【完結】立場を弁えぬモブ令嬢Aは、ヒロインをぶっ潰し、ついでに恋も叶えちゃいます!

MEIKO

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第六章・身を守る方法

39・恋ですか?

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 「そこの君、悪いが殿下をサロンに連れて行ってあげてくれないか?」

 そう言って頼むお兄様に、ロブは勢いよく頷く。騒動の中、私達が心配で近くで見ていたロブは、お兄様に続いて私達にも目を合わせて頷いてから殿下にそっと近付く。そしてまだ泣いている殿下の背中を撫で、元気付けるようにして二人でここを去って行った。そこでやっとフーッと大きく息を吐く。するとお兄様が…

 「お久しぶりですキャロライン嬢、大丈夫でしょうか?ですが…脚を怪我しているようだ。令嬢に対して申し訳ないが、私に身体を支える許可をいただけるだろうか…?嫌ならば、どなたか先生に…」

 お久しぶりって?そう思ったけど、キャロラインの脚が!?とそれどころではなくなる。やっぱり怪我していたんだわ…と申し訳ない気持ちになり、そして早く手当てをしなきゃ!と焦り出す。それにキャロラインは蚊の鳴くような小さな声で「構いません…」と答える。すると…

 お兄様は「失礼」と言ったかと思うと、軽々とキャロラインを横抱きにする。それには私もギョッとして…

 「あっ…キャロライン?お兄様!」

 何をどう言おうかも分からないまま、そう言って挙動不審になる。貴族の令嬢といえば、身内や婚約者以外に身体を触らせるなんて考えられない!まあ、ダンスの時や挨拶程度の触れ合いくらいはアリだけど…
 キャロラインといえば深窓の令嬢だ。おまけに婚約者がいるが、その肝心の人は近付こうとしないし。免疫が皆無なんじゃないかと思うけど?人のことは言えないけどね!だから、大丈夫なの?って思うけど…

 「アリシア、落ち着け!くるぶしに赤みがある…骨に異常があるかも知れない。だから緊急事態だ!そして私が連れて行った方が早いだろうし…。さあ、保健室に!」

 そう行ってお兄様は、キャロラインを抱いたまま颯爽と歩き出す。それに慌ててブリジットとクリスティーヌに手を振って、後は頼む!と合図してその後を追う。その時チラッとルーシーを見た…私達とは視線も合わせようとせず、スティーブ殿下のことでショックを受けているようだった。あなたは今、何を考えているのかしら?そう心の中で聞いてみたが、再びお兄様の「行くぞ!」という声で向き直し、急いで駆け出した。するとその時、何人かの令嬢達の黄色い歓声が聞こえる。

 「なんて素敵!あんなに軽々と…」

 「私、骨折しようかしら?」

 などと言いながらキャーキャー言っている。そりゃそうよね?お姫様抱っこは、令嬢達にとって憧れだもの!おまけにこんなに難なく抱えられるなんて、相当な力持ちな証拠だわ!おまけにこの二人って…まるで絵のよう!

 艶のある濃茶の髪を流れるように横に撫で付けて、ほんの一筋こめかみから垂れている。それに何と言っても美しいのは、完璧なまでの碧眼だ!ここは紺碧の海なの?と思わせる癒やしの碧い瞳が、知的な細枠の眼鏡の奥に煌めいて…言っちゃ悪いけどお兄様の方が、圧倒的に王子様感ありますから!

 そしてキャロライン…まるで銀糸のような髪を揺らめかせ、動く度にキラキラと反射する。眩しい…だけどその輝きからは目を離せない!そして艶めく真珠の肌に、ほんのりと赤みがさして。おまけに最高級の琅玕ろうかん翡翠ひすいのような瞳に見つめられると…得も言われぬ幸福に包まれる。

 ──わあああっ…眼福だわ!想像しちゃう。だけどさ、こんな完璧な二人が、どうして主人公でも攻略対象でもないわけ?ふっしぎ~
 
 「早く患部を冷やした方がいいだろうな…。ちゃんと付いて来てる?アリシア!」

 「は、はい~!」

 思わずそんな想像を楽しんでいた私は、その声に現実に引き戻される。そしてどんどんスピードを上げるお兄様。だけど私だって負けないわよ?体力強化で鍛えた脚力をお見せする時だわ!そう鼻息荒く大股で何とか付いて行く。

 ──は、早い!だってさ、そもそも脚の長さが違うわよね?良く見たら何よあの長さ!私がチワワなら、お兄様はそうね…ボルゾイ!あの高貴な犬くらいの差があるわよ?

