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フルムーンフライト
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子どもたちの受験が終わってホッとしたのも束の間、いよいよ3月1日がやって来た。
恵真と大和にとって大切な日。
そう、フルムーンフライトの日だった。
こんなにも感慨深くなるフライトはない。
訓練生時代にお世話になった教官、パイロットになってからずっと見守ってくれた部長。
そして両親と子どもたち。
自分にとって、かけがえのない大切な人たちを乗せて飛ぶのだ。
そしてコックピットで一緒に操縦するのは、生涯ただ一人の最愛の人。
恵真は、まるで自分の人生をまるごとこのフライトに閉じ込めたようにさえ感じていた。
「ああもう、やっとこの日が来ましたね」
空港で合流した大和と恵真の両親は、互いに感激の面持ちで手を取り合う。
「どんなにこの日を心待ちにしていたか」
「私もです。お父さんと、何がなんでも元気でいないとって」
「そうですよね。こうやって全員無事にこの日を迎えられて、本当によかった」
母親たちの隣で、早くも父親二人は目を潤ませる。
「もう何も思い残すことはありません。感無量です」
「ええ。最高の人生でした」
すると舞と翼が苦笑いする。
「おじいちゃんたち、飛ぶ前から何言ってるの?」
「そうだよ。今からそんなんじゃ、飛んだらどうなるんだ?」
「それにまだまだこれからも、元気でいてもらわなきゃ」
「うん。俺と舞が飛ぶ日までね」
両親たちは、顔を覆って涙ぐむ。
「翼と舞が飛ばす飛行機に乗れるのか? そんな夢みたいな日が……」
「必ず実現してみせるから。みんなで乗ってね」
ううっ、と泣き崩れそうな父親たちに、恵真と大和は言いにくそうに切り出した。
「えーっと、それじゃあ、私たちはこれで」
「またあとでな。翼、舞」
両親たちは二人に任せて、Show Upに向かうことにした。
「はーい!こっちのことは任せて。ちゃんと乗り遅れないように連れて行くから」
「お父さん、お母さん、フライト楽しみにしてる。Good day! 」
翼がそう言い、4人で「Good day! 」と笑い合って別れた。
◇
ターミナルビルを横切り、関係者入り口のドアで暗証番号を入力しようとした時だった。
「佐倉くん、藤崎くん」
ふいに呼ばれて二人は振り返る。
「谷口教官!」
白髪混じりで笑顔を浮かべて立っていたのは、航空大学校の帯広フライト課程でお世話になった谷口教官だった。
当時は常に厳しい表情だったが、今はとにかく嬉しそうに破顔している。
「お久しぶりです。すっかりご無沙汰してしまい……。お元気でしたか?」
「ああ、なんとかね。君たちの活躍は、いつも風のたよりに聞いていたよ。二人とも立派なキャプテンになったな」
「ありがとうございます。谷口教官を初め、色んな方のおかげです」
「航大時代から、佐倉くんも藤崎くんも優秀だと思っていたけど、まさかその二人が結婚するとはなあ。しかも双子のお子さんたち、航大に合格したんだって? 現役の教官たちが、ざわついてたよ」
ざわつく……?と、恵真も大和も苦笑いの表情になる。
「今日のフライトを、心から楽しみにしていたんだ。ぜひとも、ベストフライトを頼むよ?」
「は、はい」
「ははっ! 二人ともその顔、学生時代を思い出すよ」
「谷口教官に評価していただく時は、いつも緊張していましたから」
「じゃあ今日も厳しくチェックしよう。なんて、冗談だよ。それじゃあ、行ってらっしゃい」
そう言って谷口教官は、かつてのキリッとした顔つきで親指を立ててみせた。
「行ってきます」
大和と恵真もパイロットの顔になり、サムアップで応えた。
◇
「お疲れ様です。186便の佐倉です」
オフィスに出社すると、「あっ、来た!」と一斉に色んな人たちが近づいてきた。
「佐倉キャプテン、恵真キャプテン、ついにこの日が来ましたね! はい、まずは記念写真を」
そう言って川原が、すかさずパシャッと写真を撮る。
「部長もいらしてるんですよ。部長ー! 佐倉さんご夫妻、ショーアップされましたよー」
総務課の佐野がオフィスの奥に声をかけると、今は退職したかつての部長が現れた。
「おおー、佐倉くん、藤崎くん。相変わらず元気そうだね」
「はい、部長もお変わりなく。今日はお越しくださってありがとうございます」
「いやいや、私こそ。二人には本当に感謝している。JWAの看板パイロットの座を押し付けて、ハネムーンフライトやフライトデビュー、更にはフルムーンフライトまで企画してしまってね。私のわがままな夢を叶えてくれて、本当にありがとう」
「こちらこそ。とてもありがたい機会をいただいて、感謝しています。今日もベストを尽くします」
「ああ、頼んだよ。二人のフライトを、私も噛みしめながら飛ばせてもらうよ」
