極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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新婚旅行

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「大河さん!起きて起きて、朝ですよー」

「…ん、眠い。瞳子、もうちょっとだけ」

「ダメダメ!飛行機に乗り遅れちゃうもん」

いよいよ新婚旅行の日がやって来た。

朝、羽田を発つフライトの為、いつもより早く5時にアラームをセットしたのだが、瞳子は楽しみ過ぎて少し早く目が覚めた。

朝食の準備をしてから大河を起こしにベッドに戻ったが、大河はまだ寝ぼけまなこのままだ。

「大河さんったら!ね?起きて」

どうにかして起こそうと、瞳子はチューッと大河にキスをする。

その途端、大河はパチッと大きく目を見開いた。

「あ、大河さん、やっと起きた?」

ふふっと可愛らしく笑う瞳子に、大河は顔を真っ赤にしてコクコクと頷く。

「起きた、バッチリ起きた。と言うか、色々起きちゃった」

「…は?」

キョトンとする瞳子を抱き寄せてキスすると、大河はそのまま身体を反転させて瞳子をベッドに組み敷いた。

「瞳子、反則だぞ?朝からあんなに可愛くキスしてくるなんて。どうしてくれるんだ」

瞳子は、頬や首筋にキスの雨を降らせてくる大河を、両手で必死に押し戻す。

「た、大河さん!ダメ、パリに行けなくなっちゃう!」

「あー、それはいかん。じゃあ、続きはパリでな?」

「うん、分かった。分かったから」

「よし!じゃあ早くパリに行こう!ひとっ飛びで行くぞ!」

大河はガバッと起き上がると、さっさか着替えを始める。

(ふう、やれやれ。とにかく起きてくれて良かった)

