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16話
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緊急事態の意味を持つ赤い狼煙を上げると、視界の端に何かが映る。
咄嗟に氷の壁を右横に作り出した。
ガキィーン!!
甲高い音とともに氷が砕け散る。
全身に黒を纏った男が短剣を突き立てたのだ。
「っ!?」
肌も殆ど覆われており見えるのは肉食獣のような金色の瞳だけ。
「良い反応だねぇ」
楽しげに言うと少し距離を取った。
心臓がばくばくと鳴り手汗がじわりと滲む。
今防げたのも運が良かっただけだ。
全身に結界を張りじりじりと後ずさる。
「君、武器持ってないの?」
「ないけど...?」
「短剣くらいは持っておいた方がいいよ。戦い方の幅が広がるから」
そう言ってこっちに向かってさっき突き立てた短剣を放り投げた。
「!?」
短剣は弧を描いて俺の手に収まる。
「.....どういうつもりだ?」
敵に武器を渡すなんてなにを考えているんだろう。
「あ、大丈夫。僕はまだ持ってるから」
そんな心配をしているわけではないのだが男は腰からもうひとつ短剣を引き抜いた。
「わざわざくれたのに申し訳ないが、俺剣は使えないんだ」
「すぐ使えるようになるよ!僕が教えてあげるから!」
「はぁ?」
何言ってんだこいつは...。
「教えてくれるのはありがたいがなんでそんなことを?」
勝てる気がしないのでなんとか応援が来るまで時間を稼ぎたい。
「強い人と戦いたいからだよ!」
「....俺は別に強くないけど...?」
「謙遜?さっきの攻撃はすごく良かったよ?」
「....それはどうも」
難なく回避している相手に言われても褒められてる気はしない。
「君みたいな戦い方をする人は初めてだからすごく嬉しいよ!ねえ、名前教えて?僕はね、リズだよ!」
「......」
俺が黙っているとしょんぼりした様にちぇっと呟いた。
やばいやつ確定だな。できれば関わり合いたくない。早く逃げたい。
「さっきの奴らとは仲間じゃないのか?」
「違うよ?ただお金で雇われただけ。強い奴と戦えるって言うから」
「なるほどね。....さっき応援を呼んだからすぐ人が集まってくるぞ?いいのか?」
「心配しないで!逃げる算段はあるから!」
相当自信があるのだろう。こともなげに言った。
「じゃあ、そろそろいいかな?」
そう言ったかと思えば一瞬で距離を詰められる。
さっき貰った剣に氷を纏わせなんとか受け止めるが氷は砕け散った。
続けざまに左の脇腹に拳が入ったが結界を張っていたので事なきを得る。
「ひゅ~」
口笛を吹いてなおも攻撃を繰り出そうとする男を風で吹き飛ばした。
くるんと身軽に回転して危なげなく着地する。
「いいねぇ~いいねぇ~。楽しいねぇ~」
冗談じゃない。こんなのいつまでも付き合ってられるか。
足元に風刃を飛ばすが軽くジャンプして避けられてしまう。
「なっ...!」
見えない風の刃を簡単に避けられてしまい驚愕した。
後ろの壁がガラガラと崩れ落ちる。
「ねえ、さっきから足元しか狙ってこないけど理由あるの?」
「....別に?」
「ふぅん?」
また一気に距離を詰められ視界から消えた。
見えないのだから背後だろうと根拠もないのに氷の壁を作る。
パニクリすぎて思考がおかしくなっているのかもしれない。
自身に結界を張っているので多少の攻撃は受けても大丈夫なのだが不安でついガードしてしまう。
魔力もまだあるので使い切らずに痛い思いをするよりも使い切って気絶している間になにかされた方がましだ。
再び氷の割れる音を聞きながら振り向き様に短剣を突き立てる。
それを易々と止められほぼ同じ体勢で向かい合う形になった。
ただ一点違うのは相手だけ短剣を握る右手がフリーだという事。
つまりめちゃくちゃやばい。
必死に相手を睨みつける。
だが振りかざしてはいるものの、重ねて攻撃することなく楽しそうに言った。
「こんなに攻撃止められたの初めてだよ」
.....今のは完全に偶然でしたけどね...!
言葉を発する余裕もなく黙り込む俺を見てどう勘違いしたのかとんでもない事を言い出した。
「もしかして手加減してない?」
「は?」
予想外の言葉に間抜けな声が漏れてしまう。
こっちはいっぱいいっぱいだっつの....!