「はい。それでは後ほど、シップでお待ちしております」
一旦部長と別れて、二人でブリーフィングエリアに向かった。
「おっ、来た来た! 熟年フライトのお二人」
「あはは! 野中さん、二人に怒られますよ?」
「お前だって笑ってるじゃないか」
いつもの調子で野中と伊沢が近づいてきた。
「よっ、お二人さん。ホノルル楽しんできてくれ。土産、楽しみにしてる」
「俺も。あと、APUアウトにならないことをお祈りします」
大和は、やれやれと苦笑いする。
「伊沢。APUアウトくらいで、俺と恵真が怯むとでも思うのか?」
「うわっ、出た。最強キャプテン夫婦のドヤ顔」
「何を言う、これくらい当たり前だ」
今度は恵真が、やれやれとため息をついた。
「そろそろブリーフィング始めましょう。遅れたら大変です」
「そうだな。じゃあ野中さんも伊沢も、土産ばなしを楽しみにしててください」
話はいいから、マカデミアナッツをー!という野中の声を背中に聞きながら、ようやく二人はブリーフィングを始めた。
◇
シップに移動すると川原も一緒にやって来て、コックピットでの恵真と大和の写真を撮る。
「このフルムーンフライトも、予約開始後あっという間に満席になりましたからね。たくさんのお客様が楽しみにされていましたし、SNSで見守ってくださる方もいらっしゃいます。まさにJWAの期待の星! 早速SNSを盛り上げておきますね」
「川原さん……。プレッシャーがハンパないです」
「何をおっしゃいますやら。お二人なら何も心配いりません。JWAが誇る無敵の夫婦キャプテン! って記事に書いていいですか?」
「ダメです!」
恵真は必死で首を振る。
「せめて『めおと操縦士』で」
すると大和が吹き出した。
「恵真、いくらフルムーンフライトだからって、渋すぎるだろ。ほら、CAさんとのブリーフィング行くぞ」
「あ、はい」
川原に「行ってらっしゃーい」と見送られて、二人でキャビンに向かった。
◇
ブリーフィングを終え、出発の準備が全て整うと、管制官にプッシュバックの許可をもらう。
「今日はAPUもご機嫌だな」
「ええ、よかったです」
プッシュバック中にスムーズにエンジンをスタートさせた。
夜の滑走路に誘導灯が美しく浮かび上がる。
「よし、行こう」
「はい」
久しぶりの二人でのフライト。
だが見事に息の合ったコンビネーションで、無事に飛行機は離陸する。
「JW 186. Contact Departure. Good day!」
「Contact Departure, JW 186. Good day!」
宝石箱のように眼下にきらめく東京の夜景が、みるみるうちに遠ざかっていく。
その美しさに見とれながら高度を上げ、やがて巡航に入った。
「さてと。PAどっちが入れる?」
「それはもう、当然キャプテンにお願いします」
「恵真もキャプテンじゃない」
うぐっ……と恵真は言葉に詰まる。
「今の私はFOデューティーなので」
「じゃあFOとしてしゃべれば?」
「無理です! だって、部長と谷口教官にも聞かれちゃうんですよ?」
つい本音をもらしてしまった。
「あ、気づいてたか。さり気なく恵真に頼もうと思ったんだけどなあ。うーん、仕方ない。じゃあ、往路は俺が入れるか」
「はい! よろしくお願いします。I have control.」
「そんなきっぱり言わなくても……。You have.」
大和は少し考えを巡らせてから、マイクのスイッチを入れた。
◇
「ご搭乗の皆様に、コックピットよりご案内申し上げます。
本日はJWA186便 羽田発ホノルル行きフルムーンフライトにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。
機長の佐倉 大和と、同じく機長の佐倉 恵真が、皆様を安全にホノルルまでお送りいたします。
21年前のハネムーンフライト、17年前のフライトデビューに続き、今回のフルムーンフライトが締めくくりとなります。
振り返ってみますと、様々ことがありました。
皆様の人生においても、きっとたくさんの喜怒哀楽があったことでしょう。
それでも、どんな時も変わりなく、我々の見上げる先にはいつも空が広がっています。
悲しみに暮れた雨も、心に吹き荒れた風も、必ず再び青空へと変わり、暖かい夕陽が癒やしてくれます。
飛行機はそんな大空へと飛び立ち、いつも私に勇気を与えてくれます。
どうか皆様も、悩んだ時は空を見上げてみてください。
高く大きく広がる空へと果敢に羽ばたいていく飛行機を、どうぞ探してみてください。
きっと世界はこんなにも輝き、希望に満ちていると感じられることでしょう。
皆様の日々に幸せが溢れますことを、コックピットよりお祈りいたします。
それでは皆様、この先もごゆっくり空の旅をお楽しみください。
We hope you enjoy the flight with us.
