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3章 サマク商国
第44話 税金
しおりを挟むすっかり夜の帳が降りたところでセバスチャン、タスク、たてのりがそれぞれ抱えている小箱には金が溢れんばかりに入っていた。
もしかしたらこのまま稼いで船代だけでなく貯金も取り返せるかもとアルアスルは浮かれていた。
「もう十分やない?日も暮れて今日どうするんや」
アルアスルに引き摺り出された数本の娘が完売したタスクが拗ねたように呟く。
「それもそうやな。莉音の喉も心配なってきたしそろそろ片付けて…」
タスクが座っていた布切れを丸めて片付けを始めたところで、アルアスルは誰かに肩を叩かれた。
振り返るとそこにはたっぷりの毛を蓄えた強面の大きな猫人が立っていた。
後ろには数人の同じような強面を連れている。
アルアスルの尻尾が逆立った。
「失礼。ここで見たことのない大道芸人が金を稼いでいるとタレコミがありまして。そちら、屋号は?」
「あ、え、えっと……ぴ、ピエロです…」
アルアスルは顔を隠しながら縮こまる。
後ろの猫人が書類をめくって名前を確認している。
何事かと男性陣がアルアスルのところに金を持って集まると、その大きな猫人は眉を顰めて目を細めた。
「ありませんね」
「そうか。失礼、私役所のサイキと申します。ピエロさん、営業許可は?」
知らなかったわけではない。
ただ、営業許可証の発行にはそこそこのお金が必要で、また、稼いだところからかなりの税金が取られる。
元手なしだったアルアスルに役所の許可を取って商売をするという選択肢はなかった。
押し黙ったアルアスルの空気を察して一行も全員が気まずそうに口を結ぶ。
サイキはため息をひとつつくと後ろの猫人に視線だけで指示を出した。
「あっ!やめ…!」
猫人たちは一斉に男たちが持つお金を取りにかかる。
抵抗するアルアスルをサイキが睨みつけた。
「あなたも猫人、この街の生まれ育ちやないんですか?まさか知らないなんてことはあるまい。営業許可証なしでの営業が発覚した場合は、届出しなかった時の分の稼ぎから9割の徴収とその後の営業不許可の決まりがありますね」
有無を言わさぬ眼力にアルアスルは尻尾と耳を下げる。
たかだか数人の猫人相手だ。たてのりに暴れさせたら一瞬で片がつくだろう。
それでも、アルアスルはたてのりを制した。
「あかん…ここは素直に払わんとまずい。サマクの役人はほんまに……ほんまに金にはしつこいんや…地獄の底でも追ってくるぞ…」
一行が素直に見守る中で、金勘定を終えたサイキの部下たちがきっちり9割の金を袋に詰めていく。
手元に残った僅かな銀貨を見てアルアスルは遠い目をした。
「では、これで。今後ないように」
立ち去っていく役人たちの背に思い切り舌を出したアルアスルはその姿が見えなくなってガックリと肩を落とした。
「はあ……あんなに稼いだのにこれっぽっちしか残らへんかった…ごめんなみんな…」
身売りをされて芸で稼がされた全員はなんとなく複雑な顔をしつつ、アルアスルのしょぼくれた様子に黙って頷いた。
元はと言えばそれぞれが好き勝手にお金を使ったせいである。
税金を取られても罰金を取られても文句を言える資格のある人は誰もいなかった。
「もしかしてと思ったけど、これやとどっちにせよホテル宿泊は無理やな。どっちにしてもエルフ島までは数日かかるし、船賃を見にいくか」
店を畳んでさらに海の方へと進む。
潮の香りがだんだんと強くなり、暗くてよくは見えないが目の前には真っ黒な海が広がっているようだった。
船着場と思われるところには煌々と光を放つ大きく立派な客船があってそこだけが浮き上がって見えた。
船のテラスには楽器の準備がしてあり、少しだけ見える船内にはシャンデリアが下がっている。
船へと上がる階段は赤いカーペットまで敷かれていた。
「これがエルフ島に行く今日最後の便のようやな。あ、すみません」
タスクが階段下にいる帽子を被った猫人に声をかける。
マドロスと書かれた名札の猫は愛想よく帽子をあげて挨拶した。
「ファオクク島まで6人でいくらですか?」
「はい、ひとりあたり銀貨4500ですので金貨5と銀貨4000ですね」
再度手元を確認するが、袋の中は銀貨しかない。
金貨5など到底払えるはずもなかった。
「また…野宿…!?」
状況を把握した莉音が青ざめる。
「でも、野宿したところでもう目つけられてるから商売もできへんし、営業許可証は金貨3やから買えへん…サマクにはギルドがないから金は増えへんぞ…!」
ギルドは主要都市にいくつかあるのが常識ではあるが、サマク商国には冒険者がおらず、通りすがりの旅行者はいてもクエストをわざわざ受注しにくる者はいないためギルドがない。
西大陸のパーティはツェントルムの街が中心の活動になるためそこ以外にギルドが存在しないのだ。
「もう俺が道ゆく人の財布すってすってすりまくるしか…!?」
「皿洗いとかして雇われる…?」
「道場破りでもするか…いや道場なんかないか…」
「エルフ島は諦めたらどうだ。俺は行きたくない」
「そうは言っても一番近いとこっつったらファオククやんか!」
すっかり困窮した様子の6人にマドロスが苦笑しながら控えめに申し出た。
「あのお、お金が足りないようでしたらあちらはいかがですか?確か、格安で乗れたかと」
マドロスが指差したのは豪華な船のすぐ横にある、目を凝らしても何も見えない空間だった。
ひとまずお礼を言ってそちらに近付くと客船の光にすっかり負けて闇に飲まれた看板が立っていた。
明かりも船もない、いかにも手作りで建てられた不恰好な看板には汚い字で「人魚の海運屋」と書かれている。
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