2 / 12
ファミリーデー
しおりを挟む
「あっ、おとうさんだ!」
翼が声を上げ、舞も振り返る。
「ほんとだ、おとうさん!」
笑顔で駆け寄ろうとした二人は、大和が他の子どもたちと話しているのを見ると、足を止めた。
パイロットの制服に身を包んだ大和が、子どもたちに囲まれて写真を撮っている。
どうやら翼も舞も、声をかけていいのかどうかためらっている様子だった。
「えらいわね、翼くんも舞ちゃんも。翔一なんて、見て。一目散にお父さんに飛びついちゃった」
呆れたような口調の彩乃に、恵真は微笑む。
「翔一くん、お父さんが大好きですものね」
「翼くんと舞ちゃんもそうでしょ? だけどちゃんと雰囲気を察して遠慮してる。翔一は、なーんにも気にしてないわ」
すると恵真の隣にいたこずえも口を開いた。
「うちなんてもっと酷いわよ。パパの方が美羽ー! って両手広げて待ち構えてるんだから。見てよ、あのデレデレ具合。鼻の下伸ばしちゃって、パイロットの威厳なんて欠片もないわね」
ため息混じりにそう言うこずえの視線の先では、伊沢が3歳の愛娘を抱いて目尻を下げている。
「ふふっ、伊沢くんメロメロだね。美羽ちゃん、可愛いもん。ピンクのフリフリのワンピース、よく似合ってる。あのお洋服って、伊沢くんが選んだの?」
「もちろん。私、あんな趣味じゃないもん」
確かに、と恵真は苦笑いした。
双子の小学校入学を翌月に控えた3月最初の日曜日。
日本ウイング航空のハンガーでは、ファミリーデーが催されていた。
社員が日頃の感謝を込めて家族を招き、職場見学や航空業界の裏側に触れてもらう日だ。
野中と大和と伊沢は、パイロットとしてゲストをおもてなしすることになっており、恵真は彩乃やこずえと一緒に子どもたちを連れてハンガーに遊びに来ていた。
ずらりと並んだ飛行機をバックに、子どもたちがパイロットに質問したり、一緒に記念撮影をしている。
笑顔でそれに応じていた大和からゲストが離れて行くと、大和はこちらを振り返り、屈んで大きく手を広げた。
「翼、舞、おいで」
二人はパッと笑顔で駆け出し、大和の腕の中へ飛び込んで行く。
「おっと! さすがは6歳だ。すごいパワーだな」
なんとか足を踏みしめて耐えると、大和は二人を抱きしめる。
「よかったー、おとうさんだ」
「ん? どういう意味だ、舞」
「ほかのおともだちに、おとうさんをとられちゃったらどうしようって、しんぱいだったの」
「お父さんが? 心配いらない。お父さんはずーっと舞と翼のお父さんだよ」
うん!と笑顔になる舞の頭をなでると、大和は二人と手を繋いで立ち上がった。
「翼も舞も、飛行機の中を見に行くか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。今日は特別な日だからな」
「やったー!」
ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ二人に目を細めると、大和は顔を上げる。
「恵真」
優しく名前を呼ぶ声は、ずっと以前から変わらない。
「行こう」
愛おしそうに見つめる瞳も。
「はい」
恵真も変わらぬ笑顔で大和を見つめ返した。
◇
「わあ……。すごいね、おにいちゃん」
「うん。ほんもののひこうきだ」
機内に入ると、翼と舞は圧倒されたように辺りを見渡して呟く。
「二人とも、席に座っていいぞ」
「えっ、いいの? きゅうにとんだりしない?」
「ははは! 残念ながら、今日は動かないんだよ」
大和が客席に座ると、翼と舞も恐る恐る近づいて隣に座った。
「ほら、これがテーブル。食事も出来るんだ」
「ここでごはんをたべるの?」
「ああ、そうだよ。二人とも3歳の時に乗ったんだけど、もう忘れちゃったか」
「ちょっとだけおぼえてる。りんごジュースとおこさまランチたべたの。でもあのとき、そらのうえだったの?」
「そうだよ」
大和がそう言っても、翼と舞はピンと来ていないようで首をかしげる。
「こんなおおきなひこうき、ほんとにそらをとぶの?」
「確かに不思議だよな。よし! じゃあ、コックピットに行ってみるか」
大和は二人を連れて、機体の前方に向かった。
◇
「あっ、佐倉キャプテン! ちょうどいいところに」
コックピットに行くと、広報課の川原が大和を見て笑いかける。
「今、お子さまの記念撮影していたんです。よかったらキャプテン席に座っていただけませんか?」
「えっ、いや、お子さんとご家族だけで撮った方が……」
大和がそう言うが、既に男の子と両親は「パイロットだ!」と目を輝かせている。
恵真は後ろからそっと翼と舞に声をかけた。
「翼、舞。ちょっとだけここで待ってようか」
「うん」
恵真が二人と手を繋いで下がり、大和は左席に座る。
右席に男の子が座り、両親が座席の後ろでしゃがんでポーズを取った。