瞳子はホッと小さく息をつくと、また笑顔に戻って準備を始めた。

朝食を食べると、片付けと戸締まりをしてから羽田空港に車で向かった。

「初めてね!大河さんと一緒に海外に行くなんて」

瞳子はパスポートを左手に持ち、右手は大河としっかり繋いで、とにかく楽しそうに空港のカウンターへと歩いて行く。

スキニージーンズに七分袖の白いジャケット、足元はフラットシューズで、栗色の長い髪もさらりとそのまま下ろしている瞳子は、メイクも控えめなのに美しさが際立っている。

普段から振り返られることの多い瞳子だが、今日は更に明るく笑顔を弾けさせており、すれ違う人が必ずと言っていいほど、瞳子を横目で追っていた。

大河は、手を繋いでいるだけでは心許なくなり、左手を解いて瞳子の肩をグッと抱き寄せる。

「瞳子、絶対に俺から離れるなよ?」

「うん!」

無邪気な笑顔で見上げてくる瞳子に、大河は無意識のまま吸い寄せられるように顔を寄せてキスをする…

が、すんでの所で瞳子が右手でピタリと大河の顔を止めた。

「大河さん、ここ日本よ?」

「そうか。じゃあ、続きはパリでな」

もはや合言葉のように繰り返す大河に、瞳子はまた苦笑いを浮かべていた。

ビジネスクラスの機内でも、大河は事あるごとにキスを迫っては瞳子に止められ、続きはパリでな…を繰り返す。

長いフライトのあと、ようやく二人は夕方のシャルル・ド・ゴール空港に降り立った。

「やったー、着いたー!ボンジュール、おフランスー!」

空港から外に出ると、瞳子は両手を挙げて喜ぶ。

大河は慣れた様子で瞳子をタクシーに促し、パリ市内のホテルに向かった。

運転手とのやり取りやホテルのチェックインの際もフランス語を使う大河に、瞳子は驚いて目を丸くする。

「大河さん、フランス語も話せるの?」

「ん?いや」

「でも話してますよね?」

「簡単な旅行会話だけだよ」

「充分ですよ。私、英語だってイマイチなのに」

「瞳子もきっと、帰る頃には少しフランス語覚えてるよ。神戸に行った時も関西弁しゃべってたし」

「え、それと同じなの?」

「同じだよ」

ほんとに?と疑う瞳子に、ほら、早く部屋に行こうと大河は肩を抱く。

大河の予約したホテルは、5つ星を超える最高級のホテル称号「パラス」を与えられた宮殿ホテル。

外観もロビーの内装もゴージャスなら、案内された部屋もラグジュアリーでゆったりとした素晴らしい部屋だった。

「ひゃー!素敵!もう映画の世界ね」

瞳子はうっとりと両手を組んであちこちを見渡し、窓からの景色に目を奪われた。

しばらく部屋でコーヒーを飲みながらくつろぐと、少しオシャレしてディナーに出かける。

向かった先は、ライトアップされたエッフェル塔が見えるアール・デコ調のレストラン。

テラス席から美しいエッフェル塔を眺め、瞳子はあまりのロマンチックな雰囲気に感嘆のため息をつく。

「素敵ね…。もう言葉も忘れて魅入っちゃう」

微笑みながらエッフェル塔を見つめる綺麗な瞳子の横顔を、大河は何枚も写真に収めた。

この旅行中、瞳子の写真で確実に容量がオーバーするな、と心の中で独りごちながら。



翌日からは、気の向くままに観光地を訪れた。

エッフェル塔や凱旋門、セーヌ川の他に、宮殿や地方の古城、美術館巡りなど。

瞳子はどこへ行っても感激して目を輝かせ、大河は景色と調和する瞳子の美しさに、シャッターを押す手が止まらなかった。

ヴェルサイユ宮殿では豪華絢爛な天井を見上げてうっとりする瞳子に、「もはやここは瞳子の為の宮殿か?」と大河は真顔で呟く。

瞳子は恥ずかしさのあまり、急いで大河の手を引いてその場を立ち去った。

ルーヴル美術館、オルセー美術館、ポンピドゥー・センター、そしてオランジュリー美術館へも足を運ぶ。

ルーヴル美術館でも大河は、「この『サモトラケのニケ』って、瞳子のイメージにぴったりだな」と豪語し、またしても瞳子は慌てて大河の手を引いた。

そんな中、瞳子はモネの絵画を観て感無量になる。

「モネの『日傘をさす女』って、右向きと左向きがあるんですね。私、左向きの方しか知りませんでした。それにこの『かささぎ』、なんて素晴らしいのかしら」

「ああ、そうだな。さすがは『光の画家』と呼ばれたモネだ。伝統的は手法からは脱却しつつも、光の捉え方や色彩感覚が秀逸だと思う」

オランジュリー美術館で念願の『睡蓮』を観た瞳子は、高さ約2m、長さ約91mもの作品に言葉を失って目を見張るばかりだった。

「もう、ただただ圧倒されます。私、ずっと瞬きするのを忘れてて、涙が滲んできちゃった」

目尻の涙を拭いながら照れたように笑う瞳子に、大河は目を細めて微笑んだ。

コンコルド広場を訪れると、瞳子は大河のシャツの袖をギュッと握りしめて身を寄せてくる。

「あの、大河さん。ここって、フランス革命の時に刑が行われた場所なのよね?その…、ルイ16世とマリー・アントワネットの」

「ああ、そうだよ」

そう言って大河は、広場の中央にそびえ立つ、エジプトのルクソール神殿から運ばれた23mのオベリスクと呼ばれる石碑に瞳子を連れて行く。

「ここにプレートがあるだろう?その事実が刻まれているんだ」

「なんて書いてあるの?」

「えっと、『1763年にルイ15世の広場と名づけられ、1792年11月から1795年5月までは革命広場と呼ばれたこの広場は、公開処刑が行われていた場所である。その中には1793年1月21日のルイ16世と、1793年10月16日のマリー・アントワネットが含まれる』という意味かな」