「だって攻撃魔法全然撃ってこないじゃない」
防ぐのがやっとなんだよ...!
「撃ったと思っても足元ばっかりだし。致命傷にならないようにしてるよね?」
「......買い被りすぎじゃないか?」
確かに致命傷にならないように足元を攻撃していたがそれは手加減しているとかではなくただ単に人を殺す覚悟がないだけだ。
もし頭などに当たって死んでしまったらと思うと怖くて撃てない。
「そんなことないよ!俺の攻撃こんな防いでるんだもん!そこは自信持って!」
なんか褒められた。
「それにしても魔力量相当多いよね?結界もずっと張ってるんでしょ?」
突然足を掬われ後ろに倒れた。
「うわっ!」
上にのしかかり、右腕も押さえられたままで身動きがとれなくなってしまう。
唯一自由だった左腕も男が振り下ろそうとしている右腕を押さえるのに必死だ。
「ねえ、本気出してよ。それとも僕程度では本気出せない?」
「.....違う。本当にこれが全力だ」
「嘘だぁー。今だって攻撃できるのにしないじゃん。なんで?」
本当のことを言っても納得してくれるかどうかはわからないが応援ももうすぐ来てくれるはずだ。
時間稼ぎくらいにはなるだろう。
「....できれば血を見たくないだけだ。人が死ぬのはもっとな」
驚いたように金色の瞳が見開かれるがすぐにすうっと細まった。
口元が隠れているのでよくわからないが笑っているのだろう。
「ふふっ、随分可愛らしい理由だね。顔が可愛いと言う事まで可愛くなるのかな?」
揶揄っている様子はなく本気で言っているようだ。
「でもやっぱり手加減してたんじゃない」
「はぁ?なんでそうなるんだよ」
「だってそうでしょ?できれば見たくないってことはやらないだけでやろうと思えば出来るってことでしょ?」
「うっ....」
図星を突かれ思わず言葉に詰まる。
「どうすれば本気出してくれる?この綺麗な瞳抉ればやる気になってくれるかなぁ?」
右手に力が込められ俺の左目に短剣の先が近づく。
「それとも君の親しい人を殺した方が効果的かな?」
その言葉に今度は俺の左手にぐっと力が入り男の手首を締め付ける。
初めて対峙する狂気にゾッとした。
咄嗟に氷の壁を右横に作り出した。
ガキィーン!!
甲高い音とともに氷が砕け散る。
全身に黒を纏った男が短剣を突き立てたのだ。
「っ!?」
肌も殆ど覆われており見えるのは肉食獣のような金色の瞳だけ。
「良い反応だねぇ」
楽しげに言うと少し距離を取った。
心臓がばくばくと鳴り手汗がじわりと滲む。
今防げたのも運が良かっただけだ。
全身に結界を張りじりじりと後ずさる。
「君、武器持ってないの?」
「ないけど...?」
「短剣くらいは持っておいた方がいいよ。戦い方の幅が広がるから」
そう言ってこっちに向かってさっき突き立てた短剣を放り投げた。
「!?」
短剣は弧を描いて俺の手に収まる。
「.....どういうつもりだ?」
敵に武器を渡すなんてなにを考えているんだろう。
「あ、大丈夫。僕はまだ持ってるから」
そんな心配をしているわけではないのだが男は腰からもうひとつ短剣を引き抜いた。
「わざわざくれたのに申し訳ないが、俺剣は使えないんだ」
「すぐ使えるようになるよ!僕が教えてあげるから!」
「はぁ?」
何言ってんだこいつは...。
「教えてくれるのはありがたいがなんでそんなことを?」
勝てる気がしないのでなんとか応援が来るまで時間を稼ぎたい。
「強い人と戦いたいからだよ!」
「....俺は別に強くないけど...?」
「謙遜?さっきの攻撃はすごく良かったよ?」
「....それはどうも」
難なく回避している相手に言われても褒められてる気はしない。
「君みたいな戦い方をする人は初めてだからすごく嬉しいよ!ねえ、名前教えて?僕はね、リズだよ!」
「......」
俺が黙っているとしょんぼりした様にちぇっと呟いた。
やばいやつ確定だな。できれば関わり合いたくない。早く逃げたい。
「さっきの奴らとは仲間じゃないのか?」
「違うよ?ただお金で雇われただけ。強い奴と戦えるって言うから」
「なるほどね。....さっき応援を呼んだからすぐ人が集まってくるぞ?いいのか?」
「心配しないで!逃げる算段はあるから!」
相当自信があるのだろう。こともなげに言った。
