極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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これ以上の幸せ

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「え?ハネムーン?」

イチャイチャのクリスマスが過ぎ、年末の仕事納めの日がやって来た。

オフィスの大掃除をしながら、透がふいに大河に切り出す。

「そっ!ハネムーン。俺と亜由美が先に行かせてもらっちゃって、大河とアリシアはまだだろ?年明けにでも行って来なよ」

すると洋平や吾郎も頷く。

「そうだぞ、大河。女の子にとって、新婚旅行は一生の思い出だ。ちゃんと連れて行ってやれ」

でも…と大河は言葉を濁す。

「俺が何日もオフィスを留守にするのは気が引けるって、瞳子が…」

「バカだな。お前が誰よりも優先しなきゃいけないのは瞳子ちゃんだぞ?」

「そうだよ。それに俺達、そんなに頼りない?大河がいなくたって、全然問題ないよ」

吾郎と透のあとに、洋平も口を開いた。

「大河。お前が俺達のプライベートを大事にしてくれるように、俺達もお前のプライベートを大事にしたい。お前だけじゃない。瞳子ちゃんのもな」

うんうん!と透も頷く。

「それに大河。アリシアを幸せにするって誓ったんだろ?アリシアを幸せに出来るのは、大河だけだよ」

「透…」

大河はうつむいてじっと考えてから顔を上げる。

「分かった。瞳子に話してみる」

「ああ、それがいい」

3人は笑顔で大河に頷いてみせた。



「海外旅行、ですか?」

その日の夕食で、早速大河は瞳子に話をしてみた。

「ああ。俺達が新婚旅行に行ってないのを、みんな気にしてくれてて。年明けにでも行って来いって」

「でも海外旅行ともなると、2、3日じゃ済みませんよね?大河さんをそんなに長く不在にさせるなんて…」

「俺がいなくても、あいつらなら大丈夫だ。何も心配ない」

「そうですけど…。私はそこまでして、海外旅行にこだわるつもりはないです。また2泊3日で神戸に行けたら、それで充分です」

瞳子はきっぱりと言い切る。

どうやら本当に海外旅行に憧れはないようだ。

「神戸はまた必ず行こう。でもそれとは別に、俺は瞳子と海外旅行に行きたいんだ。ゆっくり時間をかけて、二人で一緒に色んな所に行って、色んなものを見て、色んな気持ちを共有したい。ダメか?」

控えめに瞳子の顔を覗き込むと、瞳子は、うーん…と視線を外した。

「例えばどんな所?」

「瞳子が行きたい所ならどこへでも」

「んー、特に思いつかないです」

「じゃあ、フランスはどうだ?」

「フランス?」

「ああ。仕事で行った時、綺麗な景色を瞳子に見せたいって思ったんだ。あの時はまだ俺達、つき合ってなかったけど」

「私もあの時、大河さんに会いたくて堪らなかったの。今頃何してるのかな?って、毎日大河さんのこと考えてたんです」

瞳子…と、大河は言葉に詰まる。

「そんなに可愛いこと言われたら、今すぐ瞳子をフランスに連れて行きたくなる。よし、飛行機のチケット取ろう!」

いやいやいや!と、瞳子は必死に手を振って止める。

「大河さん、落ち着いて。ご旅行は計画的にって言うでしょ?」

「それ、何か違うぞ」

「そう?まあ、いいから。とにかくゆっくり考えてからにしましょ。ほら、泉さんももうすぐ出産でしょ?そしたら洋平さん、しばらくは家庭優先になるから、お二人と赤ちゃんの生活が落ち着いてから考えましょう」

「あー、確かにそうだな。分かった。日程は改めて考えるけど、フランスに行くのは決まりな?」

すると瞳子は嬉しそうに、うん!と頷く。

「瞳子、可愛い…。今すぐ連れて行きたくなる」

「もう、大河さん。1分前に戻って!」

「あはは!振り出しに戻ったな」

「ほんとに。無限ループですよ?」

「仕方ないだろ?瞳子が可愛い過ぎるんだから」

「また私のせいなのー?」

美味しい瞳子の手料理を味わいながら、大河は楽しそうに、あはは!と笑っていた。



「瞳子、おいで」

寝る前にベッドでパソコンをいじっていた大河は、寝室に入って来た瞳子に声をかける。

サイドテーブルにパソコンを置くと、瞳子がベッドに入るなり、大河は両腕を伸ばして瞳子を抱き寄せた。

瞳子は甘えるように大河に身を寄せて横たわる。

「電気消すよ?」

「うん」

暗くなった部屋で、ほのかな月明かりの中、大河は優しく瞳子の髪をなでながら幸せな気持ちに浸っていた。

(今、こうやって瞳子が俺の腕の中にいてくれることが、何より嬉しい)

