極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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病院へ

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「あーん、今月も赤ちゃん来てくれなかったよー」

そう言ってガバッとオフィスのデスクに突っ伏す亜由美を、瞳子と千秋は、まあまあとなだめる。

「亜由美ちゃん、そんなに落ち込まないで。まだしばらくは透さんと二人の時間を楽しんだら?」

「そうよ、亜由美。きっと赤ちゃんもそう思ってるんじゃない?」

「でもマンションも買ったし、私はいつでも来て欲しいんですー。瞳子さんは?赤ちゃん、まだですか?」

うぐっ、と瞳子は言葉に詰まる。

「亜由美ちゃん、そんな赤裸々な…」

「ハネムーンベビーは?来ましたか?」

「いや、だからね。うん、まあ、私も少し期待してたんだけど…」

「来たのは赤ちゃんじゃなくて、生理の方?」

「そ、そうです、はい」

瞳子は顔を赤くして小さくなる。

「そっかー。やっぱり妊娠って奇跡ですよね。あー、お互い早く赤ちゃんに会いたいですね。あ!瞳子さん。また海斗くんに会いに行きません?」

「海斗くん!うん、会いたい!」

「ですよねー。じゃあ泉さんに連絡しようっと」

早速スマートフォンを取り出した亜由美の横で、千秋がそっと瞳子に声をかける。

「瞳子、あんまり考え過ぎずに気楽にね」

「ありがとうございます、千秋さん。はい、気長に赤ちゃんを待ちますね」

明るく笑う瞳子に、千秋も笑顔で頷いた。



だがその日の夜。

帰宅した千秋は、意外な人物からの電話を受けた。

「冴島さん?!どうしたの?」

『突然すみません、千秋さん。今、お話出来ますか?』

「ええ、大丈夫だけど。どうかした?」

『それが…、最近瞳子の具合が少しおかしくて』

ええ?!と千秋は声を上げる。

「おかしいって、どういうふうに?オフィスでは、いつもと変わりなかったわよ?」

今日も、亜由美に赤ちゃんのことを聞かれて少し照れていたが、おかしなところはなかった。

『実は瞳子、微熱があるみたいなんです。ちょっと顔が火照ってる感じで。体温計で測ると、37℃ちょうどとか、毎日そんな感じなんです』

「そうなの?でも元気そうにしてるけど…」

『はい。身体は元気なので、俺もそこまで心配してなかったんですけど。かれこれ1ヶ月近く続いているので、さすがにこれはと思って。しばらくゆっくり休ませて、精密検査を受けさせようかと思います。千秋さん、瞳子の仕事のスケジュール、どうなってますか?少しお休みを頂けませんか?』

