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お姫様ごっこ
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「おっはよーん!」
「おお、透!久しぶり。どうだった?モルディブは」
「うん、もうさいっこう!だったよ。ありがとう、10日間も休ませてもらって」
「いや、楽しかったようで何よりだ」
「はい、これ。お土産ね」
「おっ、サンキュー!」
次の日。
新婚旅行から帰ってきた透がオフィスに現れると、洋平と吾郎は笑顔で歓迎した。
「透、昨日帰国したばっかりだろ?今日も休んで良かったのに」
「しかも今日はクリスマスイブだ。亜由美ちゃんを一人にさせるんじゃないぞ?」
吾郎と洋平の言葉に、透は嬉しそうに頷く。
「うん、ありがとう。お言葉に甘えて今日は5時に上がってもいいかな?」
「もちろん。俺も泉に早く帰るって言ってあるから、そうするわ」
二人のやり取りに、吾郎は、くうー!と苦悶の表情になる。
「あー、羨ましい!クリぼっちは俺だけか。よーし、俺はバリバリ仕事するぞ!内海不動産の件、ものすごいもの作ってやる!」
すると透が目を丸くする。
「内海不動産?そんな大きなところから仕事もらったの?」
「そうなんだよ。俺には仕事の女神が微笑んでくれてるらしい」
早速3人でミーティングを始める。
大河は、午前中はリモートワークで午後に少し出社するとのことだった。
「なるほど、新築分譲マンションね。うわー、いいな、このマンション」
「だろ?一つの街みたいに、公園やクリニック、保育所にスーパー、プールつきのジムやカラオケルームまで入るらしい。ファミリーにはうってつけだな。透、新居にどうだ?」
「うん、今かなり惹かれてる」
「パンフレット渡すから、亜由美ちゃんとも相談してみなよ」
「ありがとう!吾郎」
と、横から洋平が笑い出した。
「吾郎、お前マンションの営業マンかよ?」
「あはは!ほんとだよ。俺、ちゃっかり売り込まれちゃってた。なかなかやり手な営業マンだな、吾郎」
二人の言葉に吾郎は苦笑いする。
「なんか、俺って…。今は仕事に打ち込めって暗示なのかもなあ?ま、それもいいか」
ははっと笑って、吾郎はミーティングを続けた。
◇
昼の12時過ぎ。
ソファでランチを囲んでいた3人は、聞こえてきた何やら賑やかな声に手を止める。
なんだ?と顔を見合わせていると、オフィスのドアが開いた。
「大河さんってば!もう、下ろして!」
「うるさい。黙って抱かれてろ」
「なな、なんてことを言うのよ?恥ずかしいから!」
瞳子を抱いてオフィスに入って来た大河に、3人は思わず固まる。
「うひゃー!アリシア。久しぶりに会えたと思ったら、お姫様抱っこでご登場?さすがだなー」
「透さん!お帰りなさい。どうでしたか?モルディブは。亜由美ちゃんから昨日、水上ヴィラがもう天国みたいだった!ってメッセージ来ましたよ。って、高いところからごめんなさい」
「あはは!うん、まさにパラダイスだったよ。アリシアは、今日はどうしたの?大河とお姫様ごっこしてるの?」
「違うっつーの!」
大河が大声で遮り、瞳子をそっとソファに下ろした。
「いいか?瞳子。勝手に歩き回るなよ?」
むーっと瞳子はむくれる。
「大丈夫ですってば!」
「いーや、ダメだ。今日の仕事に差し障ってもいいのか?」
「それは…困りますけど」
「だろ?それならおとなしくしてろ」
ポンと瞳子の頭に手をやってから、大河はデスクでパソコンを立ち上げる。
透は二人の為にコーヒーを淹れた。
「ありがとうございます、透さん」
「どういたしまして。アリシア、足を怪我したの?」
「あ、ちょっとひねっただけなんです。痛みもないし、もう普通に歩けるんですけど、仕事の時間までは湿布を貼って安静にしろって言われて…」
チラッと大河を盗み見る瞳子に、透達は、なるほどね、と頷く。
「それは瞳子ちゃん、言うこと聞いておいた方がいいよ。大河の溺愛ぶりは底抜けだからな」
「そうそう。なべなべ底抜けの天井知らず」
あはは!と皆で笑い合う。
「でもじっとしてるなんて、退屈で…」