「こっちを振り返ってくださいね。撮りますよ。はい、チーズ!」
川原がシャッターを押し、何枚か撮影する。
「ありがとうございました!」
笑顔でコックピットをあとにする家族を見送ると、大和は翼と舞を呼んだ。
「二人とも、好きな方に座っていいぞ」
「え、ここにすわってもいいの?」
翼は目を輝かせるが、舞はおっかなびっくりの様子だった。
「おとうさん、すわったらとんじゃうんじゃない?」
「ははっ! 舞、座っただけでは飛ばないよ。それで飛んだらパイロットも楽でいいけどな」
確かに、と恵真も笑う。
「実際には、ここにあるスイッチやボタンを全部使って飛ぶんだよ」
「えーっ、こんなにたくさん?」
「そうだよ」
翼はわくわくした様子で興味津々に身を乗り出すが、舞は圧倒されたように上を見上げている。
「おとうさん、これをつかってひこうきをとばしてるの?」
「そうだよ。お母さんもね」
「しんじられない。まほうつかいみたいね」
恵真は思わず、ふふっと笑う。
ハイテク技術を駆使した飛行機が、舞の頭の中ではメルヘンな乗り物になっているのが微笑ましかった。
(舞は将来、何になりたいのかな)
ふとそんなことが恵真の頭をよぎる。
「さあ、次は佐倉ファミリーを撮りますよ。ほら、翼くんも舞ちゃんも、座って」
川原が二人を促し、翼が左席に、舞が右席に座って写真を撮る。
「じゃあ今度は4人でね」
大和が翼を、恵真が舞を膝の上に座らせて4人で撮ってもらった。
「川原さん、ありがとうございました」
「いいえー。将来どんな家族になるのかしらね。また4人でコックピットで撮りましょう。その時は、みんな制服姿かしら?」
そう言って川原は、意味ありげに恵真に笑ってみせた。
◇
飛行機を降りると、野中や彩乃、伊沢やこずえと合流し、3家族揃って飛行機をバックに写真を撮る。
その後はシャトルバスに乗って、トレーニングセンターに向かった。
「おしごとたいけんできるんだって。つばさ、パイロットやろうぜ」
バスの中で、翔一が待ち切れない様子で翼に声をかける。
物心つく前から一緒に遊んでいるせいか、子どもたちは仲がいい。
「うん、やりたい!」
「おう! まいちゃんは?」
翔一に聞かれて、舞は首を横に振る。
「ううん、むずかしそうだからやめておく」
「えー、だいじょうぶだって。でもそっか。まいちゃんはおんなのこだから、CAさんだな」
「しーえーさん?」
「そう。ジュースくれるひと」
すると野中が、ブハッと吹き出した。
「翔一、ざっくり過ぎるだろ」
「だってそうでしょ?」
「そうだけど。CAさんはな、何よりもまず乗客の安全を守ることが大切な役目で……」
「あ、ついた! つばさ、いこうぜ」
「おい、翔一! 聞いてるのか?」
その様子に、彩乃がやれやれとため息をつく。
恵真たちも苦笑いしながらバスを降りた。
◇
「すっごーい! さすがは天下のJWAね。うちの訓練施設とは大違い」
こずえがキョロキョロと中を見渡して声を上げる。
「あれ? こずえちゃん、ここに来るのは初めてだっけ?」
「うん。美羽が小さかったから、今まではハンガーだけしか行ったことなかった」
「そう言えばそうだったね。美羽ちゃん、3歳になったから、今日はお仕事体験も出来そうね」
「どうかなー? まあ、好奇心旺盛だからやりたがるだろうけど、多分何も理解出来ないと思うわ」
「ふふっ。それもいい経験だよ、きっと」
広い施設の中は、ガラス越しにフライトシミュレーターやモックアップなどが見下ろせ、実際の訓練の様子も一般公開している。
今日はファミリーデーのイベントとして、子どもたちがパイロットやCAの制服を着て、お仕事体験が出来ることになっていた。
「ではパイロットをご希望のお子さまは、こちらに集まってくださいね。CAをご希望のお子さまは、あちらのエプロンを着たお姉さんのところに行ってください」
川原の案内に、翔一は「はい!」と元気に返事をしてから、翼の手を引いて野中たちのもとへ行く。
「舞は?」
恵真が尋ねると、舞は困ったように首を振った。
「じゃあ、お母さんとここで見てようか」
「うん」
すると美羽が舞の手を引く。
「まいちゃん、あっちいこー」
「え?」
美羽はトコトコと、CAのエプロン姿の佐々木に近づいた。
「あら! 可愛いCAさんだこと。伊沢さんの美羽ちゃんと、佐倉さんの舞ちゃんね。大きくなったわねー」
しゃがんで声をかける佐々木に、美羽はにこにこと笑顔を振りまく。
「ちょっと、美羽? パパはこっちだよー」
伊沢が後ろから呼んでも、美羽はちっとも反応しない。
「あーらら。フラれちゃったわね」
こずえがそう言うと、伊沢はシュンと肩を落とした。
「じゃあ、美羽ちゃんと舞ちゃん。早速制服を着てみましょうか。ジャケットとエプロン、どっちがいいかしら?」
