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一月十日
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次の日も、気持ちの良い朝だった。
冬ゆえに朝日はそこまで明るくないが、美桜と絵梨は良い日になるに違いないと確信して、いそいそと準備をした。
メアリーに今日は動きやすいカジュアルな服装で、と言われ、何だろうね?と言いながら、二人はいつものジーンズにした。
待ち合わせの時間にエントランスに行くと、仁がメイソンと立ち話をしている。
「仁くん、メイソン、おはよう」
「おはようございます。えりさま、みおさま」
「お!お嬢様方のお揃いだ。じゃあ行こうか」
外に出ると、まず絵梨が驚きの声を上げた。
「ひゃー、何これ?馬車に見えるんだけど!」
「いや、実際馬車だし。ははっ」
仁は軽く笑いながら、さっさと乗り込む。
(昨日の馬車とはちょっと違うみたい)
美桜はじっくり見てみた。
まず昨日ほど高さはなく、車のようにすんなり乗れる低さだ。
それに四人乗りなのか、中も広くなっている。
「美桜、すごいねー。この馬車、ほんとに動くのかしら?」
「あはは、絵梨ちゃんたら。遊園地の乗り物じゃないんだから」
「わっ!動いた。すごーい」
ゆっくり動き出した馬車の窓から、行ってきまーすと二人で見送りのメアリーに手を振る。
馬車はフォレストガーデンの門を、昨日とは違って右へと曲がった。
相変わらず景色はのどかな田園風景だ。
けれど絵梨とおしゃべりしながらだと、なんでもないことが楽しくなる。
ずいぶん経ってから美桜が呟いた。
「あれ?そういえばアレンは?」
「ほんとだ。どこにいるの?」
「やれやれ、お二人さん。今頃気付いたのかい?」
半ばあきれ顔で、仁が両手を広げて見せた。
「現地集合ってやつ。あ、ほら着いたよ」
え?と慌てて二人は窓の外を見る。
「ここって、牧場?」
広大な緑のあちこちで、羊や牛がのんびり草を食べているのが見える。
三人を乗せた馬車はゆっくりとスピードを落として右に曲がると、丸太で作られたコテージの前で止まった。
まずは仁が馬車を降りる。
「よーう!トムじいさん。元気だった?」
出迎えてくれたのは、白髪で目が細い、優しそうなおじいさんだった。
「ええ。仁坊ちゃまもお元気そうで」
そう言ってから、馬車を降りてきた絵梨と美桜を見る。
「ほー、お嬢様方もご一緒とは珍しいですな」
「こんにちは。初めまして、絵梨です。こっちは美桜」
こんにちは、と美桜も頭を下げる。
「これはこれは。ようこそお越し下さいました。さあ、どうぞ中へ」
「トムじい、今日もあれ、作ってくれる?」
「もちろん、用意してありますとも」
「いやったー!」
仁に、何がやったーなの?と美桜が聞くと、まあすぐに分かるよとはぐらかされた。
コテージの中には大きな木のテーブルがあり、その横はカウンターキッチンになっていた。
「ココアでも淹れましょうかね」
と言ってキッチンに入るトムに、美桜達は、手伝います、と続く。
お湯を注いだカップをスプーンで混ぜてから、絵梨と二人でテーブルに運んだ。
「アレン坊ちゃまもそろそろお呼びしましょうか」
トムがそう言ったのは、皆がココアを半分ほど飲んでしまってからだった。
「あ、ほんとだ。アレンがいなかったね」
「やーれやれ、またかい?お嬢さん方。アレンが泣いちゃうぜ?」
仁がまたもやあきれ声で言い、いや悪気はなかったんだけど、ついうっかり、と二人で言い訳する。
「ま、ではみんなで呼びに行きますか」
立ち上がってコテージを出ていく仁を、二人も追いかけた。
が、裏側に回ったとたん馬がすぐ近くを駆けていって、思わず声を上げる。
「うわ、びっくりした」
「ほんと。でもかっこいいねー」
柵で囲われた中を颯爽と駆けている栗色の馬は、細身の騎手と一体となって風のようだ。
「絵になるねえ、それにしてもすごい速さ」
うんうんと絵梨の言葉に頷いていた美桜は、もう一度騎手に目をやる。
「あれ?ねえ絵梨ちゃん、あの人アレンじゃない?」
「え?あ、ほんとだ!」
すると仁が二人の横に並ぶ。
いつの間にかブーツを履き、手には乗馬用のヘルメットも持っている。
「アレンのやつ、相変わらずかっ飛ばしてんなあ」
そう言うとトンと地面に降り、すたすたと厩舎らしき小屋へ向かう。
入口にいた若い男の子と短く何か話すと、そばに繋がれていた黒い毛並みの馬を連れて、柵の中へと進む。
「え?仁くん、もしかして乗れるの?」
「そうみたいね、ほら」
二人が見つめる先で、仁は慣れたように背の高い馬に跨ると、はっ!という掛け声とともに一気に走り出した。
やがてアレンに追いつくと、何か短く話してからまた速度を上げる。
アレンもそれに合わせて、しばらく二人は並んで駆けていく。
「すごいねえ。さすがお坊ちゃま同士ね」
「うん、二人ともとっても上手ね」
絵梨と美桜は、二人を目で追うだけなのに、顔をせわしなく動かさなければいけないほどだった。
しばらく楕円形の外周を走っていた仁とアレンは、何かの合図の後、いきなり楕円の内側に方向を変えた。
「え、ちょっと。まさか」
絵梨と美桜が息を詰めて見つめる中、二人は真ん中にある障害に向かっていく。
体をかがめて前傾姿勢になると、一気にスピードを上げて空中に飛び上がり柵を越えた。
「うわー!すごいすごい!」
思わず絵梨と美桜は手を叩いた。
その後も立て続けに三つの障害を飛び越え、最後はラストスパートで少しアレンがリードして、二人はゴールした。
仁は少し悔しそうに、そしてアレンは嬉しそうにしながら、なにやら話している。
コテージのそばまで来ると、ようやく二人は馬を降りた。
「すごいのねー二人とも!」
「うん、もうびっくり。迫力あったわ」
美桜も絵梨も、今回ばかりはお世辞抜きの正直な感想だった。
まあね、と仁が軽く流す。
「さあ、準備が出来ましたぞ。どうぞ中へ」
背後からトムの声が聞こえた。
「お、やった!早く入ろう」
仁のお待ちかねのものってなんだろうと思いながら、美桜達も中に戻った。
するとおいしそうな匂いに気付く。
「うわーいい匂い。これってシチュー?」
「そう!トムじいさん特製のスープ・イン・ザ・ブレッド。これを食べなきゃイギリスに来た気がしないんだよなあ、俺」
よほど早く食べたいのか、仁は自らテーブルに皆の食器を並べながら言う。
「ほんとにおいしそう!」
大きなパンの中をくり抜いてクリームシチューを入れてあり、色んな種類の野菜も添えられている。
どうやらチーズフォンデュのように野菜やパンをくぐらせて食べることも出来るようだ。
「早く食べようぜ」
「うん、ほら美桜も」
促されて席につこうとした美桜は、アレンがまだ来ていないことに気付く。
「馬を繋ぎに行ったのかな?見てくるね」
そう言うとコテージを出て裏手に回る。
アレンはすぐ近くで、馬のブラッシングをしていた。
「アレン、食事の準備が出来たよ。みんな待ってる」
「分かった、すぐ行くよ」
アレンを待ちながらふと遠くに目をやった美桜は、小高い丘の上に何かを見つけて首を傾げる。
(なんだろう、あれ。大きな門かな?なんだか古い施設みたいな?)
