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第11章・アリシア危機一髪
88・脱出
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──そうよ…この人はルーシーのお母様だわ!
子供の頃に何度か会ったことがある…その時の懐かしい情景を思い浮かべてみる。だけどその時と比べて、頬はこけてかなり痩せている。確かバーモント子爵の子供を産んだのよね?だったら幸せに暮らしてきたのだと思うけど…違うの?
ルーシーの実のお父様とは会ったことはない。だけどベリーはいつも私に話してくれた!お父様はお母様を愛しているのだと…
二人に何があったのか、伺い知ることは出来ない。どういう訳か離婚することになって、お母様はバーモント子爵と再婚した。それを非難するつもりなどなくて…だって子連れの女が生家の助けもなく、暮らして行くのには限界があるもの。だからそれは理解できるんだけど…それからすっかり人が変わってしまったように、あんなに可愛がっていたベリーを遠ざけて…それでこの人は、幸せになったんだろうか?
「ベリーのお母様ですよね?ルーシーの…」
見張りの男に聞かれないように、小声で話し掛けてみる。ベリー…そう言えば、私を思い出してくれるのではないかと一抹の期待を込めて。それにはバッと私の方へと顔を向け、驚愕の表情を浮かべていて…
「もしかしてランドン家の?そんな馬鹿な!何故ここに…」
そう微かに答えるバーモント夫人。誰かに命ぜられてここに来たようだが、詳しいことは何も聞いてはいないよう。きっと私以上に、この状況に困惑しているのかも知れない…。そして夫人がここに居るということは、一家でここに来ている?となると、もしかしてルーシーも!?これはいよいよ逃亡する気だわ…
「ここはどこなんですか?どうして私がここに…」
それが一番の疑問だった。何故私が攫われなければならなかったのかと。どうかそれに答えが欲しいと夫人を見つめると…
「おい!早くここを出ろ」
突然、見張りの男の声が響く。この男は、一体何者なんだろう?声の感じからバーモント子爵ではないと思う。もっと…年配の男じゃないかしら?それに子爵家の夫人に対しても、明らかな命令口調で…
身分が上なの?ということは、子爵家よりも上のグァーデン伯爵?それだったら夫人に対する態度も納得だけど。
それに夫人はビクッと身体を揺らし、持って来た薬箱を片手に立ち上がる。そして無言で歩き出し、扉に手を掛けた瞬間大きく扉が開いて…そこに立っている男の顔が見えた。中年の恰幅の良い男で…知らない人だわ!髪は金髪?いいえ、少し赤っぽい気がする。だけどこの帝国では珍しい色ね?ピンクブロンドっていうのかしら…
その中年の男が、こちらをじっと見ている。だけどこの部屋には入るつもりはないようで、クルリと踵を返して再び足音を立てながら去って行く。そして向こうの明かりはだんだん細くなり、バタンと扉が閉ざされて…
あの人は誰だろう?そう考えていたら、ふとルシードの言葉が思い出される。
『へえぇーっ、ピンクの髪色なの?その令嬢。それだと私の国の血統かも知れないよ?我がエルバリン国の』
エルバリンではピンク色の髪は珍しくはない…そう言っていた。だったらさっきの人も?もしかしてだけど、王妃の弟だというモルド公爵だということはないかしら?都合良く考え過ぎかな…
ルシードがモルド公爵のことを、狡猾な男で証拠を一切残さないと言っていた。だけど…もし本人がこの帝国に来ていて、今いるこの場所が密輸の拠点だったとしたら、動かぬ証拠になるんじゃないかしら?
そう考えて、目の前を見る。バーモント夫人は、きっとワザとロウソク台を置いていってくれたのだと思う。ずっと暗がりにいたから、ロウソクの温かい炎に凄く安心する。
そして持って来てくれたパンを手に取る。この食べ物も怪我の手当ても、今は殺すつもりはないからだろう…だから大丈夫!と口に運ぶ。どれだけぶりの食事だろう?ちゃんとした食事は、あの日の朝ランドン邸で食べた以来かしら…
ロッテは大丈夫かな?ほっぺたを叩かれたようだったけど、傷にはなっていなかったろうか。それに、ロメオやハリスも…無事にランドン邸に帰り着いていればいいのだけど。
ロウソクの炎と久しぶりにお腹が満たされて、だんだん眠くなってきた…ダメだわ!もう寝てしまう。後は起きてから…そう思いながら、気を失うように眠り込んでしまった。
+++++
「シア…」
ん…何だろう?
「大丈夫?」
誰かが私の身体を揺すっているけど…誰?
「アリシア!起きて」
自分の名前がハッキリと聞こえてパチっと目を開ける。あれ…明るくない?