佐々木がハンガーに掛けた子ども制服を掲げて見せると、美羽は「こっちー」とピンクのエプロンを指差した。
「美羽ちゃんはエプロンね。舞ちゃんは?」
聞かれて舞は、「えっ?」と戸惑う。
やりたくないのかな、と恵真は舞の様子をうかがった。
「えっと、こっちにします」
舞がジャケットを指差すと、佐々木はにっこり笑って頷いた。
「はい、分かりました。ではどうぞ、着てみてくださいね」
手渡されたジャケットを受け取り、舞はそっと恵真を見上げた。
どうしよう、と目で問いかけてくる。
「舞、着てみる?」
「……うん」
自信なさげな舞に、恵真はジャケットを広げた。
舞はそっと腕を通してから、ボタンを留める。
「あら、似合うね、舞」
「ほんと?」
「うん、よく似合ってる。すっかりお姉さんね。美羽ちゃんと写真撮ろうか」
「うん」
ピンクのエプロンを着てご機嫌な美羽と一緒に、機内の客席を再現したモックアップで写真を撮る。
そのまま保護者は客席に座り、子どもたちは佐々木のレクチャーでお仕事体験を始めた。
「ではまず、ジャケットの方からアナウンスをやってみましょう。お辞儀をしたあと、マイクを持ってお客様にご案内します」
佐々木にならって舞が通路に立ち、両手を揃えてお辞儀をした。
右手でマイクを持つと、佐々木が差し出したひらがなで書かれたカードを読み上げる。
「みなさま、ほんじつはJWA 001びんをごりよういただき、ありがとうございます」
次にライフベストを実際に着て佐々木と一緒に使い方を説明すると、再びマイクを握った。
「まもなく りりくいたします。シートベルトを しっかりと おしめください」
恵真もこずえも、シートベルトをカチッと締める。
最後にもう一度丁寧にお辞儀をしてから、舞はギャレーに戻った。
「舞ちゃん、上手! 立派なCAさんね。それになんか、私たちも貴重な体験じゃない? いつもコックピットにいるからさ」
こずえに言われて、「確かにそうね」と恵真も笑う。
次いでエプロン姿の美羽が、佐々木と一緒にカートを押して現れた。
「わあ、美羽ちゃん素敵!」
恵真の言葉に、美羽は得意げに澄まして見せる。
「おのみものを おもちしました。コーヒーかりんごジュースはいかがですか?」
こずえは「えーっと」と考える素振りをする。
「じゃあ、コーヒーをお願いします」
「はい! りんごジュースです」
「なんでやねん!」
恵真は二人の様子を動画に撮りながら笑ってしまう。
が、ふと視線を上げると舞の様子が目についた。
後ろを振り返り、パイロットのお仕事体験をじっと見つめている。
ちょうど制服姿の翼が、大和に教わりながらコックピットで操縦体験をしているところだった。
「ナイスランディング!」
大和が笑顔でサムアップし、翼も嬉しそうに笑っている。
(舞、本当はパイロットをやりたかったのかな?)
そう思い、CAのお仕事体験が終わると、恵真は舞に聞いてみた。
「舞もパイロットやってみる?」
だが舞は、少しうつむいてまた首を振る。
「ううん、だいじょうぶ」
「そう……。じゃあ、お兄ちゃんとお父さんも一緒に写真撮ろうか?」
「うん」
はにかんだ笑みで頷く舞と手を繋いで、恵真は大和のもとへ行く。
「おっ、舞。似合うな、ジャケット。CAのお仕事、どうだった?」
「たのしかったよ」
「そうか。お父さんも見たかったな」
それを聞いて、こずえがスマートフォンを操作し、恵真に動画を送信した。
「舞ちゃんのCAさん、撮影してたんだ。おうちで見てみてね」
「ありがとう! 私も美羽ちゃんの動画送るね。伊沢くんにも見せてあげて」
「そうね。泣いて喜ぶわ、きっと」
その様子は容易に想像出来る。
最後にお互いの家族写真と、3家族の集合写真を撮り、楽しい1日を終えた。
◇
「ただいまー! あー、おもしろかった」
マンションに帰って来ると、翼は満足そうにソファに座り込む。
「おにいちゃん、うがいてあらいは?」
「いまいくー」
二人が洗面所に姿を消し、恵真は大和に声をかけた。
「大和さん、お疲れ様でした。今コーヒーを淹れますね」
「ありがとう、恵真もお疲れ様。子どもたち、楽しそうだったな」
「ええ」
そう返事をするものの、少し考え込む恵真の素振りに大和はすぐに気づいた。
「恵真、どうかしたか?」
「え? いえ、あの……」
その時、翼と舞がリビングに戻って来る。
「のどかわいたー。まい、むぎちゃのむ?」
「うん!」
そのまま話が中断してしまったのが、大和は気がかりだった。
◇
「恵真、紅茶淹れるから座ってて」
夕食の後片付けが終わり、双子が寝室で眠ると、大和は恵真をソファに促した。
「はい、ミルクティー。今日も一日お疲れ様」
「ありがとう。大和さんも」
二人で微笑み合い、ゆっくりと紅茶を味わう。
子どもたちが生まれたあとも大切にしている、二人だけの時間。
やがて大和が静かに切り出した。
