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5 来訪者は突然にやっきたのです
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「なんてことでしょう……」
私は手にしているエドガーの身辺調査表に目を通し、頭を抱えます。思わず大きなため息が口をついて出てしまいました。
なんとエドガーは「俺はもう伯爵になったも同然だ」と言いふらし領地内で横暴な振る舞いをしているそうなのです。
まず、伯爵領地内では当たり前のように威張り散らながら闊歩しているようですわ。
そして「ロティーナは俺にぞっこんだから俺の言いなりだ。俺に逆らえばロティーナに言いつけてこの領地にいられなくしてやる」などと吠えて回っているそうなのです。
私の働いていた酒場以外でもたまに無銭飲食をしていたみたいですし、商店ではお金を払ったとしても大幅に値下げさせていた上になんと私へのプレゼントにするからと言って奪っていたそうなのです。なんてことでしょう、これじゃほとんど強奪じゃないですかって……ちょっと待ってください、私はこんな宝石など贈られた記憶がありません。私が彼から貰った物といえば、あの婚約指輪と小さな花束くらいです。
随分前に、「女性は宝石と花束ならどちらが喜ぶんだろうか」みたいな話をエドガーが話しているのを偶然聞いてしまった事がありました。なので私は「女は好意を持った方から頂くなら、宝石よりも心のこもった花束の方が嬉しく思うものですわ」とさりげなく伝えた事がありました。数日後、エドガーは小さな花束をプレゼントしてくれて「君はこれをどうする?」と聞かれたので「せっかくの花束が枯れてしまっては勿体ないので、ドライフラワーにしてずっと飾っておきたいです」と答えたのですが……エドガーは眉を顰めて「……やはり、そんな女か」とため息をつかれたことがあったのを思い出しました。あの時はその真意が理解出来ませんでしたが、きっとアミィ嬢と何かしら比べられて失望された……そんなところでしょうか。
そしてあの花束以来、エドガーが私に贈り物をしてくれることはありませんでした。ならば、この宝石たちがどこへ行ったのかですが……それも考えるまでもありませんね。
このような横暴、なぜ今まで誰も教えてくれなかったのでしょうか。
確かに領地内では私の婚約者であることは学園の卒業と同時に発表していますので、もちろん領民全員が知っています。だから多少の言動は皆さんも目をつむっていてくれていたようなのですが、我慢などせず、すぐ報告してくれていれば……。
いえ、違いますね。悪いのは私です。
“エドガーを信じていた”なんてただの言い訳です。私は自分のことに精一杯で、まさか自分の婚約者がこんな男だったなんて知ろうともしなかったのですもの。これでは勉強ばっかりの世間知らずと言われても仕方ないかもしれません。
領民の皆さんは親戚たちや貴族たちのように私の桃毛を蔑んだりせず、この婚約だってとても喜んで下さっているのです。だからこそエドガーの機嫌を損ねてこの婚約が失われたら私が悲しむからと、我慢してくれていたのですから。
ならば、私は責任を取らねばなりません。
それなのに、あの男……アミィ嬢に堂々と会いに行ってますわね。
アミィ嬢は隣国の王子の婚約者……となってはいますが、実はまだ正式ではありません。隣国での大切な式典であのような断罪劇をしでかしたせいで、あちらの一部の王族の反感を買ったようなのです。レベッカ様の事を気に入っていた方たちからしたらアミィ嬢は邪魔な存在でしかありませんから。
ですが王子自身がアミィ嬢を熱望していること、レベッカ様が修道院に送られてしまったこと、なによりアミィ嬢が公爵家の養女となったことなどを考慮して筆頭婚約者候補となっているはずです。
しかし本当に苛めがあったとしても、公爵令嬢が男爵令嬢をいじめたからと言う理由で婚約者をすげ替えるなんてそんなに簡単に出来るわけありません。隣国の国王も王子の熱望とは言えすんなりと受け入れられないはずです。なによりも、アミィ嬢は“公爵令嬢”の地位は手にいれても“教養”とか“品位”などと言うものは持ち合わせていらっしゃいません。とてもではありませんが、隣国の王子妃……ましてや未来の王妃になどなれる器ではないと思うのです。あの馬鹿な王子は「愛があれば大丈夫」などと寝言ばかり妄言してらっしゃいますが。
