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第九章・エリオット、危機一髪?
69・ゆさぶり
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──あ、あなたは!ベンさん?
突然僕の目の前に現れたベン。今までどんなに探しても全然会えなかったのに、今日はこんなにあっさりと…そのことに面食らって、直ぐには反応出来なかった僕。そんな不甲斐ない僕を知ってか知らずか、トムさんが驚くべきことを言い出す。
「ベンさんじゃないですか!?ちょうど今、ベンさんの噂をしていたんだよ。前回会った時、俺が余計なことを言って怒らせてしまったんじゃないか?って…」
──こ、この正直者ーっ!
だけどそうだよね?そんなところがトムさんのいいところなんだけど…だけどそれを言う必要もないっていうか。まあ、よっぽど気になってたんだな。
そう言ってウルウルな目で見つめるトムさんに、ベンは驚きそして不思議そうな顔をする。
「そ、そうでしたか?私の態度が悪かったようです…すみません。いつも親切なトムさんを怒るなんて、ある筈ないですから!誤解を与えたなら、申し訳ありませんでした。怒ったなんて事実はありませんから安心して下さい」
ベンは焦りながらそう話し、それからバッと頭を下げ「ごめんなさい!」と再度謝った。
そんな素直に謝るベンを見ていた僕は、少し困惑していた。前からそう感じていたけど、今回会ってみて確信に変わったんだ。この人…僕と他の人との対応に差があるんだね?と。
この一連のトムさんへの謝罪は、心からそう思っているのが分かる…眉間にちょっとシワを寄せて悲しそうな顔をしているし。それに誰しも虫の居所が悪い時だってあるし、たまたまその時はそうだったのだろうと思う。だけど僕は…
前に一度だけだが、話した時の挑むような眼差しが忘れられないんだ。あれ、どういう意味だったんだろう?と。おまけに真偽は確かじゃないが、アノー伯爵家の使用人だと自称している点も気になる。偶然なのかな…それとも何か目的があるから?それを確かめる為に僕は意を決して、自分から話し掛けてみることにする!このチャンスを逃す訳にはいかないし…
「あの…ベンさん。ご存知かは分かりませんが、僕はジェイデンの兄なんです。弟が体調が悪くて休学していたと聞いています。それに九月から復学すると人づてに聞き、会えるのを楽しみにしていました。だけど新学期が始まって既に一週間経っていて…なのに現れず、弟は本当に大丈夫なんでしょうか?」
その言葉にベンはビクリと身体を揺らし、明らかに動揺している。まず、こんなにハッキリと「兄」だと明かすとは思っていなかったのだろう。目が泳いで視線が定まらないようだった。それに咳払いを一つしてから、真っすぐに僕へと目を向けた。
「は、はい。来週から間違いなく復学しますし、もう大丈夫かと思います。それと…エリオットさんが兄だと、ジェイデン様から聞いていました。だけど、それ以上は何も知りません。どういった経緯でそうなったのかと、気にならないと言えば嘘になります。ですが…使用人である私が、詳しく聞くことは出来ませんので」
そうか…やっぱりそこは分かっての行動だったんだ。あの挑むような目は、知っているぞという意味だったのかな?
その件は納得したが、それならアノー家の使用人を名乗っているのは?イーライは、そんな名の従者は知らないと言っていた。ジェイデンの私設の従者ということもあるかも知れないが、それではアノー伯爵家のとは名乗れない筈だ。ジェイデンは確かに今でもアノー家に籍はあるが、使用人とはまた別なんだ。アノー伯爵家で雇い入れて初めて、そう名乗れるようになる筈。もしかして、それを知らない?
「もう一つだけ聞いてもいいでしょうか…ベンさんはアノー伯爵家の使用人なんですよね?だけどジェイデンの兄のイーライは、そういう名の使用人はいないと言っています。おまけにジェイデンから従者を付けて欲しいという依頼もなかったと。どういうことなのです?ベンさんは本当にアノー家の使用人なのですか?」
「知りません!私は何も…」
突然そう大きな声を出し、あろうことがその場から駆け出すベン。それに僕もトムさんも面食らって、そのまま見送るだけになってしまった。アイツ…何なんだ?