 チワワな私は懸命に脚を動かして、それから階段を降り、一階の端の保健室の前までやって来た。そこでやっと、大丈夫かな?とキャロラインの顔を覗き込む。

 するとキャロラインは、恥ずかしいのか脚が痛いのか分からないが、その大きな瞳をウルウルと潤ませている。おまけに可愛いのは、お兄様のガッシリとした肩に遠慮がちに顔を乗せていて…照れてるキャロラインもいいわね?百点満点です!
 だけど待って…もしかして熱が出て来たの?見ると顔が真っ赤になっている。これは急がねば!と保健室の扉を勢いよく開ける。

 「まあ、どうしたの?」

 養護教諭がそう驚いた声を上げ、キャロラインに近付く。そして指示された通りにベッドに横たわらせて…

 「もう大丈夫だね。それじゃあ、もう行くよ。アリシア、近々ルーベルト邸に来るようにってお祖父様が言ってたぞ?一緒に食事しようって。それからアロワ令嬢…お大事に!」

 「ホントにありがとう…お兄様!是非お伺いするとお祖父様に言っておいて」

 お祖父様からのお誘い…それは行くっきゃないでしょ!とっても楽しみ。そして保健室を出て行くお兄様に「後は任せて!」と声を掛け、手を振って見送った。
 そして先生が手際よくキャロラインの脚の具合を見て、それから手当てしてくれる。そして…
 
 「アロワ令嬢、骨には異常がないようですから安心して下さいね。ですが…捻挫しているようです。十日程度はダンスや体力強化の授業はお休みするようにして下さい」

 それにホッと胸を撫で下ろす。骨が折れていなくて、本当に良かった!それこそパーティーに出れなくなっていたかも?

 「暫くベッドで寝ていていいわよ?ゆっくり休んでいて。だけど…私は今から会議があるの。悪いけどランドン令嬢…見ててあげてくれるかしら?」

 それには「もちろんです!」と答える。元よりそのつもりだった。キャロラインを一人で置いて戻れないわ!ここまで手当てが遅れた責任が私にもあるし…そして先生がここから出てゆき、保健室には二人だけになる。

 すると、布団から目だけ出した状態のキャロラインが、何か言いたげにモジモジしている。うん?と不思議そうにしていると…

 「ディラン様とアリシアは、従兄妹同士だったのね。やっぱり似ているわ…姿形じゃなくて、私を助けてくれるところが…そっくり!」

 ──お兄様が…助けたの?キャロラインを!?

 そうビックリしている私にキャロラインは、ひょこりっと布団から顔全体を出し鮮やかに笑う。そんな初めて見る茶目っ気タップリの姿に…何だ?この可愛い生き物は!とドキドキして…

 「あのね…私、中等部の時の卒業パーティーの時、ドレスが元で殿下とルーシー嬢に一方的に責められてたの。その時も学部合同だったんだけど、大勢の視線を浴びていたたまれなくて…。その時既に高等部に通われていたディラン様が、殿下とルーシー嬢を諫めてくださって…」

 そう言って心底嬉しそうな顔をするキャロライン。あの二人!とまた怒りが湧いてきたが、そんな場面を見過ごせないのはお兄様らしい。庇ってくれてキャロラインもさぞかし嬉しかったと思う。そしてそれでさっき「お久しぶり」と言ったんだと納得する。

 「そして今回も助けていただいて、本当に素晴らしい方ね?ディラン様は…」

 そう言ってキャロラインは、ポッと頬を赤らめる。こ、これは!恋ですか?
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