「アリシア、ホントに大丈夫?具合が悪いのかしら…」
そんな聞き慣れた声に気付いて目を向けると…ルーシー?驚いてバッと身を起こす。
何故か目の前で私を心配そうに見つめるルーシーが。現実なのかな…私は夢を見ているの?
「お母様から聞いて助けに来たわよ!だけどアリシアが何故ここに?」
その言葉にハッとする!夢じゃない?それから辺りを見渡す。明るくなったせいで違う部屋だと思っていたが、どうも同じ地下室だ。思っていた以上に古い建物だったのだと知る。こんなところに何日もいたのかと思うと、身体が震え出して…
「ホントに大丈夫?今は早朝よ。ここの土地勘がないし、夜やみくもに逃げるよりいいと思って。ここを出てとにかく何処かに隠れましょ。遠くに逃げたと思わせて、近くで隠れる作戦よ!食べ物も持って来たから」
そう言ってルーシーは、肩から下げた鞄を見せる。中にはパンや飲み物、それにクッキーなどが入っている。それに頷きながら…
「でもルーシーのお母様と弟は一緒に行かないの?私達二人だけで逃げるってこと?」
それにルーシーは顔を曇らせる。そして…
「弟はあの義父の実子だし、お母様に対しては滅多なことはしないと思う。私の場合は…今逃げないと、この先ずっと利用されるだけなの!チラッと聞いてしまったんだけど、一旦エルバリンに逃げてそれから第三国に向けて出発するって!私をその国の有力者に手土産代わりに渡すつもりのようで…」
そのことに唖然とする。なんて人なの!バーモント子爵は。なさぬ仲の父娘とはいえ、ずっと暮らしてきた家族じゃないの。それを利用する為だけに連れて行くですって?どこまで鬼畜なんだろう…空恐ろしい人だわ!それなら今直ぐ逃げないと…と立ち上がる。
ずっと動いていないから、立ち上がった途端クラリとした。ふらつく身体で何とか歩き出すと、扉を出て直ぐの壁にスイッチのようなものが見える。こちら側だったから全然分からなかったけど、これが照明のスイッチだったんだと知る。私に顔を見られたくなかったから、暗くしたままだったんだろうな。そして数歩進んだところの先は階段になっていて…眩しい!二十段ほど登った先から光が漏れている。急激に明るい所に出るのは危ないと感じて、目を伏せながら慎重に階段を駆け上がると…
「逃げるつもりだったのか?フフン…手前が省けたな」
そんな声が聞こえて、ハッと前を見る。そこには嫌な笑みを浮かべる人物…バーモント子爵が!
子供の頃に何度か会ったことがある…その時の懐かしい情景を思い浮かべてみる。だけどその時と比べて、頬はこけてかなり痩せている。確かバーモント子爵の子供を産んだのよね?だったら幸せに暮らしてきたのだと思うけど…違うの?
ルーシーの実のお父様とは会ったことはない。だけどベリーはいつも私に話してくれた!お父様はお母様を愛しているのだと…
二人に何があったのか、伺い知ることは出来ない。どういう訳か離婚することになって、お母様はバーモント子爵と再婚した。それを非難するつもりなどなくて…だって子連れの女が生家の助けもなく、暮らして行くのには限界があるもの。だからそれは理解できるんだけど…それからすっかり人が変わってしまったように、あんなに可愛がっていたベリーを遠ざけて…それでこの人は、幸せになったんだろうか?
「ベリーのお母様ですよね?ルーシーの…」
見張りの男に聞かれないように、小声で話し掛けてみる。ベリー…そう言えば、私を思い出してくれるのではないかと一抹の期待を込めて。それにはバッと私の方へと顔を向け、驚愕の表情を浮かべていて…
「もしかしてランドン家の?そんな馬鹿な!何故ここに…」
そう微かに答えるバーモント夫人。誰かに命ぜられてここに来たようだが、詳しいことは何も聞いてはいないよう。きっと私以上に、この状況に困惑しているのかも知れない…。そして夫人がここに居るということは、一家でここに来ている?となると、もしかしてルーシーも!?これはいよいよ逃亡する気だわ…
「ここはどこなんですか?どうして私がここに…」
それが一番の疑問だった。何故私が攫われなければならなかったのかと。どうかそれに答えが欲しいと夫人を見つめると…
「おい!早くここを出ろ」
突然、見張りの男の声が響く。この男は、一体何者なんだろう?声の感じからバーモント子爵ではないと思う。もっと…年配の男じゃないかしら?それに子爵家の夫人に対しても、明らかな命令口調で…
身分が上なの?ということは、子爵家よりも上のグァーデン伯爵?それだったら夫人に対する態度も納得だけど。
それに夫人はビクッと身体を揺らし、持って来た薬箱を片手に立ち上がる。そして無言で歩き出し、扉に手を掛けた瞬間大きく扉が開いて…そこに立っている男の顔が見えた。中年の恰幅の良い男で…知らない人だわ!髪は金髪?いいえ、少し赤っぽい気がする。だけどこの帝国では珍しい色ね?ピンクブロンドっていうのかしら…
その中年の男が、こちらをじっと見ている。だけどこの部屋には入るつもりはないようで、クルリと踵を返して再び足音を立てながら去って行く。そして向こうの明かりはだんだん細くなり、バタンと扉が閉ざされて…
あの人は誰だろう?そう考えていたら、ふとルシードの言葉が思い出される。
『へえぇーっ、ピンクの髪色なの?その令嬢。それだと私の国の血統かも知れないよ?我がエルバリン国の』
エルバリンではピンク色の髪は珍しくはない…そう言っていた。だったらさっきの人も?もしかしてだけど、王妃の弟だというモルド公爵だということはないかしら?都合良く考え過ぎかな…
ルシードがモルド公爵のことを、狡猾な男で証拠を一切残さないと言っていた。だけど…もし本人がこの帝国に来ていて、今いるこの場所が密輸の拠点だったとしたら、動かぬ証拠になるんじゃないかしら?