「じゃあ、そろそろいいかな?」
そう言ったかと思えば一瞬で距離を詰められる。
さっき貰った剣に氷を纏わせなんとか受け止めるが氷は砕け散った。
続けざまに左の脇腹に拳が入ったが結界を張っていたので事なきを得る。
「ひゅ~」
口笛を吹いてなおも攻撃を繰り出そうとする男を風で吹き飛ばした。
くるんと身軽に回転して危なげなく着地する。
「いいねぇ~いいねぇ~。楽しいねぇ~」
冗談じゃない。こんなのいつまでも付き合ってられるか。
足元に風刃を飛ばすが軽くジャンプして避けられてしまう。
「なっ...!」
見えない風の刃を簡単に避けられてしまい驚愕した。
後ろの壁がガラガラと崩れ落ちる。
「ねえ、さっきから足元しか狙ってこないけど理由あるの?」
「....別に?」
「ふぅん?」
また一気に距離を詰められ視界から消えた。
見えないのだから背後だろうと根拠もないのに氷の壁を作る。
パニクリすぎて思考がおかしくなっているのかもしれない。
自身に結界を張っているので多少の攻撃は受けても大丈夫なのだが不安でついガードしてしまう。
魔力もまだあるので使い切らずに痛い思いをするよりも使い切って気絶している間になにかされた方がましだ。
再び氷の割れる音を聞きながら振り向き様に短剣を突き立てる。
それを易々と止められほぼ同じ体勢で向かい合う形になった。
ただ一点違うのは相手だけ短剣を握る右手がフリーだという事。
つまりめちゃくちゃやばい。
必死に相手を睨みつける。
だが振りかざしてはいるものの、重ねて攻撃することなく楽しそうに言った。
「こんなに攻撃止められたの初めてだよ」
.....今のは完全に偶然でしたけどね...!
言葉を発する余裕もなく黙り込む俺を見てどう勘違いしたのかとんでもない事を言い出した。
「もしかして手加減してない?」
「は?」
予想外の言葉に間抜けな声が漏れてしまう。
こっちはいっぱいいっぱいだっつの....!
「だって攻撃魔法全然撃ってこないじゃない」
防ぐのがやっとなんだよ...!
「撃ったと思っても足元ばっかりだし。致命傷にならないようにしてるよね?」
「......買い被りすぎじゃないか?」
確かに致命傷にならないように足元を攻撃していたがそれは手加減しているとかではなくただ単に人を殺す覚悟がないだけだ。
もし頭などに当たって死んでしまったらと思うと怖くて撃てない。
「そんなことないよ!俺の攻撃こんな防いでるんだもん!そこは自信持って!」
なんか褒められた。
「それにしても魔力量相当多いよね?結界もずっと張ってるんでしょ?」
突然足を掬われ後ろに倒れた。
「うわっ!」
上にのしかかり、右腕も押さえられたままで身動きがとれなくなってしまう。
唯一自由だった左腕も男が振り下ろそうとしている右腕を押さえるのに必死だ。
「ねえ、本気出してよ。それとも僕程度では本気出せない?」
「.....違う。本当にこれが全力だ」
「嘘だぁー。今だって攻撃できるのにしないじゃん。なんで?」
本当のことを言っても納得してくれるかどうかはわからないが応援ももうすぐ来てくれるはずだ。
時間稼ぎくらいにはなるだろう。
「....できれば血を見たくないだけだ。人が死ぬのはもっとな」
驚いたように金色の瞳が見開かれるがすぐにすうっと細まった。
口元が隠れているのでよくわからないが笑っているのだろう。
「ふふっ、随分可愛らしい理由だね。顔が可愛いと言う事まで可愛くなるのかな?」
揶揄っている様子はなく本気で言っているようだ。
「でもやっぱり手加減してたんじゃない」
「はぁ?なんでそうなるんだよ」
「だってそうでしょ?できれば見たくないってことはやらないだけでやろうと思えば出来るってことでしょ?」
「うっ....」
図星を突かれ思わず言葉に詰まる。
「どうすれば本気出してくれる?この綺麗な瞳抉ればやる気になってくれるかなぁ?」
右手に力が込められ俺の左目に短剣の先が近づく。
「それとも君の親しい人を殺した方が効果的かな?」
その言葉に今度は俺の左手にぐっと力が入り男の手首を締め付ける。
初めて対峙する狂気にゾッとした。
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