「それなら瞳子ちゃん。ちょっと仕事の話してもいい?」
吾郎の言葉に、瞳子は、え?と首を傾げる。
「私にですか?何でしょう」
「うん。実は今度、新築分譲マンションのモデルルームにうちのデジタルコンテンツを取り入れることになってね。紹介映像のナレーションを瞳子ちゃんに頼みたくて」
そう言って吾郎は、パンフレットを広げて見せる。
「わあ!素敵なマンションですね。お部屋も広いし、こんなに色々共用施設もあるんですね。パーティールームにライブラリーも?」
「そうなんだ。ファミリー向けだけど、ラグジュアリーで贅沢な非日常感も味わえる。紹介映像も、上質なものに仕上げたいと思ってるんだ。どう?その映像のナレーション、瞳子ちゃんにお願いできる?」
「え、私なんかでよろしいのでしょうか?」
「もちろん!瞳子ちゃんしか考えられない」
吾郎も透も洋平も、瞳子に笑顔を向ける。
瞳子は最後に大河を見た。
真剣な表情で大きく頷く大河に、瞳子も頷き返す。
「はい。精一杯やらせていただきます」
「ほんと?良かった!じゃあ早速、概要とイメージを説明するね。ナレーションの台詞もこれから一緒に考えてくれる?」
「かしこまりました」
瞳子は時間も忘れて打ち合わせに熱中していた。
◇
「瞳子、そろそろ1時だぞ」
大河に声をかけられて、瞳子はハッと時計を見る。
「もうそんな時間?大変!そろそろ着替えて準備しないと」
立ち上がろうとすると、大河が近づいてきて瞳子を抱き上げた。
そのまま隣の仮眠室に連れて行くと、大河はそっとベッドの上に瞳子を下ろす。
「ありがとうございます。あの、着替えるので…」
うつむいてゴニョゴニョと言葉を濁す瞳子に、大河は平然と、どうぞ、と手で促した。
「もう!大河さん!」
「あはは!分かったよ。じゃあ着替え終わったらちゃんと声かけるんだぞ?でないと突入するからな」
「ひえっ!わ、分かりました。ちゃんとお知らせしますから」
よろしい、とうやうやしく頷き、ようやく大河は部屋を出て行った。
一人になった瞳子は、着ていたジーンズとニットから、シャンパンベージュの光沢のあるドレスに着替えた。
髪もアップでまとめてメイクを整える。
ロングドレスで足首まで隠れる為、シューズはローヒールにした。
準備出来ました、と声をかけると、大河は部屋に入るなり目を見開く。
「瞳子、すごく綺麗だよ」
ベッドの端に腰掛けた瞳子の隣に座り、大河はそっと瞳子の肩を抱き寄せて口づけた。
優しいキスにうっとりしたあと、瞳子は大河の顔を見て目をぱちくりさせる。
「やだ、大河さん。リップが付いちゃった」
慌てて左手を伸ばして大河の唇に触れると、大河は逆にその手を掴んで、瞳子の薬指に口づける。
「俺だけの瞳子。こんなに綺麗な姿を誰にも見せたくない。このまま二人でどこかに行かない?」
「そ、そんな。ダメです。お仕事だから」
「そうだけど…。でも瞳子から目を離したくない。今日のコンサート、聴きに行ってもいい?」
「それが、チケットは既に完売で…」
そっか、と大河は肩を落とす。
「じゃあロビーで待ってる」
「ええ?!コンサートは2時間もあるのに?」
「ああ。瞳子をこれから車で送って行って、そのまま待ってるよ」
「それだと更に長くなります。開演は17時だけど、私、14時半からゲネプロに立ち会うので」
「構わない。ほら、行こう」
「えっ、ちょ、大河さん!」
戸惑う瞳子を抱き上げて、大河は部屋を出た。
「ひゃー、アリシア!おとぎの国から出て来たみたいだね。お姫様がお姫様抱っこで登場だよ。もう完璧!」
透が興奮したようにはしゃいだ声を上げる。
「大河も、もうちょっと王子様っぽく笑ってよ。ほら、プリンススマイル!」
アホー!と大河が一喝する。
「何がプリンスだ、まったく。じゃあ俺はもう退社するから、何かあったらスマホに連絡くれ」
そう言って大河は、瞳子を抱いたまま出口に向かう。
「あの、こんな所からすみません。皆様、お先に失礼します」
「はーい!素敵なクリスマスイブをね、アリシア」
「ありがとうございます。透さんも亜由美ちゃんと素敵なイブを。洋平さんと吾郎さんも」
「ありがとう、瞳子ちゃん」
「ま、俺はどうせクリぼっちだから、バリバリ仕事片付けておくよ」