Thank you.
Have a good day !」
◇
大和のアナウンスを聞きながら、恵真の胸にも懐かしい日々が思い出された。
大変な時もあった。
不安に襲われたこともあった。
けれど、どんな時もそばには大和がいてくれた。
大きな腕に守られ、温かい胸に安心した。
(この先もきっと大丈夫。たとえ何があっても、大和さんがそばにいてくれる限り、私は必ず乗り越えられる)
これからも、辛い時は空を見上げよう。
大空へと飛び立つ飛行機に、勇気をもらおう。
やがて夜明けの瞬間がやって来ると、大和は腕を伸ばして恵真の手を握った。
言葉もなく二人で見つめる、美しい空のグラデーション。
奇跡のような瞬間に、愛する人と共にいられる幸せ。
大切な人を乗せて飛べる喜び。
このフライトも、恵真と大和にとって忘れられない大切な宝物になった。
◇
無事にホノルルに到着し、クルーのバスに向かっていると、空港ビルの出口で部長と谷口教官が談笑しているのが見えた。
二人は大和と恵真に気づいて、手を挙げる。
「佐倉くん、藤崎くん、お疲れ様。ナイスフライトだったよ」
「さすがだな。思い出したよ、佐倉くんのスムーズなランディング。折り返し便は藤崎くんがPFやるんだろう? 楽しみにしてるよ」
谷口教官の言葉に、恵真は「いえ、あの、そういう訳では……」とたじろいだ。
「せっかくだから、藤崎くんのランディングも思い出したいなあ。まあ、無理にとは言わないけどね。気にしないでくれ」
「いえ、あの、気にします」
「はは! じゃあ、よろしく頼むよ」
「はい、謹んで」
ホノルルステイ楽しんで、と見送られ、恵真と大和はバスに乗り込んだ。
◇
「お父さん、お母さん、お疲れ様!」
ホテルの部屋に着くと、翼と舞が笑顔で迎えてくれる。
「ありがとう。二人ともどうだった? フライト」
「うん、すごく快適だった。それでね、見て見て! これが搭乗証明書!」
舞が嬉しそうにブルーの台紙を広げて見せた。
………………………………………………
『JWA フルムーンフライト搭乗証明書』
20☓☓年3月1日
日本ウイング航空 186便
羽田発ーホノルル行き
あなたがこのフライトで 人生の新たな節目を迎えられました事をここに証します
日本ウイング航空
機長 佐倉 大和
機長 佐倉 恵真
………………………………………………
名前の横には、それぞれ大和と恵真のサインがプリントされている。
「えっ、これ、舞と翼ももらったの? まだ若いのに」
「あはは! 確かにフルムーンじゃないわよね。でもとってもいい記念。大切にするね」
舞は笑顔で証明書を胸に抱えた。
「なんか俺さ、ただ飛行機を飛ばすだけじゃなくて、ちゃんと思い出になる、心に残るフライトを目指したいって思った」
しみじみと翼がそう言い、大和も恵真も驚く。
「うん、私も。お父さんとお母さんのフライトって、二人にしか出来ないオンリーワンのフライトって気がした。お父さんのアナウンスが聞こえてきた時、客室の雰囲気もそんな感じだったよね。とっても素敵な時間をみんなで過ごしてる気がした」
「ああ。俺たちもいつかそんなふうに飛行機を飛ばそう、舞」
「うん!」
頷き合う二人は、恵真と大和の目にキラキラと眩しく映る。
(翼と舞の未来は、こんなにも輝かしい)
そう思い、恵真も大和と頷き合った。
◇
「あ、お父さん、お母さん。まだ着替えちゃダメよ。おじいちゃんが、制服姿でみんなも一緒に写真撮ろうって言ってたから」
「ああ、なるほど……」
またいつものように、父親同士で盛り上がり、感激している姿が目に浮かぶ。
「じゃあ、みんなで行きますか」
「うん!」
大和の両親の部屋に集合して、バルコニー越しの海をバックにみんなで写真を撮った。
「おおー! なんていい写真なんだ。私の人生の集大成がここに……。ううっ」
「また始まったわ」
涙ぐむ父親たちに、母親二人は呆れてため息をつく。
夕食まではそれぞれ部屋でゆっくり休むことにした。
「私、早速その辺りをぶらぶらしてくる」
「舞、一人だと危ないだろ。俺も行く」
そう言って翼と舞は部屋を出て行った。
◇
「またこの景色を見られるなんて」
ワンピースに着替えた恵真は、大和と並んでバルコニーから海を眺める。
「夢みたいなことが、私の人生にたくさん」
ふふっと笑う恵真を優しく見つめてから、大和はそっと肩を抱き寄せた。
「恵真がいてくれるからだ。俺の人生は、恵真のおかげでこんなにも豊かになった」
「私もです。パイロットを目指したのが全ての始まり。あなたと出会えて、翼と舞を授かって……。思い描いていた夢よりも、もっともっと幸せになれました。ありがとう、大和さん」
「俺もだよ。パイロットになることしか頭になかった俺に、恵真は幸せを教えてくれた。翼と舞を生んでくれて、愛情いっぱいに育ててくれた。俺をこんなにも幸せにしてくれてありがとう、恵真」
照れたように優しい微笑みを浮かべる恵真は、誰よりも美しく愛おしい。
大和は、胸がジンとしびれるほどの幸せを感じながら、愛を込めて恵真にキスをした。
◇
「きゃー、可愛いイルカ!」
翌日からレンタカーを借りて観光に出かけると、シーライフ パークで舞はイルカに目を輝かせた。
「決めた! うちにあるイルカのぬいぐるみ、宮崎に持って行こうっと」
「えー、舞。子どもかよ?」
翼が呆れたように言う。
「なんとでも言って。イルカちゃんがいれば、訓練がんばれるもーん。あ、Tシャツも買おう! 翔くんと美羽ちゃんのもお土産に買って、4人でお揃いにしようよ」
「おい、なんで俺も買う前提なんだ?」
「買うでしょ?」
「買わないよ!」
そう言いつつ、翼は結局色違いのTシャツを購入していた。
「ふふっ、楽しみだねー、宮崎」
「そんなこと言ってられるのも、今だけだと思うぞ?」
「じゃあ今のうちに散々言っておこうっと」
二人の会話を、恵真と大和は微笑ましく見守った。
翼も舞も臆することなく、英語でペラペラとショップのスタッフとやり取りする。
そんな二人の姿が頼もしく、同時に少し寂しくもあった。
◇
「明日帰国か、早いなあ」
最後の夜、夕食の席で舞が呟く。
それを聞いて大和の母が口を開いた。
「名残惜しいけど、それ以上にとっても楽しくて幸せだったわ」
「そうね。これ以上望んだらバチが当たっちゃう。神様に感謝しなくちゃ」
恵真の母も感慨深げになる。
「でもどうしてもまだ望んでしまうわ。いつか翼と舞の操縦する飛行機にも乗りたいって」
すると舞が笑顔で身を乗り出した。
「あら、おばあちゃん。私とお兄ちゃんがパイロットになるの、うんと先の話だと思ってる? 案外すぐよ」
「そうだよ。みんなピンピンしてるって」
翼もそう言って笑う。
「俺も舞も、絶対パイロットになってみせるから。またみんなで乗ってよ」
その言葉に、祖父母たちは涙ぐみながら頷いた。
◇
翌日の折り返し便。
「大和さん、谷口教官のことは言わないでくださいね。思い出したら緊張しちゃう」
ブリーフィングしながら、恵真は既に緊張気味だった。
「俺は言ってないけど、恵真が自分でしきりにそう言ってる」
「私、己に言い聞かせてるんです。部長も谷口教官も、別の便で帰国されたって」
「だから、そうすると余計に意識するんだって。大丈夫だよ、恵真なら」
「どうしよう、合格もらえなかったら……」
「いやいや、審査じゃないってば!」
そわそわと落ち着かない恵真だったが、いざコックピットの左席に座り、操縦桿を握ると一気に顔つきを変える。
(やれやれ、やっとスイッチが入った。これでもう安心だな)
右席から恵真を見つめて、大和はクスッと笑みをこぼした。
楽しかったホノルルでの思い出を胸に、恵真と大和はコックピットから空を眺める。
ハネムーンフライト、フライトデビュー、そしてこのフルムーンフライト。
時間を重ね、家族が増え、幸せが広がったこの21年間。
まるで今日は、自分たちにとっての卒業式。そんなふうに感じて、二人は心静かに窓の外の美しい景色を見つめていた。
恵真と大和にとって大切な日。
そう、フルムーンフライトの日だった。
こんなにも感慨深くなるフライトはない。
訓練生時代にお世話になった教官、パイロットになってからずっと見守ってくれた部長。
そして両親と子どもたち。
自分にとって、かけがえのない大切な人たちを乗せて飛ぶのだ。
そしてコックピットで一緒に操縦するのは、生涯ただ一人の最愛の人。
恵真は、まるで自分の人生をまるごとこのフライトに閉じ込めたようにさえ感じていた。
「ああもう、やっとこの日が来ましたね」
空港で合流した大和と恵真の両親は、互いに感激の面持ちで手を取り合う。
「どんなにこの日を心待ちにしていたか」
