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第一章・僕が公爵家に居るワケ
5・前世の特技で
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僕は前世では、凄く手先が器用だった。インドアタイプの僕の部活は、もちろん手芸部!
男子生徒は僕一人だったけど、その腕前を知る部員からは尊敬を一心に集めていた。違う意味でキャーキャー言われていたよね。だからもちろん手芸部の部長は僕さっ。
前世を思い出してから僕は、それを何とか活かせないものか?って考えた。
肝心のこの小説の内容は覚えてないけど、僕ことマリンが無一文でこの家から追い出されるのは決まっている。そうなったら、あのロテシュ伯爵家に帰るなんて考えられない!
役立たずだと罵倒されるのが目に見えているし、次はどんな人に嫁がされるのか分かったもんじゃない!
──絶対に…嫌だ!!
もうあの人達に利用なんてされたくない…だからこの家を追い出されるその日までに、何とかお金を貯めようと思う。
となると、この特技を使うしかないね?
前世は部長として、手芸全般得意だったけど、僕が特に好きだったのは刺繍だ。
この世界でも淑女は嗜みとして刺繍するみたいだけど、図柄は花や動物、イニシャルや家門のエンブレムといったオーソドックスなもののみ。
──こんな古い刺繍界に、どうにかして新しい風を吹かせられないかな?
「取り敢えず、ハンカチに刺繍してみようかな~」
僕はそもそも、この公爵家では仕事を与えられてはいない。
普通ならば婚約者として、家門の事業の手伝いをしながら色々学ぶものらしいけど…はなっからそんな気ないからね?
あっちだって僕がスパイなのは分かっている。ホントはそんなスパイなんて大したものですらないんだけど、信用が出来ないのは間違いないよね。僕だって同じ立場ならそうすると思うよ…
だから時間だけはたっぷりあるし、それを有効活用させてもらおう!
主人公であるミシェルが、ヒロインのクリス嬢と出会う日まで恐らくあと二年ほどだろうか?確か、ミシェルが二十歳過ぎた頃だったように思う。
普通は二十歳の誕生日を待った後直ぐ結婚するものらしいけど、何か理由を付けて拒否していたに違いない。
だから残された時間は二年!だけど出来れば余裕を持って、一年くらいで稼げるだけ稼がなくてはならないよね。そしていつ何時でもこの家を出れるようにしておく!これが当面の目標だ。
「あれ?マリン様、刺繍がお出来になったんですね?男の方では珍しいですね…って、凄い実力じゃないですかぁー!その辺のご令嬢も舌を巻いて逃げ出すほどの腕前ですよ!?」
丁度その時お茶を持ってきてくれたオリヴァーが、僕の手元を覗き込んで驚きまくっている。
──やった!そうなら通用しそうだね?
「これ、売れるかな?手持ちのお金も家具を買って減っちゃったし、少しでもお金になったらって思うんだけど?」
そんな僕の言葉にオリヴァーは真剣に頷いている。そして…
「この刺繍は何ですか?私に皆目分かりませんが、不思議な図柄が凄く珍しくて新鮮ですね。だからきっと売れます!町に知り合いがやっている雑貨店があるんですが、見せてみたらどうでしょうか?」
──うん、これ?これは…実は日本語!文字を入れてみたよ?