「どうかした?」
馬を繋いでからやってきたアレンは、美桜の横に並んで同じように目線を上げた。
「あ、うん。あれって何かなと思って」
美桜が言うと、しばらく黙って丘を見つめていたアレンは、なぜだか再び丸太の階段を下りて馬を引いてきた。
「アレン?」
「さ、乗って」
「ええ?」
急に目の前に馬を連れてこられ、乗ってと言われても…、と戸惑う美桜だったが、アレンの様子がいつもと違うこともあり、素直に従うことにした。
「よいしょっと。うわっ」
階段の上からなのですんなり跨れたのはいいけれど、馬の上は想像以上に高くて少し怯んだ。
続いてアレンも慣れた様子で跨る。
美桜とアレンはかなり密着することになったが、よく見ると美桜が座りやすいように、アレンは半分立ったままだ。
「しっかりつかまってて」
そう言うとアレンは手綱をさばいて、一気に馬を走らせ始めた。
「うわっ!」
あまりの振動に美桜は思わずのけ反る。
するとアレンが後ろから片手を回して、ぐっと美桜の腰を支えた。
とたんに体が安定して、美桜は上手く体重を馬に預けられるようになり、肩の力を抜いた。
(わー、なんだか楽しい!気持ちいいなあ)
急に余裕が出てきて、顔だけ後ろのアレンを振り返り、にこっと笑いかける。
アレンは一瞬面食らったが、無邪気な美桜の笑顔につられて、ふっと顔を緩めた。
「もう少しスピード上げるよ」
アレンがそう言うと、馬はますます飛ぶように丘を駆け上がる。
「すごーい!風になったみたい」
(このスピードを怖がらないなんて)
「美桜って時々すごいよね」
思わず呟いたアレンの言葉は届かなかったらしい。
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
やがて丘の頂上に着くと、古びた門の前で馬は止まった。
(さっき下から見えたのは、この門ね)
美桜はそう思いながらも言葉にはしなかった。
辺り一帯は暗くどんよりとした雰囲気に包まれていて、気味が悪いほど静まり返っていたからだ。
何かを言うのもはばかられる。
アレンは門のギリギリまで馬を近づけると、片手で錆びた模様の上部を押した。
ギーッときしむ音を立てながら少し開いた門の隙間に馬を差し入れるようにして、中に入っていく。
「ここは…、競馬場?」
「ああ、昔はね。今は全く使われていない」
アレンはそう答えてから、もう少しだけ馬を進ませた。
広さは十分で、きっと馬達は何頭も一気に競争出来たことだろう。
観客席もあり、かつては活気付いていたことが窺える。
けれど今は、雑草が生い茂り、風に揺れる木々もまるでお化けのようだ。
「さ、戻ろうか」
いたたまれなくなったかのようにアレンが言い、馬の向きを変えた。
帰り道はさっきとは違い、無言のまま美桜は馬に揺られていた。
(昔はきっと、たくさんの人達で賑わっていたんだろうな)
アレンの寂しそうな顔を思い出し、美桜も少し悲しい気持ちがした。
◇
「あー!やっと来た。どこ行ってたのよもう」
「ごめんごめん。せっかくのお料理が冷めちゃうね」
コテージに戻った美桜とアレンは急いでテーブルにつく。
「さ、ではでは。いただきまーす!」
仁は大きな声で言うと、すぐさまパクパクと勢いよく食べ始めた。
「うまい!はあ、やっぱりトムじいのシチューは天下一品よ」
「ほんとにおいしい!ねえ美桜」
「うん。野菜を浸して食べるのもいいよね。家でも真似して作ってみよう」
「美桜、一人暮らしだもんね。毎日自炊でしょ。大変だね」
と、絵梨の言葉にアレンが顔を上げた。
「美桜、今一人暮らしなの?」
「あ、うん。一年ほど前からね。大学より仕事に行く方が多くなったから、横浜の職場の近くにアパート借りてるの」
へえ、そうなんだと言うアレンに、なぜか仁が、そうなんだよと答える。
「美桜ちゃん一人暮らし始めたっていうから、これで家に遊びに行きやすくなったと思ったのに、一度も入れてもらえないんだぜ?」
すぐさま絵梨が割って入る。
「当たり前だっつーの!女の子の一人暮らしだよ?しかもあんたは狼だよ?誰が入れるかってのよ」
「ええ?そうなの?美桜ちゃん、そんなこと思ってたの?」
「あ、いや、そんなことは思ってないけど、まあそんな感じのことは思ってたかな、えへ」
「なんだよそれー。俺ショックでもう食欲なくなっちゃったよ」
「いや、あんたとっくに完食してるでしょう」
「ま、そうだけどさ」
あははと皆で笑い合う。
(良かった。アレン少しは元気になったみたい)
美桜は隣のアレンの笑顔を見て、少しほっとした。
◇
「さてさて次は、買い物でーす!」
仁がもったいぶって次の行先を告げると、絵梨と美桜は、やったー!と盛り上がった。
牧場をあとにした馬車は、アレンも含めた四人を乗せて、さらに下へと下って行く。
着いたのは、今までののどかな田舎の風景とは全く違う、大きなショッピングモールだった。
「へえ、こんなところにこんな立派なモールがあるんだね」
「あ、ねえ絵梨ちゃん、あそこ見て。可愛い風車があるよ」
「ほんとだ。よく見ると壁画とかもいいね」
そこまでは良かったのだが、馬車から降りたとたん雰囲気は一変する。
「え、ちょっと、何これ?」
「分かんない、何の騒ぎ?」
二人は呆然とその場に立ち尽くす。
どこから来たのだろう、あっという間にたくさんの女の子達に囲まれたのだ。
いや、正確に言うと囲まれたのはアレンだけだ。
「はいはいー、ちょっと通して下さいなー」
仁が慣れた手つきで、アレンをガードしながら歩く。
反対側にはメイソンがぴたりとアレンに張り付き、表情も硬く周囲に目を光らせている。
やがて嵐のような一行は、モールの中へと消えていった。
ポツンと残された二人は、まだ動けないでいた。
「なんだろう、アイドルグループの追っかけみたいな?」
「あー、確かに。でもメイソンの様子だと、国の要人警護のSPみたいだったね」
とにかく、アレンはここでは有名人だということだろう。
二人はそう結論を出して、ようやくモールの入口へと向かった。
そっと中の様子をうかがいながら慎重に入る。