出逢った頃の瞳子は、男性に触れられることに怯えていた。

どんなに好きになった相手でも、身体に触れられると恐怖が蘇ってしまう。

私は一生、普通の恋愛も結婚も出来ない、と嘆いていた瞳子。

(そんな瞳子が、俺と結婚してくれて、今もこうやって身を寄せてくれているなんて。俺は瞳子をちゃんと幸せに出来ているのだろうか。過去の恐怖は、全て消し去ることが出来たのか?瞳子は俺と一緒にいることに、無理したりしていないだろうか)

ふとそんな不安が頭をよぎる。

その時、大河さん、と瞳子が視線を上げた。

「ん?どうした?」

「うん、あのね。夕食の時大河さんが、新婚旅行の話をしてくれたでしょう?」

「ああ。それがどうかした?」

「あの時は私、別にいいのに、なんて思ってたけど、今になってすごく嬉しくなってきたの。私、大河さんと新婚旅行に行きたい」

「瞳子…」

「私ね、普通の恋愛は諦めて生きてきたの。でも大河さんと出逢えて、心から愛してもらって、今も優しく抱きしめてもらってる。すごくすごく幸せで…。大河さんと結婚出来ただけで、もう夢のように幸せなの。だからそれ以上のことなんて、何も望んでなかった。さっき大河さんに、一緒にフランスに行こうって言われて、そんなことまでしてくれなくてもって思ったけど、だんだん行きたくて堪らなくなって…。行ってもいいのかな?私。これ以上の幸せを望んでも、バチが当たったりしない?」

瞳子…と、大河は目を潤ませる。

「何を言っている?俺は瞳子を世界一幸せにすると誓ったんだ。まだまだこんなもんじゃない。もっともっと幸せにしてみせる。瞳子は誰よりも綺麗な心の持ち主なんだ。バチが当たるどころか、神様だって瞳子の幸せを願わずにはいられないよ、きっと」

「ええ?神様が?」

「ああ。瞳子の息を呑むほどの美しさを前にすると思うんだ。瞳子は神様の祝福を受けて、この世に生まれてきたんだと思う」

「そ、それは大きな勘違いですよ?そんなこと言ったら、それこそバチが当たっちゃう」

「バチ当たりなのは俺の方だ。こんなにも清らかで綺麗な瞳子を、独り占めしてるんだからな」

「大河さんにバチなんて当たりません。私を救ってくれた、世界で一番素敵な人なんだから」

「いーや、絶対に神様に怒られる。お前ごときが瞳子に触れるな!とかって」

「まさか!私には大河さんしかいないのに。神様、お願いだから大河さんを私から奪わないで」

両手を組んで懇願する瞳子を、大河はギュッと抱きしめる。

「たとえ神に背いてでも、俺は瞳子を決して手放したりしない」

「大河さん…」

二人でしばらく抱き合ってから、ゆっくりと身体を離した。

互いに目が合うと、真顔でぱちぱちと瞬きする。

「あの…、私達なんだか盛り上がり過ぎてません?」

「うん…。俺も今そう思った」

「ですよね。恥ずかしくなってきちゃった」

「そうだな。誰かに聞かれたら、バカップルか?って笑われそうだ」

「あはは!確かに。でも大河さんと一緒なら、笑われてもいいの」

「瞳子は違うよ。極上の女性なんだから」

「大河さんだって、私のたった一人の愛する人です。って、またさっきのやり取りに戻っちゃった」

「ははっ!バカップルのループだな。名付けて『バカップループ』」

バカップループ?!と、瞳子は目を丸くしてから笑い出す。

「おかしい!大河さん、座布団1枚!」

「えー、1枚だけ?」

「じゃあ、おまけで10枚!」

「ずいぶん弾んだな」

「あはは!」

無邪気に笑う瞳子を愛おしそうに見つめてから、大河は瞳子を抱き寄せて優しく口づけた。

うっとりと目を閉じて身体を預けてくれる瞳子に、大河はもう何も考えられなくなる。

二人は言葉もなく、湧き上がる愛しさのまま互いを求め合った。
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