極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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大好き…

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「かんぱーい!」

内海不動産のメンバーに混じって、吾郎も完売を祝う打ち上げの店に呼ばれていた。

「都筑さん、この度は本当にありがとうございました!」

原口がビール瓶を手に挨拶に来る。

「あ、車なのでノンアルコールで。こちらこそ、こんなにも大きなプロジェクトにお声掛けいただき、ありがとうございました」

「いやー、アートプラネッツさんのデジタルコンテンツは素晴らしいですね。今後もぜひ、お力添えをお願いいたします」

「はい。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

木谷や安藤とも、お礼を述べて乾杯をする。

まともに話が出来たのは、せいぜい最初の1時間だけだった。

「トオルちゃん!私、どうしてもあなたに会いたいの。あの笑顔が忘れられなくて、会えない間もずっと思い出しちゃうの。トオルちゃん!今すぐ会いに行きたい!」

安藤…と、原口が眉間にしわを寄せる。

「お前な、そんなに赤裸々に叫ぶな。会社のみんなに聞かれるぞ?」

「誰にどう思われたっていいんです。トオルちゃんさえいてくれれば、私はそれで!」

「分かった、分かったから!それならお前はもう上がれ。会いに行って来いよ、トオルちゃんに」

「ほんとですか?!でも、都筑さんがなんて言うか…」

「は?都筑さん?」

思わぬ名前が飛び出し、原口は驚いたように吾郎を見る。

「い、いえ!あの、誤解です!何を想像されているのかは分かりませんが、恐らく誤解です、原口さん」

「はあ、でも…」

すると安藤が、グイッと吾郎に近づいて来た。

「都筑さん、トオルちゃんに会わせてください!お願いします!」

「あ、いやー、あはは!何のことやら?」

「とぼけないでください!私、本当にトオルちゃんに会いたいんです」

「そ、そうですか。とにかく一旦落ち着いて」

両手を出して安藤を制していると、原口が戸惑ったように声をかけてくる。

「都筑さんは、トオルちゃんの居場所をご存知なんですか?」

「いや、その、まあ。知ってはいますが、果たして彼女が言っているのは、どっちのトオルちゃんのことやら…」

「えっ!トオルちゃんって、二人いるんですか?」

「それは、その、まあ。そうなりますかね?」

正確には、ロボット一体と子犬が一匹と人間が一人だが…

「知らなかった、安藤が三角関係だったとは」

「いえ!あの、原口さん?色々、誤解されてます。実は彼女が会いたがっているトオルちゃんは…」

吾郎が説明しようとした時、安藤がグイッと吾郎の襟元を掴み上げた。

「都筑さん!お願い、私をトオルちゃんのところに連れて行って!トオルちゃんを抱きしめて、あの温もりに癒やされたいの」

「あ、なるほど」

それならロボットじゃなく子犬の方ね、と吾郎が頷いていると、原口はもう見ていられないとばかりに安藤の口を塞ぐ。

「安藤、とにかくこの場は抜けろ。な?都筑さん、申し訳ありませんが、彼女をお願い出来ますか?」

「はあ、分かりました」

吾郎は仕方なく、安藤の腕を支えて店を出た。



「トオルちゃん!」

「アンアン!」

車でマンションまで連れて来ると、安藤は靴を脱ぐなりリビングに駆け込んだ。

「ああ、やっと会えた!トオルちゃん」

「アン!」

トオルを抱き上げて床にペタンと座ると、安藤は嬉しそうに頬ずりする。

「可愛い!トオルちゃんを抱いていると、どうしてこんなに心があったかくなるの?ああ、もう、毎日一緒にいたいのに」

「アン!」

熱い抱擁に苦笑いしながら、吾郎はローテーブルに冷たいアイスティーを置いた。

「はい、良かったらどうぞ」

「ありがとうございます、都筑さん。私をトオルちゃんに会わせてくれて」

「ん?いや、それはいいから。アイスティーは?」

「ああ、私もう幸せで胸がいっぱいで」

「えっと、あの、アイスティーは?」

「私、ここに住んだらダメですか?そしたら毎日トオルちゃんに会えるのに」

「いやいや、それはダメでしょう。ほら、アイスティー」

「どうして?なぜ都筑さんは、私とトオルちゃんの仲を引き裂こうとするんですか?」