「それはもちろん大丈夫よ。何よりも瞳子の身体が大事だもの。冴島さん、明日にでも瞳子を病院に連れて行ってくれる?」

『はい、分かりました。診察が終わったら、またご連絡します』

「ええ、お願いします」

電話を切ったあとも、千秋は心配で落ち着かない夜を過ごした。



「え?病院に、ですか?」

翌朝。

これから病院に行こうと言うと、瞳子は困惑したように大河に聞き返す。

「でも私、特に具合は悪くないですけど…」

「毎日微熱が続いてるのに?そんなこと、今までなかっただろ?」

「そうですけど…。身体は元気ですよ?」

「それならそれでいいよ。病院で何も異常がないと言われれば、俺も安心するから。な?頼むから、一度診てもらって」

大河に説得されて、瞳子は渋々頷いた。

診察開始時間に合わせて、大河は瞳子を病院に連れて行く。

受付で症状を伝えて、内科を受診した。

「えーっと、冴島 瞳子さんね。微熱が続いているということで、いくつか検査を受けてもらいました。結果から申し上げますと、妊娠しています」

「えっ?!」

きっぱりと言い切る女性医師の言葉に、瞳子は驚きのあまり、丸椅子から落っこちそうになる。

「あら!大丈夫?気をつけてね」

「は、はい。あの、本当でしょうか?だって私、予定通り生理が来ましたし…」

「んー、詳しくは産婦人科を受診しなければ分からないけど、恐らくそれは着床出血だと思うわ」

「着床出血、ですか?」

「そう。受精卵が着床する時に、子宮内膜の血管を傷つけてしまう為に起こる少量の出血のことなの。その時の出血量はいつも通りだった?」

「いえ、そう言えば少なかったです。でもそれは海外旅行に行ったあとだから、ホルモンバランスが崩れたせいかと…」

「なるほど。とにかく妊娠はほぼ確定だから、これから産婦人科に行ってくれる?正常妊娠かどうか、きちんと調べてもらいましょう」

「は、はい」

瞳子が、ありがとうございましたと言って診察室を出ると、すぐさま大河が近づいて来た。

「瞳子?どうだった?」

「えっと、あの…」

「うん、どうした?」

固唾を呑んで次の言葉を待っている大河を、瞳子はそっと見上げて呟く。

「あの、あのね…。妊娠、してる…って」

「にんしん?」

ピンと来ない大河は思い切り眉間にしわを寄せる。

「にんしんって…、えっ、妊娠?!」

「しーっ!大河さん、声が大きいです」

「ご、こめん。だって…」

瞳子は、まだよく事態を飲み込めない様子の大河の手を引いて、廊下の隅に連れて行く。

「瞳子、ほんとに?その…」

「はい。妊娠してるから、これから産婦人科を受診して、正常妊娠かどうか診てもらうようにって」

「そ、そうか!じゃあ、瞳子のお腹の中に、その…赤ちゃんが?」

大河はそっと瞳子のお腹に手を当てた。

「はい。大河さんと私の赤ちゃんがいます」

すると大河の目がみるみるうちに潤んでいく。

「え、大河さん?大丈夫ですか?」

「ああ、ごめん。俺、嬉しくて、感動して、どうしていいのか…」

言葉を詰まらせると、大河は瞳子の肩を抱き寄せて顔を伏せた。

「瞳子、ありがとう。俺、幸せで胸がいっぱいで…」

「大河さん…」

瞳子の目にも涙が溢れる。

「私も、信じられないくらい幸せで…。手が震えてきちゃった」

「ええ?!大丈夫か?」

大河は慌てて瞳子の顔を覗き込んで、手を握りしめる。

「大河さん。私のお腹の中に、大河さんと私の赤ちゃんが来てくれたのよね?」

「ああ、そうだよ。俺達の大切な命だ」

「嬉しい…。ありがとう、大河さん」

「瞳子…。必ず俺が守っていく。瞳子も、赤ちゃんも」

「うん」

二人は静かな廊下の片隅で涙を堪えながら、いつまでも互いを抱きしめ合っていた。



『えええー?!ににに、妊娠?!』

産婦人科を受診して帰宅した瞳子は、すぐに千秋に報告の電話をする。

千秋はこれ以上ないほどの驚きの声を上げた。

『ほ、本当に?だって瞳子、生理が来たって言ってたから…』

「はい。それがどうも、着床出血だったみたいです。産婦人科を受診したら、今妊娠8週目に入ったところだって。予定日は来年の1月11日だそうです」

『そうなのね!おめでとう、瞳子!』

「ありがとうございます、千秋さん」

『もう、心配してたのよ?冴島さんから、瞳子が微熱が続いてるって電話もらって。でもそっか。妊娠初期の微熱なのね?』

「ええ。徐々に落ち着いてくるから、心配いらないって言われました。千秋さん、ご心配おかけしました」

『ううん。あー、でもホッとした。それにすごく嬉しい!瞳子、くれぐれも身体を大切にね。仕事は私が調整するから』

「はい、ありがとうございます」

すると大河が、代わって、とジェスチャーをしてきた。

「千秋さん、大河さんに代わりますね」

そう言って瞳子は大河にスマートフォンを渡す。

大河は千秋に、心配かけたことを詫び、今後の瞳子の仕事について相談してから電話を切った。

「瞳子。安定期に入るまでは、舞台に立つ仕事は控えて、オフィスでの内勤だけにしてくれる?」

「え、それで大丈夫ですか?」

「ああ。千秋さんも、そうしてくれた方が安心だって。オフィスなら、いつも瞳子のそばにいてやれるからって」

千秋さん…と、瞳子は千秋の優しさに胸が詰まる。

「瞳子がMCの仕事が好きなのはよく知ってる。だけど今は、少し控えてくれる?」

「はい。千秋さんのお言葉に甘えてそうさせてもらいます。今は何より、赤ちゃんを大切に育てなきゃ」

お腹に手を当てて明るく笑う瞳子を、大河は優しく抱きしめる。

「ありがとう、瞳子。俺も必ず瞳子と赤ちゃんを守るから」

「うん。ありがとう、大河さん」

見つめ合う二人を、穏やかな幸せが包み込んでいた。



「あー、ダメダメ!瞳子さん。座ってなきゃ」

オフィスでコーヒーを淹れようと席を立つと、亜由美が飛んで来て瞳子を座らせる。

「私が淹れますから。瞳子さんは動いちゃダメ!」

「え、動いちゃダメなの?それって、だるまさんが転んだ、じゃない?」

「そう!瞳子さんが転んだら大変だもん」

そう言って亜由美は、千秋のコーヒーと瞳子のカフェインレスミルクティーを淹れてくれる。

「ありがとう、亜由美ちゃん。色々ごめんね」

「なーにをおっしゃいますやら!私も一緒に、瞳子さんの赤ちゃんを守るんだからね!」

「ふふっ、心強いです」

瞳子は微笑んで、亜由美の淹れてくれたミルクティーを味わった。

妊娠が分かってから、毎日大河が車でオフィスに送り迎えをしてくれる。

そしてオフィスでは、千秋と亜由美がいつも気遣ってくれた。

おかげで瞳子は毎日を心穏やかに安心して過ごすことができ、皆に感謝しながら幸せを噛みしめていた。
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