極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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お姫様ごっこ

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「おっはよーん!」

「おお、透!久しぶり。どうだった?モルディブは」

「うん、もうさいっこう!だったよ。ありがとう、10日間も休ませてもらって」

「いや、楽しかったようで何よりだ」

「はい、これ。お土産ね」

「おっ、サンキュー!」

次の日。
新婚旅行から帰ってきた透がオフィスに現れると、洋平と吾郎は笑顔で歓迎した。

「透、昨日帰国したばっかりだろ?今日も休んで良かったのに」

「しかも今日はクリスマスイブだ。亜由美ちゃんを一人にさせるんじゃないぞ?」

吾郎と洋平の言葉に、透は嬉しそうに頷く。

「うん、ありがとう。お言葉に甘えて今日は5時に上がってもいいかな?」

「もちろん。俺も泉に早く帰るって言ってあるから、そうするわ」

二人のやり取りに、吾郎は、くうー!と苦悶の表情になる。

「あー、羨ましい!クリぼっちは俺だけか。よーし、俺はバリバリ仕事するぞ!内海不動産の件、ものすごいもの作ってやる!」

すると透が目を丸くする。

「内海不動産?そんな大きなところから仕事もらったの?」

「そうなんだよ。俺には仕事の女神が微笑んでくれてるらしい」

早速3人でミーティングを始める。

大河は、午前中はリモートワークで午後に少し出社するとのことだった。

「なるほど、新築分譲マンションね。うわー、いいな、このマンション」

「だろ?一つの街みたいに、公園やクリニック、保育所にスーパー、プールつきのジムやカラオケルームまで入るらしい。ファミリーにはうってつけだな。透、新居にどうだ?」

「うん、今かなり惹かれてる」

「パンフレット渡すから、亜由美ちゃんとも相談してみなよ」

「ありがとう!吾郎」

と、横から洋平が笑い出した。

「吾郎、お前マンションの営業マンかよ?」

「あはは!ほんとだよ。俺、ちゃっかり売り込まれちゃってた。なかなかやり手な営業マンだな、吾郎」

二人の言葉に吾郎は苦笑いする。

「なんか、俺って…。今は仕事に打ち込めって暗示なのかもなあ?ま、それもいいか」

ははっと笑って、吾郎はミーティングを続けた。



昼の12時過ぎ。
ソファでランチを囲んでいた3人は、聞こえてきた何やら賑やかな声に手を止める。

なんだ?と顔を見合わせていると、オフィスのドアが開いた。

「大河さんってば!もう、下ろして!」

「うるさい。黙って抱かれてろ」

「なな、なんてことを言うのよ?恥ずかしいから!」

瞳子を抱いてオフィスに入って来た大河に、3人は思わず固まる。

「うひゃー!アリシア。久しぶりに会えたと思ったら、お姫様抱っこでご登場?さすがだなー」

「透さん!お帰りなさい。どうでしたか?モルディブは。亜由美ちゃんから昨日、水上ヴィラがもう天国みたいだった!ってメッセージ来ましたよ。って、高いところからごめんなさい」

「あはは!うん、まさにパラダイスだったよ。アリシアは、今日はどうしたの?大河とお姫様ごっこしてるの?」

「違うっつーの!」

大河が大声で遮り、瞳子をそっとソファに下ろした。

「いいか?瞳子。勝手に歩き回るなよ?」

むーっと瞳子はむくれる。

「大丈夫ですってば!」

「いーや、ダメだ。今日の仕事に差し障ってもいいのか?」

「それは…困りますけど」

「だろ?それならおとなしくしてろ」

ポンと瞳子の頭に手をやってから、大河はデスクでパソコンを立ち上げる。

透は二人の為にコーヒーを淹れた。

「ありがとうございます、透さん」

「どういたしまして。アリシア、足を怪我したの?」

「あ、ちょっとひねっただけなんです。痛みもないし、もう普通に歩けるんですけど、仕事の時間までは湿布を貼って安静にしろって言われて…」

チラッと大河を盗み見る瞳子に、透達は、なるほどね、と頷く。

「それは瞳子ちゃん、言うこと聞いておいた方がいいよ。大河の溺愛ぶりは底抜けだからな」

「そうそう。なべなべ底抜けの天井知らず」

あはは!と皆で笑い合う。

「でもじっとしてるなんて、退屈で…」

「それなら瞳子ちゃん。ちょっと仕事の話してもいい?」

吾郎の言葉に、瞳子は、え?と首を傾げる。

「私にですか?何でしょう」

「うん。実は今度、新築分譲マンションのモデルルームにうちのデジタルコンテンツを取り入れることになってね。紹介映像のナレーションを瞳子ちゃんに頼みたくて」

そう言って吾郎は、パンフレットを広げて見せる。

「わあ!素敵なマンションですね。お部屋も広いし、こんなに色々共用施設もあるんですね。パーティールームにライブラリーも?」

「そうなんだ。ファミリー向けだけど、ラグジュアリーで贅沢な非日常感も味わえる。紹介映像も、上質なものに仕上げたいと思ってるんだ。どう?その映像のナレーション、瞳子ちゃんにお願いできる?」

