魔法のいらないシンデレラ

葉月 まい

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同窓会

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次の週の木曜日。

瑠璃は再びホテル フォルトゥーナ東京に来ていた。

ロビーには、今日もクリスマスツリーの前に写真撮影の列が出来ている。

「まあ!すてきなツリーね」
「俺達も写真撮る?」
「え、でもあの列に並んでいたら、パーティーに遅れちゃうわ」

姉と義兄がそう話すのを聞き、瑠璃は二人にそこに立っていてと告げ、自分はやや遠くに離れた。

スマートフォンの画面をのぞきながら、二人とツリーのバランスがいい角度を探して何枚か写真を撮る。

「うん!少し遠くからだけど、よく撮れたよ。あとで送るね」
「ありがとう、瑠璃ちゃん」

義兄に続いて姉も、ありがとねと微笑む。

「そろそろ行きましょう。遅れるわよ」

母親にうながされ、皆はエレベーターホールへ向かった。

歩きながら、ふと瑠璃は先週の出来事を思い出し、ロビーのソファを振り返る。

(そういえば、あのスタッフの方はどなただったのかしら。和樹さんと知り合いのようだったけれど…)

そこまで考えて、急に眉をひそめる。

あの日の夜遅くに和樹から電話があり、次に会う日を一方的に決められた。

絶対に来るように!と強い口調で言われたその約束の日は、明後日の24日。

つまりクリスマス・イブだった。

(行かないとだめよね。だって和樹さんにとって、私は婚約者のはずだもの)

私にとっては…
その答えをそろそろ決めなくてはいけなかった。

*

エレベーターで22階まで上がると、深紅のカーペットが敷き詰められた待合スペースに
百合園ゆりぞの女学院 同窓会』と書かれた受付が設けられていた。

母と姉に続き、瑠璃も芳名帳に記帳する。

と、誰かが近づいてくる気配のあと、聞き覚えのある声がした。

「まあまあ、美雪さん。ごきげんよう」
佐知さちさん!ごきげんよう」

艶やかな着物姿で母の美雪に声をかけてきたのは、母の旧友であり、和樹の母親でもある、澤山 佐知だった。

「佐知おば様、ごきげんよう」

そう言って、膝を曲げるカーテシーで挨拶をする姉のあとに、瑠璃も続く。

「ごきげんよう、おば様」
「ごきげんよう。まあ、藍ちゃんも瑠璃ちゃんも、今夜は一段と美しいわね」

美雪は佐知と同じく和装だったが、藍と瑠璃はイブニングドレスにした。

妊娠中だから、着物はやめてサラッと着られるドレスにするという姉に、瑠璃も便乗したのだった。

「ご主人の正装も、とってもすてきね。お二人、本当にお似合いのご夫婦だわ」

佐知の言葉に、藍の夫の高志たかしも笑顔でお辞儀をする。

「ありがとうございます。奥様にも久方ぶりにお目にかかれて光栄です。でもよろしかったのでしょうか?今日は女学院のご婦人方の同窓会ですのに、私のようなやからがお邪魔しても?」
「まあ!」

佐知は口元を袖で押さえながらふふっと笑い、高志に頷いた。

「もちろん、大歓迎ですわ。同窓生のご家族もご一緒にとお招きしていますから。それにパーティーは、男性がいてくださった方がより華やぎます」
「そういえば、佐知さん。同窓会の会長になって初めてのパーティーよね?色々段取りなど大変だったでしょう?」

母の美雪が思い出したように言う。

「いいえ、準備するのはとても楽しかったわ。この日を心待ちにしていたのよ。皆様もどうぞ楽しんでいってね。あ!藍ちゃんはくれぐれも無理のないようにね。横になって休めるようにお部屋も用意してあるから、遠慮なく使ってね」
「まあ!おば様、そんなお気遣いまで。ありがとうございます」

