極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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楽しい時間

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「都筑さん、本当にありがとうございました!これで頭痛に悩まされずに、快適に過ごせそうです」

お店を出ると、安藤は改めて吾郎に頭を下げた。

「それは良かった。じゃあうちまで送るよ」

「いえ、そんな。これ以上ご迷惑はかけられません。それにここからは歩いて帰れますから」

「でももう暗くなったし…」

「本当に大丈夫ですから。毎晩、一人で帰ってますしね。それより都筑さん、今度改めてお礼をさせてください。こんなにお世話になったので、せめてものお返しに」

「そんな、いいよ」

「いえ、私の気が済みませんから。それに都筑さんは大切なお仕事の取引先の方です。そんな方のお世話になった上に、お礼もしないようでは、原口さんにも叱られてしまいます」

うーん、そんなに言うなら、と吾郎はしばし思案する。

「君のうちの近くにファミレスある?」

「は?ええ、はい。うちの斜め向かいにありますけど…」

「じゃあお礼に、そこでごちそうになってもいいかな?」

「え?そんな。ファミレスなんて、お礼になりません。もっときちんとしたお店に…」

「ええー?俺、ファミレス大好きなんだけど。ダメなの?」

「い、いえ!まさかそんな、ダメなんてことは。私もファミレス大好きです」

「よし、それなら決まり!ほら、早く乗って」

「ええ?!」

「道案内、よろしくね」

そして二人は、安藤のマンションのすぐ近くのファミレスに向かった。



「うわー、うまそうだな。ハンバーグステーキと、このおつまみ3点セットも頼んでいい?」

「はい、もちろん!ドリンクバーも、ですよね?」

「そこはもう当然でしょう」

「ふふっ、はい」

タブレットを操作しながら、安藤はテキパキと吾郎のオーダーを入力していく。

「私は、んー、まずはサラダだけにしよう」

ひとり言を呟きながら入力する安藤に、吾郎は、ん?と首をひねる。

「サラダだけしか食べないの?」

「違うんです。ここのファミレス、ワンちゃんがお料理を運んでくれるので、何度かに分けてオーダーしたいんです」

……は?と、吾郎は目が点になる。
安藤は、そんな吾郎にクスッと笑った。

「まあ、あとで分かりますから。ほら、先にドリンクバーに行きましょ」

「ああ、うん」

ドリンクを淹れて戻り、しばらくすると、
「あ、来た!都筑さん、来ましたよ」
と安藤が吾郎の後方に目をやる。

ん?と振り向いた吾郎は、うわ!と声を上げた。

「な、なんだ?あの可愛いロボットは」

「でしょ?あのワンちゃんがお料理を運んでくれるんです」

「え、ここに?俺のハンバーグを届けてくれるの?」

「そうですよ」

ピロリロリーン!と可愛い音楽と共に、ロボットは吾郎のすぐ隣までやって来た。

「お待たせしました!お料理をお持ちしたワン」

「あ、は、はい。ありがとう」

思わず頭を下げてロボットに返事をする吾郎に、安藤が笑いかける。

「都筑さん、ワンちゃんからお皿を取ってください」

「あ、う、うん」

吾郎はそっと両手でハンバーグの皿を持ち上げる。

「ご注文、ありがとワン!お料理楽しんでくださーい」

「は、はい!ありがとうございまーす」

真面目に答える吾郎に、安藤は面白そうに笑う。

「都筑さん、ワンちゃんにタジタジになってません?」

「うん、なってる。だってすごいんだもん、あのワンちゃん」

「あはは!都筑さんの口からワンちゃんって言葉聞くと、どうしても笑っちゃいます」

「ああ、前も言ってたね」

「え?私、そんなこと言いました?」

「言ってたよ。ほら原口さんと行った…」

(ああ、そうか。酔っ払って覚えてないんだっけ)

そう思っていると、今度は安藤のサラダを載せてまたロボットがやって来た。

「わー、可愛いな!ここに来る?うちの子かな?」

「ふふ、そうですよ。うちの子です」

吾郎の隣にピタリと止まったロボットからサラダを取り、安藤はバイバーイ!と手を振って見送る。

その後も、吾郎のおつまみ3点セットや、安藤が追加注文したパスタをロボットが運んで来る度に、二人はワイワイ盛り上がった。

「いい子だなー、こっちだぞー」

「トオルちゃーん、おいでおいで!」

「ト、トオルちゃん?!」

「ええ。だって都筑さんのところのワンちゃん、トオルちゃんなんでしょ?」

「いや、それはだな…」

「なんだか意外ですねー。都筑さんが子犬飼ってるなんて」

安藤は楽しそうに笑いながら、ロボットからパスタ皿を取る。

「バイバーイ!あー、また来て欲しいから、デザートも頼んじゃおう!」

吾郎はふと顔を上げて、安藤の様子を見つめる。

コンタクトにしたせいか、大きな目をキラキラさせて、仕事中の彼女からは想像もつかないほど表情も明るかった。

(本来はこういう性格なのかな?楽しそうに笑ったり、お酒に酔っ払ったり。仕事では、普段の自分を封印してがんばってるんだろうな)

早く仕事にも余裕が出来て楽しめるようになるといいのに、と思いながら、吾郎は安藤の笑顔を優しく見つめていた。



「都筑さん!伝票、どこにやっちゃったんですか?」

「ん?トオルちゃんにあげた」

「トオルちゃんに?何を言ってるんですか!あの子は伝票食べないですよ?」

堪らず吾郎は、あはは!と笑い出す。

「大丈夫だよ。食べさせてないから」

安藤がドリンクバーに行っている間にテーブル会計を済ませておいたのだが、そうとは知らない安藤は、必死に伝票を探している。

「お会計なら心配しないで。トオルちゃんがタダ働きにならないように済ませておいたから」

「ええ?!いつの間に?すみません、私がお支払いするはずなのに」

「いいって。俺がトオルちゃんにお小遣いあげたかっただけなんだ」

そう言うと透の顔が頭に浮かんできて、思わず吾郎は苦笑いする。

(あいつにお小遣いはやらんがな)

くくっと笑いを堪えていると、安藤が神妙に頭を下げた。

「都筑さん、本当にすみません。別の形で何かお礼を…」

「だから、いいって!楽しいお店に連れて来てくれてありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「うん。ほら、明日も仕事だろ?早く帰ってゆっくり休んで」

「はい、ありがとうございます」

お店を出ると、吾郎はすぐ近くのマンションに入って行く安藤を、姿が見えなくなるまで見送った。
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