45 / 63
3章 サマク商国
第44話 税金
しおりを挟むすっかり夜の帳が降りたところでセバスチャン、タスク、たてのりがそれぞれ抱えている小箱には金が溢れんばかりに入っていた。
もしかしたらこのまま稼いで船代だけでなく貯金も取り返せるかもとアルアスルは浮かれていた。
「もう十分やない?日も暮れて今日どうするんや」
アルアスルに引き摺り出された数本の娘が完売したタスクが拗ねたように呟く。
「それもそうやな。莉音の喉も心配なってきたしそろそろ片付けて…」
タスクが座っていた布切れを丸めて片付けを始めたところで、アルアスルは誰かに肩を叩かれた。
振り返るとそこにはたっぷりの毛を蓄えた強面の大きな猫人が立っていた。
後ろには数人の同じような強面を連れている。
アルアスルの尻尾が逆立った。
「失礼。ここで見たことのない大道芸人が金を稼いでいるとタレコミがありまして。そちら、屋号は?」
「あ、え、えっと……ぴ、ピエロです…」
アルアスルは顔を隠しながら縮こまる。
後ろの猫人が書類をめくって名前を確認している。
何事かと男性陣がアルアスルのところに金を持って集まると、その大きな猫人は眉を顰めて目を細めた。
「ありませんね」
「そうか。失礼、私役所のサイキと申します。ピエロさん、営業許可は?」
知らなかったわけではない。
ただ、営業許可証の発行にはそこそこのお金が必要で、また、稼いだところからかなりの税金が取られる。
元手なしだったアルアスルに役所の許可を取って商売をするという選択肢はなかった。
押し黙ったアルアスルの空気を察して一行も全員が気まずそうに口を結ぶ。
サイキはため息をひとつつくと後ろの猫人に視線だけで指示を出した。
「あっ!やめ…!」
猫人たちは一斉に男たちが持つお金を取りにかかる。
抵抗するアルアスルをサイキが睨みつけた。
「あなたも猫人、この街の生まれ育ちやないんですか?まさか知らないなんてことはあるまい。営業許可証なしでの営業が発覚した場合は、届出しなかった時の分の稼ぎから9割の徴収とその後の営業不許可の決まりがありますね」
有無を言わさぬ眼力にアルアスルは尻尾と耳を下げる。
たかだか数人の猫人相手だ。たてのりに暴れさせたら一瞬で片がつくだろう。
それでも、アルアスルはたてのりを制した。
「あかん…ここは素直に払わんとまずい。サマクの役人はほんまに……ほんまに金にはしつこいんや…地獄の底でも追ってくるぞ…」
一行が素直に見守る中で、金勘定を終えたサイキの部下たちがきっちり9割の金を袋に詰めていく。
手元に残った僅かな銀貨を見てアルアスルは遠い目をした。
「では、これで。今後ないように」
立ち去っていく役人たちの背に思い切り舌を出したアルアスルはその姿が見えなくなってガックリと肩を落とした。
「はあ……あんなに稼いだのにこれっぽっちしか残らへんかった…ごめんなみんな…」
身売りをされて芸で稼がされた全員はなんとなく複雑な顔をしつつ、アルアスルのしょぼくれた様子に黙って頷いた。
元はと言えばそれぞれが好き勝手にお金を使ったせいである。
税金を取られても罰金を取られても文句を言える資格のある人は誰もいなかった。
「もしかしてと思ったけど、これやとどっちにせよホテル宿泊は無理やな。どっちにしてもエルフ島までは数日かかるし、船賃を見にいくか」
店を畳んでさらに海の方へと進む。
潮の香りがだんだんと強くなり、暗くてよくは見えないが目の前には真っ黒な海が広がっているようだった。
船着場と思われるところには煌々と光を放つ大きく立派な客船があってそこだけが浮き上がって見えた。
船のテラスには楽器の準備がしてあり、少しだけ見える船内にはシャンデリアが下がっている。
船へと上がる階段は赤いカーペットまで敷かれていた。
「これがエルフ島に行く今日最後の便のようやな。あ、すみません」
タスクが階段下にいる帽子を被った猫人に声をかける。
マドロスと書かれた名札の猫は愛想よく帽子をあげて挨拶した。
「ファオクク島まで6人でいくらですか?」
「はい、ひとりあたり銀貨4500ですので金貨5と銀貨4000ですね」
再度手元を確認するが、袋の中は銀貨しかない。
金貨5など到底払えるはずもなかった。
「また…野宿…!?」
状況を把握した莉音が青ざめる。
「でも、野宿したところでもう目つけられてるから商売もできへんし、営業許可証は金貨3やから買えへん…サマクにはギルドがないから金は増えへんぞ…!」
ギルドは主要都市にいくつかあるのが常識ではあるが、サマク商国には冒険者がおらず、通りすがりの旅行者はいてもクエストをわざわざ受注しにくる者はいないためギルドがない。
西大陸のパーティはツェントルムの街が中心の活動になるためそこ以外にギルドが存在しないのだ。
「もう俺が道ゆく人の財布すってすってすりまくるしか…!?」
「皿洗いとかして雇われる…?」
「道場破りでもするか…いや道場なんかないか…」
「エルフ島は諦めたらどうだ。俺は行きたくない」
「そうは言っても一番近いとこっつったらファオククやんか!」
すっかり困窮した様子の6人にマドロスが苦笑しながら控えめに申し出た。
「あのお、お金が足りないようでしたらあちらはいかがですか?確か、格安で乗れたかと」
マドロスが指差したのは豪華な船のすぐ横にある、目を凝らしても何も見えない空間だった。
ひとまずお礼を言ってそちらに近付くと客船の光にすっかり負けて闇に飲まれた看板が立っていた。
明かりも船もない、いかにも手作りで建てられた不恰好な看板には汚い字で「人魚の海運屋」と書かれている。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる