極上の彼女と最愛の彼 Vol.3

葉月 まい

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夏のミュージアム

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7月に入り、アートプラネッツは夏のミュージアムの準備に忙しい日が続く。

吾郎は毎日オフィスで制作に追われながらも、少しでも早く帰宅し、トオルと過ごす時間を大切にしていた。

どんなに疲れていても、トオルを抱き上げれば一気に疲れも吹き飛ぶ。

嬉しそうにじゃれてくるトオルに笑顔になる一方で、ふと安藤のことを思い出してはため息をつく。

(どうしているんだろう、今頃)

トオルに会いたがっているだろうか?
仕事は順調なのだろうか?

いや、案外トオルのこともケロッと忘れているのかも?
もしかしたら、原口に告白されてつき合い始めたかもしれない。

吾郎の頭の中は、様々な想像で膨らむ。

だが、どうすることも出来ずに毎日をやり過ごしていた。



夏休みに合わせて、いよいよアートプラネッツの体験型ミュージアムがオープンした。

今やすっかり有名になったアートプラネッツが、半年に一度新しくオープンするミュージアムとあって、連日来場者で賑わい、大盛況だった。

そんなある日。
吾郎はミュージアムで意外な人物に声をかけられる。

「都筑さん」

「はい」

呼ばれて振り返った吾郎は、驚いて目を見開く。

そこには、照れたように微笑む安藤がいた。



「わあ、なんて綺麗なの。想像以上に素敵…」

安藤は、夏の夜空をテーマにしたドーム型の大ホールを見上げて、うっとりと呟く。

「ずっと楽しみにしてたんです。アートプラネッツさんのミュージアムに行くのを」

「そうだったんだ。言ってくれれば、貸し切りで案内したのに」

「えっ、そうなんですか?」

「ああ。もし良ければ、今度閉館後にでも案内しようか?」

「はい、ぜひ!」

満面の笑みを浮かべる安藤に頷くと、吾郎は少し考えを巡らせる。

「都筑さん?どうかしましたか?」

「あ、ごめん。何でもないよ。じゃあ、都合のいい日を教えてくれる?」

「えっと、閉館後ならいつでも」

「いつでも?じゃあ、明日でもいい?」

再会出来たことを喜びつつ、もう逃したくなくて思わずそう言ってしまう。

そんな吾郎に、安藤は、はい!と笑顔で頷いた。



「こんばんは。お待たせ」

翌日。
ミュージアムが閉館して片付けも終わった夜の8時半。

安藤はミュージアムのエントランスで吾郎と待ち合わせた。

「都筑さん、こんばんは。今日はよろしくお願いします」

「ああ。どうぞ、入って」

「はい」

誰もいなくなった館内を、安藤は吾郎について歩いていく。

「今は真っ暗だけど、すぐ明るくなるから。ここで少し待っててくれる?」

「はい、分かりました」

大ホールに着くと、吾郎は安藤を部屋の真ん中に促してから、ドアの向こうに消えた。

シン…と静まり返った暗いホールにポツンと佇み、安藤が少し心細くなった時、サーッと光が差し込むように、ホールが群青色に染まり始めた。

「わあ、綺麗…」

思わずうっとりと天井を見上げる。

やがて無数の星がまたたき、スッと流れ星が降り注いだ。

夏の星座と流星群。

美しく広がる満天の星に、言葉もなく魅入っていた時だった。

「アン!」

可愛い鳴き声がして、安藤は思わず振り返る。

「え、トオルちゃん?!」

「アン!」

間違いない。

一目散に駆け寄ってくるのは、会いたくて堪らなかった可愛いトオルだった。

「トオルちゃん!」

「アンアン!」

飛びついてきたトオルを、安藤はひざまずいてギュッと胸に抱きしめる。

「トオルちゃん、やっと会えた!」

頬ずりして頭をなでると、トオルもぺろぺろと安藤の頬を舐めた。

「トオルちゃん、見て。綺麗な星空ね」

「アン!」

「ふふっ。いつまでもここにいたくなっちゃうね」

胸にしっかりとトオルを抱き、目を輝かせて星空を眺めている安藤を、吾郎は少し離れた所から優しく見つめていた。



「トオルちゃん、このお魚を追いかけるよ。おいで!」

「アン!」

隣のホールに広がる大海原の映像で、安藤はお絵描きした魚を画面に投入してトオルと一緒に追いかける。

「トオルちゃん、ほらここ。ジャンプ!」

安藤が声をかけると、トオルは安藤の手元目がけて飛び上がった。

「タッチ!すごーい、トオルちゃん。上手!」

「アンアン!」

二人は楽しそうにホール中を駆け回る。

しばらくしてようやく座り込み、じっと海の映像を眺め始めた。

「都筑さん、今夜は本当にありがとうございました」

「どういたしまして。楽しんでもらえたかな?」

「はい!それはもう。トオルちゃんと一緒に楽しめて、とっても嬉しかったです」

膝に抱いたトオルをなでると、トオルも安藤の手に頭をすり寄せる。

「こちらこそ。トオルと遊んでくれてありがとう。トオルは本当に君のことが大好きみたいだ」

「ふふっ、私も。トオルちゃんが大好きです。あーあ、トオルちゃんが私の彼氏だったらな。毎日デート出来るのに」

優しくトオルに微笑む安藤に、吾郎は思わず言ってしまう。

「じゃあ、トオルの彼女になってくれる?」

「え、いいんですか?なります!」

するとトオルも「アン!」と答える。

「あはは!トオル、お前、分かって返事してるのか?」

「アン!」

「そうか、それなら二人は両想いだな」

「やったー!嬉しい。ね?トオルちゃん」

「アン!」

吾郎は苦笑いを浮かべて頬をポリポリと掻く。

「じゃあ、時々週末に遊んでやってくれる?」

「もちろんです!よろしくお願いします」

「アン!」

安藤とトオルはキラキラと目を輝かせる。

(こりゃ、完全に俺はお邪魔虫だな)

やれやれと吾郎は小さく肩をすくめた。



それから毎週末、吾郎は安藤とトオルを連れてドッグランへ行く。

楽しそうに元気よく走り回る安藤とトオルを見ているだけで、吾郎まで幸せな気持ちになった。

「仕事はどう?順調?」

ドッグカフェでランチにしながら、安藤に尋ねる。

「はい。私、来月から開発・デザイン部に異動することになりました」

「へえ。前に言ってた、君のやりたいことが出来る部署?」

「そうなんです。異動はもう少し先になると思ってたんですけど、欠員が出たので」

「そうなんだ。良かったね!」

「はい、ありがとうございます」

安藤の表情は明るく、初めて会った頃より目に見えて綺麗になっていた。

髪を低い位置でポニーテールにして、ジーンズにクリームイエローのシャツを合わせた爽やかな装い。

そして何より、トオルと一緒にはしゃぐ様子は生き生きと輝いていて、吾郎は何度もその表情に見とれてしまった。

ふと思い立って、吾郎は何枚も安藤とトオルの写真を撮る。

安藤のメッセージアカウントに転送すると、トオルちゃんとツーショット!と嬉しそうに目を細めていた。
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