「え、私なんかでよろしいのでしょうか?」

「もちろん!瞳子ちゃんしか考えられない」

吾郎も透も洋平も、瞳子に笑顔を向ける。

瞳子は最後に大河を見た。

真剣な表情で大きく頷く大河に、瞳子も頷き返す。

「はい。精一杯やらせていただきます」

「ほんと?良かった!じゃあ早速、概要とイメージを説明するね。ナレーションの台詞もこれから一緒に考えてくれる?」

「かしこまりました」

瞳子は時間も忘れて打ち合わせに熱中していた。



「瞳子、そろそろ1時だぞ」

大河に声をかけられて、瞳子はハッと時計を見る。

「もうそんな時間?大変!そろそろ着替えて準備しないと」

立ち上がろうとすると、大河が近づいてきて瞳子を抱き上げた。

そのまま隣の仮眠室に連れて行くと、大河はそっとベッドの上に瞳子を下ろす。

「ありがとうございます。あの、着替えるので…」

うつむいてゴニョゴニョと言葉を濁す瞳子に、大河は平然と、どうぞ、と手で促した。

「もう!大河さん!」

「あはは!分かったよ。じゃあ着替え終わったらちゃんと声かけるんだぞ?でないと突入するからな」

「ひえっ!わ、分かりました。ちゃんとお知らせしますから」

よろしい、とうやうやしく頷き、ようやく大河は部屋を出て行った。

一人になった瞳子は、着ていたジーンズとニットから、シャンパンベージュの光沢のあるドレスに着替えた。

髪もアップでまとめてメイクを整える。

ロングドレスで足首まで隠れる為、シューズはローヒールにした。

準備出来ました、と声をかけると、大河は部屋に入るなり目を見開く。

「瞳子、すごく綺麗だよ」

ベッドの端に腰掛けた瞳子の隣に座り、大河はそっと瞳子の肩を抱き寄せて口づけた。

優しいキスにうっとりしたあと、瞳子は大河の顔を見て目をぱちくりさせる。

「やだ、大河さん。リップが付いちゃった」

慌てて左手を伸ばして大河の唇に触れると、大河は逆にその手を掴んで、瞳子の薬指に口づける。

「俺だけの瞳子。こんなに綺麗な姿を誰にも見せたくない。このまま二人でどこかに行かない?」

「そ、そんな。ダメです。お仕事だから」

「そうだけど…。でも瞳子から目を離したくない。今日のコンサート、聴きに行ってもいい?」

「それが、チケットは既に完売で…」

そっか、と大河は肩を落とす。

「じゃあロビーで待ってる」

「ええ?!コンサートは2時間もあるのに?」

「ああ。瞳子をこれから車で送って行って、そのまま待ってるよ」

「それだと更に長くなります。開演は17時だけど、私、14時半からゲネプロに立ち会うので」

「構わない。ほら、行こう」

「えっ、ちょ、大河さん!」

戸惑う瞳子を抱き上げて、大河は部屋を出た。

「ひゃー、アリシア!おとぎの国から出て来たみたいだね。お姫様がお姫様抱っこで登場だよ。もう完璧!」

透が興奮したようにはしゃいだ声を上げる。

「大河も、もうちょっと王子様っぽく笑ってよ。ほら、プリンススマイル!」

アホー!と大河が一喝する。

「何がプリンスだ、まったく。じゃあ俺はもう退社するから、何かあったらスマホに連絡くれ」

そう言って大河は、瞳子を抱いたまま出口に向かう。

「あの、こんな所からすみません。皆様、お先に失礼します」

「はーい!素敵なクリスマスイブをね、アリシア」

「ありがとうございます。透さんも亜由美ちゃんと素敵なイブを。洋平さんと吾郎さんも」

「ありがとう、瞳子ちゃん」

「ま、俺はどうせクリぼっちだから、バリバリ仕事片付けておくよ」

3人は、行ってらっしゃーい!と大河と瞳子を見送った。
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