薔薇の花の刺繍に、それを繋げるように日本語を配置してみた。こっちの世界の人には意味不明だろうが、思い付くままに刺してみたんだ。記号みたいで面白いかな?って思って。
『七転八起』って入れてみたんだけど…待てよ?『四面楚歌』でも良かったかな。だって、今の僕の気持ちにぴったりだと思ってさ~
そしてハンカチの隅には僕の名前『カイト』って。いわゆるブランドネームってやつだね。
「オリヴァー、すまないけどその店主の方を紹介してくれる?何点か作ってから伺ってみたいと思うんだけど」
そう言って微笑み掛けると、オリヴァーは明るい笑顔でそれを了承してくれる。
──ほんの少しだけど光明が見えてきた!もしも売れるようなら、いろんな文字入れてみようかな?ちょっとだけワクワクしてきたよ~
僕はまだ知らなかった…これが意外な人物に出会うきっかけになるなんて。僕の知らない所で何かが大きく動き出していたのを…
男子生徒は僕一人だったけど、その腕前を知る部員からは尊敬を一心に集めていた。違う意味でキャーキャー言われていたよね。だからもちろん手芸部の部長は僕さっ。
前世を思い出してから僕は、それを何とか活かせないものか?って考えた。
肝心のこの小説の内容は覚えてないけど、僕ことマリンが無一文でこの家から追い出されるのは決まっている。そうなったら、あのロテシュ伯爵家に帰るなんて考えられない!
役立たずだと罵倒されるのが目に見えているし、次はどんな人に嫁がされるのか分かったもんじゃない!
──絶対に…嫌だ!!
もうあの人達に利用なんてされたくない…だからこの家を追い出されるその日までに、何とかお金を貯めようと思う。
となると、この特技を使うしかないね?
前世は部長として、手芸全般得意だったけど、僕が特に好きだったのは刺繍だ。
この世界でも淑女は嗜みとして刺繍するみたいだけど、図柄は花や動物、イニシャルや家門のエンブレムといったオーソドックスなもののみ。
──こんな古い刺繍界に、どうにかして新しい風を吹かせられないかな?
「取り敢えず、ハンカチに刺繍してみようかな~」
僕はそもそも、この公爵家では仕事を与えられてはいない。
普通ならば婚約者として、家門の事業の手伝いをしながら色々学ぶものらしいけど…はなっからそんな気ないからね?
あっちだって僕がスパイなのは分かっている。ホントはそんなスパイなんて大したものですらないんだけど、信用が出来ないのは間違いないよね。僕だって同じ立場ならそうすると思うよ…
だから時間だけはたっぷりあるし、それを有効活用させてもらおう!
主人公であるミシェルが、ヒロインのクリス嬢と出会う日まで恐らくあと二年ほどだろうか?確か、ミシェルが二十歳過ぎた頃だったように思う。
普通は二十歳の誕生日を待った後直ぐ結婚するものらしいけど、何か理由を付けて拒否していたに違いない。
だから残された時間は二年!だけど出来れば余裕を持って、一年くらいで稼げるだけ稼がなくてはならないよね。そしていつ何時でもこの家を出れるようにしておく!これが当面の目標だ。
「あれ?マリン様、刺繍がお出来になったんですね?男の方では珍しいですね…って、凄い実力じゃないですかぁー!その辺のご令嬢も舌を巻いて逃げ出すほどの腕前ですよ!?」
丁度その時お茶を持ってきてくれたオリヴァーが、僕の手元を覗き込んで驚きまくっている。
──やった!そうなら通用しそうだね?
「これ、売れるかな?手持ちのお金も家具を買って減っちゃったし、少しでもお金になったらって思うんだけど?」
そんな僕の言葉にオリヴァーは真剣に頷いている。そして…
「この刺繍は何ですか?私に皆目分かりませんが、不思議な図柄が凄く珍しくて新鮮ですね。だからきっと売れます!町に知り合いがやっている雑貨店があるんですが、見せてみたらどうでしょうか?」
──うん、これ?これは…実は日本語!文字を入れてみたよ?
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そしてハンカチの隅には僕の名前『カイト』って。いわゆるブランドネームってやつだね。
「オリヴァー、すまないけどその店主の方を紹介してくれる?何点か作ってから伺ってみたいと思うんだけど」
そう言って微笑み掛けると、オリヴァーは明るい笑顔でそれを了承してくれる。
──ほんの少しだけど光明が見えてきた!もしも売れるようなら、いろんな文字入れてみようかな?ちょっとだけワクワクしてきたよ~
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