「恵真、今日はどうだった?」
「とっても楽しかったです。子どもたちも、ようやくファミリーデーを楽しめる年頃になって、成長したなって。あ! そうだ。舞のCAのお仕事体験、こずえちゃんが動画撮ってくれてたの」
そう言うと早速動画を再生し、二人でスマートフォンを覗き込んだ。
「おお、しっかりしてるな、舞」
「ええ。あの子はなんでもそつなくこなすタイプだから。でも……」
うつむいて何かを考え始めた恵真の言葉を、大和は黙って待つ。
「舞、本当はパイロットをやりたかったのかもしれません。翼と大和さんのことをじっと見ていたから。翔一くんに誘われた時も、私が『パイロットやってみる?』って聞いた時も首を振っていたけど、自信がなかったからかもしれません」
「……そう」
「舞は、ちゃんと出来るのにやる前からあれこれ考え過ぎて、躊躇してしまうことがよくありますよね。もっと自信が持てたらいいのに……。来月から小学校で、勉強ややることも増えるから、ちょっと心配なんです」
「そうか」
大和はローテーブルにカップを置くと、恵真の肩を抱き寄せた。
「恵真、ちゃんと舞のことを見ていてくれてありがとう。舞は、確かに慎重な性格だし、何でも身構えずにやってみる翼とは違う。でもそれは舞の個性だ。俺はそのままでいいと思う。ただ、舞自身が変わりたいと思っているなら、支えてやりたい」
「そうですね」
「大人も子どもも、みんな悩みながら少しずつ成長していく。舞も今、成長の節目で悩みを抱えているのかもしれない。だけど恵真がちゃんと見ていてくれて、どんな時も味方でいてくれる。これは舞にとって大きな心の支えだ。きっと大丈夫だと安心すると思うし、舞なら必ず乗り越えられる」
「そうだといいですけど……」
大和は明るく恵真に笑いかけた。
「俺が保証する。なんたって舞は、恵真の子だからな。一見か弱そうでおとなしそうなのに、中身は頑固で男前。どんな状況でも冷静に飛行機を飛ばす、肝の据わったバリバリのパイロットだぞ?」
「ちょっ、大和さん。それ、褒めてるの? からかってるの?」
「最大級に褒めてる。それにこの俺が選んだ、世界でたった一人の奥さんだぞ? 可愛くて優しくて、子どもたちには最高のお母さんで、パイロットとしては誰よりも頼りになる。公私ともに、俺の唯一無二のパートナーだ」
「大和さん……」
「だから舞もきっと大丈夫だ。信じよう、あの子を」
「はい」
目を潤ませて頷く恵真に優しく微笑み、大和はそっと両腕で抱きしめた。
恵真の心に温かさと幸せが広がる。
コツンと大和の肩に頭を預けると、恵真はしみじみと呟いた。
「大和さんも、子どもたちにとって最高のお父さんです。それに、私にとっても……」
「ん? 私にとっても、なに?」
「えっと、だからそれは……」
赤くなる恵真の顔を、大和は、ん?と覗き込む。
「大和さん、おもしろがってるでしょ?」
「いいや? 真面目に聞いている」
「嘘だもん」
「ほんとだって。俺は恵真にとって何だろうな。空気みたいな単なる同居人?」
「まさか、そんな訳ないです。大和さんは私の大好きな人。大和さんがいてくれるから、どんな時も私は幸せでいられるの。あなたは世界でたった一人の、私が心から愛する人です」
「恵真……」
たまらず大和は、恵真をもう一度ギュッと胸に抱きしめる。
「俺もだよ。恵真が俺の人生の全てだ。俺の喜びも幸せも、全部恵真と共にある。ありがとう、恵真。これからもずっとそばにいてほしい」
「はい。私も、この先もずっと大和さんと一緒にいたい。どんな時もそばにいさせてください、大和さん」
「ああ。いつまでも一緒だ、恵真」
大和の大きな手が恵真の頬を包む。
見つめ合うと、どちらからともなく顔を寄せ、愛を込めてキスをした。
翼が声を上げ、舞も振り返る。
「ほんとだ、おとうさん!」
笑顔で駆け寄ろうとした二人は、大和が他の子どもたちと話しているのを見ると、足を止めた。
パイロットの制服に身を包んだ大和が、子どもたちに囲まれて写真を撮っている。
どうやら翼も舞も、声をかけていいのかどうかためらっている様子だった。
「えらいわね、翼くんも舞ちゃんも。翔一なんて、見て。一目散にお父さんに飛びついちゃった」
呆れたような口調の彩乃に、恵真は微笑む。
「翔一くん、お父さんが大好きですものね」
「翼くんと舞ちゃんもそうでしょ? だけどちゃんと雰囲気を察して遠慮してる。翔一は、なーんにも気にしてないわ」
すると恵真の隣にいたこずえも口を開いた。
「うちなんてもっと酷いわよ。パパの方が美羽ー! って両手広げて待ち構えてるんだから。見てよ、あのデレデレ具合。鼻の下伸ばしちゃって、パイロットの威厳なんて欠片もないわね」
ため息混じりにそう言うこずえの視線の先では、伊沢が3歳の愛娘を抱いて目尻を下げている。