「してないよ、うん。そんなつもりは微塵もないから。はい、アイスティー飲んで酔いを覚まそう」

「酔ってなんかいません。私は本当にトオルちゃんが好きなんです」

安藤は、胸に抱きしめたトオルに頬を寄せて呟く。

「トオルちゃん、大好きよ」

「クーン…」

やれやれと吾郎がため息をついていると、やがて安藤は、スーッとソファにもたれて眠りに落ちた。

「え、ちょっと!ねえ、起きて!」

慌てて肩を揺するが、安藤は身をよじり、ますますトオルを胸にしっかりと抱いてソファに頭を載せる。

そのうちにトオルまでもがスヤスヤと眠り始めた。

「おい、ちょっと、もう…」

お手上げとばかりに、吾郎は途方に暮れる。

仕方なく安藤を抱き上げてソファに寝かせると、トオルごとブランケットを掛けた。

時計を見ると21時を少し過ぎたところ。

1時間経ったら起こして自宅まで送っていこうと思い、吾郎はローテーブルにパソコンを広げて、やり残した仕事を始めた。

カタカタとキーボードを打つ音だけが響く部屋で、吾郎はソファにもたれて作業に集中する。

一段落して、ふうと息をつき、吾郎はソファを振り返った。

安藤は胸にトオルを抱いて、安心したように眠っている。

知らず知らずのうちに、吾郎は安藤の無防備な寝顔から目が離せなくなっていた。

いつも下ろしている前髪から覗く形の良い額。

長いまつ毛と、ほんのりピンクに染まった頬。

すぐ目の前にある安藤の顔に釘付けになっていると、艷やかでふっくらした唇がほんの少しだけ開いて吐息が漏れた。

「ん…、だい、すき」

ドクンと吾郎の心臓が跳ねる。

だが安藤が胸に抱いたトオルに頬をすり寄せると、吾郎は、はあー、と一気に脱力した。

(なんだ、トオルのことか。いや、それにしても…)

これ以上、彼女がここにいてはいけない。

そう思い、吾郎は安藤を揺すり起こす。

「ほら、そろそろ起きて」

「ん…、あれ?…都筑さん?」

安藤はぼんやりと目を開けると、辺りを見回す。

「ここ、どこですか?」

「俺のマンション。まあ君からしたら、トオルのうちって言った方が正しいだろうけど」

「トオルちゃん!」

胸に抱いているトオルに目をやり、安藤はまた嬉しそうに頭をなでる。

トオルも目を開けて安藤の顔を舐めた。
「えーっと、ラブラブなところ申し訳ないけど、そろそろお開きにしてもいいかな?うちまで送るよ」

「え?あ、そうですよね。すみません」

安藤は身体を起こすと、名残惜しそうにトオルをなでてから、サークルに戻した。

「都筑さん、ご迷惑をおかけしました」

「いや、大丈夫だ。じゃあ行こうか」

「はい、ありがとうございます」

安藤は、バイバイと小さくトオルに手を振ってから、思い切ったように玄関に向かった。



安藤の自宅マンションへ向かう車中ではずっと沈黙が広がり、吾郎は、何か話を、と思案する。

「えっと、マンション完売して良かったね。異例の早さで売り切れたんだってね」

「あ、はい」

小さく答えると、安藤はまたうつむいて黙り込む。

「どうかした?嬉しくないの?」

「いえ、無事に完売したのは本当に嬉しいです。私も商談をいくつかこなして自信がつきましたし」

「それなら、何か心配なことでもあるの?」

「いえ、そういう訳ではないのですが、ただ…」

言い淀む安藤を、吾郎は「ただ、何?」と促す。

「はい。私、マンションの売り出し期間中はずっと気を張っていたんです。がんばらなきゃ!って、今思えば、かなり無理していたと思います。無事に完売出来てホッとして、ようやく肩の荷が下りたと思ったら、急に涙が出てきたんです。ああ、もうがんばらなくてもいいんだって安心して、気が緩んで…。マンションの部屋で一人、涙が止まりませんでした。だけど、このあともまだ仕事は続くんですよね。次もまたお客様に何千万ものマンションを買っていただく商談をしなきゃいけない。そう思うとプレッシャーで。だから今日、トオルちゃんに会えて本当に嬉しかったんです。言葉はなくても、トオルちゃんを抱いているだけで心が救われて。すみません、トオルちゃんは、都筑さんのところの子なのに」

「いや、いいんだ。またいつでも会いに来てくれて構わないから」

「ありがとうございます」

安藤は無理に笑顔を作って吾郎に礼を言う。

その姿に、吾郎は胸が締め付けられた。
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