「そうなのね…」

瞳子は歴史の重みを感じつつ、神妙な面持ちでじっとプレートを見つめる。

大河はそんな瞳子の肩を、優しく抱き寄せていた。



ミュージアムショップでは、あれもこれもとたくさん買い物をする瞳子だったが、大河がハイブランドのショップに連れて行こうとすると、興味ないからと断った。

代わりに地元のスーパーに行きたい、と言い、お菓子や紅茶などが並ぶ棚を見て喜々とする。

「わー、見て!マロンのペーストがある。ホットケーキにつけたら美味しそうよね?買って帰ろうっと。あとはジャムと…あ!このガレットも美味しそう!」

ふらりと立ち寄る雑貨屋でも小物や文房具を選び、ホテルに戻ると瞳子は買ってきた品をベッドの上に並べる。

「たくさん買っちゃった!えっとね、この可愛いマカロンのチャームは亜由美ちゃんに。こっちの、クロワッサンくんのミニクッションは透さん!」

カラフルなマカロンがいくつか並ぶチャームと、クロワッサンに目と口が付いたなんとも愛嬌のあるミニクッションを両手に、瞳子は、ふふっと笑う。

「確かに、二人に似合いそうだな」

大河が頷くと、でしょう?と瞳子は小首を傾げる。

「もう決まりよね。マカロン亜由美とクロワッサン透!」

「ははっ!なんだそりゃ」

「でね、泉さんにはルーヴル美術館で買ったトートバッグ。洋平さんには、エッフェル塔のペン立て。ルーヴル泉とエッフェル洋平ね」

「あはは!」

大河はお腹を抱えて笑い出す。

「似合う似合う!じゃあ吾郎は?」

「吾郎さんはこれ!凱旋門吾郎!」

そう言って、ズシッと重さのある何だかよく分からない凱旋門のミニチュアを手にする。

大河は、ヒー!と仰け反って笑い転げた。

「凱旋門吾郎!強そう!」

「ね!ぴったりよね」

しばらく笑い続けてから、ようやく大河は笑いを収めた。

「それで?瞳子のお土産は?」

「私はこれ。モネの『睡蓮』のクリアファイル。原稿とか台本を入れるのに使うの」

「それだけ?」

「あとは、ボールペンとポーチも。それから雑貨屋さんで見つけたアロマキャンドル!」

嬉しそうな瞳子とは対照的に、大河は何やら考え込む。

「ん?どうしたの?大河さん」

「いや、だって…。俺、瞳子に色々買いたかったんだ。瞳子が欲しいもの全部」

「ええ。だからたくさん買ってもらっちゃった。いけなかった?」

「違うよ。もっとこう、有名なブランドのアクセサリーとかバッグとか、洋服とか。そういうのを買いたくて」

「大河さんが欲しいの?それなら明日、一緒に選びに行きましょ」

「俺は興味ないから。瞳子のものを買おう」

「私も興味ないんです」

肩透かしを食って、大河はガクッとなる。

「そんな…。せっかくパリに来たんだから、瞳子に色々プレゼントしたいのに」

「もうたくさん買ってもらったのに?」

「だから、そういうのじゃなくて…」

「んー、それなら大河さん。お願いがあります」

え、何?と、大河は身を乗り出す。

「私、オペラ・ガルニエ(オペラ座)でバレエを観たくて。一緒につき合ってもらってもいいですか?」

「ガルニエか!もちろん。俺も行ってみたかったんだ」

「ほんと?良かった!」

「じゃあ、明日早速行こう。あ!それなら、お揃いの衣装買いに行こうか」

「大河さんとお揃い?わあ!素敵」

「よし!じゃあ、決まりな」

「うん!楽しみ」

満面の笑みを浮かべる瞳子を、大河は両腕で優しく胸に抱き寄せ、そっとキスをする。

パリの夜は、二人にとってこの上なくロマンチックなひとときだった。
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