3人は、行ってらっしゃーい!と大河と瞳子を見送った。
「おお、透!久しぶり。どうだった?モルディブは」
「うん、もうさいっこう!だったよ。ありがとう、10日間も休ませてもらって」
「いや、楽しかったようで何よりだ」
「はい、これ。お土産ね」
「おっ、サンキュー!」
次の日。
新婚旅行から帰ってきた透がオフィスに現れると、洋平と吾郎は笑顔で歓迎した。
「透、昨日帰国したばっかりだろ?今日も休んで良かったのに」
「しかも今日はクリスマスイブだ。亜由美ちゃんを一人にさせるんじゃないぞ?」
吾郎と洋平の言葉に、透は嬉しそうに頷く。
「うん、ありがとう。お言葉に甘えて今日は5時に上がってもいいかな?」
「もちろん。俺も泉に早く帰るって言ってあるから、そうするわ」
二人のやり取りに、吾郎は、くうー!と苦悶の表情になる。
「あー、羨ましい!クリぼっちは俺だけか。よーし、俺はバリバリ仕事するぞ!内海不動産の件、ものすごいもの作ってやる!」
すると透が目を丸くする。
「内海不動産?そんな大きなところから仕事もらったの?」
「そうなんだよ。俺には仕事の女神が微笑んでくれてるらしい」
早速3人でミーティングを始める。
大河は、午前中はリモートワークで午後に少し出社するとのことだった。
「なるほど、新築分譲マンションね。うわー、いいな、このマンション」
「だろ?一つの街みたいに、公園やクリニック、保育所にスーパー、プールつきのジムやカラオケルームまで入るらしい。ファミリーにはうってつけだな。透、新居にどうだ?」
「うん、今かなり惹かれてる」
「パンフレット渡すから、亜由美ちゃんとも相談してみなよ」
「ありがとう!吾郎」
と、横から洋平が笑い出した。
「吾郎、お前マンションの営業マンかよ?」
「あはは!ほんとだよ。俺、ちゃっかり売り込まれちゃってた。なかなかやり手な営業マンだな、吾郎」
二人の言葉に吾郎は苦笑いする。
「なんか、俺って…。今は仕事に打ち込めって暗示なのかもなあ?ま、それもいいか」
ははっと笑って、吾郎はミーティングを続けた。
◇
昼の12時過ぎ。
ソファでランチを囲んでいた3人は、聞こえてきた何やら賑やかな声に手を止める。
なんだ?と顔を見合わせていると、オフィスのドアが開いた。
「大河さんってば!もう、下ろして!」
「うるさい。黙って抱かれてろ」
「なな、なんてことを言うのよ?恥ずかしいから!」
瞳子を抱いてオフィスに入って来た大河に、3人は思わず固まる。
「うひゃー!アリシア。久しぶりに会えたと思ったら、お姫様抱っこでご登場?さすがだなー」
「透さん!お帰りなさい。どうでしたか?モルディブは。亜由美ちゃんから昨日、水上ヴィラがもう天国みたいだった!ってメッセージ来ましたよ。って、高いところからごめんなさい」
「あはは!うん、まさにパラダイスだったよ。アリシアは、今日はどうしたの?大河とお姫様ごっこしてるの?」
「違うっつーの!」
大河が大声で遮り、瞳子をそっとソファに下ろした。
「いいか?瞳子。勝手に歩き回るなよ?」
むーっと瞳子はむくれる。
「大丈夫ですってば!」
「いーや、ダメだ。今日の仕事に差し障ってもいいのか?」
「それは…困りますけど」
「だろ?それならおとなしくしてろ」
ポンと瞳子の頭に手をやってから、大河はデスクでパソコンを立ち上げる。
透は二人の為にコーヒーを淹れた。
「ありがとうございます、透さん」
「どういたしまして。アリシア、足を怪我したの?」
「あ、ちょっとひねっただけなんです。痛みもないし、もう普通に歩けるんですけど、仕事の時間までは湿布を貼って安静にしろって言われて…」
チラッと大河を盗み見る瞳子に、透達は、なるほどね、と頷く。
「それは瞳子ちゃん、言うこと聞いておいた方がいいよ。大河の溺愛ぶりは底抜けだからな」
「そうそう。なべなべ底抜けの天井知らず」
あはは!と皆で笑い合う。
「でもじっとしてるなんて、退屈で…」
「それなら瞳子ちゃん。ちょっと仕事の話してもいい?」
吾郎の言葉に、瞳子は、え?と首を傾げる。
「私にですか?何でしょう」