「ふふっ、伊沢くんメロメロだね。美羽ちゃん、可愛いもん。ピンクのフリフリのワンピース、よく似合ってる。あのお洋服って、伊沢くんが選んだの?」
「もちろん。私、あんな趣味じゃないもん」
確かに、と恵真は苦笑いした。
双子の小学校入学を翌月に控えた3月最初の日曜日。
日本ウイング航空のハンガーでは、ファミリーデーが催されていた。
社員が日頃の感謝を込めて家族を招き、職場見学や航空業界の裏側に触れてもらう日だ。
野中と大和と伊沢は、パイロットとしてゲストをおもてなしすることになっており、恵真は彩乃やこずえと一緒に子どもたちを連れてハンガーに遊びに来ていた。
ずらりと並んだ飛行機をバックに、子どもたちがパイロットに質問したり、一緒に記念撮影をしている。
笑顔でそれに応じていた大和からゲストが離れて行くと、大和はこちらを振り返り、屈んで大きく手を広げた。
「翼、舞、おいで」
二人はパッと笑顔で駆け出し、大和の腕の中へ飛び込んで行く。
「おっと! さすがは6歳だ。すごいパワーだな」
なんとか足を踏みしめて耐えると、大和は二人を抱きしめる。
「よかったー、おとうさんだ」
「ん? どういう意味だ、舞」
「ほかのおともだちに、おとうさんをとられちゃったらどうしようって、しんぱいだったの」
「お父さんが? 心配いらない。お父さんはずーっと舞と翼のお父さんだよ」
うん!と笑顔になる舞の頭をなでると、大和は二人と手を繋いで立ち上がった。
「翼も舞も、飛行機の中を見に行くか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。今日は特別な日だからな」
「やったー!」
ピョンピョン飛び跳ねて喜ぶ二人に目を細めると、大和は顔を上げる。
「恵真」
優しく名前を呼ぶ声は、ずっと以前から変わらない。
「行こう」
愛おしそうに見つめる瞳も。
「はい」
恵真も変わらぬ笑顔で大和を見つめ返した。
◇
「わあ……。すごいね、おにいちゃん」
「うん。ほんもののひこうきだ」
機内に入ると、翼と舞は圧倒されたように辺りを見渡して呟く。
「二人とも、席に座っていいぞ」
「えっ、いいの? きゅうにとんだりしない?」
「ははは! 残念ながら、今日は動かないんだよ」
大和が客席に座ると、翼と舞も恐る恐る近づいて隣に座った。
「ほら、これがテーブル。食事も出来るんだ」
「ここでごはんをたべるの?」
「ああ、そうだよ。二人とも3歳の時に乗ったんだけど、もう忘れちゃったか」
「ちょっとだけおぼえてる。りんごジュースとおこさまランチたべたの。でもあのとき、そらのうえだったの?」
「そうだよ」
大和がそう言っても、翼と舞はピンと来ていないようで首をかしげる。
「こんなおおきなひこうき、ほんとにそらをとぶの?」
「確かに不思議だよな。よし! じゃあ、コックピットに行ってみるか」
大和は二人を連れて、機体の前方に向かった。
◇
「あっ、佐倉キャプテン! ちょうどいいところに」
コックピットに行くと、広報課の川原が大和を見て笑いかける。
「今、お子さまの記念撮影していたんです。よかったらキャプテン席に座っていただけませんか?」
「えっ、いや、お子さんとご家族だけで撮った方が……」
大和がそう言うが、既に男の子と両親は「パイロットだ!」と目を輝かせている。
恵真は後ろからそっと翼と舞に声をかけた。
「翼、舞。ちょっとだけここで待ってようか」
「うん」
恵真が二人と手を繋いで下がり、大和は左席に座る。
右席に男の子が座り、両親が座席の後ろでしゃがんでポーズを取った。
「こっちを振り返ってくださいね。撮りますよ。はい、チーズ!」
川原がシャッターを押し、何枚か撮影する。
「ありがとうございました!」
笑顔でコックピットをあとにする家族を見送ると、大和は翼と舞を呼んだ。
「二人とも、好きな方に座っていいぞ」
「え、ここにすわってもいいの?」
翼は目を輝かせるが、舞はおっかなびっくりの様子だった。
「おとうさん、すわったらとんじゃうんじゃない?」
「ははっ! 舞、座っただけでは飛ばないよ。それで飛んだらパイロットも楽でいいけどな」
確かに、と恵真も笑う。
「実際には、ここにあるスイッチやボタンを全部使って飛ぶんだよ」
「えーっ、こんなにたくさん?」
「そうだよ」
翼はわくわくした様子で興味津々に身を乗り出すが、舞は圧倒されたように上を見上げている。
「おとうさん、これをつかってひこうきをとばしてるの?」
「そうだよ。お母さんもね」
「しんじられない。まほうつかいみたいね」
恵真は思わず、ふふっと笑う。
ハイテク技術を駆使した飛行機が、舞の頭の中ではメルヘンな乗り物になっているのが微笑ましかった。
(舞は将来、何になりたいのかな)
ふとそんなことが恵真の頭をよぎる。
「さあ、次は佐倉ファミリーを撮りますよ。ほら、翼くんも舞ちゃんも、座って」