キャーキャーと女の子の歓声が響く中、正面の店のドアの前で、メイソンが仁王立ちしているのが見えた。
「あのお店に入ったみたいね」
そう言って近付くと、出口側のドアから仁が手招きしているのが見えた。
「二人とも、こっちこっち」
小声で二人を中に呼ぶと、仁は急いでドアを閉めた。
「いやー、相変わらずだぜ、アレンの人気は」
「いつもこうなんだ。すごいね、芸能人並みだね」
「まあね、ウォーリング家の御曹司。若い子から見たら、王子様みたいなもんなんだろ」
渦中のアレンはというと、店のスタッフとなにやら真剣に話している。
改めて店内を見渡すと、たくさんの高級そうな洋服が並んでいた。
アレンが指を差しながら何か告げると、スタッフは次々とハンガーごと洋服を降ろし始めた。
「見ろよ、あれが噂のセレブ買いってやつだ」
「あ、ここからここまでってやつ?」
「そう。全部フォレストガーデンのブティックで使われるんだ」
物陰から顔を出して、仁と絵梨がささやく。
やがてアレンはスタッフに軽く手を挙げると、メイソンが立っているドアへと向かった。
より一層悲鳴のような歓声が上がる中、アレンはメイソンにガードされながら歩いて行く。
どうやら次の店に行くようだ。
「もう少ししてから追いかけようぜ。どうせ次に行く所はいつもと同じだろうから」
仁の提案に従って、三人は辺りが静かになってから店を出た。
次のお店ってどこ?と聞こうとして美桜はやめた。
少し先に人だかりが見えたからだ。
迷わずそこに向かう。
「横から入れるドアがあるんだ。こっち」
仁に続いて、角を曲がってから店内に入る。
今度はイギリスの銘菓や紅茶を扱う食料品店のようだった。
「わー、おいしそう。可愛い缶のお菓子もあるね」
「本当だ。あ、私、職場にお土産買っていかなきゃ」
絵梨と美桜は、わいわい言いながらお菓子を選び始めた。
「このショートブレッド、五箱は欲しいな。んー、自分用にも欲しいからもっとかなー」
美桜が人差し指を頬に当てながら考えていると、ふいに横からアレンの声がした。
「これ?全部で何箱いる?」
「アレン!大丈夫なの?」
「ん?何が?」
「いやだって、もみくちゃにされてたから」
「はは、もみくちゃって。うん、平気だよ。それよりこのショートブレッドをお土産にするの?」
「うん、フォレストガーデンで食べた時とってもおいしかったから」
美桜がそう言うと、アレンは分かったと短く言い、店の奥のスタッフに何か伝えた。
「あとでフォレストガーデンの部屋に届くよ。他には?絵梨もこれでいい?」
「うん、私もこれがいい。あと紅茶も」
「あ、そうだね。私も紅茶買っていきたい」
絵梨と美桜が選ぶのを待ってから、アレンはまたスタッフに話をする。
その後は四人揃って店を出た。
案の定、黄色い声に囲まれる。
「フードコートでちょっと休憩しようか」
「う、うん。休憩にはならなそうだけどね」
周りのことなど気にしていないかのように言うアレンに対し、いつ女の子達に押されるかとびくびくしながら絵梨が答える。
案の定、ドリンクを買って席についたとたん、追っかけの女の子達にぐるっと囲まれた。
「はいはい、アレンと握手したい人は並んでねー。Make a line.プリーズねー」
仁は慣れた手つきで女の子達を整列させる。
「完全にアイドルのマネジャーだわね」
「あはは、うん。かなり敏腕のね」
そう言って初めは笑って見ていた絵梨と美桜だったが、やがて女の子達の冷ややかな視線に気付く。
「ねえ、なんか私達ひそひそささやかれてない?」
「うん。あの子達いったいアレンの何なのよ!みたいな感じ?」
どうにも居づらくなった二人は、すぐ戻るからと仁に告げてその場を離れた。
「ひゃー、すごい熱気だったね」
「うん。あー、ほっとする」
二人はしばらく近くの店を見てみることにした。
「ねえ、このお店可愛いよ。入ってみよう」
「ほんとだ。なんだろう?ショールームみたいな感じだね」
入口にいたスタッフと挨拶を交わして中に入る。
店内はとても広く、ベッドや家具なども置かれてまるでモデルルームのようだ。
「ねえ、それぞれの部屋にコンセプトがあるんじゃない?この辺りは女の子っぽい感じ」
「確かに。見て、クローゼットの中の洋服やドレッサーの上のアクセサリーもちゃんと売り物なんだね」
おもしろーい、と言って、絵梨は少し離れたエリアを指差した。
「私、あのお部屋見てくるね」
そこはモノトーンにまとめられたシックな趣きの部屋だった。
「あー、うん。絵梨ちゃんっぽいね」
美桜は、一人であてもなくぶらぶら見て回ることにした。
やがて薄い色合いのシンプルなコーディネートの部屋で、良さそうな服を何着か選ぶ。
(シャツとかスカートも、どことなく日本では見ない感じだなあ。シンプルだけど斬新で色も綺麗)
何着か腕に掛けながら、アクセサリーも見てみる。
同じデザインの指輪やネックレスなどを、セットで置いてあるものがあった。
(可愛い!それぞれモチーフがあって、ブレスレットやピアス、ネックレスもセットで買えるんだ。いいなー)
ふと思いついて、美桜は遠くの絵梨を呼んだ。
「絵梨ちゃん、ねえこれどう?」
「んー、何?」
真剣に服を眺めていた絵梨は、とりあえず一旦中断という感じでやって来た。
「あのね、このアクセサリー、お揃いで買わない?」
「おー、いいね!可愛い。私だと…、この星のピアスとかかな」
「うんうん、絵梨ちゃんのイメージに合うね」
「美桜はどうする?」
「そうだなー、これかな?あ、そうだ。ねえ」
美桜は今しがた思いついたことを絵梨に相談する。
「いいね!うん。決まり」
二人は顔を見合わせてから、もう一度アクセサリーを選び始めた。
◇
「うーん、どうしよう」
すでに悩み始めて五分以上経っている。
が、未だに決心がつかずに、美桜はショーケースの前で考え込んでいた。
先程のアクセサリーはすんなり決まって、会計も済ませた。
その後ももう少し店内を見たいと絵梨が言い、美桜は一人違う店に来ていた。
さっき皆でフードコートに向かっていた時に、ふと目にして気になっていた店だ。
「どうしよう、買いたい、けど迷惑かも…」
ぶつぶつと一人で呟いていた美桜は、レジの横でこちらの様子をうかがっている男性スタッフに気付いて、思わず愛想笑いをする。
先程
「May I help you?」
と聞かれて、
「I’m just looking.」と答えたのに、まだその場を離れない美桜だった。
(全然ジャスト・ルッキングじゃないな。いい加減に決めないと)
目をつぶってしばらく考えてから、よし!と美桜は力強く頷いた。
「Could I have this one?」
美桜がレジの男性にそう言うと、満面の笑みで、Sure!と答えてくれる。
そして何も言わないうちに、綺麗にラッピングしてくれた。
クレジットカードで会計を済ませると、最後に店の外まで出て見送ってくれ、グッドラック!と親指を立てながらウインクされた。
「ははは、センキュー」
美桜は力なく笑う。
(完全に勘違いされたな。逆プロポーズでもするのかと。ま、いいか)
絵梨のいる店に戻ろうと歩き始めたが、すぐまた別の店のディスプレイに目がいった。
(カメオブローチだわ。素敵!)
今度は全く迷うことなく、そのブローチを買い、ギフトだと告げてラッピングしてもらう。
(これはきっと喜んでくれるはず!)
目の高さまで包みを持ち上げて、美桜はその人の喜ぶ顔を想像してふふっと笑った。
◇
紙袋をいくつか抱え、絵梨と美桜が満足気にフードコートに戻ると、まだアレンは数人の女の子達に囲まれていた。
「うわー、まだまだ大変そうだね」
どうしようか、もう少し待つ?と相談していると、二人に気付いたアレンと仁が、女の子達に何か言ってから立ち上がった。
「ごめんごめん。お待たせ。どう?買い物出来た?」
「うん、ほら。こーんなに!」
アレンの言葉に絵梨が両手いっぱいの袋を持ち上げて見せる。
「それは良かった。じゃあそろそろ行こうか」
そう言ってアレンは、後ろのメイソンに目配せした。
すぐさまメイソンは、絵梨と美桜が持っていた荷物をさっと持つ。
「あ、ありがとう」
あまりにスマートな動きだった。
「センキュー、ジェントルマン」
絵梨が気取って言い、美桜はたまらず笑い出す。
帰りの馬車でもおしゃべりは止まらず、あっという間にフォレストガーデンに帰って来た。
「ああ楽しかった!ありがとうアレン」
馬車を降りてからそう言う絵梨に続いて、美桜も、ありがとうとお礼を言う。
「こちらこそ、楽しい一日だったよ」
じゃあ俺はこれで、とアレンは馬車に戻っていく。
「このあとも仕事か。無理するなよ」
仁が声をかけると、アレンは軽く手を挙げて応えてから馬車に乗り込んだ。
三人は手を振って馬車を見送った。
◇
「キャー、ちょっと絵梨ちゃん。そんなにバシャバシャかけないでよう」
「いいじゃないの。ほらほらー!」
他には誰もいないのをいいことに、二人ははしゃいだ声を上げる。
部屋で一息ついた後、絵梨と美桜は、ブティックの奥のスパに来ていた。
前に来た時は一人で心細かった美桜は、絵梨と二人だと思う存分楽しめていた。
「ねえ、あっちまで泳いでいこうよ」
「あ、待ってよ、絵梨ちゃん」
まるでプールのように流れに乗りながら、きゃっきゃとふざけて泳いでいく。
「あー、浮き輪とか欲しいわ。ビーチボールもね」
「それじゃあ完全にプールだよ」
「そうそう、焼きそばとか、かき氷もあるといいな」
「あはは!絵梨ちゃんってば」
スパではしゃいだ後は、ロングドレスに着替え、ネイルアートもしてもらった。
せっかくこんなにオシャレにしてもらったんだからと、ディナーは高級そうなイタリアンレストランに行ってみた。
ムード満点の店内はカップルばかりで、最初は周りの目を気にしたけれど、おいしそうな料理が次々と運ばれてくると、二人はひたすら舌鼓を打った。
◇
「うーもう限界。お腹いっぱいで動けなーい」
「そりゃそうよ。美桜ったら、最後のドルチェも二つ食べるんだもん」
「だって選べないじゃない。ティラミスとアフォガート、どちらか一つなんて」
部屋に戻り、ソファにもたれてお腹をさする二人に、メアリーが微笑みながら紅茶を淹れてくれる。
「美桜様、また別の日に召し上がっても構いませんのに」
「だって別の日は、また違うレストランに行きたいんだもん。たくさんありすぎるのよ、行きたいところが」
まあ、と言ってメアリーは上品に笑った。
「ねえ、まだ九時半だし夜はこれからよ。バーに行かない?」
「えー?もう無理。絵梨ちゃんよくそんな余裕あるね」
「もちろんよ!夜になるほど元気になるんだから、私」
なぜか得意気な絵梨に、さすがです、と美桜は頭を下げる。
「仕方ない。仁でも誘うか。それかイギリスボーイをナンパしちゃおうかなー」
冗談とも本気とも取れる口調で、絵梨は悠然と部屋を出て行った。
行ってらっしゃーいと見送ると、美桜は急に眠気に襲われた。
「ふわあ、眠ーい。もう寝るね、メアリー」
「はい。あ、歯磨きとお着替えは済ませてからにして下さいね」
「はーい」
ふらふらと立ち上がって、美桜は半分目を閉じながら寝る支度をする。
ベッドに入ると、すぐさまスーッと心地よい眠気に誘われた。
「おやすみ、メアリー」
返事を聞かぬうちに、美桜は眠りに落ちた。
冬ゆえに朝日はそこまで明るくないが、美桜と絵梨は良い日になるに違いないと確信して、いそいそと準備をした。
メアリーに今日は動きやすいカジュアルな服装で、と言われ、何だろうね?と言いながら、二人はいつものジーンズにした。
待ち合わせの時間にエントランスに行くと、仁がメイソンと立ち話をしている。
「仁くん、メイソン、おはよう」
「おはようございます。えりさま、みおさま」
「お!お嬢様方のお揃いだ。じゃあ行こうか」
外に出ると、まず絵梨が驚きの声を上げた。
「ひゃー、何これ?馬車に見えるんだけど!」
「いや、実際馬車だし。ははっ」
仁は軽く笑いながら、さっさと乗り込む。
(昨日の馬車とはちょっと違うみたい)
美桜はじっくり見てみた。
まず昨日ほど高さはなく、車のようにすんなり乗れる低さだ。