「私もです。お父さんと、何がなんでも元気でいないとって」
「そうですよね。こうやって全員無事にこの日を迎えられて、本当によかった」
母親たちの隣で、早くも父親二人は目を潤ませる。
「もう何も思い残すことはありません。感無量です」
「ええ。最高の人生でした」
すると舞と翼が苦笑いする。
「おじいちゃんたち、飛ぶ前から何言ってるの?」
「そうだよ。今からそんなんじゃ、飛んだらどうなるんだ?」
「それにまだまだこれからも、元気でいてもらわなきゃ」
「うん。俺と舞が飛ぶ日までね」
両親たちは、顔を覆って涙ぐむ。
「翼と舞が飛ばす飛行機に乗れるのか? そんな夢みたいな日が……」
「必ず実現してみせるから。みんなで乗ってね」
ううっ、と泣き崩れそうな父親たちに、恵真と大和は言いにくそうに切り出した。
「えーっと、それじゃあ、私たちはこれで」
「またあとでな。翼、舞」
両親たちは二人に任せて、Show Upに向かうことにした。
「はーい!こっちのことは任せて。ちゃんと乗り遅れないように連れて行くから」
「お父さん、お母さん、フライト楽しみにしてる。Good day! 」
翼がそう言い、4人で「Good day! 」と笑い合って別れた。
◇
ターミナルビルを横切り、関係者入り口のドアで暗証番号を入力しようとした時だった。
「佐倉くん、藤崎くん」
ふいに呼ばれて二人は振り返る。
「谷口教官!」
白髪混じりで笑顔を浮かべて立っていたのは、航空大学校の帯広フライト課程でお世話になった谷口教官だった。
当時は常に厳しい表情だったが、今はとにかく嬉しそうに破顔している。
「お久しぶりです。すっかりご無沙汰してしまい……。お元気でしたか?」
「ああ、なんとかね。君たちの活躍は、いつも風のたよりに聞いていたよ。二人とも立派なキャプテンになったな」
「ありがとうございます。谷口教官を初め、色んな方のおかげです」
「航大時代から、佐倉くんも藤崎くんも優秀だと思っていたけど、まさかその二人が結婚するとはなあ。しかも双子のお子さんたち、航大に合格したんだって? 現役の教官たちが、ざわついてたよ」
ざわつく……?と、恵真も大和も苦笑いの表情になる。
「今日のフライトを、心から楽しみにしていたんだ。ぜひとも、ベストフライトを頼むよ?」
「は、はい」
「ははっ! 二人ともその顔、学生時代を思い出すよ」
「谷口教官に評価していただく時は、いつも緊張していましたから」
「じゃあ今日も厳しくチェックしよう。なんて、冗談だよ。それじゃあ、行ってらっしゃい」
そう言って谷口教官は、かつてのキリッとした顔つきで親指を立ててみせた。
「行ってきます」
大和と恵真もパイロットの顔になり、サムアップで応えた。
◇
「お疲れ様です。186便の佐倉です」
オフィスに出社すると、「あっ、来た!」と一斉に色んな人たちが近づいてきた。
「佐倉キャプテン、恵真キャプテン、ついにこの日が来ましたね! はい、まずは記念写真を」
そう言って川原が、すかさずパシャッと写真を撮る。
「部長もいらしてるんですよ。部長ー! 佐倉さんご夫妻、ショーアップされましたよー」
総務課の佐野がオフィスの奥に声をかけると、今は退職したかつての部長が現れた。
「おおー、佐倉くん、藤崎くん。相変わらず元気そうだね」
「はい、部長もお変わりなく。今日はお越しくださってありがとうございます」
「いやいや、私こそ。二人には本当に感謝している。JWAの看板パイロットの座を押し付けて、ハネムーンフライトやフライトデビュー、更にはフルムーンフライトまで企画してしまってね。私のわがままな夢を叶えてくれて、本当にありがとう」
「こちらこそ。とてもありがたい機会をいただいて、感謝しています。今日もベストを尽くします」
「ああ、頼んだよ。二人のフライトを、私も噛みしめながら飛ばせてもらうよ」
「はい。それでは後ほど、シップでお待ちしております」
一旦部長と別れて、二人でブリーフィングエリアに向かった。
「おっ、来た来た! 熟年フライトのお二人」
「あはは! 野中さん、二人に怒られますよ?」
「お前だって笑ってるじゃないか」
いつもの調子で野中と伊沢が近づいてきた。
「よっ、お二人さん。ホノルル楽しんできてくれ。土産、楽しみにしてる」
「俺も。あと、APUアウトにならないことをお祈りします」