「な、何だ?おいエリオット!それ、どういう意味なんだよ~」
何のことだか全く分からないであろうトムさんが、そう情けない声を出す。それにはちょっと悪かったなぁ…と思った。話す内容自体も何だか分からなかったと思う。だけど、今の時点では…
「ごめんね!トムさん。これはアノー伯爵家の問題なんだ!今は詳しくは言えないけど、いつか必ず言うからね」
そう言って僕はトムさんに向かって「すみません!」と顔の前で手を合わせて謝る。それにトムさんは困惑しきりだったけど、やがていつもの穏やかな顔になって言う。
「分かった!今は聞かないよ。だけどエリオット…気を付けて!何だか分からないけど、危険なことだけは止めて欲しいんだ」
その言葉がじんと心に染みる。まだ知り合って一年余り…なのにこんなに心配してくれる人がいる。そのことに本当に感謝して涙が出そうだった。ありがとう…トムさん!
「うん。危ないことはしない!そして充分気を付けるね」
そう言って僕はトムさんに向かって微笑んだ。秘密だらけの僕で申し訳ないけど、信じて欲しいんだと。だけど…
そう言った筈の僕が、この後直ぐに自分の警戒心のなさを悔やむことになるなんて…。おまけにそれで、大切な人達と別れなくてはならない最悪の状況になる。そんなこと、思ってもみなかったんだ…
突然僕の目の前に現れたベン。今までどんなに探しても全然会えなかったのに、今日はこんなにあっさりと…そのことに面食らって、直ぐには反応出来なかった僕。そんな不甲斐ない僕を知ってか知らずか、トムさんが驚くべきことを言い出す。
「ベンさんじゃないですか!?ちょうど今、ベンさんの噂をしていたんだよ。前回会った時、俺が余計なことを言って怒らせてしまったんじゃないか?って…」
──こ、この正直者ーっ!
だけどそうだよね?そんなところがトムさんのいいところなんだけど…だけどそれを言う必要もないっていうか。まあ、よっぽど気になってたんだな。
そう言ってウルウルな目で見つめるトムさんに、ベンは驚きそして不思議そうな顔をする。
「そ、そうでしたか?私の態度が悪かったようです…すみません。いつも親切なトムさんを怒るなんて、ある筈ないですから!誤解を与えたなら、申し訳ありませんでした。怒ったなんて事実はありませんから安心して下さい」
ベンは焦りながらそう話し、それからバッと頭を下げ「ごめんなさい!」と再度謝った。
そんな素直に謝るベンを見ていた僕は、少し困惑していた。前からそう感じていたけど、今回会ってみて確信に変わったんだ。この人…僕と他の人との対応に差があるんだね?と。
この一連のトムさんへの謝罪は、心からそう思っているのが分かる…眉間にちょっとシワを寄せて悲しそうな顔をしているし。それに誰しも虫の居所が悪い時だってあるし、たまたまその時はそうだったのだろうと思う。だけど僕は…
前に一度だけだが、話した時の挑むような眼差しが忘れられないんだ。あれ、どういう意味だったんだろう?と。おまけに真偽は確かじゃないが、アノー伯爵家の使用人だと自称している点も気になる。偶然なのかな…それとも何か目的があるから?それを確かめる為に僕は意を決して、自分から話し掛けてみることにする!このチャンスを逃す訳にはいかないし…
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その言葉にベンはビクリと身体を揺らし、明らかに動揺している。まず、こんなにハッキリと「兄」だと明かすとは思っていなかったのだろう。目が泳いで視線が定まらないようだった。それに咳払いを一つしてから、真っすぐに僕へと目を向けた。
「は、はい。来週から間違いなく復学しますし、もう大丈夫かと思います。それと…エリオットさんが兄だと、ジェイデン様から聞いていました。だけど、それ以上は何も知りません。どういった経緯でそうなったのかと、気にならないと言えば嘘になります。ですが…使用人である私が、詳しく聞くことは出来ませんので」
そうか…やっぱりそこは分かっての行動だったんだ。あの挑むような目は、知っているぞという意味だったのかな?
その件は納得したが、それならアノー家の使用人を名乗っているのは?イーライは、そんな名の従者は知らないと言っていた。ジェイデンの私設の従者ということもあるかも知れないが、それではアノー伯爵家のとは名乗れない筈だ。ジェイデンは確かに今でもアノー家に籍はあるが、使用人とはまた別なんだ。アノー伯爵家で雇い入れて初めて、そう名乗れるようになる筈。もしかして、それを知らない?
「もう一つだけ聞いてもいいでしょうか…ベンさんはアノー伯爵家の使用人なんですよね?だけどジェイデンの兄のイーライは、そういう名の使用人はいないと言っています。おまけにジェイデンから従者を付けて欲しいという依頼もなかったと。どういうことなのです?ベンさんは本当にアノー家の使用人なのですか?」
「知りません!私は何も…」
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🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
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