あぁ、あの馬鹿王子……この世から消えていなくならないかしゲブンゲフン。いけない、失言でしたわ。
「はぁ……」
はしたないかもしれませんが、大きなため息がまたもや口から漏れ出てしまいました。エドガーもアミィ嬢も一体何を考えているのかしら。
そう。つまり、アミィ嬢はとても微妙な位置にいらっしゃると言うことです。
こちらの国では「隣国の王子の婚約者である公爵令嬢」と豪語し、好き勝手しているようですが、ご自分の立場をよくわかってないのだけはわかりました。
……だって、公爵家の別宅にエドガーを招き入れているんですもの。大量のプレゼントを持っていたようですが、これ絶対に領地内のお店で強奪した物ですわね。婚約者のいる男性が隣国の王子の婚約者候補の女性に堂々と……ましてや深夜に会いに行くなんて本当に何を考えているのかしら。いえ、何も考えてませんわね。少しでも考えたならばこんなこと出来るはずがありませんもの。
それにしても伯爵令嬢の私がちょっと本気になって調べただけでこんなにすぐわかるなら、隣国ならもっと早くわかりそうなものなのに……。
「とにかく婚約者の不貞行為を掴んだわ!これを証拠に婚約破棄して……っ!」
その時、私以外は誰もいないはずの部屋に人の気配を感じました。
冷たい風が頬を撫でた瞬間、窓辺に人影が現れたのです。
「だ、誰……?!」
「……突然失礼致します。その桃色の髪……アレクサンドルト伯爵令嬢でいらっしゃいますか?」
カーテンが揺れ、月の光が差し込むとその人物の姿がハッキリと見えました。
キラキラと輝く銀髪に灰色の瞳。にっこりと微笑んではいますが、心の底を見せないようなそんな笑顔をした男性の姿があったのです。しかし銀髪と灰色の瞳とはまた珍しい色の方ですね。確か昔は灰色の瞳は不吉だと言われていたことを思い出しました。まぁ、珍しくてあまり見かけないから余計に言われるのかも知れませんが。私の桃色の髪と似たようなものです。
相手を観察しつつ、突然の不法侵入者に驚き怯えるフリをしながら武器を探します。そして暖炉脇に飾ってある火かき棒を握りしめるとそれを構えました。
酒場ではたまに酔っぱらいがケンカをしたり暴れる客がいるので、よくホウキを振り回して追い出したものてす。エドガーの時は多少動揺していたので披露出来ませんでしたが、あの辺の酔っぱらいならホウキでお尻を叩けばだいたい正気に戻ります。それに、こんな怪しい不法侵入者なら多少過激に追い払っても大丈夫でしょう。
「何が目的ですか!不法侵入はそれなりの罰を受けますよ!」
店員たるもの、ちゃんと常識的にお酒を楽しんでいる客を守らねばなりません。店の平和も守れずに領地の平和が守れるはずありませんからね!
するとそれまで私の言動を見ていた銀髪の男は、ポカンと口を開けて呆れたように言いました。
「……普通、貴族令嬢ってオレみたいの見ると怯えて泣いちゃうもんじゃないの?」
「どこの貴族令嬢と比較されているのかは知りませんが、私はあなたなど怖くありません!」
いえ、実際はちょっと怖いですよ?謎の不法侵入者だし知らない男性だし。ドレスで隠れてますが足なんかガクブルです。
「……この灰色の瞳が見えないのか?」
「瞳が灰色だからなんですか!こっちだって気味が悪いと言われる桃色の髪ですわ!」
前言撤回します。やっぱり見知らぬ男性はめちゃくちゃ怖いです!怖すぎてワケのわからない事を口走ってしまいました!だからこっちに近づかないで下さい!
震えそうになるのを我慢して火かき棒をきつく握り締め直します。これ以上近づいてきたら本で勉強した男性の急所をめった打ちにしてやりますから!
しかし、その不法侵入者は「ごめん、なにもしないよ」と両手をあげました。
「オレさぁ、実は隣国からやってきたスパイなんだ。あ、この事を誰かにバラしたら暗殺されるから気をつけて」
「……は、え、スパっ……?!」
私は火かき棒を構えたまま、驚きの余り思わず叫びそうになった言葉をグッと飲み込みました。
銀髪の男……隣国のスパイと名乗る彼はにっこりと笑いながら、とんでもないことを語りだしたのです。
ちょっと待ってください! それって国家機密事項じゃないんですか~?!