藍と高志は、恐縮して頭を下げた。

「いいのよ。お身体お大事にね。では皆様、また後ほど」

品の良いお辞儀をしてから、佐知はまた別のグループの方へと去っていった。

*

年に1度、毎年この季節に開催される同窓会。

今年は、佐知の会長挨拶と乾杯の音頭で幕を開けた。

このホテルで1番広いとされるバンケットホールは、美しく着飾ったご婦人やご令嬢で華やかに賑わい、天井のシャンデリアと相まって、まさに豪華絢爛といった様子だった。

美雪と藍のもとにも、次々と友人が声をかけに来る。

少し手持ちぶさたになった瑠璃が、お料理取ってくるね、と高志に声をかけると、じゃあ俺も、と一緒に立ち上がった。

二人で、豪華な料理がきれいに並ぶブュッフェカウンターに行く。

料理を選んでいるのは、瑠璃と高志だけだ。

皆、友人との久しぶりの再会を喜ぶあまり、料理はそっちのけらしい。

美味しそうなローストビーフをシェフに切り分けてもらっていると、すぐ後ろのテーブルから、まあ!ごきげんよう!と、ひときわ大きな声が聞こえた。

すると隣の高志が肩でくくっと笑いを堪え始め、瑠璃は怪訝そうな顔を向ける。

「お義兄さん?」
「ああ、いやごめん」

高志は、まだ少し含み笑いをしながら、瑠璃に小声で話しかける。

「俺さ、最初は衝撃受けたんだよ。ごきげんようって本当に言う人いるんだ!って」

ああ、と瑠璃は頷く。

この学校では、毎日当たり前のように使っている言葉が、実は普通ではないのだということは、瑠璃も自覚していた。

(やはり私達の感覚って、世間とは少しズレているのかな…)

料理を盛りつけながら、瑠璃は高志に聞いてみる。

「お義兄さんは、どうして姉さんを選んだの?もっと他の…何ていうか、ごきげんようって使わない、時代の最先端をゆく女性との結婚は、考えなかったの?」

率直な質問をしたつもりが、よく考えてみたら姉にも義兄にも失礼な発言だ。

「あ!ご、ごめんなさい。深い意味ではなくて…」

慌てて瑠璃が謝ると、ははは!と高志は笑い飛ばした。

「おもしろいこと言うなあ、瑠璃ちゃん。いや、でも分かるよ」

そう言って、うーんと少し顔を上げて何かを考えてから、再び口を開く。

「たとえばね、ここにいる人が皆、その、ごきげんようと言わないタイプの女性ばかりだとする。すると俺は、あっという間に取り囲まれるんだ」
「え?取り囲まれる?」

物騒な響きの言葉だと思い、眉間にシワを寄せる瑠璃を見て、高志はまたもや笑い出す。

「別に襲われる訳じゃないよ。あー、でも気分的には脅されてる感じかも。結婚してくれーってね」
「ええっ?!女性から男性に、結婚してと頼むの?取り囲んで…ってことは、何人もの方から?」
「そうだよ」

サラッと頷く高志に、瑠璃は視線を落として考え込む。

(それは一体どういう状況なのかしら…)

理解出来ずに難しい顔をしている瑠璃をのぞき込み、高志が笑いかける。

「いいんだよ。瑠璃ちゃんはそんな世界を知らなくて」
「えっ…」

いつものように、これだから世間知らずのお嬢さんは、と思われているのではないかと瑠璃は落ち込む。

「そういう邪気がないのが、藍や瑠璃ちゃんのいいところだよ。俺、藍と初めて会った時ホッとしたんだよね。こんなに穏やかに女性と話が出来るなんてって」

高志の言葉の意味は、いまいちよく分からないけれど、どうやら良いことを言われているらしい。

瑠璃はようやく、高志に笑顔を見せた。
高志も微笑み返してくれる。

瑠璃にとって高志は、心置きなく何でも話せる相談相手だった。
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