旅をしながら便利グッズを売る商売をなさればいいんですわ」
「いいのかい?それならフリージアも喜ぶから助かるけど……」
「では馬車を用意いたしましょうか?」
「いや、それには及ばないよ。ついに例の物が完成したんだ。……“キャンピングカー”がね!」
「……きゃんぴんぐかぁ?それはなんですの?」
「簡単に言うと移動式の小さな家さ。馬や燃料が無くても走るようにするのに時間がかかったけどこれならどこにでもすぐ行けるんだよ」
それはまた画期的な物をお作りになったようですわ。ユーキ様の開発能力は凄まじいですわね。
「希少な材料をふんだんに使ったから量産は無理だけどね。ボクとフリージアの二人旅なら問題ないよ。旅のついでに実験データもとれるしね」
ニヤリと笑ったユーキ様は久々に楽しそうな顔をされていましたわ。最近はオスカー殿下のせいでげっそりなされてましたから、元気になられて良かったですわ。
「どうか、お気を付けて……」
こうしてユーキ様とフリージア様はその日の夜にきゃんぴんぐかぁなる乗り物でこっそりと旅立たれることになりました。
別れは悲しいですが、ユーキ様ならどこに行っても大丈夫でしょう。フリージア様も「ユーキ様と新婚旅行……ぐふふ」となんとも言えない顔で幸せそうに呟かれていたので、オスカー殿下に付きまとっていた頃より楽しそうなので安心しましたわ。というかもう別人ですわね。フリージア様はすっかりユーキ様に馴染んでおられましたわ。
数日後、シラユキ様とお茶をしながらユーキ様のことを話していました。シラユキ様はアレクシス殿下と結婚されて今は王太子妃になられたのですわ。アレクシス殿下の仕事をサポートして立派にお役目をこなしておられます。もういつ王位を継がれても大丈夫だと思いますわ。
するとシラユキ様が「まるで〈ルドルフの冒険〉みたいですわね」とおっしゃられました。確か、ルドルフと言う名の旅人が各国を旅しながら色々な出会いを果たし困難に立ち向かっていく物語でしたわね。
「そのルドルフは、長い年月の中でたったひとりの相棒となる少女と出会いさらに旅を続けるのですわ。ルドルフとこの少女の掛け合いがとてもおもしろいのですのよ」
「ふふっ、なんだかユーキ様とフリージア様みたいですわ」
「少女の描写はセレーネ様にそっくりなんですけれど……確かにそう言われるとあのおふたりのようでもありますわね」
ちなみにオスカー殿下があれからどうなったかと言いますと……ユーキ様が旅立たれたのに気がついたらしく追いかけて行ってしまわれましたわ。アレクシス殿下からユーキ様のことは諦めるように説得はされていたようですが……。
なんとオスカー殿下はユーキ様に本気なようで「俺にはあのおっぱいしかいないんだーっ!」と叫ばれながら本当に走っていったそうです。
ユーキ様はオスカー殿下みたいな方を「むっつりスケベ」とか「おっぱい星人」と言う名の変態だとおっしゃっていましたが……ユーキ様、本当にいかがわしい関係とかなかったんですよね?フリージア様も「わたしの命に代えてもユーキ様の貞操は守ってみせます!」と言って下さいましたし大丈夫だとは思いますが……ユーキ様ファイト!ですわ。
「ところでセレーネ様、結婚式の準備は進んでおられますか?」
「はい、実は先日ドレスが縫い上がったんです!良ければシラユキ様にも見ていただこうかと思いましてあちらに飾ってありますのよ」
「あら、愛しの婚約者様より先にわたくしが拝見してもよろしいの?」
クスクスと笑いながらシラユキ様がからかってくるので、思わず顔が赤くなってしまいました。
「ハルベルト様には当日に完璧な姿でお見せしたいですし……もう、シラユキ様ったらいじわるですわ!」
「ごめんなさい、セレーネ様の反応が可愛くてつい。ふふっ、素敵なドレスですわね。ーーーーそれにしても……ドレスには銀色の刺繍、アクセサリーには濃いアクアブルーの宝石をふんだんにあしらうなんて誰に向かって牽制しているつもりなのかしら?」
「え?なにかおっしゃいましたか?」
ドレスを見たシラユキ様が小声でなにか呟かれたように思いましたがよく聞こえなかったので首を傾げると、シラユキ様は「……このドレスを身に纏ったセレーネ様はきっと女神のように美しいでしょうねって言ったんですわ。これならもう悪い虫も寄ってこないのではないかしら」と笑いました。
「悪い虫?」
もしかしてハルベルト様がデザインしてくれたこのドレスと装飾品……虫除け効果があるのでしょうか?でも確かに、式の最中に虫が寄ってきたら邪魔ですし雰囲気も台無しですものね。
「なるほど……さすがはハルベルト様!そこまで考えてくれてましたのね!」
「そうですわね(セレーネ様を懸想するアレを含めてその他諸々に盛大な牽制をする気満々)でなければこんなデザインにはしないですわよ」
実は、オスカーとの婚約が破棄されたと知れ渡ると公爵家への婿入りを狙う貴族の次男や三男や、実はセレーネに想いを寄せていた男たちが砂糖に集る蟻のように出てきていたのだ。それをハルベルトがそのままにするはずがなく……そのせいでセレーネの残りの学園生活は思ってた以上に静かになったのだがその理由をセレーネが知ることはなかった。
こうして無事に結婚式を迎えたセレーネとハルベルトは永遠の愛を誓い、ハルベルトの思惑通りに末長く幸せに暮らしたのだった。
それから旅に出た友人とそれを追いかけた元婚約者がひと騒動起こしたそうなのだが……それはまた別の話。
終わり
1,140
あなたにおすすめの小説
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
今さら執着されても困ります
メイリリー
恋愛
「これから先も、俺が愛するのは彼女だけだ。君と結婚してからも、彼女を手放す気はない」
婚約者・リアムが寝室に連れ込んでいたのは、見知らぬ美しい女だった――
アンドレセン公爵令嬢のユリアナは、「呪われた子」として忌み嫌われながらも、政略結婚によりクロシェード公爵家の嫡男・リアムと婚約し、彼の屋敷に移り住んだ。
いつか家族になれると信じて献身的に尽くすが、リアムの隣にはいつも、彼の幼馴染であり愛人のアリスがいた。
蔑まれ、無視され、愛人の引き立て役として扱われる日々。
ある舞踏会の日、衆前で辱めを受けたユリアナの中で、何かがプツリと切れる。
「わかりました。もう、愛される努力はやめにします」
ユリアナがリアムへの関心を捨て、心を閉ざしたその夜。彼女は庭園で、謎めいた美しい青年・フィンレイと出会う。
彼との出会いが、凍りついていたユリアナの人生を劇的に変えていく。
一方、急に素っ気なくなったユリアナに、リアムは焦りと歪んだ執着を抱き始める。
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。
運命の番より真実の愛が欲しい
サトウミ
恋愛
田舎娘のゾーイは龍族の王子・シャウロンの『運命の番』だった。
ロマンチックな恋を夢見るゾーイは『運命の番』であるシャウロンと会えるのを楽しみにしていた。
しかし、シャウロンはゾーイに対して素っ気ない。
運命の番だからといって、必ずしも愛し合う関係だとは限らないらしい。
それを悟ったゾーイは、シャウロンのもとから去ることを決意した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる