桜のティアラ〜はじまりの六日間〜

葉月 まい

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再びイギリスへ

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 メイソンが運転するリムジンは、やがて滑るようにパレスのエントランスに横付けされた。

 「じゃあね、美桜ちゃん。あとでね」
 
 意味ありげにウインクして、ジョージは一足先にパレスの中へと入り、出迎えたグレッグと一緒に階段を上がっていった。

 (本当に来たんだ、私)
 
 エントランスを見上げて感慨にふけっていると、美桜様!と声がしてクレアとメアリーが駆け寄ってきた。

 「おかえりなさいませ!美桜様」
 「ただいま!クレア、メアリー」
 
 三人でわあっと盛り上がりそうになり、慌てて、しーっと声のトーンを下げる。

 「アレン様に聞こえてしまいますわ。まずは広間へ」
 
 メアリーが促して、美桜達はそっと階段を上がる。

 ようやく三階の広間に入り、ドアを閉めると、もう一度お互い顔を見合わせて三人で抱き合った。

 「ああ、もう夢のようですわ。メイソンから、これから美桜様と一緒にパレスに戻ると連絡があって。びっくりしつつも、嬉しくて嬉しくて。ねえ、メアリー?」
 「ええ。美桜様にまたお会いできる日を、いつだろうとずっと楽しみにしていましたが、こんなに早く戻ってきていただけるなんて」
 「あら!私はもう、最初の五日で我慢出来なくなりましたのよ。美桜様にお会いしたくて、もう毎日その事ばかり」
 
 そう言って笑うクレアとメアリーの胸元には、それぞれあのブローチとネックレスが光っている。

 「私も、またこうして戻って来られてとっても嬉しいわ。メアリーには、フォレストガーデンに行かないと会えないんじゃないかと思ってたけど」
 「いいえ、私普段はパレスにいますの。あの時は、美桜様達のお世話を命じられて、フォレストガーデンに滞在していたのですわ」
 
 そうだったのね、と改めて三人での再会を喜ぶ。

 それはそうと、とやがてメアリーが切り出した。

 「早速打ち合わせをいたしましょう」
 ええ、そうね、と美桜もクレアも頷く。
 
 飛行機の中でジョージが思いついた、ちょっとしたサプライズ。

 アレンの反応を想像しながら、三人はふふっと笑い合った。

 その頃書斎では、いつものようにジョージとアレン、グレッグの三人が机に向かっていた。

 スコットランドはどうでしたか?と聞くアレンの言葉にあいまいに答え、ジョージは帰ってくるなり仕事に取り掛かっていた。

 (そろそろ頃合いか)

 壁の時計を見てから、ジョージはグレッグに視線を送る。

 すぐさまそれに気付いたグレッグは、咳払いをしてから立ち上がった。

 「旦那様、坊ちゃま、今日のディナーは広間にご用意してもよろしいでしょうか?旦那様の旅のお話もゆっくりうかがいたいですし。いかがでしょう?」
 「あ、ああ。うん。いいんじゃないか」
 
 やや声が裏返るジョージを、少し不安に思いながらグレッグは続ける。

 「今宵はなにやらクレアが、ちょっとした音楽会を企画しているとか。演奏ができるスタッフに一曲披露させるそうです。お食事とともにお楽しみいただければ」
 「ほお、それは楽しみだ。なあ、アレン」
 