それに四人乗りなのか、中も広くなっている。
「美桜、すごいねー。この馬車、ほんとに動くのかしら?」
「あはは、絵梨ちゃんたら。遊園地の乗り物じゃないんだから」
「わっ!動いた。すごーい」
ゆっくり動き出した馬車の窓から、行ってきまーすと二人で見送りのメアリーに手を振る。
馬車はフォレストガーデンの門を、昨日とは違って右へと曲がった。
相変わらず景色はのどかな田園風景だ。
けれど絵梨とおしゃべりしながらだと、なんでもないことが楽しくなる。
ずいぶん経ってから美桜が呟いた。
「あれ?そういえばアレンは?」
「ほんとだ。どこにいるの?」
「やれやれ、お二人さん。今頃気付いたのかい?」
半ばあきれ顔で、仁が両手を広げて見せた。
「現地集合ってやつ。あ、ほら着いたよ」
え?と慌てて二人は窓の外を見る。
「ここって、牧場?」
広大な緑のあちこちで、羊や牛がのんびり草を食べているのが見える。
三人を乗せた馬車はゆっくりとスピードを落として右に曲がると、丸太で作られたコテージの前で止まった。
まずは仁が馬車を降りる。
「よーう!トムじいさん。元気だった?」
出迎えてくれたのは、白髪で目が細い、優しそうなおじいさんだった。
「ええ。仁坊ちゃまもお元気そうで」
そう言ってから、馬車を降りてきた絵梨と美桜を見る。
「ほー、お嬢様方もご一緒とは珍しいですな」
「こんにちは。初めまして、絵梨です。こっちは美桜」
こんにちは、と美桜も頭を下げる。
「これはこれは。ようこそお越し下さいました。さあ、どうぞ中へ」
「トムじい、今日もあれ、作ってくれる?」
「もちろん、用意してありますとも」
「いやったー!」
仁に、何がやったーなの?と美桜が聞くと、まあすぐに分かるよとはぐらかされた。
コテージの中には大きな木のテーブルがあり、その横はカウンターキッチンになっていた。
「ココアでも淹れましょうかね」
と言ってキッチンに入るトムに、美桜達は、手伝います、と続く。
お湯を注いだカップをスプーンで混ぜてから、絵梨と二人でテーブルに運んだ。
「アレン坊ちゃまもそろそろお呼びしましょうか」
トムがそう言ったのは、皆がココアを半分ほど飲んでしまってからだった。
「あ、ほんとだ。アレンがいなかったね」
「やーれやれ、またかい?お嬢さん方。アレンが泣いちゃうぜ?」
仁がまたもやあきれ声で言い、いや悪気はなかったんだけど、ついうっかり、と二人で言い訳する。
「ま、ではみんなで呼びに行きますか」
立ち上がってコテージを出ていく仁を、二人も追いかけた。
が、裏側に回ったとたん馬がすぐ近くを駆けていって、思わず声を上げる。
「うわ、びっくりした」
「ほんと。でもかっこいいねー」
柵で囲われた中を颯爽と駆けている栗色の馬は、細身の騎手と一体となって風のようだ。
「絵になるねえ、それにしてもすごい速さ」
うんうんと絵梨の言葉に頷いていた美桜は、もう一度騎手に目をやる。
「あれ?ねえ絵梨ちゃん、あの人アレンじゃない?」
「え?あ、ほんとだ!」
すると仁が二人の横に並ぶ。
いつの間にかブーツを履き、手には乗馬用のヘルメットも持っている。
「アレンのやつ、相変わらずかっ飛ばしてんなあ」
そう言うとトンと地面に降り、すたすたと厩舎らしき小屋へ向かう。
入口にいた若い男の子と短く何か話すと、そばに繋がれていた黒い毛並みの馬を連れて、柵の中へと進む。
「え?仁くん、もしかして乗れるの?」
「そうみたいね、ほら」
二人が見つめる先で、仁は慣れたように背の高い馬に跨ると、はっ!という掛け声とともに一気に走り出した。
やがてアレンに追いつくと、何か短く話してからまた速度を上げる。
アレンもそれに合わせて、しばらく二人は並んで駆けていく。
「すごいねえ。さすがお坊ちゃま同士ね」
「うん、二人ともとっても上手ね」
絵梨と美桜は、二人を目で追うだけなのに、顔をせわしなく動かさなければいけないほどだった。
しばらく楕円形の外周を走っていた仁とアレンは、何かの合図の後、いきなり楕円の内側に方向を変えた。
「え、ちょっと。まさか」
絵梨と美桜が息を詰めて見つめる中、二人は真ん中にある障害に向かっていく。
体をかがめて前傾姿勢になると、一気にスピードを上げて空中に飛び上がり柵を越えた。
「うわー!すごいすごい!」
思わず絵梨と美桜は手を叩いた。
その後も立て続けに三つの障害を飛び越え、最後はラストスパートで少しアレンがリードして、二人はゴールした。
仁は少し悔しそうに、そしてアレンは嬉しそうにしながら、なにやら話している。
コテージのそばまで来ると、ようやく二人は馬を降りた。
「すごいのねー二人とも!」
「うん、もうびっくり。迫力あったわ」
美桜も絵梨も、今回ばかりはお世辞抜きの正直な感想だった。
まあね、と仁が軽く流す。
「さあ、準備が出来ましたぞ。どうぞ中へ」
背後からトムの声が聞こえた。
「お、やった!早く入ろう」
仁のお待ちかねのものってなんだろうと思いながら、美桜達も中に戻った。
するとおいしそうな匂いに気付く。
「うわーいい匂い。これってシチュー?」
「そう!トムじいさん特製のスープ・イン・ザ・ブレッド。これを食べなきゃイギリスに来た気がしないんだよなあ、俺」
よほど早く食べたいのか、仁は自らテーブルに皆の食器を並べながら言う。
「ほんとにおいしそう!」
大きなパンの中をくり抜いてクリームシチューを入れてあり、色んな種類の野菜も添えられている。
どうやらチーズフォンデュのように野菜やパンをくぐらせて食べることも出来るようだ。
「早く食べようぜ」
「うん、ほら美桜も」
促されて席につこうとした美桜は、アレンがまだ来ていないことに気付く。
「馬を繋ぎに行ったのかな?見てくるね」
そう言うとコテージを出て裏手に回る。
アレンはすぐ近くで、馬のブラッシングをしていた。
「アレン、食事の準備が出来たよ。みんな待ってる」
「分かった、すぐ行くよ」
アレンを待ちながらふと遠くに目をやった美桜は、小高い丘の上に何かを見つけて首を傾げる。
(なんだろう、あれ。大きな門かな?なんだか古い施設みたいな?)