そう考えて、目の前を見る。バーモント夫人は、きっとワザとロウソク台を置いていってくれたのだと思う。ずっと暗がりにいたから、ロウソクの温かい炎に凄く安心する。
そして持って来てくれたパンを手に取る。この食べ物も怪我の手当ても、今は殺すつもりはないからだろう…だから大丈夫!と口に運ぶ。どれだけぶりの食事だろう?ちゃんとした食事は、あの日の朝ランドン邸で食べた以来かしら…
ロッテは大丈夫かな?ほっぺたを叩かれたようだったけど、傷にはなっていなかったろうか。それに、ロメオやハリスも…無事にランドン邸に帰り着いていればいいのだけど。
ロウソクの炎と久しぶりにお腹が満たされて、だんだん眠くなってきた…ダメだわ!もう寝てしまう。後は起きてから…そう思いながら、気を失うように眠り込んでしまった。
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「シア…」
ん…何だろう?
「大丈夫?」
誰かが私の身体を揺すっているけど…誰?
「アリシア!起きて」
自分の名前がハッキリと聞こえてパチっと目を開ける。あれ…明るくない?
「アリシア、ホントに大丈夫?具合が悪いのかしら…」
そんな聞き慣れた声に気付いて目を向けると…ルーシー?驚いてバッと身を起こす。
何故か目の前で私を心配そうに見つめるルーシーが。現実なのかな…私は夢を見ているの?
「お母様から聞いて助けに来たわよ!だけどアリシアが何故ここに?」
その言葉にハッとする!夢じゃない?それから辺りを見渡す。明るくなったせいで違う部屋だと思っていたが、どうも同じ地下室だ。思っていた以上に古い建物だったのだと知る。こんなところに何日もいたのかと思うと、身体が震え出して…
「ホントに大丈夫?今は早朝よ。ここの土地勘がないし、夜やみくもに逃げるよりいいと思って。ここを出てとにかく何処かに隠れましょ。遠くに逃げたと思わせて、近くで隠れる作戦よ!食べ物も持って来たから」
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「でもルーシーのお母様と弟は一緒に行かないの?私達二人だけで逃げるってこと?」
それにルーシーは顔を曇らせる。そして…
「弟はあの義父の実子だし、お母様に対しては滅多なことはしないと思う。私の場合は…今逃げないと、この先ずっと利用されるだけなの!チラッと聞いてしまったんだけど、一旦エルバリンに逃げてそれから第三国に向けて出発するって!私をその国の有力者に手土産代わりに渡すつもりのようで…」
そのことに唖然とする。なんて人なの!バーモント子爵は。なさぬ仲の父娘とはいえ、ずっと暮らしてきた家族じゃないの。それを利用する為だけに連れて行くですって?どこまで鬼畜なんだろう…空恐ろしい人だわ!それなら今直ぐ逃げないと…と立ち上がる。
ずっと動いていないから、立ち上がった途端クラリとした。ふらつく身体で何とか歩き出すと、扉を出て直ぐの壁にスイッチのようなものが見える。こちら側だったから全然分からなかったけど、これが照明のスイッチだったんだと知る。私に顔を見られたくなかったから、暗くしたままだったんだろうな。そして数歩進んだところの先は階段になっていて…眩しい!二十段ほど登った先から光が漏れている。急激に明るい所に出るのは危ないと感じて、目を伏せながら慎重に階段を駆け上がると…
「逃げるつもりだったのか?フフン…手前が省けたな」
そんな声が聞こえて、ハッと前を見る。そこには嫌な笑みを浮かべる人物…バーモント子爵が!
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***************
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2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
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