「うん。実は今度、新築分譲マンションのモデルルームにうちのデジタルコンテンツを取り入れることになってね。紹介映像のナレーションを瞳子ちゃんに頼みたくて」
そう言って吾郎は、パンフレットを広げて見せる。
「わあ!素敵なマンションですね。お部屋も広いし、こんなに色々共用施設もあるんですね。パーティールームにライブラリーも?」
「そうなんだ。ファミリー向けだけど、ラグジュアリーで贅沢な非日常感も味わえる。紹介映像も、上質なものに仕上げたいと思ってるんだ。どう?その映像のナレーション、瞳子ちゃんにお願いできる?」
「え、私なんかでよろしいのでしょうか?」
「もちろん!瞳子ちゃんしか考えられない」
吾郎も透も洋平も、瞳子に笑顔を向ける。
瞳子は最後に大河を見た。
真剣な表情で大きく頷く大河に、瞳子も頷き返す。
「はい。精一杯やらせていただきます」
「ほんと?良かった!じゃあ早速、概要とイメージを説明するね。ナレーションの台詞もこれから一緒に考えてくれる?」
「かしこまりました」
瞳子は時間も忘れて打ち合わせに熱中していた。
◇
「瞳子、そろそろ1時だぞ」
大河に声をかけられて、瞳子はハッと時計を見る。
「もうそんな時間?大変!そろそろ着替えて準備しないと」
立ち上がろうとすると、大河が近づいてきて瞳子を抱き上げた。
そのまま隣の仮眠室に連れて行くと、大河はそっとベッドの上に瞳子を下ろす。
「ありがとうございます。あの、着替えるので…」
うつむいてゴニョゴニョと言葉を濁す瞳子に、大河は平然と、どうぞ、と手で促した。
「もう!大河さん!」
「あはは!分かったよ。じゃあ着替え終わったらちゃんと声かけるんだぞ?でないと突入するからな」
「ひえっ!わ、分かりました。ちゃんとお知らせしますから」
よろしい、とうやうやしく頷き、ようやく大河は部屋を出て行った。
一人になった瞳子は、着ていたジーンズとニットから、シャンパンベージュの光沢のあるドレスに着替えた。
髪もアップでまとめてメイクを整える。
ロングドレスで足首まで隠れる為、シューズはローヒールにした。
準備出来ました、と声をかけると、大河は部屋に入るなり目を見開く。
「瞳子、すごく綺麗だよ」
ベッドの端に腰掛けた瞳子の隣に座り、大河はそっと瞳子の肩を抱き寄せて口づけた。
優しいキスにうっとりしたあと、瞳子は大河の顔を見て目をぱちくりさせる。
「やだ、大河さん。リップが付いちゃった」
慌てて左手を伸ばして大河の唇に触れると、大河は逆にその手を掴んで、瞳子の薬指に口づける。
「俺だけの瞳子。こんなに綺麗な姿を誰にも見せたくない。このまま二人でどこかに行かない?」
「そ、そんな。ダメです。お仕事だから」
「そうだけど…。でも瞳子から目を離したくない。今日のコンサート、聴きに行ってもいい?」
「それが、チケットは既に完売で…」
そっか、と大河は肩を落とす。
「じゃあロビーで待ってる」
「ええ?!コンサートは2時間もあるのに?」
「ああ。瞳子をこれから車で送って行って、そのまま待ってるよ」
「それだと更に長くなります。開演は17時だけど、私、14時半からゲネプロに立ち会うので」
「構わない。ほら、行こう」
「えっ、ちょ、大河さん!」
戸惑う瞳子を抱き上げて、大河は部屋を出た。
「ひゃー、アリシア!おとぎの国から出て来たみたいだね。お姫様がお姫様抱っこで登場だよ。もう完璧!」
透が興奮したようにはしゃいだ声を上げる。
「大河も、もうちょっと王子様っぽく笑ってよ。ほら、プリンススマイル!」
アホー!と大河が一喝する。
「何がプリンスだ、まったく。じゃあ俺はもう退社するから、何かあったらスマホに連絡くれ」
そう言って大河は、瞳子を抱いたまま出口に向かう。
「あの、こんな所からすみません。皆様、お先に失礼します」
「はーい!素敵なクリスマスイブをね、アリシア」
「ありがとうございます。透さんも亜由美ちゃんと素敵なイブを。洋平さんと吾郎さんも」
「ありがとう、瞳子ちゃん」
「ま、俺はどうせクリぼっちだから、バリバリ仕事片付けておくよ」
3人は、行ってらっしゃーい!と大河と瞳子を見送った。
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