川原が二人を促し、翼が左席に、舞が右席に座って写真を撮る。
「じゃあ今度は4人でね」
大和が翼を、恵真が舞を膝の上に座らせて4人で撮ってもらった。
「川原さん、ありがとうございました」
「いいえー。将来どんな家族になるのかしらね。また4人でコックピットで撮りましょう。その時は、みんな制服姿かしら?」
そう言って川原は、意味ありげに恵真に笑ってみせた。
◇
飛行機を降りると、野中や彩乃、伊沢やこずえと合流し、3家族揃って飛行機をバックに写真を撮る。
その後はシャトルバスに乗って、トレーニングセンターに向かった。
「おしごとたいけんできるんだって。つばさ、パイロットやろうぜ」
バスの中で、翔一が待ち切れない様子で翼に声をかける。
物心つく前から一緒に遊んでいるせいか、子どもたちは仲がいい。
「うん、やりたい!」
「おう! まいちゃんは?」
翔一に聞かれて、舞は首を横に振る。
「ううん、むずかしそうだからやめておく」
「えー、だいじょうぶだって。でもそっか。まいちゃんはおんなのこだから、CAさんだな」
「しーえーさん?」
「そう。ジュースくれるひと」
すると野中が、ブハッと吹き出した。
「翔一、ざっくり過ぎるだろ」
「だってそうでしょ?」
「そうだけど。CAさんはな、何よりもまず乗客の安全を守ることが大切な役目で……」
「あ、ついた! つばさ、いこうぜ」
「おい、翔一! 聞いてるのか?」
その様子に、彩乃がやれやれとため息をつく。
恵真たちも苦笑いしながらバスを降りた。
◇
「すっごーい! さすがは天下のJWAね。うちの訓練施設とは大違い」
こずえがキョロキョロと中を見渡して声を上げる。
「あれ? こずえちゃん、ここに来るのは初めてだっけ?」
「うん。美羽が小さかったから、今まではハンガーだけしか行ったことなかった」
「そう言えばそうだったね。美羽ちゃん、3歳になったから、今日はお仕事体験も出来そうね」
「どうかなー? まあ、好奇心旺盛だからやりたがるだろうけど、多分何も理解出来ないと思うわ」
「ふふっ。それもいい経験だよ、きっと」
広い施設の中は、ガラス越しにフライトシミュレーターやモックアップなどが見下ろせ、実際の訓練の様子も一般公開している。
今日はファミリーデーのイベントとして、子どもたちがパイロットやCAの制服を着て、お仕事体験が出来ることになっていた。
「ではパイロットをご希望のお子さまは、こちらに集まってくださいね。CAをご希望のお子さまは、あちらのエプロンを着たお姉さんのところに行ってください」
川原の案内に、翔一は「はい!」と元気に返事をしてから、翼の手を引いて野中たちのもとへ行く。
「舞は?」
恵真が尋ねると、舞は困ったように首を振った。
「じゃあ、お母さんとここで見てようか」
「うん」
すると美羽が舞の手を引く。
「まいちゃん、あっちいこー」
「え?」
美羽はトコトコと、CAのエプロン姿の佐々木に近づいた。
「あら! 可愛いCAさんだこと。伊沢さんの美羽ちゃんと、佐倉さんの舞ちゃんね。大きくなったわねー」
しゃがんで声をかける佐々木に、美羽はにこにこと笑顔を振りまく。
「ちょっと、美羽? パパはこっちだよー」
伊沢が後ろから呼んでも、美羽はちっとも反応しない。
「あーらら。フラれちゃったわね」
こずえがそう言うと、伊沢はシュンと肩を落とした。
「じゃあ、美羽ちゃんと舞ちゃん。早速制服を着てみましょうか。ジャケットとエプロン、どっちがいいかしら?」
佐々木がハンガーに掛けた子ども制服を掲げて見せると、美羽は「こっちー」とピンクのエプロンを指差した。
「美羽ちゃんはエプロンね。舞ちゃんは?」
聞かれて舞は、「えっ?」と戸惑う。
やりたくないのかな、と恵真は舞の様子をうかがった。
「えっと、こっちにします」
舞がジャケットを指差すと、佐々木はにっこり笑って頷いた。
「はい、分かりました。ではどうぞ、着てみてくださいね」
手渡されたジャケットを受け取り、舞はそっと恵真を見上げた。
どうしよう、と目で問いかけてくる。
「舞、着てみる?」
「……うん」
自信なさげな舞に、恵真はジャケットを広げた。
舞はそっと腕を通してから、ボタンを留める。
「あら、似合うね、舞」
「ほんと?」
「うん、よく似合ってる。すっかりお姉さんね。美羽ちゃんと写真撮ろうか」
「うん」
ピンクのエプロンを着てご機嫌な美羽と一緒に、機内の客席を再現したモックアップで写真を撮る。
そのまま保護者は客席に座り、子どもたちは佐々木のレクチャーでお仕事体験を始めた。
「ではまず、ジャケットの方からアナウンスをやってみましょう。お辞儀をしたあと、マイクを持ってお客様にご案内します」
佐々木にならって舞が通路に立ち、両手を揃えてお辞儀をした。