大和は、やれやれと苦笑いする。
「伊沢。APUアウトくらいで、俺と恵真が怯むとでも思うのか?」
「うわっ、出た。最強キャプテン夫婦のドヤ顔」
「何を言う、これくらい当たり前だ」
今度は恵真が、やれやれとため息をついた。
「そろそろブリーフィング始めましょう。遅れたら大変です」
「そうだな。じゃあ野中さんも伊沢も、土産ばなしを楽しみにしててください」
話はいいから、マカデミアナッツをー!という野中の声を背中に聞きながら、ようやく二人はブリーフィングを始めた。
◇
シップに移動すると川原も一緒にやって来て、コックピットでの恵真と大和の写真を撮る。
「このフルムーンフライトも、予約開始後あっという間に満席になりましたからね。たくさんのお客様が楽しみにされていましたし、SNSで見守ってくださる方もいらっしゃいます。まさにJWAの期待の星! 早速SNSを盛り上げておきますね」
「川原さん……。プレッシャーがハンパないです」
「何をおっしゃいますやら。お二人なら何も心配いりません。JWAが誇る無敵の夫婦キャプテン! って記事に書いていいですか?」
「ダメです!」
恵真は必死で首を振る。
「せめて『めおと操縦士』で」
すると大和が吹き出した。
「恵真、いくらフルムーンフライトだからって、渋すぎるだろ。ほら、CAさんとのブリーフィング行くぞ」
「あ、はい」
川原に「行ってらっしゃーい」と見送られて、二人でキャビンに向かった。
◇
ブリーフィングを終え、出発の準備が全て整うと、管制官にプッシュバックの許可をもらう。
「今日はAPUもご機嫌だな」
「ええ、よかったです」
プッシュバック中にスムーズにエンジンをスタートさせた。
夜の滑走路に誘導灯が美しく浮かび上がる。
「よし、行こう」
「はい」
久しぶりの二人でのフライト。
だが見事に息の合ったコンビネーションで、無事に飛行機は離陸する。
「JW 186. Contact Departure. Good day!」
「Contact Departure, JW 186. Good day!」
宝石箱のように眼下にきらめく東京の夜景が、みるみるうちに遠ざかっていく。
その美しさに見とれながら高度を上げ、やがて巡航に入った。
「さてと。PAどっちが入れる?」
「それはもう、当然キャプテンにお願いします」
「恵真もキャプテンじゃない」
うぐっ……と恵真は言葉に詰まる。
「今の私はFOデューティーなので」
「じゃあFOとしてしゃべれば?」
「無理です! だって、部長と谷口教官にも聞かれちゃうんですよ?」
つい本音をもらしてしまった。
「あ、気づいてたか。さり気なく恵真に頼もうと思ったんだけどなあ。うーん、仕方ない。じゃあ、往路は俺が入れるか」
「はい! よろしくお願いします。I have control.」
「そんなきっぱり言わなくても……。You have.」
大和は少し考えを巡らせてから、マイクのスイッチを入れた。
◇
「ご搭乗の皆様に、コックピットよりご案内申し上げます。
本日はJWA186便 羽田発ホノルル行きフルムーンフライトにご搭乗いただき、誠にありがとうございます。
機長の佐倉 大和と、同じく機長の佐倉 恵真が、皆様を安全にホノルルまでお送りいたします。
21年前のハネムーンフライト、17年前のフライトデビューに続き、今回のフルムーンフライトが締めくくりとなります。
振り返ってみますと、様々ことがありました。
皆様の人生においても、きっとたくさんの喜怒哀楽があったことでしょう。
それでも、どんな時も変わりなく、我々の見上げる先にはいつも空が広がっています。
悲しみに暮れた雨も、心に吹き荒れた風も、必ず再び青空へと変わり、暖かい夕陽が癒やしてくれます。
飛行機はそんな大空へと飛び立ち、いつも私に勇気を与えてくれます。
どうか皆様も、悩んだ時は空を見上げてみてください。
高く大きく広がる空へと果敢に羽ばたいていく飛行機を、どうぞ探してみてください。
きっと世界はこんなにも輝き、希望に満ちていると感じられることでしょう。
皆様の日々に幸せが溢れますことを、コックピットよりお祈りいたします。
それでは皆様、この先もごゆっくり空の旅をお楽しみください。
We hope you enjoy the flight with us.