「どうかした?」
馬を繋いでからやってきたアレンは、美桜の横に並んで同じように目線を上げた。
「あ、うん。あれって何かなと思って」
美桜が言うと、しばらく黙って丘を見つめていたアレンは、なぜだか再び丸太の階段を下りて馬を引いてきた。
「アレン?」
「さ、乗って」
「ええ?」
急に目の前に馬を連れてこられ、乗ってと言われても…、と戸惑う美桜だったが、アレンの様子がいつもと違うこともあり、素直に従うことにした。
「よいしょっと。うわっ」
階段の上からなのですんなり跨れたのはいいけれど、馬の上は想像以上に高くて少し怯んだ。
続いてアレンも慣れた様子で跨る。
美桜とアレンはかなり密着することになったが、よく見ると美桜が座りやすいように、アレンは半分立ったままだ。
「しっかりつかまってて」
そう言うとアレンは手綱をさばいて、一気に馬を走らせ始めた。
「うわっ!」
あまりの振動に美桜は思わずのけ反る。
するとアレンが後ろから片手を回して、ぐっと美桜の腰を支えた。
とたんに体が安定して、美桜は上手く体重を馬に預けられるようになり、肩の力を抜いた。
(わー、なんだか楽しい!気持ちいいなあ)
急に余裕が出てきて、顔だけ後ろのアレンを振り返り、にこっと笑いかける。
アレンは一瞬面食らったが、無邪気な美桜の笑顔につられて、ふっと顔を緩めた。
「もう少しスピード上げるよ」
アレンがそう言うと、馬はますます飛ぶように丘を駆け上がる。
「すごーい!風になったみたい」
(このスピードを怖がらないなんて)
「美桜って時々すごいよね」
思わず呟いたアレンの言葉は届かなかったらしい。
「ん?何か言った?」
「いや、何も」
やがて丘の頂上に着くと、古びた門の前で馬は止まった。
(さっき下から見えたのは、この門ね)
美桜はそう思いながらも言葉にはしなかった。
辺り一帯は暗くどんよりとした雰囲気に包まれていて、気味が悪いほど静まり返っていたからだ。
何かを言うのもはばかられる。
アレンは門のギリギリまで馬を近づけると、片手で錆びた模様の上部を押した。
ギーッときしむ音を立てながら少し開いた門の隙間に馬を差し入れるようにして、中に入っていく。
「ここは…、競馬場?」
「ああ、昔はね。今は全く使われていない」
アレンはそう答えてから、もう少しだけ馬を進ませた。
広さは十分で、きっと馬達は何頭も一気に競争出来たことだろう。
観客席もあり、かつては活気付いていたことが窺える。
けれど今は、雑草が生い茂り、風に揺れる木々もまるでお化けのようだ。
「さ、戻ろうか」
いたたまれなくなったかのようにアレンが言い、馬の向きを変えた。
帰り道はさっきとは違い、無言のまま美桜は馬に揺られていた。
(昔はきっと、たくさんの人達で賑わっていたんだろうな)
アレンの寂しそうな顔を思い出し、美桜も少し悲しい気持ちがした。
◇
「あー!やっと来た。どこ行ってたのよもう」
「ごめんごめん。せっかくのお料理が冷めちゃうね」
コテージに戻った美桜とアレンは急いでテーブルにつく。
「さ、ではでは。いただきまーす!」
仁は大きな声で言うと、すぐさまパクパクと勢いよく食べ始めた。
「うまい!はあ、やっぱりトムじいのシチューは天下一品よ」
「ほんとにおいしい!ねえ美桜」
「うん。野菜を浸して食べるのもいいよね。家でも真似して作ってみよう」
「美桜、一人暮らしだもんね。毎日自炊でしょ。大変だね」
と、絵梨の言葉にアレンが顔を上げた。
「美桜、今一人暮らしなの?」
「あ、うん。一年ほど前からね。大学より仕事に行く方が多くなったから、横浜の職場の近くにアパート借りてるの」
へえ、そうなんだと言うアレンに、なぜか仁が、そうなんだよと答える。
「美桜ちゃん一人暮らし始めたっていうから、これで家に遊びに行きやすくなったと思ったのに、一度も入れてもらえないんだぜ?」
すぐさま絵梨が割って入る。
「当たり前だっつーの!女の子の一人暮らしだよ?しかもあんたは狼だよ?誰が入れるかってのよ」
「ええ?そうなの?美桜ちゃん、そんなこと思ってたの?」
「あ、いや、そんなことは思ってないけど、まあそんな感じのことは思ってたかな、えへ」
「なんだよそれー。俺ショックでもう食欲なくなっちゃったよ」
「いや、あんたとっくに完食してるでしょう」
「ま、そうだけどさ」
あははと皆で笑い合う。
(良かった。アレン少しは元気になったみたい)
美桜は隣のアレンの笑顔を見て、少しほっとした。
◇
「さてさて次は、買い物でーす!」
仁がもったいぶって次の行先を告げると、絵梨と美桜は、やったー!と盛り上がった。
牧場をあとにした馬車は、アレンも含めた四人を乗せて、さらに下へと下って行く。
着いたのは、今までののどかな田舎の風景とは全く違う、大きなショッピングモールだった。
「へえ、こんなところにこんな立派なモールがあるんだね」
「あ、ねえ絵梨ちゃん、あそこ見て。可愛い風車があるよ」
「ほんとだ。よく見ると壁画とかもいいね」
そこまでは良かったのだが、馬車から降りたとたん雰囲気は一変する。
「え、ちょっと、何これ?」
「分かんない、何の騒ぎ?」
二人は呆然とその場に立ち尽くす。
どこから来たのだろう、あっという間にたくさんの女の子達に囲まれたのだ。
いや、正確に言うと囲まれたのはアレンだけだ。
「はいはいー、ちょっと通して下さいなー」
仁が慣れた手つきで、アレンをガードしながら歩く。
反対側にはメイソンがぴたりとアレンに張り付き、表情も硬く周囲に目を光らせている。
やがて嵐のような一行は、モールの中へと消えていった。
ポツンと残された二人は、まだ動けないでいた。
「なんだろう、アイドルグループの追っかけみたいな?」
「あー、確かに。でもメイソンの様子だと、国の要人警護のSPみたいだったね」
とにかく、アレンはここでは有名人だということだろう。
二人はそう結論を出して、ようやくモールの入口へと向かった。
そっと中の様子をうかがいながら慎重に入る。
キャーキャーと女の子の歓声が響く中、正面の店のドアの前で、メイソンが仁王立ちしているのが見えた。
「あのお店に入ったみたいね」
そう言って近付くと、出口側のドアから仁が手招きしているのが見えた。
「二人とも、こっちこっち」
小声で二人を中に呼ぶと、仁は急いでドアを閉めた。
「いやー、相変わらずだぜ、アレンの人気は」
「いつもこうなんだ。すごいね、芸能人並みだね」
「まあね、ウォーリング家の御曹司。若い子から見たら、王子様みたいなもんなんだろ」
渦中のアレンはというと、店のスタッフとなにやら真剣に話している。
改めて店内を見渡すと、たくさんの高級そうな洋服が並んでいた。
アレンが指を差しながら何か告げると、スタッフは次々とハンガーごと洋服を降ろし始めた。
「見ろよ、あれが噂のセレブ買いってやつだ」
「あ、ここからここまでってやつ?」
「そう。全部フォレストガーデンのブティックで使われるんだ」
物陰から顔を出して、仁と絵梨がささやく。
やがてアレンはスタッフに軽く手を挙げると、メイソンが立っているドアへと向かった。
より一層悲鳴のような歓声が上がる中、アレンはメイソンにガードされながら歩いて行く。
どうやら次の店に行くようだ。
「もう少ししてから追いかけようぜ。どうせ次に行く所はいつもと同じだろうから」
仁の提案に従って、三人は辺りが静かになってから店を出た。
次のお店ってどこ?と聞こうとして美桜はやめた。
少し先に人だかりが見えたからだ。
迷わずそこに向かう。
「横から入れるドアがあるんだ。こっち」
仁に続いて、角を曲がってから店内に入る。
今度はイギリスの銘菓や紅茶を扱う食料品店のようだった。
「わー、おいしそう。可愛い缶のお菓子もあるね」
「本当だ。あ、私、職場にお土産買っていかなきゃ」
絵梨と美桜は、わいわい言いながらお菓子を選び始めた。
「このショートブレッド、五箱は欲しいな。んー、自分用にも欲しいからもっとかなー」
美桜が人差し指を頬に当てながら考えていると、ふいに横からアレンの声がした。
「これ?全部で何箱いる?」
「アレン!大丈夫なの?」
「ん?何が?」
「いやだって、もみくちゃにされてたから」
「はは、もみくちゃって。うん、平気だよ。それよりこのショートブレッドをお土産にするの?」
「うん、フォレストガーデンで食べた時とってもおいしかったから」
美桜がそう言うと、アレンは分かったと短く言い、店の奥のスタッフに何か伝えた。
「あとでフォレストガーデンの部屋に届くよ。他には?絵梨もこれでいい?」
「うん、私もこれがいい。あと紅茶も」
「あ、そうだね。私も紅茶買っていきたい」
絵梨と美桜が選ぶのを待ってから、アレンはまたスタッフに話をする。
その後は四人揃って店を出た。
案の定、黄色い声に囲まれる。
「フードコートでちょっと休憩しようか」
「う、うん。休憩にはならなそうだけどね」
周りのことなど気にしていないかのように言うアレンに対し、いつ女の子達に押されるかとびくびくしながら絵梨が答える。
案の定、ドリンクを買って席についたとたん、追っかけの女の子達にぐるっと囲まれた。
「はいはい、アレンと握手したい人は並んでねー。Make a line.プリーズねー」
仁は慣れた手つきで女の子達を整列させる。
「完全にアイドルのマネジャーだわね」
「あはは、うん。かなり敏腕のね」
そう言って初めは笑って見ていた絵梨と美桜だったが、やがて女の子達の冷ややかな視線に気付く。
「ねえ、なんか私達ひそひそささやかれてない?」
「うん。あの子達いったいアレンの何なのよ!みたいな感じ?」
どうにも居づらくなった二人は、すぐ戻るからと仁に告げてその場を離れた。
「ひゃー、すごい熱気だったね」
「うん。あー、ほっとする」
二人はしばらく近くの店を見てみることにした。
「ねえ、このお店可愛いよ。入ってみよう」
「ほんとだ。なんだろう?ショールームみたいな感じだね」
入口にいたスタッフと挨拶を交わして中に入る。
店内はとても広く、ベッドや家具なども置かれてまるでモデルルームのようだ。
「ねえ、それぞれの部屋にコンセプトがあるんじゃない?この辺りは女の子っぽい感じ」
「確かに。見て、クローゼットの中の洋服やドレッサーの上のアクセサリーもちゃんと売り物なんだね」
おもしろーい、と言って、絵梨は少し離れたエリアを指差した。
「私、あのお部屋見てくるね」
そこはモノトーンにまとめられたシックな趣きの部屋だった。
「あー、うん。絵梨ちゃんっぽいね」
美桜は、一人であてもなくぶらぶら見て回ることにした。
やがて薄い色合いのシンプルなコーディネートの部屋で、良さそうな服を何着か選ぶ。
(シャツとかスカートも、どことなく日本では見ない感じだなあ。シンプルだけど斬新で色も綺麗)
何着か腕に掛けながら、アクセサリーも見てみる。
同じデザインの指輪やネックレスなどを、セットで置いてあるものがあった。
(可愛い!それぞれモチーフがあって、ブレスレットやピアス、ネックレスもセットで買えるんだ。いいなー)
ふと思いついて、美桜は遠くの絵梨を呼んだ。
「絵梨ちゃん、ねえこれどう?」
「んー、何?」
真剣に服を眺めていた絵梨は、とりあえず一旦中断という感じでやって来た。
「あのね、このアクセサリー、お揃いで買わない?」
「おー、いいね!可愛い。私だと…、この星のピアスとかかな」
「うんうん、絵梨ちゃんのイメージに合うね」
「美桜はどうする?」
「そうだなー、これかな?あ、そうだ。ねえ」
美桜は今しがた思いついたことを絵梨に相談する。
「いいね!うん。決まり」
