極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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トオルちゃんの正体

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「かんぱーい!」

その後、亜由美が手続きを終えてモデルルームをあとにすると、片付けを他のスタッフに任せて、原口は安藤を飲みに連れて行くことにした。

都筑さんも、ぜひ!と言われて向かった先は、Bar. Aqua Blue。

(大丈夫かな?彼女、また酔っ払うんじゃ…)

吾郎は気が気でなかったが、まあ今日くらいは盛大にお祝いするべきだろうと思い直した。

「やったな!安藤。初めての商談で即お申し込みいただくなんて、すごい快挙だぞ」

「いえ。都筑さんのおかげですし、あのお客様は最初からお申込みされるおつもりでしたから、私の力ではありません。むしろ私の方がお客様に感謝しなければ」

「まあ、そうだけどさ。でもお前の商談もなかなか良かったぞ。危なげなくて、初めてとは思えなかった。この調子でがんばれ!」

「はい!次は実力でお申込みいただけるよう、精進します」

力強い言葉に原口も頷き、吾郎も、良かったなと頬を緩める。

「それにしても、安藤。最近なんか変わったよな」

しばらく他愛もない話をしてから、ナッツを口に放り込みつつ原口が切り出した。

「眼鏡やめてコンタクトにしたからかな?と思ってたけど、雰囲気や表情も明るくなった気がする。なんかいいことあったのか?」

「え?いえ、別に。いつもと変わりないですけど」

「そうか?でも良かったよ。営業に異動してきた時は、大丈夫かな?って心配してたけど、毎日がんばってるし笑顔も増えてきた。指導担当の俺としてもホッとしてる」

そう言って原口は、営業マンらしい爽やかな笑みをみせる。

「ありがとうございます、原口さん。私も初めは、営業なんて自信なくて…。でも皆さんが優しく接してくださるので、なんとかやって来られました。これからは少しでも皆さんのお力になれるように、がんばります」

「ああ、一緒にがんばろう!」

「はい!」

二人のやり取りに、吾郎は、いいなーと目を細める。

(俺達、ヤローばっかりの職場だもんな。こんな青春物語みたいな爽やかなやり取り、絶対ないわ)

今はモデルルームにかかり切りだが、もう少しすれば吾郎はいつものようにオフィスでの毎日になる。

大河や洋平、そして透。
学生の頃からずっと変わらないメンバー。

懐かしいような、照れくさいような…

(でもまあ、あそこが俺の居場所なのは間違いない)

吾郎はウイスキーのグラスを少し揺らしてから、ゆっくりと味わった。



「ですからー、トオルちゃん!私、すごーく会いたいんですよー、トオルちゃんに!」

やっぱり始まった…と、吾郎は原口と顔を見合わせる。

お酒はそろそろやめにして…と原口が言った時には既に遅く。

またしても安藤の一人新喜劇が幕を開けた。

「私の所に真っ直ぐに来てくれるトオルちゃん!可愛いおめめで私を見つめて、健気に近寄って来るの。トオルちゃん、私もあなたが大好きよー!」

「ちょっ、安藤!声が大きいって。そんな赤裸々に叫ばなくても…」

どうやら原口は、安藤が恋人の名前を叫んでいると思い込んでいるらしい。

しきりに辺りを気にして、安藤の口をふさごうとする。

「私、トオルちゃんに癒やされたい!トオルちゃんに会いに行きたいの」

「そ、そうか。それならこのあと行けばいいよ」

「トオルちゃんを思い出すと、仕事もがんばれる。だって、トオルちゃんもあんなに一生懸命お仕事がんばってるんだもん。愚痴をこぼしたりせず、嫌な顔一つしないで、いつもニコニコがんばってる。だから私もトオルちゃんみたいにがんばる!」

「う、うん、それは、いいことだな」

「原口さん!どうしてトオルちゃんの所に連れて行ってくれなかったんですか?もしや、私とトオルちゃんを引き裂こうと?」

「ま、まさかそんな!」

「うわーん!トオルちゃんに会いたかったよー!」

そして安藤は、バタッとテーブルに突っ伏して、スーッと寝息を立て始めた。

「やれやれ、やっと終わった。皆様、お騒がせしました」

原口が周りの客に会釈すると、皆は微笑んで片手を挙げる。

「都筑さんも、すみません。やっぱり安藤には飲ませちゃいけませんでしたね」

「いえいえ。私はまたしても楽しませてもらいましたよ」

なにせ吾郎の頭の中では、あのロボットワンちゃんがウィーンと動いていたのだから。

「そうですか?そう言っていただけると。それにしてもあの安藤が、こんなに彼氏とラブラブだとは。あ、だから最近コンタクトにしたんですかね?」

「さあ、どうなんでしょうね?」

としか言いようがない。

「でもなんか、ちょっと寂しくなってきました、俺」

原口がポツリと呟く。

「ずっと安藤のことをそばで見てきて、大丈夫かなって毎日心配して…。けど、俺なんかより近くで見守ってくれる恋人がいたんですね。そっか、そうだったのか」

自虐的にフッと笑うと、原口はグラスを一気に煽った。

(原口さん、もしかして彼女のことを…)

好きになったのか?
そこまでいかなくとも、気になる存在にはなっているのだろう。

吾郎はそっと横目で原口の様子をうかがう。

(もしそうなら、伝えるべきか?トオルちゃんの正体を)

そうすれば、なんだ!と原口は安心するだろう。

だがどうしてか、結局そのあとも吾郎は原口にそれを伝えないままだった。
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