 ジョージの芝居がかった台詞にグレッグはヒヤヒヤしたが、アレンは書類に目を落としたままで、特に気にならなかったらしい。

 そうですね、と淡々と答えただけだった。

 「それでは早速準備を進めて参ります」
 「うむ、頼んだぞ」



 やがて広間では夕食の準備が整い、グレッグが書斎に二人を呼びに行くと、美桜達はいっそう緊張感に包まれた。

 「はあ、いよいよね。この位置で大丈夫?フレディ、そこから見えないわよね?」
 
 自分の姿がグランドピアノの陰で見えない事を、美桜はダイニングテーブルのアレンの席の近くにいるフレディに確認する。

 「はい。ピアノに座っているメアリーは見えますが、美桜様のお顔は全く」
 「良かった。じゃあここから動かないように、仁王立ちで吹くわ」
 
 美桜が肩幅に足を開いてどっしり構えると、メアリーは、ふふっと落ち着き払って笑う。

 「あ、いらっしゃいましたわ!」
 クレアが慌てて美桜達に声をかける。

 (落ち着いて、がんばろう!)
 美桜のささやきに、クレアとメアリーも頷いた。
 
 グレッグの先導で、ジョージとアレンが広間に入ってくる。

 美桜は、そっとアレンの様子を覗きたかったが、ぐっと堪えた。

 「旦那様、こちらのワインでいかがでしょう?」
 
 フレディが、乾杯のワインを選んでいるらしい。

 やがて二人のグラスに注がれ、無事に乾杯が終わると、クレアが前に歩み出た。

 「旦那様、お帰りなさいませ。今宵はお二人での数日ぶりのディナー。どうぞごゆっくり、音楽とともにお楽しみくださいませ」
 
 そう言って一礼すると、クレアはメアリーと美桜を振り返って頷いた。

 (いよいよね)
 
 美桜とメアリーは、いつでも大丈夫とお互いに頷き合って確認する。

 やがてメアリーはゆっくりとピアノに両手を載せ、一呼吸置いてからゆったりと弾き始めた。 
 
 グノーのアヴェ・マリア。

 バッハの平均律クラヴィーア曲集第一巻の前奏曲第一番を伴奏に、グノーが旋律を乗せた声楽曲である。

 あまりにも有名で、メアリーの美しい伴奏を聴いているだけで、次のメロディーへの期待が高まる。

 やがてメアリーが美桜を振り返り、二人一緒にブレスを取る。

 次の瞬間、ピアノの優しい音色の上に、伸びやかなフルートが重なる。

 煌めくように美しく、甘く、広間の空気を隅々まで浄化させるような響き。
 
 ほうっとそこにいる誰もが、感激して胸を震わせた。

 (…このフルートの音、もしかして)
 
 アレンは、ふと顔を上げるとピアノの方を振り返った。

 メアリーの横に立っているフルート奏者を確かめようとしたが、ピアノの陰に隠れて顔は見えない。

 (まさかな。そんなことある訳がない)
 
 ふっと自虐的に笑うと、目を閉じてもう一度音楽に耳を傾ける。

 とにかく美しい。

 心が温かく満たされていくのを感じる。

 悲しみや苦しみからも、解放させてくれるようだ。 
 
 ずっと聴いていたい。
 この音楽に浸っていたい。

 そこにいる誰もがそう思う中、ゆっくりと演奏は終わりを告げた。
 
 やがて静寂が戻り、皆は溜息をついた後、一斉に拍手を送る。

 「素晴らしい!なんと美しい演奏だ」
 
 ジョージが立ち上がって称賛を贈る。

 アレンも立ち上がってピアノを振り返ると、惜しみなく拍手を送る。

 クレアが演奏者二人に、前に出るように促した。

 メアリーとフルート奏者は、ゆっくりとピアノの横に出ると、深々とお辞儀をした。

 より一層大きな拍手を送っていたアレンは、やがて顔を上げた二人を見て、ピタッと手の動きを止めた。

 (…え?)
 
 拍手を受けて微笑み合う二人。
 メアリーと、そしてもう一人は…

 (…え?)
 
 人間、あまりに驚くと思考回路が止まるらしい。

 アレンは、全くと言っていいほど自分の頭が働いていないことを感じた。

 (どういうことだ?みんなは普通に笑って拍手しているし。…え?)

 「さあさあ、素晴らしい演奏を披露してくれた彼女に、ディナーの席を」
 
 ようやく拍手が落ち着くと、ジョージはグレッグとフレディにそう指示を出した。

 「では、どうぞこちらへ」
 
 クレアに促されて近くまで来ると、こんばんは、と声をかけてくる。

 「こ、こんばんは」
 アレンは、オウムのようにただ言葉を返す。

 「なんだなんだ、アレン。そのそっけない態度は。さぞや感動の再会だろうと思っていたのに。ねえ、美桜ちゃん」
 「み、美桜ちゃん?!」
 
 ジョージの言葉にアレンは急にのけ反り、ガタガタと音を立てて椅子の後ろに下がった。

 「ははは!お前、驚き過ぎて誰だか分からなかったのか?まあ、無理もないが」
 
 ジョージは笑いながら歩き出すと、
 「夜は長い。ゆっくり話をするといいさ」
 そう言い残し、じゃあね美桜ちゃん、といつものように片手を挙げて部屋をあとにした。



 (うっ、またこっちを見てくる。食べづらい…)
 