二人は顔を見合わせてから、もう一度アクセサリーを選び始めた。
◇
「うーん、どうしよう」
すでに悩み始めて五分以上経っている。
が、未だに決心がつかずに、美桜はショーケースの前で考え込んでいた。
先程のアクセサリーはすんなり決まって、会計も済ませた。
その後ももう少し店内を見たいと絵梨が言い、美桜は一人違う店に来ていた。
さっき皆でフードコートに向かっていた時に、ふと目にして気になっていた店だ。
「どうしよう、買いたい、けど迷惑かも…」
ぶつぶつと一人で呟いていた美桜は、レジの横でこちらの様子をうかがっている男性スタッフに気付いて、思わず愛想笑いをする。
先程
「May I help you?」
と聞かれて、
「I’m just looking.」と答えたのに、まだその場を離れない美桜だった。
(全然ジャスト・ルッキングじゃないな。いい加減に決めないと)
目をつぶってしばらく考えてから、よし!と美桜は力強く頷いた。
「Could I have this one?」
美桜がレジの男性にそう言うと、満面の笑みで、Sure!と答えてくれる。
そして何も言わないうちに、綺麗にラッピングしてくれた。
クレジットカードで会計を済ませると、最後に店の外まで出て見送ってくれ、グッドラック!と親指を立てながらウインクされた。
「ははは、センキュー」
美桜は力なく笑う。
(完全に勘違いされたな。逆プロポーズでもするのかと。ま、いいか)
絵梨のいる店に戻ろうと歩き始めたが、すぐまた別の店のディスプレイに目がいった。
(カメオブローチだわ。素敵!)
今度は全く迷うことなく、そのブローチを買い、ギフトだと告げてラッピングしてもらう。
(これはきっと喜んでくれるはず!)
目の高さまで包みを持ち上げて、美桜はその人の喜ぶ顔を想像してふふっと笑った。
◇
紙袋をいくつか抱え、絵梨と美桜が満足気にフードコートに戻ると、まだアレンは数人の女の子達に囲まれていた。
「うわー、まだまだ大変そうだね」
どうしようか、もう少し待つ?と相談していると、二人に気付いたアレンと仁が、女の子達に何か言ってから立ち上がった。
「ごめんごめん。お待たせ。どう?買い物出来た?」
「うん、ほら。こーんなに!」
アレンの言葉に絵梨が両手いっぱいの袋を持ち上げて見せる。
「それは良かった。じゃあそろそろ行こうか」
そう言ってアレンは、後ろのメイソンに目配せした。
すぐさまメイソンは、絵梨と美桜が持っていた荷物をさっと持つ。
「あ、ありがとう」
あまりにスマートな動きだった。
「センキュー、ジェントルマン」
絵梨が気取って言い、美桜はたまらず笑い出す。
帰りの馬車でもおしゃべりは止まらず、あっという間にフォレストガーデンに帰って来た。
「ああ楽しかった!ありがとうアレン」
馬車を降りてからそう言う絵梨に続いて、美桜も、ありがとうとお礼を言う。
「こちらこそ、楽しい一日だったよ」
じゃあ俺はこれで、とアレンは馬車に戻っていく。
「このあとも仕事か。無理するなよ」
仁が声をかけると、アレンは軽く手を挙げて応えてから馬車に乗り込んだ。
三人は手を振って馬車を見送った。
◇
「キャー、ちょっと絵梨ちゃん。そんなにバシャバシャかけないでよう」
「いいじゃないの。ほらほらー!」
他には誰もいないのをいいことに、二人ははしゃいだ声を上げる。
部屋で一息ついた後、絵梨と美桜は、ブティックの奥のスパに来ていた。
前に来た時は一人で心細かった美桜は、絵梨と二人だと思う存分楽しめていた。
「ねえ、あっちまで泳いでいこうよ」
「あ、待ってよ、絵梨ちゃん」
まるでプールのように流れに乗りながら、きゃっきゃとふざけて泳いでいく。
「あー、浮き輪とか欲しいわ。ビーチボールもね」
「それじゃあ完全にプールだよ」
「そうそう、焼きそばとか、かき氷もあるといいな」
「あはは!絵梨ちゃんってば」
スパではしゃいだ後は、ロングドレスに着替え、ネイルアートもしてもらった。
せっかくこんなにオシャレにしてもらったんだからと、ディナーは高級そうなイタリアンレストランに行ってみた。
ムード満点の店内はカップルばかりで、最初は周りの目を気にしたけれど、おいしそうな料理が次々と運ばれてくると、二人はひたすら舌鼓を打った。
◇
「うーもう限界。お腹いっぱいで動けなーい」
「そりゃそうよ。美桜ったら、最後のドルチェも二つ食べるんだもん」
「だって選べないじゃない。ティラミスとアフォガート、どちらか一つなんて」
部屋に戻り、ソファにもたれてお腹をさする二人に、メアリーが微笑みながら紅茶を淹れてくれる。
「美桜様、また別の日に召し上がっても構いませんのに」
「だって別の日は、また違うレストランに行きたいんだもん。たくさんありすぎるのよ、行きたいところが」
まあ、と言ってメアリーは上品に笑った。
「ねえ、まだ九時半だし夜はこれからよ。バーに行かない?」
「えー?もう無理。絵梨ちゃんよくそんな余裕あるね」
「もちろんよ!夜になるほど元気になるんだから、私」
なぜか得意気な絵梨に、さすがです、と美桜は頭を下げる。
「仕方ない。仁でも誘うか。それかイギリスボーイをナンパしちゃおうかなー」
冗談とも本気とも取れる口調で、絵梨は悠然と部屋を出て行った。
行ってらっしゃーいと見送ると、美桜は急に眠気に襲われた。
「ふわあ、眠ーい。もう寝るね、メアリー」
「はい。あ、歯磨きとお着替えは済ませてからにして下さいね」
「はーい」
ふらふらと立ち上がって、美桜は半分目を閉じながら寝る支度をする。
ベッドに入ると、すぐさまスーッと心地よい眠気に誘われた。
「おやすみ、メアリー」
返事を聞かぬうちに、美桜は眠りに落ちた。
10
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