私は手にしているエドガーの身辺調査表に目を通し、頭を抱えます。思わず大きなため息が口をついて出てしまいました。
なんとエドガーは「俺はもう伯爵になったも同然だ」と言いふらし領地内で横暴な振る舞いをしているそうなのです。
まず、伯爵領地内では当たり前のように威張り散らながら闊歩しているようですわ。
そして「ロティーナは俺にぞっこんだから俺の言いなりだ。俺に逆らえばロティーナに言いつけてこの領地にいられなくしてやる」などと吠えて回っているそうなのです。
私の働いていた酒場以外でもたまに無銭飲食をしていたみたいですし、商店ではお金を払ったとしても大幅に値下げさせていた上になんと私へのプレゼントにするからと言って奪っていたそうなのです。なんてことでしょう、これじゃほとんど強奪じゃないですかって……ちょっと待ってください、私はこんな宝石など贈られた記憶がありません。私が彼から貰った物といえば、あの婚約指輪と小さな花束くらいです。
随分前に、「女性は宝石と花束ならどちらが喜ぶんだろうか」みたいな話をエドガーが話しているのを偶然聞いてしまった事がありました。なので私は「女は好意を持った方から頂くなら、宝石よりも心のこもった花束の方が嬉しく思うものですわ」とさりげなく伝えた事がありました。数日後、エドガーは小さな花束をプレゼントしてくれて「君はこれをどうする?」と聞かれたので「せっかくの花束が枯れてしまっては勿体ないので、ドライフラワーにしてずっと飾っておきたいです」と答えたのですが……エドガーは眉を顰めて「……やはり、そんな女か」とため息をつかれたことがあったのを思い出しました。あの時はその真意が理解出来ませんでしたが、きっとアミィ嬢と何かしら比べられて失望された……そんなところでしょうか。
そしてあの花束以来、エドガーが私に贈り物をしてくれることはありませんでした。ならば、この宝石たちがどこへ行ったのかですが……それも考えるまでもありませんね。
このような横暴、なぜ今まで誰も教えてくれなかったのでしょうか。
確かに領地内では私の婚約者であることは学園の卒業と同時に発表していますので、もちろん領民全員が知っています。だから多少の言動は皆さんも目をつむっていてくれていたようなのですが、我慢などせず、すぐ報告してくれていれば……。
いえ、違いますね。悪いのは私です。
“エドガーを信じていた”なんてただの言い訳です。私は自分のことに精一杯で、まさか自分の婚約者がこんな男だったなんて知ろうともしなかったのですもの。これでは勉強ばっかりの世間知らずと言われても仕方ないかもしれません。
領民の皆さんは親戚たちや貴族たちのように私の桃毛を蔑んだりせず、この婚約だってとても喜んで下さっているのです。だからこそエドガーの機嫌を損ねてこの婚約が失われたら私が悲しむからと、我慢してくれていたのですから。
ならば、私は責任を取らねばなりません。
それなのに、あの男……アミィ嬢に堂々と会いに行ってますわね。
アミィ嬢は隣国の王子の婚約者……となってはいますが、実はまだ正式ではありません。隣国での大切な式典であのような断罪劇をしでかしたせいで、あちらの一部の王族の反感を買ったようなのです。レベッカ様の事を気に入っていた方たちからしたらアミィ嬢は邪魔な存在でしかありませんから。
ですが王子自身がアミィ嬢を熱望していること、レベッカ様が修道院に送られてしまったこと、なによりアミィ嬢が公爵家の養女となったことなどを考慮して筆頭婚約者候補となっているはずです。
しかし本当に苛めがあったとしても、公爵令嬢が男爵令嬢をいじめたからと言う理由で婚約者をすげ替えるなんてそんなに簡単に出来るわけありません。隣国の国王も王子の熱望とは言えすんなりと受け入れられないはずです。なによりも、アミィ嬢は“公爵令嬢”の地位は手にいれても“教養”とか“品位”などと言うものは持ち合わせていらっしゃいません。とてもではありませんが、隣国の王子妃……ましてや未来の王妃になどなれる器ではないと思うのです。あの馬鹿な王子は「愛があれば大丈夫」などと寝言ばかり妄言してらっしゃいますが。
あぁ、あの馬鹿王子……この世から消えていなくならないかしゲブンゲフン。いけない、失言でしたわ。
「はぁ……」
はしたないかもしれませんが、大きなため息がまたもや口から漏れ出てしまいました。エドガーもアミィ嬢も一体何を考えているのかしら。
そう。つまり、アミィ嬢はとても微妙な位置にいらっしゃると言うことです。
こちらの国では「隣国の王子の婚約者である公爵令嬢」と豪語し、好き勝手しているようですが、ご自分の立場をよくわかってないのだけはわかりました。
……だって、公爵家の別宅にエドガーを招き入れているんですもの。大量のプレゼントを持っていたようですが、これ絶対に領地内のお店で強奪した物ですわね。婚約者のいる男性が隣国の王子の婚約者候補の女性に堂々と……ましてや深夜に会いに行くなんて本当に何を考えているのかしら。いえ、何も考えてませんわね。少しでも考えたならばこんなこと出来るはずがありませんもの。
それにしても伯爵令嬢の私がちょっと本気になって調べただけでこんなにすぐわかるなら、隣国ならもっと早くわかりそうなものなのに……。
「とにかく婚約者の不貞行為を掴んだわ!これを証拠に婚約破棄して……っ!」
その時、私以外は誰もいないはずの部屋に人の気配を感じました。
冷たい風が頬を撫でた瞬間、窓辺に人影が現れたのです。
「だ、誰……?!」
「……突然失礼致します。その桃色の髪……アレクサンドルト伯爵令嬢でいらっしゃいますか?」
カーテンが揺れ、月の光が差し込むとその人物の姿がハッキリと見えました。
キラキラと輝く銀髪に灰色の瞳。にっこりと微笑んではいますが、心の底を見せないようなそんな笑顔をした男性の姿があったのです。しかし銀髪と灰色の瞳とはまた珍しい色の方ですね。確か昔は灰色の瞳は不吉だと言われていたことを思い出しました。まぁ、珍しくてあまり見かけないから余計に言われるのかも知れませんが。私の桃色の髪と似たようなものです。
相手を観察しつつ、突然の不法侵入者に驚き怯えるフリをしながら武器を探します。そして暖炉脇に飾ってある火かき棒を握りしめるとそれを構えました。
酒場ではたまに酔っぱらいがケンカをしたり暴れる客がいるので、よくホウキを振り回して追い出したものてす。エドガーの時は多少動揺していたので披露出来ませんでしたが、あの辺の酔っぱらいならホウキでお尻を叩けばだいたい正気に戻ります。それに、こんな怪しい不法侵入者なら多少過激に追い払っても大丈夫でしょう。
「何が目的ですか!不法侵入はそれなりの罰を受けますよ!」
店員たるもの、ちゃんと常識的にお酒を楽しんでいる客を守らねばなりません。店の平和も守れずに領地の平和が守れるはずありませんからね!
するとそれまで私の言動を見ていた銀髪の男は、ポカンと口を開けて呆れたように言いました。
「……普通、貴族令嬢ってオレみたいの見ると怯えて泣いちゃうもんじゃないの?」
「どこの貴族令嬢と比較されているのかは知りませんが、私はあなたなど怖くありません!」
いえ、実際はちょっと怖いですよ?謎の不法侵入者だし知らない男性だし。ドレスで隠れてますが足なんかガクブルです。
「……この灰色の瞳が見えないのか?」
「瞳が灰色だからなんですか!こっちだって気味が悪いと言われる桃色の髪ですわ!」
前言撤回します。やっぱり見知らぬ男性はめちゃくちゃ怖いです!怖すぎてワケのわからない事を口走ってしまいました!だからこっちに近づかないで下さい!
震えそうになるのを我慢して火かき棒をきつく握り締め直します。これ以上近づいてきたら本で勉強した男性の急所をめった打ちにしてやりますから!
しかし、その不法侵入者は「ごめん、なにもしないよ」と両手をあげました。
「オレさぁ、実は隣国からやってきたスパイなんだ。あ、この事を誰かにバラしたら暗殺されるから気をつけて」
「……は、え、スパっ……?!」
私は火かき棒を構えたまま、驚きの余り思わず叫びそうになった言葉をグッと飲み込みました。
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