Thank you.
Have a good day !」
◇
大和のアナウンスを聞きながら、恵真の胸にも懐かしい日々が思い出された。
大変な時もあった。
不安に襲われたこともあった。
けれど、どんな時もそばには大和がいてくれた。
大きな腕に守られ、温かい胸に安心した。
(この先もきっと大丈夫。たとえ何があっても、大和さんがそばにいてくれる限り、私は必ず乗り越えられる)
これからも、辛い時は空を見上げよう。
大空へと飛び立つ飛行機に、勇気をもらおう。
やがて夜明けの瞬間がやって来ると、大和は腕を伸ばして恵真の手を握った。
言葉もなく二人で見つめる、美しい空のグラデーション。
奇跡のような瞬間に、愛する人と共にいられる幸せ。
大切な人を乗せて飛べる喜び。
このフライトも、恵真と大和にとって忘れられない大切な宝物になった。
◇
無事にホノルルに到着し、クルーのバスに向かっていると、空港ビルの出口で部長と谷口教官が談笑しているのが見えた。
二人は大和と恵真に気づいて、手を挙げる。
「佐倉くん、藤崎くん、お疲れ様。ナイスフライトだったよ」
「さすがだな。思い出したよ、佐倉くんのスムーズなランディング。折り返し便は藤崎くんがPFやるんだろう? 楽しみにしてるよ」
谷口教官の言葉に、恵真は「いえ、あの、そういう訳では……」とたじろいだ。
「せっかくだから、藤崎くんのランディングも思い出したいなあ。まあ、無理にとは言わないけどね。気にしないでくれ」
「いえ、あの、気にします」
「はは! じゃあ、よろしく頼むよ」
「はい、謹んで」
ホノルルステイ楽しんで、と見送られ、恵真と大和はバスに乗り込んだ。
◇
「お父さん、お母さん、お疲れ様!」
ホテルの部屋に着くと、翼と舞が笑顔で迎えてくれる。
「ありがとう。二人ともどうだった? フライト」
「うん、すごく快適だった。それでね、見て見て! これが搭乗証明書!」
舞が嬉しそうにブルーの台紙を広げて見せた。
………………………………………………
『JWA フルムーンフライト搭乗証明書』
20☓☓年3月1日
日本ウイング航空 186便
羽田発ーホノルル行き
あなたがこのフライトで 人生の新たな節目を迎えられました事をここに証します
日本ウイング航空
機長 佐倉 大和
機長 佐倉 恵真
………………………………………………
名前の横には、それぞれ大和と恵真のサインがプリントされている。
「えっ、これ、舞と翼ももらったの? まだ若いのに」
「あはは! 確かにフルムーンじゃないわよね。でもとってもいい記念。大切にするね」
舞は笑顔で証明書を胸に抱えた。
「なんか俺さ、ただ飛行機を飛ばすだけじゃなくて、ちゃんと思い出になる、心に残るフライトを目指したいって思った」
しみじみと翼がそう言い、大和も恵真も驚く。
「うん、私も。お父さんとお母さんのフライトって、二人にしか出来ないオンリーワンのフライトって気がした。お父さんのアナウンスが聞こえてきた時、客室の雰囲気もそんな感じだったよね。とっても素敵な時間をみんなで過ごしてる気がした」
「ああ。俺たちもいつかそんなふうに飛行機を飛ばそう、舞」
「うん!」
頷き合う二人は、恵真と大和の目にキラキラと眩しく映る。
(翼と舞の未来は、こんなにも輝かしい)
そう思い、恵真も大和と頷き合った。
◇
「あ、お父さん、お母さん。まだ着替えちゃダメよ。おじいちゃんが、制服姿でみんなも一緒に写真撮ろうって言ってたから」
「ああ、なるほど……」
またいつものように、父親同士で盛り上がり、感激している姿が目に浮かぶ。
「じゃあ、みんなで行きますか」
「うん!」
大和の両親の部屋に集合して、バルコニー越しの海をバックにみんなで写真を撮った。
「おおー! なんていい写真なんだ。私の人生の集大成がここに……。ううっ」
「また始まったわ」
涙ぐむ父親たちに、母親二人は呆れてため息をつく。
夕食まではそれぞれ部屋でゆっくり休むことにした。
「私、早速その辺りをぶらぶらしてくる」
「舞、一人だと危ないだろ。俺も行く」
そう言って翼と舞は部屋を出て行った。
◇
「またこの景色を見られるなんて」
ワンピースに着替えた恵真は、大和と並んでバルコニーから海を眺める。
「夢みたいなことが、私の人生にたくさん」
ふふっと笑う恵真を優しく見つめてから、大和はそっと肩を抱き寄せた。
「恵真がいてくれるからだ。俺の人生は、恵真のおかげでこんなにも豊かになった」
「私もです。パイロットを目指したのが全ての始まり。あなたと出会えて、翼と舞を授かって……。思い描いていた夢よりも、もっともっと幸せになれました。ありがとう、大和さん」
「俺もだよ。パイロットになることしか頭になかった俺に、恵真は幸せを教えてくれた。翼と舞を生んでくれて、愛情いっぱいに育ててくれた。俺をこんなにも幸せにしてくれてありがとう、恵真」
照れたように優しい微笑みを浮かべる恵真は、誰よりも美しく愛おしい。
大和は、胸がジンとしびれるほどの幸せを感じながら、愛を込めて恵真にキスをした。
◇
「きゃー、可愛いイルカ!」
翌日からレンタカーを借りて観光に出かけると、シーライフ パークで舞はイルカに目を輝かせた。
「決めた! うちにあるイルカのぬいぐるみ、宮崎に持って行こうっと」
「えー、舞。子どもかよ?」
翼が呆れたように言う。
「なんとでも言って。イルカちゃんがいれば、訓練がんばれるもーん。あ、Tシャツも買おう! 翔くんと美羽ちゃんのもお土産に買って、4人でお揃いにしようよ」
「おい、なんで俺も買う前提なんだ?」
「買うでしょ?」
「買わないよ!」
そう言いつつ、翼は結局色違いのTシャツを購入していた。
「ふふっ、楽しみだねー、宮崎」
「そんなこと言ってられるのも、今だけだと思うぞ?」
「じゃあ今のうちに散々言っておこうっと」
二人の会話を、恵真と大和は微笑ましく見守った。
翼も舞も臆することなく、英語でペラペラとショップのスタッフとやり取りする。
そんな二人の姿が頼もしく、同時に少し寂しくもあった。
◇
「明日帰国か、早いなあ」
最後の夜、夕食の席で舞が呟く。
それを聞いて大和の母が口を開いた。
「名残惜しいけど、それ以上にとっても楽しくて幸せだったわ」
「そうね。これ以上望んだらバチが当たっちゃう。神様に感謝しなくちゃ」
恵真の母も感慨深げになる。
「でもどうしてもまだ望んでしまうわ。いつか翼と舞の操縦する飛行機にも乗りたいって」
すると舞が笑顔で身を乗り出した。
「あら、おばあちゃん。私とお兄ちゃんがパイロットになるの、うんと先の話だと思ってる? 案外すぐよ」
「そうだよ。みんなピンピンしてるって」
翼もそう言って笑う。
「俺も舞も、絶対パイロットになってみせるから。またみんなで乗ってよ」
その言葉に、祖父母たちは涙ぐみながら頷いた。
◇
翌日の折り返し便。
「大和さん、谷口教官のことは言わないでくださいね。思い出したら緊張しちゃう」
ブリーフィングしながら、恵真は既に緊張気味だった。
「俺は言ってないけど、恵真が自分でしきりにそう言ってる」
「私、己に言い聞かせてるんです。部長も谷口教官も、別の便で帰国されたって」
「だから、そうすると余計に意識するんだって。大丈夫だよ、恵真なら」
「どうしよう、合格もらえなかったら……」
「いやいや、審査じゃないってば!」
そわそわと落ち着かない恵真だったが、いざコックピットの左席に座り、操縦桿を握ると一気に顔つきを変える。
(やれやれ、やっとスイッチが入った。これでもう安心だな)
右席から恵真を見つめて、大和はクスッと笑みをこぼした。
楽しかったホノルルでの思い出を胸に、恵真と大和はコックピットから空を眺める。
ハネムーンフライト、フライトデビュー、そしてこのフルムーンフライト。
時間を重ね、家族が増え、幸せが広がったこの21年間。
まるで今日は、自分たちにとっての卒業式。そんなふうに感じて、二人は心静かに窓の外の美しい景色を見つめていた。
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