右手でマイクを持つと、佐々木が差し出したひらがなで書かれたカードを読み上げる。
「みなさま、ほんじつはJWA 001びんをごりよういただき、ありがとうございます」
次にライフベストを実際に着て佐々木と一緒に使い方を説明すると、再びマイクを握った。
「まもなく りりくいたします。シートベルトを しっかりと おしめください」
恵真もこずえも、シートベルトをカチッと締める。
最後にもう一度丁寧にお辞儀をしてから、舞はギャレーに戻った。
「舞ちゃん、上手! 立派なCAさんね。それになんか、私たちも貴重な体験じゃない? いつもコックピットにいるからさ」
こずえに言われて、「確かにそうね」と恵真も笑う。
次いでエプロン姿の美羽が、佐々木と一緒にカートを押して現れた。
「わあ、美羽ちゃん素敵!」
恵真の言葉に、美羽は得意げに澄まして見せる。
「おのみものを おもちしました。コーヒーかりんごジュースはいかがですか?」
こずえは「えーっと」と考える素振りをする。
「じゃあ、コーヒーをお願いします」
「はい! りんごジュースです」
「なんでやねん!」
恵真は二人の様子を動画に撮りながら笑ってしまう。
が、ふと視線を上げると舞の様子が目についた。
後ろを振り返り、パイロットのお仕事体験をじっと見つめている。
ちょうど制服姿の翼が、大和に教わりながらコックピットで操縦体験をしているところだった。
「ナイスランディング!」
大和が笑顔でサムアップし、翼も嬉しそうに笑っている。
(舞、本当はパイロットをやりたかったのかな?)
そう思い、CAのお仕事体験が終わると、恵真は舞に聞いてみた。
「舞もパイロットやってみる?」
だが舞は、少しうつむいてまた首を振る。
「ううん、だいじょうぶ」
「そう……。じゃあ、お兄ちゃんとお父さんも一緒に写真撮ろうか?」
「うん」
はにかんだ笑みで頷く舞と手を繋いで、恵真は大和のもとへ行く。
「おっ、舞。似合うな、ジャケット。CAのお仕事、どうだった?」
「たのしかったよ」
「そうか。お父さんも見たかったな」
それを聞いて、こずえがスマートフォンを操作し、恵真に動画を送信した。
「舞ちゃんのCAさん、撮影してたんだ。おうちで見てみてね」
「ありがとう! 私も美羽ちゃんの動画送るね。伊沢くんにも見せてあげて」
「そうね。泣いて喜ぶわ、きっと」
その様子は容易に想像出来る。
最後にお互いの家族写真と、3家族の集合写真を撮り、楽しい1日を終えた。
◇
「ただいまー! あー、おもしろかった」
マンションに帰って来ると、翼は満足そうにソファに座り込む。
「おにいちゃん、うがいてあらいは?」
「いまいくー」
二人が洗面所に姿を消し、恵真は大和に声をかけた。
「大和さん、お疲れ様でした。今コーヒーを淹れますね」
「ありがとう、恵真もお疲れ様。子どもたち、楽しそうだったな」
「ええ」
そう返事をするものの、少し考え込む恵真の素振りに大和はすぐに気づいた。
「恵真、どうかしたか?」
「え? いえ、あの……」
その時、翼と舞がリビングに戻って来る。
「のどかわいたー。まい、むぎちゃのむ?」
「うん!」
そのまま話が中断してしまったのが、大和は気がかりだった。
◇
「恵真、紅茶淹れるから座ってて」
夕食の後片付けが終わり、双子が寝室で眠ると、大和は恵真をソファに促した。
「はい、ミルクティー。今日も一日お疲れ様」
「ありがとう。大和さんも」
二人で微笑み合い、ゆっくりと紅茶を味わう。
子どもたちが生まれたあとも大切にしている、二人だけの時間。
やがて大和が静かに切り出した。
「恵真、今日はどうだった?」
「とっても楽しかったです。子どもたちも、ようやくファミリーデーを楽しめる年頃になって、成長したなって。あ! そうだ。舞のCAのお仕事体験、こずえちゃんが動画撮ってくれてたの」
そう言うと早速動画を再生し、二人でスマートフォンを覗き込んだ。
「おお、しっかりしてるな、舞」
「ええ。あの子はなんでもそつなくこなすタイプだから。でも……」
うつむいて何かを考え始めた恵真の言葉を、大和は黙って待つ。
「舞、本当はパイロットをやりたかったのかもしれません。翼と大和さんのことをじっと見ていたから。翔一くんに誘われた時も、私が『パイロットやってみる?』って聞いた時も首を振っていたけど、自信がなかったからかもしれません」
「……そう」
「舞は、ちゃんと出来るのにやる前からあれこれ考え過ぎて、躊躇してしまうことがよくありますよね。もっと自信が持てたらいいのに……。来月から小学校で、勉強ややることも増えるから、ちょっと心配なんです」
「そうか」
大和はローテーブルにカップを置くと、恵真の肩を抱き寄せた。