 フレディが美桜にも夕食を用意してくれ、とにかく召し上がれとクレアに言われて二人で食べ始めたのだが。

 (アレンったら黙ったままだし、時々疑うようにそーっとこっちを見てくるし。私のことお化けだと思ってるんじゃないかしら)
 
 そのうち、足があるかどうかも確認されそう、と思いつつ、美桜は黙々と食べ続ける。

 「美桜様、デザートはローズガーデンで召し上がりません?」

 クレアが見かねたように声をかける。

 「あ、ええ」

 そう答えつつ、美桜はアレンの顔色をそっとうかがう。

 (ひょっとして怒らせちゃったかな…)
 
 不安になり、美桜は寂しそうにうつむいた。

 ローズガーデンへの道のりも、終始アレンは黙ったままだった。
 美桜も仕方なく、アレンの後ろを黙って歩く。

 クレアが扉を開けてくれ、美桜は久しぶりにガーデンに足を踏み入れた。

 (わあ、やっぱりここの空気は綺麗)
 
 胸にみずみずしい花の香りを吸い込みながら、アレンに続いて歩いて行く。

 いつもとは違う夜のガーデンは、月明かりに照らされて、神秘的な雰囲気だ。
 所々にライトがあるだけで、まるで夜の散歩をしている気分になる。
 
 と、ふと小さな渡し橋の手前でアレンが振り返った。
 美桜に左手を差し伸べる。

 (え?あ、そうか、橋を渡るからか) 

 「ありがとう」

 そう言ってアレンの左手に自分の右手を載せると、急に美桜はドキドキし始めた。

 (やだ、アレンに触れるの久しぶりで。あ!アレン、あのプレゼント着けてくれてるんだ)
 
 アレンの左手首の腕時計を見ながら、美桜は嬉しくなって、うつむきながら頬を緩めた。

 ガーデンの中央エリアでデザートを食べる間も、アレンは言葉少なによそよそしいままだった。

 クレアは、やれやれと言うように美桜に手を広げて見せる。

 と、次の瞬間、思い出したとばかりにクレアは手のひらを打った。

 「坊ちゃま、これから美桜様をお部屋にご案内しませんこと?」
 「ん?ああ。そうだな」
 
 アレンは頷くと、ようやく笑顔を見せた。

 「お部屋って?」
 少しほっとしながら美桜が聞く。

 「行けばすぐ分かるよ。こっち」

 そう言うとアレンは、ガーデンの奥に向かって歩き始めた。

 (こっちって確か、何もないはず。これから植えるお花を考えるって…)
 
 そう思いながら顔を上げた美桜は、あれ?と驚く。

 「何か、建物が出来てる?」
 「うふふ、そうなんですの」

 後ろでクレアがもったいぶったように言う。
 
 何だろうと思いつつ、アレンの後を追うと、やがて小さな家が見えてきた。

 「わあ!可愛いおうち!森の中の小屋みたい」
 
 コテージのような風合い、木のテラスもガーデンになじんでいて、まるで絵本に出てきそうな雰囲気だ。

 さあ、どうぞ、とクレアがドアを開けてくれる。

 隣のアレンを見上げると、微笑みながら手で美桜を促す。

 そっと足を踏み入れると、正面の広い部屋には大きなテーブル、そして左側にはソファが置かれていた。

 大きな窓はテラスに出られるようだ。

 「すごい!素敵ね。ガーデンの中のおうち」
 「そうなんです。以前美桜様が、ガーデンに泊まりたいと仰ったでしょう?それを旦那様に話したら、良いアイデアだと仰って。すぐにこの部屋を作られたのですわ」
 
 ええー?と美桜は驚いてクレアを振り返る。

 「あ、あの時私が言ったから?まさかそんな。私、軽い気持ちで、寝袋でも持って来たいって…。こんなことになるなんて」

 「美桜、親父が決めたことだよ。気にすることない。それに俺もとてもいいアイデアだと思った。完成するのを楽しみにしていたんだ」
 
 アレンが美桜の隣で、天井を見上げながら言う。

 「見て。今はスクリーンを下ろしてあるけど、天井はガラスなんだ」
 
 え?じゃあ…と美桜が期待を込めて見上げると、アレンは頷いて、あとで見せるよと笑った。

 クレアが後ろから声をかける。

 「本当はこれから、内装や家具を手配するつもりでしたの。建物自体も出来たばかりで。ですが美桜様がいらっしゃると連絡を受けて、ひとまず必要な家具だけ運び込みました。今夜からでも、ここに泊まっていただけますわ」
 「え!本当?いいの?ここに泊まっても」
 
 クレアは笑いながら頷いた。

 「もちろんですわ。なにかあれば内線電話でお知らせくださいね」
 
 そう言い残すと、クレアは二人にお辞儀をして出て行った。

 二人きりになると、アレンは美桜に部屋を案内して回った。

 「中央はカウンターキッチンになっていて、冷蔵庫もある。その奥はバスルーム。で、ここを上がると…」
 
 壁際にある螺旋階段を見上げ、美桜は胸を躍らせた。

 「上に上がれるの?」
 「ああ、ロフトになっている」
 
 そう言うアレンに続いて、美桜も階段を上がる。

 そこには広々としたベッドルームが広がっていた。

 「うわー、素敵!空を見上げて眠れるのね」
 
 アレンは、ベッドの端に美桜を座らせると、いい?ともったいぶって笑いかけてから、手にしたリモコンのボタンを押した。

 軽い音を立てながら、天井のスクリーンが壁のローラーに巻かれていく。

 と同時に、月明かりがサーッと部屋に射し込んできた。

 「わあ…、なんて素敵なの」
 
 あえて照明をつけていなかった部屋に、空から注がれる月の輝き。

 幻想的な雰囲気に包まれ、美桜はただ溜息をついた。

 「今日は満月なのね。とっても綺麗」
 
 そう言って空を見上げる美桜の横顔は、これまで見たことがないほど美しいとアレンは思った。

 「…ねえ、美桜」
 
 隣に座り、少しためらった後そう切り出すと、ん?と美桜が首を傾げてアレンを見上げる。

 「あの、あのさ。俺、一月に空港で美桜と別れた時、ものすごく後悔したんだ。どうして美桜の手を離してしまったんだろう、どうして引き留めなかったんだろうって。帰り道にずっと思ってた。でも反面、これで良かったんだ、こうするしかなかったんだ、とも思ってた」
 
 当てもなく話し始めたアレンは、ただ素直に自分の想いを口にする。

 「美桜の生活は日本にある。大切な家族も友人も、仕事も。そして俺の生活はここにある。ウォーリング家の一員として、この地域の人達を守らなければいけない。俺達は住む世界が違うんだって。だからこれでいいんだ。あとは時間がゆっくり忘れさせてくれるのを待とう。大事な思い出として、密かに心にしまっておこう、そう思った」
 
 美桜は、ただ静かに耳を傾ける。

 「それからは、淡々と日常をこなしてた。大丈夫、美桜がいなくても俺はいつもと変わらない。このままの生活が続くんだって。でも今思うと、心を失くしていた気がする」
 
 そう言うとアレンは、美桜を見て優しく笑った。

 「だって俺、今ここに美桜がいてくれて、ものすごく嬉しいんだ。空っぽだった心が、温かい幸せで満たされていくのを感じる。俺には美桜が必要なんだ。美桜のそばが俺の居場所なんだ。これからもずっと、美桜と一緒に毎日を過ごしたい。一緒に色んなものを見て、笑ったり、感動したり、時には悩んだり、助け合ったり。そして美桜を幸せにしたい。美桜の笑顔をずっとずっと守りたい。それが俺の幸せなんだ。だから」
 
 アレンは一呼吸置くと、真剣な眼差しで美桜に告げた。

 「俺は日本に行く。決めた、美桜と一緒に日本で暮らすよ」
 
 沈黙の静けさが広がる。

 美桜はじっとアレンを見つめていたが、やがて視線を落とすと、そっと首を振った。

 「美桜?どうして…」
 「ダメよ、アレン。アレンはここに必要な人でしょう。そんなこと言っちゃダメ」
 
 アレンの目に悲しみの色が浮かぶ。

 美桜は正面からアレンに向き直った。

 「私ね、アレン。ずっと自分の気持ちを考えないようにしてきたの。空港で別れた時もそう。だから、日本に帰ってきてからも、アレンのことは思い出さなかった。それが自分の本心なんだ、アレンのことは考えなくても平気なんだ、そう思ってた。毎日が穏やかに過ぎていって、これが私の暮らしなんだって。でも昨日いきなり仕事帰りにお父様が現れて、イギリス行のチケットを渡されたの。もしイギリスに行きたければ、明日この飛行機に乗ればいいって。私、頭の中が混乱しちゃって、そんなの無理って思った。仕事だってあるし、明日なんていきなり言われてもって。でも、でもね」
 
 美桜は、ゆっくり記憶をたどる。

 「お父様の言葉がどうしても頭から離れなかったの。ただ行きたい、その気持ちがあればそれで充分だって。そしたらね、心の奥底で、行きたい!って叫んでる自分に気付いたの。今までずっと抑え込んで、気づかないふりしてた自分の本当の気持ち」
 
 美桜は微笑んでアレンを見つめる。

 「だから飛行機に飛び乗ったの。アレンに会いたくて会いたくて。ただそれだけで」
 「美桜…」 

 (知らなかった。そんなことがあったなんて)
 
 美桜がいったいどれだけの覚悟でここに来てくれたのか、そう思うとアレンは美桜を抱きしめたくてたまらなくなった。
 
 美桜は、真っ直ぐアレンを見つめて告げる。

 「今、こうしてアレンのそばにいて、来て良かったって心から思う。本当の私を取り戻せた気がする。私、ずっとずっとアレンのことが好きだったの。空港で離れたくなかった。本当は引き留めて欲しかった。この先もずっとアレンのそばにいたい。それが、私が私らしく生きていく道だから」
 
 美桜はそこで言葉を止めた後、決意に満ちた表情で続けた。

 「私がイギリスで暮らします。アレンのそばで、ずっと」
 「美桜…」

 アレンは、胸が痛くなるほどの幸せを感じた。

 涙がこみ上げてくる。

 気付くと両腕で美桜をぎゅっと強く抱きしめていた。

 「美桜、好きだ。ずっとずっと美桜のことが好きだった」
 「うん、私も。アレンのことが大好き」
 
 愛しさで胸がいっぱいになる。

 アレンは腕をほどくと、美桜の顔を覗き込んだ。

 目に涙を浮かべて照れたように笑うその笑顔は、たまらなく可愛く愛おしい。

 (もう二度と離さない。俺が守る。この手でずっと)

 「結婚しよう、美桜」
 
 包み込むように優しく、守るように力強いアレンの言葉に、はい、と美桜は頷いてまた新たな涙を流した。

 「幸せにする。俺の一生をかけて。必ず」

 やがてアレンはそっと美桜にキスをした。

 大事そうに、そっと。
 
 そしてもう一度美桜の顔を覗き込んだ時だった。

 ゴツンと急に美桜がおでこを胸に押し付けてきた。

 「いてっ!どうしたの?美桜」
 
 体を離そうとしても離れない。
 頑なに顔を胸に押し当ててくる。

 「美桜?どうしたの?耳が真っ赤だけど」
 
 そう言うと、ますます美桜は顔を赤くしたようだった。

 「…ひょっとして照れてるの?」
 
 言い当てられてドキッとしたように、美桜は体を固くする。

 (なんだ、可愛いな)
 
 アレンは頬を緩めると、何を思ったのか美桜を抱きしめたまま押し倒す。

 驚いて思わずわっと声を上げた美桜は、気が付くとベッドに背中をつけていた。

 しかもアレンに抱きしめられたままの状態だ。

 「やっと見えた。恥ずかしがり屋の可愛い美桜の顔」
 
 アレンが美桜の顔すれすれのところで、いたずらっぽくささやくと、美桜はさらに顔を赤くする。

 「もう!いじわる」
 
 涙目のまま拗ねたように口をとがらせる美桜に笑っていたアレンは、ふと真顔になると、もう一度美桜に口づけた。

 今度は少し強引に、気持ちを伝えるように、ゆっくりと。
 
 空からの月の光が、そんな二人を優しく照らしていた。
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