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20話
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ローレンに単刀直入に聞いてみてもやっぱり教えてくれなかった。
まあ、ルディさんにも言ってないのに俺に教えてくれるわけないよね。
それなら、と図書館で人族についての文献を読んでみることにした。
さぞかしたくさんあるんだろうなと思っていたらどうやらここには一冊しかないらしい。
.....うん、これは一冊で十分だわ....。
読み終わってから深く息を吐いた。
これを書いた人は人族がめちゃくちゃ嫌いだったんだろうな。
悪意しかない文章を読むのはなかなかに気力がいる。
奴隷時代だったときのことや奴隷だったときに何をされたかなど、事細かに書かれていた。
さらには奴隷が禁止された後も影では人身売買が行われていたことや、個人的にされたことまで様々だ。
これ....、読んだら誰でも人族のこと嫌いになるんじゃない....?
しかも最後の一文にこう記されていた。
『獣人族がされたことを忘れるな。非道な人族に血の鉄槌を』
怖すぎっ。
人族と仲良くなりたいならこんなの残しておくべきじゃないのは分かってるけど、俺が勝手に捨てる訳にもいかないしな....。
仕方なく本棚に戻して図書館を後にした。
一度、レムールの人にも獣人族をどう思っているのか話を聞いてみたい。
俺なら問題なく話聞けるだろうし、トリスさんに聞いてみようかな。
こういう場合はリベルの方がいいのか?
今日も夜来るかもしれないしその時聞けばいいか。マーキングしなくてもいいんじゃないか問題もあるしな。
そう考えてから3日が経った。
———いや、来ないんかいっ。
別にいいけど!来て欲しかったわけじゃないし!
けど来ないんだったら言っといてくれないと!
アポとらなきゃいけないし!
それに待ってた俺がバカみたいじゃんか!
まったくもう。いいもん。トリスさんに聞くもんねっ。
「チヒロさんっ...!」
「あれ、トリスさんどうしたんですか?」
少し焦った様子のトリスさんが後ろから声をかけてきた。
たしかトリスさんと約束していたのは夕方だったはず。
今は昼過ぎのため、約束の時間まではまだ時間があるのにそんなに急いでどうしたんだろうか?
隣には見覚えのない男の人もいる。白い隊服を着た薄茶色の髪と黒の瞳を持った背の高い人だ。
耳は丸みがあって少し大きい。なんの獣人かな?
と、いうか白い隊服は初めて見た。
獣騎士団のみんなは黒い隊服を着ているのでこの人は獣騎士団の人じゃないんだろうか。
心なしか睨まれている気がする。
2人が近づいてくるとヴィスが俺の前に割って入ってきた。
「貴様がチヒロか」
嫌悪感を隠しもせず、男が吐き捨てるように言った。
その瞬間、ピリッとした空気が漂う。
「.....そう、ですけど....」
ヴィスに護られているお陰でなんとか返事ができた。俺1人だったら多分怖くて震えることしかできなかったと思う。
「我々と来てもらおうか」
我々?ってことはまだ他にもいるのか...?
「その前に説明をして頂きたい」
ヴィスかっこいい....!
俺もあんまりかっこ悪い姿を見せるわけにはいかないな。
「あの、どちら様でしょう?」
思い切って声をかけると、ヴィスに向いていた瞳が再びこちらへ向く。
あまりの鋭さに、後ずさりそうになるのをなんとか堪えた。
「説明は後だ。ここは目立つ。戻るぞ」
「何の説明もなしについて来いとは些か横暴では?」
「聞こえなかったか?説明は後だと言ったのだ」
ヴィスが尚も食い下がるが男は表情も変えず冷たく言い放つ。
「ヴィスさん!ここは彼の言う通りに。彼らは王命で動いているようなのです...」
「王命!?」
トリスさんの言葉に思わず声を上げた。
「そういうことだ。早くついて来い」
王様が俺に何の用ですかね....?
◇◇◇◇
ネイベルの王城にも転移陣があるらしく、今はその転移陣と繋がる場所へ移動している。
メイヤットさんを送った所とは別の場所だ。
道すがらトリスさんに大まかな事情を説明してもらった。
と、言ってもトリスさんもほとんど説明はしてもらっていないらしい。
今日は定期報告の日ではなかったようだが、鳥の獣人から"今日この時間に転移陣を作動させるように"という緊急連絡を受け、行ったところ彼らが現れたんだそうだ。
あの男の他にもあと3人いるらしい。
俺を王城へ連れて来るように、の一点張りで王命に背くなら重罪である、と従う他なかった。
「申し訳ありません」とトリスさんは謝るが、そんな状況なら誰でもそうなるって。
ついていくしかない状況でヴィスが耳打ちをしてきた。
「あの白い隊服、近衛騎士団のものだ」
「近衛騎士団?」
近衛騎士団は主に王族や貴族の護衛を担っているらしい。なんだってそんな人がここに?
っていうか状況がよく飲み込めてないんですが。
なんでこんなに剣呑な空気なんですかね...?
地下を進み、転移陣に着くとトリスさんの言っていた通り他にも白い隊服を身につけた人が3人いた。
皆一様に険しい視線をぶつけてくる。
歓迎はされてないみたいですね。
「先程も言ったが我々はその人族を城へ連れて来るよう王命を受けている。これが書状だ」
男が紙を広げるとそれを読んだヴィスの表情が険しくなった。どうやら本物のようだ。
「....わかりました。それでは私も同行させて頂きます。チヒロ殿の護衛を仰せつかっておりますので」
「駄目だ」
「なぜ!」
「砦の戦力を削ぐわけにはいかない」
「っ....、では、せめてリベル団長が戻るまでお待ちください!」
「待つつもりはない。すぐに転送しろ」
「———では、武のない私が同行するのはよろしいですかな?」
押し問答が繰り広げられる中、堂々とした声が上から降ってきた。
「フィレルさん!」
階段の上にはこの場にそぐわぬ柔らかな笑みを浮かべてフィレルさんが立っている。
「.....同行は許可できかねます」
「おや、なぜです?よもや武のない私が怖いわけではないでしょう?」
コツコツと音を鳴らして階段を降りながら、男から目を逸らさずに言った。
「チヒロ殿は私の大切な友人です。同行の許可を」
男の目の前まで近づき、笑みを消したフィレルさんは大声を出しているわけでもないのに妙な威圧感がある。
「........わかりました。ですが、こちらの指示には従って頂きます」
「かまいませんよ」
悔しそうな表情の男とは対照的ににっこりと微笑むフィレルさん。
フィレルさんかっけえぇぇ!!
惚れるわ!まじで!一生ついていきます!
まあ、ルディさんにも言ってないのに俺に教えてくれるわけないよね。
それなら、と図書館で人族についての文献を読んでみることにした。
さぞかしたくさんあるんだろうなと思っていたらどうやらここには一冊しかないらしい。
.....うん、これは一冊で十分だわ....。
読み終わってから深く息を吐いた。
これを書いた人は人族がめちゃくちゃ嫌いだったんだろうな。
悪意しかない文章を読むのはなかなかに気力がいる。
奴隷時代だったときのことや奴隷だったときに何をされたかなど、事細かに書かれていた。
さらには奴隷が禁止された後も影では人身売買が行われていたことや、個人的にされたことまで様々だ。
これ....、読んだら誰でも人族のこと嫌いになるんじゃない....?
しかも最後の一文にこう記されていた。
『獣人族がされたことを忘れるな。非道な人族に血の鉄槌を』
怖すぎっ。
人族と仲良くなりたいならこんなの残しておくべきじゃないのは分かってるけど、俺が勝手に捨てる訳にもいかないしな....。
仕方なく本棚に戻して図書館を後にした。
一度、レムールの人にも獣人族をどう思っているのか話を聞いてみたい。
俺なら問題なく話聞けるだろうし、トリスさんに聞いてみようかな。
こういう場合はリベルの方がいいのか?
今日も夜来るかもしれないしその時聞けばいいか。マーキングしなくてもいいんじゃないか問題もあるしな。
そう考えてから3日が経った。
———いや、来ないんかいっ。
別にいいけど!来て欲しかったわけじゃないし!
けど来ないんだったら言っといてくれないと!
アポとらなきゃいけないし!
それに待ってた俺がバカみたいじゃんか!
まったくもう。いいもん。トリスさんに聞くもんねっ。
「チヒロさんっ...!」
「あれ、トリスさんどうしたんですか?」
少し焦った様子のトリスさんが後ろから声をかけてきた。
たしかトリスさんと約束していたのは夕方だったはず。
今は昼過ぎのため、約束の時間まではまだ時間があるのにそんなに急いでどうしたんだろうか?
隣には見覚えのない男の人もいる。白い隊服を着た薄茶色の髪と黒の瞳を持った背の高い人だ。
耳は丸みがあって少し大きい。なんの獣人かな?
と、いうか白い隊服は初めて見た。
獣騎士団のみんなは黒い隊服を着ているのでこの人は獣騎士団の人じゃないんだろうか。
心なしか睨まれている気がする。
2人が近づいてくるとヴィスが俺の前に割って入ってきた。
「貴様がチヒロか」
嫌悪感を隠しもせず、男が吐き捨てるように言った。
その瞬間、ピリッとした空気が漂う。
「.....そう、ですけど....」
ヴィスに護られているお陰でなんとか返事ができた。俺1人だったら多分怖くて震えることしかできなかったと思う。
「我々と来てもらおうか」
我々?ってことはまだ他にもいるのか...?
「その前に説明をして頂きたい」
ヴィスかっこいい....!
俺もあんまりかっこ悪い姿を見せるわけにはいかないな。
「あの、どちら様でしょう?」
思い切って声をかけると、ヴィスに向いていた瞳が再びこちらへ向く。
あまりの鋭さに、後ずさりそうになるのをなんとか堪えた。
「説明は後だ。ここは目立つ。戻るぞ」
「何の説明もなしについて来いとは些か横暴では?」
「聞こえなかったか?説明は後だと言ったのだ」
ヴィスが尚も食い下がるが男は表情も変えず冷たく言い放つ。
「ヴィスさん!ここは彼の言う通りに。彼らは王命で動いているようなのです...」
「王命!?」
トリスさんの言葉に思わず声を上げた。
「そういうことだ。早くついて来い」
王様が俺に何の用ですかね....?
◇◇◇◇
ネイベルの王城にも転移陣があるらしく、今はその転移陣と繋がる場所へ移動している。
メイヤットさんを送った所とは別の場所だ。
道すがらトリスさんに大まかな事情を説明してもらった。
と、言ってもトリスさんもほとんど説明はしてもらっていないらしい。
今日は定期報告の日ではなかったようだが、鳥の獣人から"今日この時間に転移陣を作動させるように"という緊急連絡を受け、行ったところ彼らが現れたんだそうだ。
あの男の他にもあと3人いるらしい。
俺を王城へ連れて来るように、の一点張りで王命に背くなら重罪である、と従う他なかった。
「申し訳ありません」とトリスさんは謝るが、そんな状況なら誰でもそうなるって。
ついていくしかない状況でヴィスが耳打ちをしてきた。
「あの白い隊服、近衛騎士団のものだ」
「近衛騎士団?」
近衛騎士団は主に王族や貴族の護衛を担っているらしい。なんだってそんな人がここに?
っていうか状況がよく飲み込めてないんですが。
なんでこんなに剣呑な空気なんですかね...?
地下を進み、転移陣に着くとトリスさんの言っていた通り他にも白い隊服を身につけた人が3人いた。
皆一様に険しい視線をぶつけてくる。
歓迎はされてないみたいですね。
「先程も言ったが我々はその人族を城へ連れて来るよう王命を受けている。これが書状だ」
男が紙を広げるとそれを読んだヴィスの表情が険しくなった。どうやら本物のようだ。
「....わかりました。それでは私も同行させて頂きます。チヒロ殿の護衛を仰せつかっておりますので」
「駄目だ」
「なぜ!」
「砦の戦力を削ぐわけにはいかない」
「っ....、では、せめてリベル団長が戻るまでお待ちください!」
「待つつもりはない。すぐに転送しろ」
「———では、武のない私が同行するのはよろしいですかな?」
押し問答が繰り広げられる中、堂々とした声が上から降ってきた。
「フィレルさん!」
階段の上にはこの場にそぐわぬ柔らかな笑みを浮かべてフィレルさんが立っている。
「.....同行は許可できかねます」
「おや、なぜです?よもや武のない私が怖いわけではないでしょう?」
コツコツと音を鳴らして階段を降りながら、男から目を逸らさずに言った。
「チヒロ殿は私の大切な友人です。同行の許可を」
男の目の前まで近づき、笑みを消したフィレルさんは大声を出しているわけでもないのに妙な威圧感がある。
「........わかりました。ですが、こちらの指示には従って頂きます」
「かまいませんよ」
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