「恵真、ちゃんと舞のことを見ていてくれてありがとう。舞は、確かに慎重な性格だし、何でも身構えずにやってみる翼とは違う。でもそれは舞の個性だ。俺はそのままでいいと思う。ただ、舞自身が変わりたいと思っているなら、支えてやりたい」
「そうですね」
「大人も子どもも、みんな悩みながら少しずつ成長していく。舞も今、成長の節目で悩みを抱えているのかもしれない。だけど恵真がちゃんと見ていてくれて、どんな時も味方でいてくれる。これは舞にとって大きな心の支えだ。きっと大丈夫だと安心すると思うし、舞なら必ず乗り越えられる」
「そうだといいですけど……」
大和は明るく恵真に笑いかけた。
「俺が保証する。なんたって舞は、恵真の子だからな。一見か弱そうでおとなしそうなのに、中身は頑固で男前。どんな状況でも冷静に飛行機を飛ばす、肝の据わったバリバリのパイロットだぞ?」
「ちょっ、大和さん。それ、褒めてるの? からかってるの?」
「最大級に褒めてる。それにこの俺が選んだ、世界でたった一人の奥さんだぞ? 可愛くて優しくて、子どもたちには最高のお母さんで、パイロットとしては誰よりも頼りになる。公私ともに、俺の唯一無二のパートナーだ」
「大和さん……」
「だから舞もきっと大丈夫だ。信じよう、あの子を」
「はい」
目を潤ませて頷く恵真に優しく微笑み、大和はそっと両腕で抱きしめた。
恵真の心に温かさと幸せが広がる。
コツンと大和の肩に頭を預けると、恵真はしみじみと呟いた。
「大和さんも、子どもたちにとって最高のお父さんです。それに、私にとっても……」
「ん? 私にとっても、なに?」
「えっと、だからそれは……」
赤くなる恵真の顔を、大和は、ん?と覗き込む。
「大和さん、おもしろがってるでしょ?」
「いいや? 真面目に聞いている」
「嘘だもん」
「ほんとだって。俺は恵真にとって何だろうな。空気みたいな単なる同居人?」
「まさか、そんな訳ないです。大和さんは私の大好きな人。大和さんがいてくれるから、どんな時も私は幸せでいられるの。あなたは世界でたった一人の、私が心から愛する人です」
「恵真……」
たまらず大和は、恵真をもう一度ギュッと胸に抱きしめる。
「俺もだよ。恵真が俺の人生の全てだ。俺の喜びも幸せも、全部恵真と共にある。ありがとう、恵真。これからもずっとそばにいてほしい」
「はい。私も、この先もずっと大和さんと一緒にいたい。どんな時もそばにいさせてください、大和さん」
「ああ。いつまでも一緒だ、恵真」
大和の大きな手が恵真の頬を包む。
見つめ合うと、どちらからともなく顔を寄せ、愛を込めてキスをした。
14
あなたにおすすめの小説
桜のティアラ〜はじまりの六日間〜
葉月 まい
恋愛
ー大好きな人とは、住む世界が違うー
たとえ好きになっても
気持ちを打ち明けるわけにはいかない
それは相手を想うからこそ…
純粋な二人の恋物語
永遠に続く六日間が、今、はじまる…
Short stories
美希みなみ
恋愛
「咲き誇る花のように恋したい」幼馴染の光輝の事がずっと好きな麻衣だったが、光輝は麻衣の妹の結衣と付き合っている。その事実に、麻衣はいつも笑顔で自分の思いを封じ込めてきたけど……?
切なくて、泣ける短編です。
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
Good day !
葉月 まい
恋愛
『Good day !』シリーズ Vol.1
人一倍真面目で努力家のコーパイと
イケメンのエリートキャプテン
そんな二人の
恋と仕事と、飛行機の物語…
꙳⋆ ˖𓂃܀✈* 登場人物 *☆܀𓂃˖ ⋆꙳
日本ウイング航空(Japan Wing Airline)
副操縦士
藤崎 恵真(27歳) Fujisaki Ema
機長
佐倉 大和(35歳) Sakura Yamato
二度目の初恋は、穏やかな伯爵と
柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。
冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。
恋色メール 元婚約者がなぜか追いかけてきました
國樹田 樹
恋愛
婚約者と別れ、支店へと異動願いを出した千尋。
しかし三か月が経った今、本社から応援として出向してきたのは―――別れたはずの、婚約者だった。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
それぞれの愛のカタチ
ひとみん
恋愛
妹はいつも人のものを欲しがった。
姉が持つものは、何が何でも欲しかった。
姉からまんまと奪ったと思っていた、その人は・・・
大切なものを守るために策を巡らせる姉と、簡単な罠に自ら嵌っていくバカな妹のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる